逃げるように去ったサクラをツナはしばらく見ていたが、リボーンの言葉によって動き出す。
「サクラが貸そうとしていたんだ。着た方がいいんじゃねーのか?」
「あ!」
ツナは慌てて地面に落ちていた上着を拾い汚れを軽く手で払った。そして一瞬だけ躊躇したが、リボーンの言ったとおりだと思い、袖を通したのだった。
一方、獄寺は先程のツナの言動で悩んでいた。本来ならツナの意思を尊重しなければならない。しかし危険な人物との接触は右腕として見逃すことは出来ない。結局、彼はツナを説得することを選んだ。
「……オレは反対です!!」
「獄寺、ツナが決めたことだぞ」
獄寺の抗議もリボーンが一蹴し黙らせる。しかし、獄寺が納得していないのは誰の目から見ても明らかだった。ツナは怖かったが、勇気を振り絞り声を出す。
「オレには神崎さんの言ったことはよくわからない。でも……神崎さんが学校に来ないのは寂しいんだ。友達だから……神崎さんはそう思ってないかもしれないけどね……」
ツナは最後の方は少し自虐的に言った。そんなツナの姿を見た獄寺は何も言えなくなった。少しの間沈黙が流れたところでツナが再び口を開く。
「会いたいって、ずっと思っていたんだ。でも、オレは神崎さんのお兄さんに手助けされるまで勇気が出なかった。今ならわかるんだ。オレはずっと神崎さんにまた拒絶されるのが怖かっただけだって……。女子の家とかそんな理由で会いに行くことが出来なかったんじゃない。ただ、怖かっただけなんだ」
ツナは思い出す、桂が手をまわしたことにサクラは怒っていた。その後、サクラと目が合った時にツナは凄く怖くなったことを――。しかしツナを見るサクラの目は優しかったので勇気が出て、話したいと伝えることができた。その結果、サクラに話すことさえ拒絶された。ツナは何も言えなくなりサクラの後姿を見ることしか出来ず、この気持ちにやっと気付いたのだ。
「何も話せなかったことに凄く後悔したんだ。友達なのにって……。そう思ったらすぐに答えが出たんだ。友達だから譲っちゃいけない。オレの気持ちを伝えないといけないって。上手く話せなかったけど……明日また会える――」
獄寺はツナの嬉しそうな顔を見てサクラを認めるしかないと悟った。しかし、危険人物ということが頭にあるため、理解はしているが納得はできないでいた。そんな獄寺の様子に気付いた人物がいた。
「獄寺、何か勘違いしてねーか? サクラはただの一般人だぞ。サクラがマフィアのことを知ってるのは、お前らが棒倒しの練習時にオレが話したからだぞ?」
「そうなんスか!?」
「ああ」
全て丸く治めるため、リボーンはウソをついたのだった。リボーンはこれが最良の選択と判断したからである。
「じゃぁあの女は……なんであんなことを――」
「ただマフィアと関わりたくねーからだろ」
「え……。つまりあれは……神崎さんのウソだったの……?」
「ああ」
「そ、そうだったんだ……」
「あの女……人騒がせな……」
獄寺はブツブツと呟きながら怒っている姿を見てツナは怯えた。が、ウソとわかりサクラと一緒に居ても大丈夫と安心したのだった。そしてツナは思った――。
「……全部お前のせいじゃん!!」
「言っただろ。今回はオレが悪かったって」
悪びれず言ったリボーンにツナは「こいつと関わるとほんとロクなことがねぇ……」と呟き、怒りを通り過ぎ再確認したのだった。
「本当にツナと会っていかねーのか?」
その日の夜、リボーンはイタリアへ帰るディーノの見送りにきていた。
「ああ。お前の話だとあいつらはもう大丈夫なんだろ?」
「……12月3日に会いに来るのか?」
「そのつもりだぜ。心配ねーて、オレの勘だがあいつは大丈夫だ」
「オレもその心配はしてねーぞ」
リボーンはもうサクラのことを警戒してはいない。12月3日に何かあったとしてもサクラは話すと思っているのだ。
「あいつの兄か……」
ディーノはリボーンの返事を聞き、すぐに何を警戒してるのか気付いた。リボーンに報告したのはディーノだったため、当然といえば当然だった。
ディーノはロマーリオを見る。そして、サクラとディーノが2人で会っている間にロマーリオは桂と会っていた話を思い出した。
ロマーリオはサクラと接触するディーノを心配し、ディーノに内緒で後をつけてようとしていた。しかし、ボスのディーノをつければ見つかる可能性が高い。そのためサクラの後をつけていたのだった。もし、サクラが危険人物なら尾行に気付くことももちろん考えていた。その場合は自身が死んでもロマーリオの行動は仲間には伝えていたため、サクラの危険性はボスに伝わると考えていたのだ。しかし、ロマーリオの前に現れたのは桂だった。
『僕をつけているかと思ったけど君の狙いはサクラだね? サクラが家から出なくなったのは君のせいかい?』
ロマーリオは息を呑んだ。桂の口調は優しいものだった。首筋にナイフを突きつけていなければ――。
ロマーリオはディーノの右腕であり、戦闘においても一般人に背後をとられることはまずない。しかし、実際にはロマーリオは桂にあっさりと背後をとられたのだ。
『あまり遅くなるとサクラに気付かれるからね。早く済ませようか……。君はなぜサクラをつけたのかい?』
ロマーリオは答えない。マフィアの情報を話せるわけがないのだ。
『ふむ。サクラの可愛さに気付いた君には賞賛を与えたい。だが、行動が間違ってるよ。……今回は大目に見よう。次からは堂々と会えばいい。サクラは優しい子だからね。君とだって話してくれるさ』
ロマーリオは困惑した。桂の言動から考えるとマフィアのことを知らないことがわかるのだ。
『ただ、次にサクラを困らせると――殺すよ?』
桂は話すと同時にナイフを持つ手を力を入れた。少し血が出たところでロマーリオを解放し、桂はその場から去って行く。ロマーリオは妹のためだけにここまでする桂は狂ってると感じた。サクラがマフィアと関係しているかはわからない。たが、この男は危険だ。ロマーリオがスーツの内ポケットに手が入れた時、桂が突如振り返った。
『やめておいた方がいい。それを使っても君を殺すから』
誰もが見惚れるような笑顔と声で話す桂は異常で、ロマーリオの動きを一瞬止めるには充分だった。そしてロマーリオは気付く、銃を持ってることに気付いたにも関わらず解放したことを――。
『大変だ! そろそろ戻らないとサクラが心配してしまう!』
ロマーリオは慌てて去る桂を見ることしか出来なかった。指一本でも動かせば殺されると直感したからだ。今、手を出せば自身だけで済まない、ボスのディーノまで辿りつくと思い動けなくなったのだ。それほど数分の間で桂の異常さを肌で感じ、ロマーリオは桂に呑まれてしまった。
ディーノはサクラと別れた後にこの話を聞き、ロマーリオが抱いた印象とディーノが感じた印象が違いすぎ混乱した。リボーンからの情報もそのような話は一切ない。しかし、ロマーリオがウソをつかないのはディーノが1番知っているため、リボーンに報告したのだった。
しばらくの間、沈黙が流れたがディーノは明るくリボーンに話しかけた。
「あいつさえ間違わなければ大丈夫だろ? 心配する必要はねーって」
「……ああ。サクラは道を間違えるとは思えねーからな」
「そういうことだ」
サクラさえ間違わなければ問題ない。そう結論しディーノはイタリアに戻って行った。
ちょっと読みにくいかも
過去に戻る時に区切りいれた方がいいのかな?
気になるなら入れます
わかると思いますが……
前の話で兄がサイフを忘れたというのはウソだったということです
兄はサクラの前以外では安定の残念じゃありません
違う意味の残念かもしれませんけどね