クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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ギリギリセーフかな?
4月4日はサクラの誕生日なのでその記念です。
エイプリルフールネタがあったけど、書く時間がなかったのでそれも混ぜてます。

そこそこ甘いと思う。


告白

 4月1日。

 

 ……今年もこの時期がやってきたな。といっても、準備は完璧である。結婚してすぐ立てた計画だからな。根回しはばっちりである。

 

 だからつい朝からニヤニヤするのは仕方がないと思う。ロマーリオが温かい目でこっちを見ているのはスルーだ。

 

「ディ、ディノを起こしてくる!」

 

 スルー出来ずに逃げたのは気のせいである。平常運転だ。

 

 ちゃんとコンコンとドアを叩く。同じミスはしない。どうやらディーノは起きていたようで、寝ぼけながらも顔を出した。

 

「ディノ、おはよう」

「おはよう、サクラ。相変わらず、早いな」

 

 それは笹川了平のせいだ。3年間の習慣で早起きに抵抗がなくなってしまったのだ。もっとも、二度寝する時もあるので毎日ではないが。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 いつものように、よしよしと私の頭を撫でてディーノは着替えに向かおうとしたので袖を掴む。

 

「ん? どした?」

「その、似合うか?」

 

 クルッと回転する。新しく買った服なので感想がほしい。

 

「可愛いぜ、似合ってる」

「そ、そうか?」

 

 褒めるのはいつものことなのであてにはしないが、ディーノが良いというなら、 大丈夫だろう。この服を選んで正解だった。

 

「……今日は出かける予定じゃなかったよな?」

 

 いつも思うが、ディーノは私の予定を覚えているのだろうか。覚える気のない私は毎日ロマーリオに聞いているぞ。

 

 しかし困ったな。どう答えるべきか。私が新しい服を着ただけで疑問を持たれてしまった。やはり一緒に住むと難易度があがるな。

 

「予定変更。出かける」

「桂がきているのか?」

「んーん」

「……誰かと会うのか?」

「んーん」

 

 なぜかディーノにジッと顔を見られてしまった。ウソがバレてしまったかもしれない。これは逃げるに限る。

 

「部屋にいるから準備出来たら声をかけて」

 

 パシッと腕を掴まれる。服を掴んだのが仇となったな。ディーノと距離が近すぎて逃げれなかった。観念しディーノの顔を見る。

 

「サクラ、オレのこと好きか?」

 

 これはウソをつくべきなのか?……でもこのウソはつきたくない。フリかもしれないが、気付かなかったことにする。

 

「す、好きだぞ」

 

 それでも恥ずかしくディーノに抱きついた。また優しく頭を撫でてくれたので、さらにギュウギュウと抱きつく。

 

「……すまん」

 

 ポツリと聞こえた謝罪に何事かと顔をあげれば、ディーノの顔が近くにあった。だからそっと目を閉じた。

 

 

 

 ……という流れを、ディーノを見送ってからロマーリオに説明する。ロマーリオも聞きたくないだろうが、そこは我慢してくれ。未だにディーノの謝罪の意味がわからないんだ。

 

「あー……なるほど」

 

 1人で納得し始めたので説明しろと視線で催促する。

 

「ボスはサクラが他に好きな奴でも出来たのかと勘繰ったんだろ。サクラは滅多に服を買わねぇからなぁ」

 

 滅多に、というがそれは着る服が大量にあるからだ。必要性を感じれれば、私だって買うぞ。

 

「兄の名前を出したのも、私が兄かディノと出かけるぐらいでしか、新しいのを出さないから?」

「そういうことだ」

 

 疑ったから謝罪したのか。黙っていればいいのにな。必要となれば割り切ってウソをつけるのに、ディーノ身内には本当に甘くて弱い。……まぁそういうところを好きになったのだが。

 

「ディノって、こういうイベントによく引っかかりそう」

「昔はオレ達を驚かす方だったからなぁ」

 

 1日1回はドッキリするって最初の頃にファミリーのみんなが言っていたな。もちろんその中にはドジもあると思うが。

 

「私は見たことがないけど」

「サクラにはカッコイイところだけ見せたいんだろうな」

 

 声を殺してロマーリオは笑っていた。懐かしくて笑っているのではなく、昔話が私に筒抜けになっていることをディーノが知らないから笑っている気がする。相変わらず不憫である。

 

 さて、化粧もして準備が完了したので予定通り出かけることにする。

 

「留守をよろしく」

 

 部下達に声をかければ、頼もしい返事がかえってきた。今回の私の護衛はなかなかの競争率だったらしいので、外れて落ち込んでいると思って声をかけたが元気いっぱいだったな。私の護衛についても肝心なところは見れないとわかったからか?

 

 車の中でそれについてロマーリオと話していると、隣の部屋で録画しているらしい。バカだろと本気でツッコミした。まぁロマーリオが最終的に許可したのだから私の護衛には問題ないのだろう。見逃すことにする。彼らの目的はディーノだし。

 

 店の個室でお茶を飲みながら待つ。日本にいた頃は和室とかに興味がなかったが、海外にくると畳の匂いに安心する。和室部屋を作ってもいいがお金がかかるし、久しぶりだからいいのだろう。それに長時間正座も出来ないし。

 

 予定より遅れているなと思っていると、ディーノの声が聞こえてきた。この空間には相応しくない声量でディーノが叫んでいるようだ。

 

 イタリア語だが、なんとか聞き取れそうだ。少しは上達しているようでホッと息を吐く。

 

 しかしまぁ、かなり嫌がっているな。みんなはなんて言ってディーノをここに連れてきたんだ?すごい内容を口走っているぞ。

 

 ……私はただ外でディーノと昼ご飯を食べて、この後デートを出来るように予定を抑えて、それをディーノにはナイショという可愛らしいウソをついたつもりだったんだが。

 

 散々抵抗していたディーノだが、観念して扉の前にきたようだ。断ってすぐ帰るからな!と連呼しているので、観念したというより部下に言っても埒があかないと思ったのかもしれない。

 

 ガラッと扉が開くと、ディーノは厳しそうな表情から一瞬でポカン顔になる。

 

「遅かったな」

「……は? なんでサクラが?」

「今日はエイプリルフールだぞ」

 

  慌てて振り向いたが、残念ながら部下達は逃げたあとだ。ディーノが追いかけないので、これは隣の部屋にいる部下達もうまく逃げたな。ネタとしてはディーノの抵抗だけで十分だろうし。

 

「やられた……」

 

 ガクッとしゃがみこんだディーノに追い打ちをかける。

 

「強烈な愛の告白、ありがとう」

 

 カッとディーノの頬が真っ赤に染まる。抵抗したことに嫌味を言わなかったのはディーノがずっと『オレがサクラを愛しているのは知っているだろ!?』とか『サクラを泣かせるようなことはしねぇ!』とか叫んでいたからな。

 

 これを日本語で叫ばれていたら、私は恥ずかしく耐えられなかっただろうな。イタリア語だったので、客観的に捉えることが出来た。

 

「おかしいと思っていたんだ。あいつらが断れない筋だからといって、異性と2人っきりで食事しろなんて……」

「また……それはありえる話だな」

 

 私と結婚したことで、いろいろあったはずだろうし。断れないことも多いだろう。現にパーティに呼ばれる回数は増えたらしいし。私は出てないが。

 

「あっても断るから安心しろ。マフィア界でオレがサクラを溺愛しているのは有名だしな」

 

 ふいた。どうしてそうなった!?

 

「事実だろ?」

 

 ニッと笑った姿を見て、思わず視線をそらす。くそっ、もう立ち直ってしまったようだ。頬が熱い。

 

「まっそうなる方が都合が良かったのもあるんだ。そうすれば、サクラがパーティに出ない理由にもなるし、今度の9代目のパーティでオレがサクラから離れなくても変じゃねーだろ?」

 

 フォローしてもらう身として、文句を言えるはずがなかった。

 

 ただ、先程の強烈な愛の告白を聞いた後だと、わざとや大袈裟に広げているとは思えない。

 

「しょ、食事にしよう!」

 

 いつものごとく、私は逃げたのだった。

 

 

 

 後日、部下達から鑑賞会に誘われたので顔を出す。別に端で良かったのだが、一番見えやすいところを勧められたので座る。

 

 ……うん、これは凄いな。編集しているからこその迫力なのかもしれないが、ディーノの抵抗シーンがヤバかった。あの叫びもなかなかのものだと思っていたが、あれでも店の中だったので抑えていたらしい。

 

 みんな、よくディーノを連れてこれたな。いや、連れてこなければ、それはそれで私を待ちぼうけにしてしまうので必死だったのもあると思うが。

 

「サクラ、ここに居たのか」

 

 ディーノの声にギョッとする。慌てて周りを見渡したが、私以外いなかった。……くそっ、置いていかれた。

 

「…………」

 

 しばし沈黙が流れる。

 

 何を見ていたのかバレてしまったのだから、仕方がない。私は何を言えばいいかわからないし、ディーノも声をかけにくいだろう。

 

「その、ちょっとした出来心で」

 

 懐かしい言い訳をつかい、私は許してもらおうと考えた。まぁディーノはこの内容だと部下達ならまだしも私には怒らないけどな。ただ言い訳したくなる空気が流れていたので口にしたのだ。

 

「いや、オレが悪かったんだ」

「ん?」

「愛情表現が足りないってことだろ?」

 

 ……確信犯だ。ディーノの顔を見ればわかる。全ての流れを当てた上で言ったのだ。逃げることが不可能なら、ここはもう乗るしかない。

 

「仕方ないだろ、ディノが好きなんだから。すぐに物足りなくなる」

 

 私はワガママだからな、とドヤ顔をする。すると、ディーノは心底嬉しそうに笑った。……私からの愛情表現の方が足らないんだろうな。基本、きっかけがないと伝えようとしないし。

 

 立ち上がりディーノの近くへと移動する。そして耳を貸せと合図する。……おい、耳だぞ。頬を出すな。

 

「なんだ、違うのか?」

 

 残念そうに言いながらもディーノは耳を寄せた。それでも雰囲気は嬉しそうなので言葉でもいいのだろう。

 

「その、私はお兄ちゃんが一番好きなんだ」

「大丈夫だ。それはわかってる」

「ん。それで……私がそばに居たいと思った人の一番はディノだ」

「ああ。ありがとな」

 

 終わったと思ったようで、ディーノがこっちを向いた。……面と向かっては言いにくいのだが、今回は我慢しよう。

 

「だからディノは私が一番愛している人なんだ」

 

 ディーノって、私が小っ恥ずかしい言葉を使った時、よくフリーズするよな。

 

 とりあえず時間がかかりそうだし、録画を巻き戻して見直すか。


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