クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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距離感

 ディーノの叫び声を聞いてから数分後、私は兄のエスコートで公園に着いた。たまにはこういう場所もいいと思ったが、沢田綱吉が見えたので道を引き返すことにする。

 

「サクラ、どこへ行くんだい?」

「帰る」

 

 答えると同時に兄が私の腕を掴んだ。普段なら肩や腰に手をまわすので何事だと思い兄を見る。疑問はすぐに解けた。沢田綱吉が兄にお礼を言ったのだ。

 

「サ、サクラ……。彼はサクラのことを心配していたんだ。だからその……黙っていてすまなかったよ。誰にも会いたくないって言いそうな気がして――」

 

 兄にしては珍しく弱気だ。私の機嫌が悪いと肌で感じているのだろう。兄よ、弱気になる必要はないぞ。もう手遅れだからな。

 

「お兄さんは悪くないんだ! オレが頼んだせいなんだ……」

「……ちょっと外して」

 

 兄に目配せして言えば、もの凄い勢いで離れていった。どれだけ私が怖いんだ。そこのところを兄とじっくり話したい気分になる。

 

 気を取り直すため咳払いをし沢田綱吉を見る。睨んだつもりはないのだが、目が合うと彼は息を呑んでいた。ビビリ過ぎだろ。私は暴力は振るわないぞ。それに私が怒っても兄にしか効果がないと思う。

 

「……用件は?」

 

 あれほど忠告したのにも関わらず私と会うのだ。何かあるとしか考えられない。

 

「え、えっと……話をしたくて……」

 

 「だから用件を言え。話があるのはわかってる」と言いそうになった。言わなかったのは彼の用件が話をしたいということに気付いたからだった。沢田綱吉の性格を原作知識で知っていて助かった。知らなければ腹が立っていただろう。

 

「私はもう君と仲良く話すことはない」

 

 はっきりと言った。甘すぎる彼にはこれぐらいがいいのだ。だから言葉が出ない彼に更に追い討ちをかける。

 

「死ぬ気弾について少し思うところがある。君は後悔する中で希望を見つけるから生き返る気がする。私と関わるとその希望を見つけることが出来なくなる。だから私と関わるな。……私のことを気に病むことはない。これは利害の一致だからな。私は君が希望をみつけられなくなるのは困る。君が死ぬと私も死んでしまうからな。私は死にたくはないのだ」

 

 頼むから君は原作通りに進んで強くなってくれ。素晴らしいぐらいの他力本願である。ここまで来ると自画自賛してもいいだろう。少し誇らしげに「さようなら」と声をかけた。今回も返事がないが気にはならなかった。私は今、間違った方向で威張ってるからな。

 

 沢田綱吉との話が終わったので周りを見渡し兄を探す。兄は私が怒っているのを忘れているのだろうか。子ども達に混じりブランコをしていた。

 

「とぉ!」

 

 呆れながら迎えに行けば、叫び声をあげながらブランコから飛び降りていた。放置して帰ってもいいのだろうか。全力で他人のフリをしたい。

 

「みたかい? サクラ! なかなかの記録だっただろ!?」

 

 逃げる前に兄が私に詰め寄ってきたので、とりあえず私はスパーンとハリセンで一発殴った。そして数秒だけは倒れてる兄に向かって説教する。

 

「子どもがマネをしたらどうするんだ。危ないだろ。そもそも何歳だ。子どもに譲れ」

「な、並んで順番を待ったのだよ!?」

 

 悲痛な表情を浮かべる兄を見て、私はドン引きした。……このままここに置いて帰ろう。私は早足に兄から離れ、家を目指すことにした。

 

「ま、待ってくれ! サクラ! 僕1人で遊んで悪かったよ! 次はサクラと一緒に乗るから……許してくれないかー!」

「誰が乗りたいって言った!!」

 

 しまった。つい、足を止めて振り返りツッコミを入れてしまった。振り返ったので兄が嬉しそうに駆け寄ってくる姿が見え、私は頭を抱えた。

 

「頭が痛いのかい!? 大変だ! すぐに治さなければ!!」

「……お兄ちゃんが10分間ここから一歩も動かなければ治るよ」

「わかった! 僕は動かないよ!」

 

 10分もあれば家に帰れってお母さんに「疲れたから寝る」といい、部屋のドアを閉めれる。水分をとる余裕さえありそうだ。

 

「サクラ、動いても大丈夫なのかい? 僕と離れるのは危ないよ! さーくらー! ああ……どうして僕は動けないんだ!!」

 

 ……可哀相な気がしてきた。兄が不憫すぎて。一瞬、足を止めたが兄の行動に怒っていたことを思い出し帰ることにした。ただ、10分だけにして良かったと思った。

 

 

 

 

 

 しばらく歩いていると公園の方から騒がしい声がしてきた。兄かと思ったが、まだ10分も立っていないので首をひねる。

 

 ドドドドドと、音が近づいてくるので振り返ってみた。

 

「……変態だ」

 

 思わず呟く。何度かパンツ一丁の沢田綱吉を見たにも関わらず思ってしまったのだ。私は走る。リアルでは彼の進行方向に居るのは怖すぎるのだ。

 

「死ぬ気でサクラと話す!!! とぉ!!」

 

 沢田綱吉が叫びながら私の身体を飛び越え、逃げないように私がの目の前に立っていた。彼と目が合い私は思った――本日2度目の「とぉ!!」だと……。その後、彼は私に用件があることに気付いた。

 

「……今度の用件は何?」

「え、えーっと……あの……」

 

 私と話すために死ぬ気になったらしく、私に追いついた時点で死ぬ気モードは終了していた。彼の考えがまとまるまで待たないといけないのだろうか……。思わず溜息が出てしまった。

 

「ご、ごめん!! え、えっと!!」

「そっちじゃない」

 

 遅いから溜息をついたわけじゃない。と、否定したのだが彼には伝わっていないようだ。しょうがないので、上着を脱いで彼に押し付ける。着てきて良かったと思った。

 

「え……?」

「風邪引く」

「あ……ありが―――」

「10代目! 今すぐそいつから離れてください!!」

 

 沢田綱吉が何か言おうとしていたが聞こえず、獄寺隼人の声が聞こえてきた。姿は見えないので私の背後の方から来ているのだろう。振り返ってはいないが、ダイナマイトを持ってると思ったので手を上げることにする。上着が落ちてしまったのはしょうがない。彼も獄寺隼人の声でビックリして離してしまったのだろう。

 

「ご、ごめん!!」

「触ってはいけません! 10代目!! クソッ 果てろ!!」

 

 果てろという言葉と同時に私の足元にダイナマイトが見えた。この距離だと沢田綱吉にも当たるだろ!?と、ツッコミしたいがそれをする時間も無い。残念ながら腰が引けて足は動かないようだ。私が出来るとすれば――彼を突き飛ばすぐらいだな。彼が死ねば私も死ぬのだから助けるのは当然だろう。

 

 ドンッという効果音がつくぐらいの勢いで彼を突き飛ばせば、反動で私もダイナマイトから離れることが出来た。少しだけしか離れなかったが、ラッキーだなと思った。そう考えるぐらい時間はゆっくり感じ、痛さを我慢するために目を閉じた。

 

 

「………いてっ」

 

 尻餅をついたらしい。お尻が痛い。……ダイナマイトは?

 

 恐る恐る目をあければ沢田綱吉が目の前にいた。私は彼を突き飛ばしたのではなかったのか?と、思ったが膝を突きながら私の様子を見てるので、ちゃんと突き飛ばしていたようだ……多分。最後まで見ていないので正確にはわからないのだ。

 

「怪我はねぇか?」

「ん? ……ああ。君の仕業か」

 

 声をかけられた方を見て納得した。何をしたのかはわからないがリボーンが助けてくれたのだろう。

 

「……助かった。ありがとう」

「悪いのはこっちだ。謝る必要はねーぞ」

「そうだよ!! 本当にごめん! オレ達のせいで……。獄寺君も謝って!!」

「で、ですが……元々はこいつが10代目に危害を――」

 

 手をのばす。……思ったより柔らかいな。逆立ってるのでもう少し硬いと思ったのだが。

 

「なっ!?」

「んなーー!?」

 

 顔が真っ赤だ。落ち着かせるために頭を撫でたのだが、更に落ち着かなくなったのかもしれない。それだと意味はないので手をさげる。

 

「あ……あの……。今のは――」

「怪我はない。それに彼は正しいことをした」

 

 気にするなという意味で私は立ち上がり去ることにする。話せば話すほど彼は私のことを気にすると思うしな。本当に彼は甘すぎるのだ。……ディーノも甘いと思う。だが、あれでも裏の世界のボスだ。選択を強いられれば必ず決めれるので心配はしていない。

 

「……リボーン、またな」

「ああ」

 

 去る前にリボーンに声をかければ、返事がきた。これから私をどうするつもりか気にはなるが、私にはもう決定権はないので流れに任せることにしている。煮るなり焼くなり好きにしろ状態である。

 

「……ちょっと待ってよ!! こんなの絶対おかしいよ!! 神崎さんは大怪我するかもしれなかったんだよ!? それに……オレはまだ納得してない! オレはもっと話したいんだ!!!」

 

 驚き沢田綱吉を見れば肩で息をしていた。なぜここまで必死なのだろう?と首を傾げる。最初はディーノと同じで『ボス』だからと思ったが、どこか違う気がする。説明しろと言われても説明できないが。

 

「獄寺君だって神崎さんに本を薦めてもらって喜んでたよね!?」

「で、ですが―――」

「―――やっぱりこんなのおかしいよ!!!」

 

 手を伸ばす。2度目だからか彼はあまり驚かなかった。

 

「……また明日」

 

 呟くように言ったが、彼には聞こえていたらしい。目が輝いている。

 

 私は少し恥ずかしくなり慌てて彼から逃げるように去れば、「また明日!!」と叫んでいた。……頼むから静かにしてくれ。

 

 異様に立ち去るのに時間がかかると思いながら角を曲がれば兄が居た。あまりにもニコニコと笑っているので無視することにした。兄はそんな私の態度に気にもかけず、私の後ろを着いてくる。

 

「やはりサクラはかわいいね!」

 

 着いてくるなら黙ってろと思う。

 

「今度、僕にも紹介してほしい。サクラの友達なんだろ?」

「……違う」

 

 また明日とは言ったが、仲良くするとは言っていない。

 

「まさか……恋なんだね! 僕は嬉しいよ!!」

「それはもっと違う」

 

 呆れながらツッコミを入れてしまった。そうなると彼との関係はなんだ?

 

 クラスメイト?

 

 それはもう無理だ。私はモブキャラ「クラスメイトK」としては生きるのは無理だ。友達ではない。友達とクラスメイトの間? いや、どちらかというと―――。

 

「出来の悪い弟?」

 

 これが1番しっくりくる気がする。不憫すぎて心配になる感じだ。思わず手を伸ばしたくなる。普段は仲良く話すこともなく、困ってる時には手を貸す。……おかしくはないな。そう考えるとさっきのは彼のワガママを聞いてあげたくなった感じなのか。一人納得して頭を縦に振る。

 

「……不憫だ。彼が不憫すぎると思うのは僕だけなのだろうか……。恋は冗談だけど……友達と認識してもらえずに年下扱いとは――」

 

 最後の方は小さな声だったのでよく聞こえなかったが、私も彼は不憫だと思ってるぞ。だが……兄と私の『不憫』が違う気がする。

 

「しかし……サクラの弟と思えば羨ましい!! 僕がかわってほしいぐらいだよ!」

 

 考えに没頭しようとしたが、兄のバカな言葉で集中力がなくなってしまった。そしてツッコミをする気力もなくなってしまったので、しばらくの間、妄想に没頭してる兄を怪訝な目で見ることにする。

 

「見つめられると僕はサクラに酔ってしまうよ! はっ!? この状況に相応しいいい名前を思いついたよ! サクラクラ病と命名しよう!」

「それだけは勘弁だ!!!」

 

 本気で嫌がる私を見て兄は残念そうに諦めたようだ。――助かった。いろいろ危なかった……。

 

 安堵していると兄が私の頭を撫で始めた。今度はなんだと思い兄を睨む。

 

「サクラ、明日はどうするんだい?」

「……学校には行く」

「彼は大丈夫だよ。僕が断言する」

「……距離感がわからない」

 

 私から積極的に話しかけることはない。私は原作を壊したくないのはかわってないのだ。ただ……彼が困っていれば手を出すと思う。いや、手を出してしまうという表現が正しい気がする。本当に困った弟だ。

 

 悩んでもその時にならないとわからない気がしたので兄の手に甘えて考えを放棄する。

 

 そしてふと思う。これから先、私の方が兄から離れること出来ない気がする――。いろいろ思うところがあるのは否定しないが、私は兄とのこの距離感が好きなのだ。

 

 ……絶対兄には教えないけどな。

 




難産だった……w主人公の分岐点だったので悩んだ、悩んだ
実は恋愛抜きで話を大まかに3つルートを頭の中に用意してました
これが正解かは私にはわからないww
まぁどのルートを選んでも書いてるときに後悔すると思うww
1つだけ言うなら……ボツルートの1つには雲雀さんが登場したのでまた違う意味で後悔してますww

次は裏話?の予定です 

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