私は久しぶりに外に出た。そしてありえない光景を目にしている。
……少し時間を戻そう。
私は原作が壊れるのが怖く、しばらく引きこもっていた。しかし引きこもるにも限度があると気付いたので外に出た方がいいのではないか。と思い始めていた。
誰かに言われたからではない。両親は「学校に行きなさい」や「外に出なさい」、「動きなさい」などを言わない。もちろん心配しているのだが、無理強いをするつもりはないらしい。そして兄は私にもの凄く過保護で甘い。外に出たほうがいいと思い声をかけるが、私が本当に外に出たくないならば兄が必ず折れるのだった。
正直、恵まれた家族に生まれて良かったと思う。ただ、1つだけ問題がある。兄は私を心配し元気付けるために毎日お菓子を持ってくるのだ。気持ちが沈んでるので大好きなケーキを食べるのは心が休まり、初めは私も嬉しかった。ただ――太るのだ。
食べては寝てを繰り返してるせいか、お腹周りの肉が気になることになってしまった。誘惑から逃げるため、ケーキを極力見ないようにしているのだが、上手くいかない。兄が私のために作ったんだ、一口は食べてあげたほうがいい。という、悪魔のささやきが聞こえすぐ折れて食べてしまうのだ。それでも「肉がーー!!」と思い、半分ほど残し我慢しているが、太るのは太る。
そして私は思ったのだ。リボーンに殺された時に太ってるのは嫌だ。流石に葬式の時に意外と太ってたんだ。という不謹慎な話は出ないだろう。しかし話題が出なくても嫌なものは嫌だ。死ぬかもしれないとわかっているんだ。恥ずかしい体系で死んで後悔はしたくない。それに……もし、死ぬ気弾を撃たれてそれで復活するのも嫌だ。恥ずかしすぎる……。恐らくこれは微妙な乙女心なのだろう。
「誰が乙女だ!!」
鳥肌が立ちながら自身にツッコミを入れた。そして複雑な気分になった。
「何を言ってるんだい。サクラ以上に乙女という言葉が似合う人がいるわけないだろう?」
いつの間にか兄が部屋に入っていた。私が突如おかしいことを言ったにも関わらず、普通におかしい返事をかえす兄はおかしい。……日本語が変だが、なぜかあってる気がする。
「サクラ、散歩しよう。少しは外に出て動かさないと身体に悪いよ」
今日も兄は私の心配をし声をかけにきたらしい。ダイエットのために外に出たい。しかし、外に出る勇気はない。結局、兄の誘いを断り腹筋でもしようと思った。
「そんな気分じゃない」
「……ふむ。わかったよ! サクラは動くなくていい。僕が運ぶからね!」
言うと同時に兄は私を抱きかかえようとする。慌てて逃れようとするが兄の方がスペックが高く逃げれない。それでもジタバタもがきながら声を出す。
「離せ! ズラ!!」
「ズラじゃない桂だ!!」
私は動きを止めた。逃げれないと悟ったわけではない。兄が……ツッコミした――。
「ついにその言葉……」
しばらく私が感動に浸っていると、1階にたどり着いていた。もう少し余韻に浸せてほしいと本気で思ったが、諦めて兄に声をかけるために服を引っ張った。
「お兄ちゃん、自分で歩くから」
「っ! これが萌え!!」
兄の言葉に私はドン引きした。さっきの感動を返せ。
私の態度に気付かないのか、兄は嬉しそうに私をおろした。そして、張り切ってエスコートしようとする兄と少し距離をとりながら、私は久しぶりに外に出る決意をしたのだった。
家を出て2つ目の角を曲がった時に私はありえない光景を目にした。なぜここに居るのだ。
跳ね馬ディーノ。
彼が地面に転がってる姿を見て、私は動揺した。転がってるのはどうでもいい、想像できる。それより……なぜここに居るのだ。そして、動揺しながらも私は気付く。今は彼がここに居ることを考えるべきではない。兄を止めなければならないことに――。
兄は正義感も強い。兄にとって、人助けをするのは日常なのだ。転がってるディーノを見れば助けるに決まっている。案の定、兄は今すぐ駆け寄ろうとした。私は急いで兄の腕を掴もうと手を伸ばす。今回は珍しく私の手は空を切らなかった。
「サクラ、大変だよ!! 今すぐ助けなければ!!」
兄は急ぎたいが、私に腕を掴まれているので動こうとしない。恐らく兄は私の手を振り払うことが出来ないのだろう。そんな兄を見ながら私は行くなという意味で首を横に振る。
「どうしてだい!? 彼は倒れているのだよ!」
「……彼をよく見て。転んだ彼が顔を起き上がらせ、こっちを見てる気がしない?」
「そうだね! つまり僕達に助けを求めているのだよ!」
「それなら声を出す」
私の言葉に兄は冷静さを少し取り戻す。少しなのは声が出せないほど弱ってるかもしれないということに気付いていないからだ。今回の場合はディーノなので、その心配は必要ない。
兄はもう駆け寄ることはしないと判断したので腕から手を離す。そして兄の肩に手をかけて言った。
「未だに起き上がろうとしないんだ。彼は――地面が好きなんだよ。人の趣味に口を挟んではいけないよ。見て見ぬフリをしてそっとしてあげよう……」
「――僕は危うく間違いを起こすところだった! ありがとう、サクラ! 助かったよ!」
……兄は単純だった。騙した私がいうのもなんだが、やはり心配だ。すぐさま兄は道を引き返し、私達は見なかったことにしようとした。しかし私達は足を止めることになる。
「ちょっと待て!!! オレはそんな趣味じゃねぇ!!」
いつの間にか起き上がったディーノのツッコミのせいだった。思わず舌打ちをしたくなったが、冷静に考えると誰でもツッコミしたくなるよなと思った。
「心配しなくていい。僕達は誰も言わないさ。行こう、サクラ」
全力のディーノのツッコミだったが、残念ながら兄は出会ったばかりのディーノより私のことを信頼する。つまり私が否定しない限り、ディーノは地面が好きな人と兄は認識するのだ。何とも不憫である。流石、ツナの兄貴分だと思った。……不憫にしたのは私だが。しかし、否定する気はなかったので兄にエスコートに従って、兄の返答で声を失ってるディーノから離れようとした。しかし、急にエスコートしている兄の足が止まった。
「……どうしたの?」
私は兄がディーノに興味を持ってしまったのかと思った。いつの間にか原作に絡んでる兄だ。不思議ではない。
「すまない、サクラ。僕としたことがサイフを忘れてしまったよ。取りに行くから少しここで待っててほしい」
「え……ちょっとまっ――」
すぐさま走り去っていった兄を見て私は唖然とした。ここで待つとか無理だろ。原作キャラというのもあるが、何より気まずすぎる……。私はディーノから離れようと少しずつ距離をとる。
「オ、オレはそういう趣味じゃねぇって!!」
動揺するディーノが迫ってくる。もちろん私はディーノがそういう人物ではないと知っている。が、もしこの状況を第三者から見ればかなり危険人物にしか見えないだろうなと頭の隅で思ってしまった。やはり不憫だと思い彼と話す事にした。……彼が不憫なのは私のせいだが。
「知ってるよ。兄が君に絡みそうだから咄嗟についたウソだ。……本当は地面好きじゃなく、キャバッローネの10代目は部下思い――だろ?」
私の言葉に一瞬ディーノは警戒したが笑った。逆に一体なにが面白いんだと私の方が警戒しそうになった。が、ディーノという人柄は原作知識で知っているため警戒するだけ無駄と思い力を抜いた。
「リボーンも甘いな……」
思わず呟く。ディーノが原作と違い日本に居るのは私が原因だろう。そして、ディーノが動くのは限られている。恐らく今回はリボーンの差し金で動いている。ディーノの人柄を考えると私をすぐさま殺す気はないということがわかる。彼は9代目からの頼みで獄寺隼人を試し、最悪の場合は海外に逃がそうとする人物なのだから……。まぁその人柄を知ってて頼んだ9代目も甘い気がするが。そう考えると今回はリボーンではなく、9代目の指示かもしれないと思ったがディーノの言葉で否定される。
「リボーンは女には優しくするのがモットーだからな」
「……そうか。じゃぁ私をどうすることにしたんだ?」
「さぁなー。オレにもわからねぇ」
ディーノの言葉に思わず首をひねる。わからないので聞くことにした。
「なぜ君は私の前に現れたんだ?」
「ん? オレか? オレは会ってみたいと思っただけだぜ。いくら調べても一般人のお前が、マフィアのことに詳しいって聞いて興味を持ったんだ。リボーンの話を疑うわけじゃねーが、オレと会えば本当に詳しければ何か反応するかも知れねーって思ったしな。……少し予想外の反応だったが――」
それはすまぬ。兄が居たからしょうがなかったんだと心の中で言い訳をする。
「――もっと楽に生きていいんじゃねーか? お前が何を抱えてるかわからねぇ。が、周りを頼っていいんだぜ? 話したくねーなら話さなくていい、オレは力になるぜ」
「出会ってすぐの奴に言う言葉じゃない」
私の言葉に「そうか?」と言いながらディーノは笑った。本当に人が良すぎる……。
「……実行するかは君の自由だ。このまま沢田綱吉と会わずイタリアに戻れ。彼と初めて会うのは12月3日がいいと思う」
ディーノは一瞬驚いた顔をしたが「わかった」と返事をした。つまり彼はまだ沢田綱吉と会っていないのだろう。もう会ってるかもしれないと思っていたので少し安心した。ただ、人が良すぎる。出会ってすぐの奴を信用しすぎだ。
「少しは警戒をしろ」
「何か意味があるんだろ?」
意味があるのかわからない。私のせいでもう原作がずれているのだから……。ただ、少しでも戻り、原作通りに生きてほしいと思った。
「それにもうオレはお前を信用することにしたからな」
私は笑った。これが『ボス』なのかと思わず笑ってしまったのだ。私は笑いをおさえ、彼に真面目に言った。
「君に忠告をする。私と関わるな。いつか後悔するはめになる。――私のことを信用するんだろ?」
意地悪だな。と、自身で思った。信用するなら関わるなと言っているのだから……。それに恐らくディーノはリボーンから全て話を聞いている。先程の言葉で遠まわしに私と関わると死ぬということも彼には伝わっただろう。部下がいないので少し心配だが、彼は大事なところでは『ボス』になるので正しく伝わるような気がする。
「後悔するかはオレが決めることだぜ。だからオレは誓うって言う。ぜってー後悔しねーよ。――よし、決めた。12月3日にまた会おーぜ」
今度は笑わず呆れた。しかしまた会いたいと思った。
「わかった。でも君から会いに来るな」
「ん? お前から来てくれるのか? 待ってるぜ」
返事はしない。12月3日の予定は空けておくが、会えるかはわからないからだ。
「おっと……もう時間がないみてーだな。また会おうぜ! じゃぁな!」
ディーノが慌てて去ろうとした。理由はすぐにわかった。兄が走ってくるのが見えたので彼は気を遣ったのだろう。
「さーくーらー!!」
……兄は叫びながら走っているらしい。まだ少し遠いが聞こえてしまった。恥ずかしいからやめてくれと思ったが、先にツッコミしたい人物がいる。
「去るんじゃないのか?」
「おっかしいな……。なんで今日はこんなに転ぶんだ……?」
寝転がってるディーノに部下がいないからだ。と、ツッコミしたくなった。そんなことを考えてる間に兄が私の目の前にきた。兄が謝っているが、私はディーノと2人で話すことが出来たので不満は一切ない。兄が私の名前を叫んでいたのは恥ずかしかったが、まだ許容範囲だ。なので、気にしなくていいという意味で兄に「行こう」と声をかけた。兄は私の言葉に頷き、エスコートしようとしたが、突如振り返り言った。
「すまない。僕に地面の良さがわかればお勧めの場所を教えることができたのだが……力になれないようだ。だが、応援はしてるよ! 頑張りたまえ!」
私達は「だからオレはそんな趣味じゃねぇーー!!」というディーノのツッコミを聞きながら歩き出したのだった。
ディーノさんが不憫に……。でも主人公の好感度は高いw