クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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サクラとディーノさんの結婚後。
2017年のディーノさんの誕生日記念に書きました。
活動報告に載せた時より加筆しています。

※激甘注意!!


初めての誕生日

 普段の私はマンガを読んだりゲームをしたりと全く奥さんらしきことはしていないが、旦那の誕生日ぐらいは頑張る気だ。……結婚してから初めての誕生日だし。

 

「というわけで、ロマーリオ。ヘルプミー」

「……何がというわけかがわからんが、ボスの誕生日だろ?」

 

 ノリは悪いが流石ロマーリオである。よくわかってるじゃないか。

 

「私のお小遣いってどれぐらいある?」

「これぐらいだな」

 

 紙にさらっと書かれた額に目眩がした。いくらなんでも多すぎる。

 

「これでもかなり少なくて悪いと思ってんだ。どこの世界も情報は重要だ。サクラの予知にはそれぐらいの価値があるんだぜ」

 

 そういえば、知識でフゥ太にランキングを頼もうとして、かなりの金額を出していたな。……毎度あれを出そうと思えば破綻する。身内だし少なくて当然だ。そもそももっと少なくしても問題ないぞ。

 

「その分、警護代もかかってるだろ?」

「……外に出てねぇんだから警護も何もねぇぜ」

「や、でも家で居ても」

「常に配置していることだ」

 

 お、おう。少しは外に出ろと遠回しに注意されている気がする。だが、考えてくれ。ディーノが居なければ、何十人も引き連れて歩くことになるんだぞ。申し訳ないし、何より私が歩きたくない。

 

「ま、まぁ明日は外に出るぞ」

 

 大きな溜息を吐かれてしまった。おかしい。

 

 

 次の日、予定通り大量の部下を引き連れての買い物である。

 

 相変わらずディーノは人気者のようで、私にも声をかけてくれる。そして私が何を買いにきていたかわかっているようで、ディーノが見ていたものを教えてくれた。

 

「悩ましいな」

 

 いっその事、全部買うのもありだな。私がお金を持っていても仕方ないし、ディーノがおさめているシマに落とした方がいいだろ。……決して面倒になったわけではないぞ。

 

 決まったなら早い。もう一度戻るか。

 

「サクラ!!」

「ん?」

 

 この声はディーノだ。慌てて周りを見渡すが、囲まれている状態では見えるわけがなかった。もっとも数秒後には見えるようになったが。みんなが道を開けてくれたのだ。

 

 ディーノは私に駆け寄り、抱き締めた。正直みんなが見ているのでやめてほしい。

 

「急にどうしたんだ?」

「ん?」

「今日は家にいるって聞いていたのに居ねーからよ。焦ったぜ」

 

 最初から出かける予定だったが、ディーノにはヒミツのために家にいると伝えていたのだろう。それは理解出来たが、問題はなぜここにディーノが来たのか。ディーノの腕の隙間から私についてきた部下達を盗み見る。ジェスチャーで謝っているので、情報が行き違ったか。……もしくはディーノの行動が早すぎて読めなかったか、だな。

 

「ちょっと買い物したくて」

「そうか」

 

 ディーノ優しく頭を撫でた後、ゆっくりと離れた。が、手は捕まった。

 

「じゃ行くか!」

「もう今日は予定がないのか?」

「ああ。予定が変わってよ。急いで帰って来たんだ」

 

 その急いでが問題だった気がする。ロマーリオを私につけるようになってから、まだそんなに時間がたってないからな。大変そうだ。

 

「いつか怪我するぞ。君が大丈夫でも周りが」

「そんな柔な鍛えかたしてねぇよ。そんなことより何が欲しいんだ?」

 

 無念である。私のフォローは聞き流された。

 

「お持ち帰り出来ない甘いものを探している」

「なら、こっちだ。新しく出来たメニューがあるって聞いたぜ」

 

 ディーノが私の手を引っ張ろうとした時に、用事を思い出したなどのあからさまなウソをついて、部下達が帰っていった。

 

「ったく、あいつら……」

「帰りにお土産」

「だな」

 

 私からも何か用意しよう。また買い物に付き合ってもらわないといけないし。

 

「あ、そうだ」

「なんだ?」

「特に異変は感じなかったが、私がパーティに出る夢を見たぞ」

「……4月の9代目の誕生日パーティじゃねーか?」

 

 それがあったか!と遠い目をする。基本ディーノが断ってくれているが、9代目からの誘いだけは断れない。……流石に行きたくないとワガママは言うつもりはない。一応ちゃんと理解して結婚したつもりだし。

 

「ツ、ツナ達は来ねーだろうが、知った顔もいると思うぜ」

「……知った顔が暗殺部隊ってどうなんだ?」

「微妙だよな……」

 

 大きく頷く。しかし難しい問題でもあるのだ。私が出たがらないのも確かにあるが、マフィアと繋がりがない状態で、予知が出来る私は1人になる可能性があるパーティには危険で参加出来ないのだ。

 

「ユニか来れればいいけどな」

「どうだろ。私と似たような理由でγが却下してそう」

 

 ディーノの足が止まったので、私も立ち止まり視線を向ける。……ああ、謝りたいが謝れないのか。謝れば結婚したことも過ちになってしまうから。

 

「……ディノ、頭撫でて」

 

 苦笑いしながらも優しく頭を撫でてくれた。もうこの話は終わりということでデートに戻る。

 

「ディノ、はやく行こ」

「わかったから、引っ張るなっ。怪我するのはサクラだっ」

 

 ピタリと足を止めて、ディーノへと向きなおる。

 

「危ないと思ったら、ディノが助けてくれるんだろ?」

「……どこで覚えたんだ」

「どこってディノが言動で示したからだぞ?」

「違う。……可愛い過ぎるっていう意味だ」

 

 よくわからなくて首を傾げる。今のどこでそう思ったんだ。

 

「まぁディノに可愛いと思われたいからいいか」

「……ちょっとは我慢しているオレの身になってくれ」

「それはそれ、これはこれ」

 

 そもそも言ったのは私ではなく父だし、約束したのはディーノだ。ただスネたので意地悪する。

 

「なら、にほ」

「ダメだ」

 

 最後まで言えなかった。ただ日本に帰ろうか?と言おうとしただけなのに。

 

「もうサクラが側にいない方が、違和感があるんだ。離すかよ」

 

 敗北である。隠れるようにディーノの腕へと抱きつく。

 

「ほら、行くんだろ?」

「……ん」

 

 腕に抱きついたままディーノの顔を盗み見すれば、また頭を撫でられた。目は合わなかったのにして欲しいと気付いていたようだ。

 

 ……ああ、もう。ディーノを喜ばせたいと思って出かけたのに、喜んでるのは結局私じゃないか。誕生日には絶対仕返ししてやる!

 

 

 

 

 

 今日は待ちに待ったディーノの誕生日である。つまり、ついにきたのだ。

 

 私のターン、ドロー!

 

「……はぁ」

「悪い、ボスじゃなくて」

 

 ロマーリオは悪くない。そもそもディーノでもわからないと思う。

 

「ただのホームシックだから」

「……そうか」

 

 兄なら上着を靡かせ、デッキを持っている仕草をしてくれると思っただけだ。私もロマーリオに出来ると思っていないから、口に出さなかったし。後で電話することにして切り替えよう。

 

 今日は私が喜ばせる番なのだ!

 

「ロマーリオ、今のところ問題はない?」

「ああ。ボスにはまだバレてねぇ。昨日は町のみんなが浮かれてて危なかったみたいだけどな」

「それは良い誕生日になりそうだ」

 

 想像が出来て思わず笑った。私の計画は完璧だったようだ。これなら盛大に祝ってくれるだろう。

 

 実は予定通り大量のプレゼントを用意したのはいいが、普通に渡しては面白味がないと思ってしまったのだ。

 

 そこで私は買った店に一度返却して、誕生日当日にディーノを外へ送り出すので、私からというのは内緒でシマのみんなから渡してほしいとお願いしたのだ。行く先々から受け取れば、ディーノも驚くだろう。

 

「本当にボスと一緒に行かないのか?」

「ん」

 

 みんなが祝えるようにと、プレゼントだけじゃなく、料理のお金も私が全部出したからな。計画の段階で、私の年齢や元々一般人だったことを聞いていて心配する者も居たのだ。稼ごうとすればいつでも出来ると私が言って、それをロマーリオが肯定して、計画が進んだのである。

 

 ここで私が一緒に行けば、また気をつかうだろう。最悪の場合、興ざめだ。それは絶対に避けたい。

 

「夜は家でもパーティを開くんだろ? ……かっ、可愛いって言ってもらうために着飾るから私は忙しいんだ! 行程を見られたくないし、ちょっと追い出してくる!」

 

 私の苦しい言い訳にロマーリオが苦笑いしていたが、それにはツッコミせずに送り出してくれた。

 

 では、隣のディーノの部屋へと突撃だ!

 

 昨日のスケジュールではディーノは疲れていて、この時間はまだ眠っているだろうというのが、ロマーリオの予想である。

 

 ロマーリオには起こそうとする前に声をかけるようにと言われているが、ちょっと驚かせてみようというイタズラ心が出た。そっと扉を開けて、忍び足でベッドに近づく。

 

 ……残念。布団に隠れて寝顔は見れないようだ。

 

 脅かそうと思って来たのはいいが、どうやって起こすか考えていなかった。布団を剥がすのは面白いが、新婚っぽくはない。

 

 よし、再び計画変更だ。ここは優しく起こしてあげよう。

 

 そっとディーノに近づき、手を伸ばす。ディーノに触れようとしたところで、手を掴まれてグイッと勢いよく引っ張られた。

 

「うわぁっ」

「なっ、サクラ!?」

 

 やってしまったなぁとベッドに寝転びながら思った。

 

「大丈夫か!? 痛いところはねぇか!?」

 

 心配そうにディーノが私の顔をのぞいていた。

 

「大丈夫。それとごめん」

「いや……オレの方こそ悪かった」

「んーん。ディノは悪くない」

 

 私がバカだっただけだ。就寝中のマフィアのボスに声もかけずに近寄れば、警戒されるに決まっている。それにディーノは途中で私だと気付いて、力を抜いてくれた。そもそもロマーリオに言われていたのにそれを守らなかったのは私だ。

 

 だからもう一度同じ言葉をかける。

 

「ディノは悪くない」

 

 それでも彼が気にするとわかっていたので、首に手を回して顔を近づける。私が望んでこの世界に来たと伝わることを願って唇に触れた。

 

 ディーノの目が見開いたのを見て、急に恥ずかしくなった。慌てて離れて目をそらす。

 

「……その、誕生日だから」

 

 関係ないだろ!と心の中でツッコミする。しかしそれ以外にいきなりな私の行動を、まともな言い訳が思いつかなかったのだ。

 

「……そうか。今日はオレの誕生日だったな」

「そう! そうだっ!」

 

 ディーノが私の苦しい言い訳に付き合ってくれたので、必死に肯定する。今日が特別な日だから私からしたのだ。普段はしないぞ!

 

「……なら、サクラがプレゼントってことか?」

 

 気のせいか? 急に雲行きが怪しくなったぞ。チラッとディーノを見る。この状況を楽しんでる顔だ……!

 

 まずい、まずい。この流れはキスがくる。

 

 キス自体は嫌いじゃない。だが、この流れからくるキスはディープな方だ。私にはハードルが高い。自身の身体なのにコントロール出来ず、なぜか変な声が出るし、勝手に身体が跳ねたりして、恥ずかしいし。

 

「ち、父との約束!!」

「心配すんな、キスしかしねぇよ」

 

 そのキスも問題だと講義しようとしたが叶わなかった。……それどころじゃなくなったから。

 

 

 朝からぐったりと疲れた……。

 

 ボーッとした頭で呼吸を整えながら変だなぁと思った。いつもならディーノがすぐに頭を撫でてくれて、落ち着かせてくれるのだが。

 

「ディ、ノ……?」

 

 チラッと視線を向けて、後悔する。ゴクッと喉がなったのを見てしまった。

 

 この後の展開を察しないほど、私はバカじゃない。ただ、バカではないが、どうすればいいかは知らない。知識は得れたが学校の授業では具体的なやり方は教えてくれなかった。マンガではそういうシーンがあるが、はっきり描いていないからイマイチわからなかった。兄も知らなくていいと言って教えてくれなかったし。

 

 興味がない、とは言えない。父との約束はあるが、私達は結婚しているわけだし、問題はないはずだ。問題があるとすれば、キスでさえ私の想像よりも翻弄されたのだ。これ以上進めば、ついていけなくなるだろう。

 

 ……そうか! だからマンガでヒロインがこの言葉を使うのだな。この状況になって、合点がいった。私も使うことにする。

 

「その、優しくしてくれ……」

 

 必要だったとはいえ、想像以上に恥ずかしいぞ!? 思わずディーノから視線を逸らした。

 

「〜〜〜っ! フミ子!!」

「パフォ!」

 

 聞こえた言葉に慌ててもう一度ディーノを見れば、フミ子がディーノを殴っていた。結構な威力だったようで、ディーノはベッドの上から落ちた。恐る恐るベッドの上から覗き込む。

 

「えーと……大丈夫か?」

「……ああ」

 

 返事はしたものの、寝っ転がったままで動かない。本当に大丈夫なのだろうか。心配になり、ベッドからおりるとディーノが勢いよく起き上り、頭をさげた。

 

「すまん!」

「……謝られると困る」

 

 どちらかというと私も乗り気だったし。断られたみたいで傷つく。

 

「違う、そういう意味じゃないんだ。……お前に約束を破らせるところだった。オレは怒られたり殴られても、お前を離す気はねぇから覚悟は出来ている。でもお前は違うだろ? お前が気にするような流れになれば、一生この日を後悔しちまう。大人のオレがしっかりしねーといけねぇことだったんだ」

 

 ……確かに私はそこまで考えてなかった。約束を破っても、なんだかんだ言って許してくれるだろうという甘い考えがあった。

 

「ディノ、ありがとう」

 

 ディーノが謝ったなら、私は感謝しないといけないことだと思ったのだ。

 

 ぎゅっと抱きつけば、ディーノはいつものように抱き締めてくれた。

 

「今日は天気もいいし、出かけようぜ」

 

 ……本来の目的をすっかり忘れていた。

 

「や。今日は忙しい」

「オレの誕生日に一緒に居てくれないのか?」

 

 ディーノのちょっと寂しそうな声にアタフタする羽目に。

 

「た、誕生日だから! 夜にパーティがあるだろ! 女の私は準備しないといけないんだ!」

「そのままで十分可愛いぜ。それにオレは一緒にいたい」

 

 ぎゅうきゅうと抱き締められ、用意していた言い訳が完全に使えなくなったと察した。抱き締められてなければ頭を抱えていただろう。それぐらい、ピンチである。

 

 コンコンというノックの音と共にロマーリオが入ってきた。慌てて離れようとしたが、残念ながらガッチリとホールドされていた。

 

「……んなことだと思ったぜ」

 

 この展開を読めていたなら、なぜ教えてくれなかったんだ、ロマーリオ!

 

「邪魔するなよ、ロマーリオ」

「随分前からたまには着飾ってボスを喜ばせるって楽しそうに準備していたんだぜ?」

「……そうなのか?」

 

 必死に頷く。今回は珍しくドレスとかも全部自身で決めたのだ。ゆっくりとディーノが離してれたのでホッと息を吐く。が、ロマーリオのところへ向かえば、なぜかディーノもついてきた。

 

「ボス、外に出て時間を潰してくれ。ボスが居れば、気になって準備出来ないぜ。オレ達のボスはそこまで無粋じゃねーだろ?」

「……わーったよ」

 

 心の中で拍手を繰り返す。流石、ロマーリオである。

 

「外っつてもシマから出ねえからな。終わったら絶対に連絡よこせよ」

「ああ。わかってる」

 

 ロマーリオは天才だな。私が手こずった内容をこうもあっさりとクリアするとは。

 

 ディーノが出かけてからロマーリオを凄いと褒める。

 

「褒めるなら、明日にしてくれ……。今日は誕生日で浮かれてるみてーだし、着飾ったサクラを見て、ボスが理性を飛ばさないか心配だ」

 

 ……もう、一度飛ばしかけたんだが。

 

 私が視線を逸らしたことで察したロマーリオは頭を抱えた。が、頑張ってくれ!


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