サクラが1番幸せな結婚式はこんな感じかな?と思って書きました。
だから、ちょっと変わった結婚式。
やっぱりこうじゃないとな、とウェディングドレスを着た自身を見て何度か頷く。
「どうかしました?」
「いや、なんでもない」
私についている専属スタッフに怪しまれてしまった。次からは気をつけよう。
しかしまぁ何度も鏡にうつった自身の姿を見ても、これが結婚式って感じがする。イタリアで挙げたのは、結婚式というよりお披露目だった。身内は兄しか参加しなかったし、私はディーノの横に居て、ただ微笑んでいただけだったからな。最後の方は絶対に引きつった笑みだったと思う。……最初からか。
「サクラ」
「まぁ綺麗よ! サクラちゃん!」
父と母が覗きに来てくれたようだ。スタッフも気を利かせて離れてくれた。
「……お父さん、どう?」
「お母さんの言う通り綺麗だよ」
ちょっとテレる。父に褒められるのが一番恥ずかしいかもしれない。父も褒める方だが、兄と母に比べると少ないし。
「あれ? お兄ちゃんは?」
ずっと姿が見えないのだ。早い時間から顔を出すと思っていたのに全く来ないし。
「桂は……お父さんとお母さんよりも寂しがっているかもしれないね。もう少し整理する時間がほしいのかな。見かければサクラが待っていると声をかけるよ」
「……ん、お願い」
父の言葉で視界が歪んで来た。慌ててスタッフが目元にハンカチをあててくれたが、まだ始まってないのにこの調子で大丈夫か不安だ。
母と父が出て行った後、ディーノがやってきた。
「っ! 綺麗だ……、サクラ」
「そ、そうか? ディノもカッコいいぞ?」
「お、おう。ありがとな」
空気が甘い。互いに照れあってしまった。
気を取り直したのか、ディーノが声をかけてスタッフが下がってしまう。2人っきりだと余計に意識してしまうのだが。
「そ、その、お兄ちゃんと会った?」
「ああ。でもすぐどっか行っちまったな。オレの顔を見ていると殴りたくなるみてーだ」
「……そっか」
お兄ちゃんにも見てほしいけど、ギリギリまで来ない気がしてきた。
「やっぱり寂しいか?」
「ん」
素直に頷く。私の中でやはり兄は別格なのだ。ディーノと一緒になる道を選んだが、正直今でも兄の方が上だ。ディーノもそこはわかっているし、この気持ちだけはウソをつかないと2人の決めた暗黙のルールでもあった。
「……私で本当に良かったのか?」
別にマリッジブルーという訳じゃない。純粋な疑問である。相手が私ということで、何もかも一般とかなりズレているからな。
「そんなお前が良いんだ」
「……ん、わかった」
物好きである。本当に物好きである。……そうじゃなければ、私は一生結婚出来なかっただろうが。
時間ということで、ディーノと一緒に向かう。私達は神にではなく、ここに来てくれた家族や友達に誓う人前式を選んだ。イタリアの時とは違い、アットホームな雰囲気である。
人前式だからこそ出来たことなのだろう。ディーノと2人でバージンロードを歩いていると、冷やかしの声がかかる。ディーノが律儀にツッコミを入れるからか、私も思わず笑ってしまった。
流石にバージンロードを歩き終わり、参列者へと向き直れば冷やかしは止まる。次の進行は誓いの言葉だが、私はそっちのけで兄の姿を探していた。
「ちょっと待ってろ、連れてくる」
「……ん」
大人しく頷けば、ディーノは私の手の甲に口づけしてから手を離して、バージンロードの道を1人で戻っていった。
スタッフは慌てているが、参列者は親族や友人ばかりなので誰も慌てていない。それどころか声を殺して笑っていた。しかしそれもすぐに終わる。ディーノに引きずられて来た兄を見た途端、彼らは声を殺して笑うことが出来なくなったからだ。
「は、離したまえ」
普段堂々としている兄だが、この状況は流石に恥ずかしかったようで抵抗していた。しかしディーノも強い。私の見えないところで攻防が起こっているみたいだが、ディーノは約束通り兄を私の前に連れて来た。
「お兄ちゃん」
今もなお抵抗していた兄だが、私が飛びつけば抱きとめてくれた。
「サクラ、相手が違うよ」
「あってるもん」
抱きとめてくれた兄だが、やんわりと離れようとするのでスネたように返事をする。
「そういや、お前はまだ知らなかったな」
そう言って、私達の誓いの文書をディーノは読み始めた。……誓いというより、結婚する条件だけどな。
「1つ、オレらの家に桂の部屋を用意すること。2つ、サクラが日本に帰りたい時は連れて帰ること。3つ、オレが日本に行く用がある時は必ず連れて行くこと。4つ、サクラと桂の過ごす時間は邪魔しないこと。……他にもまだまだあるが、読み上げるのはこれで十分みてーだな」
ディーノの言葉を聞いて見上げる。兄は唖然としていた。
「嫌だった?」
「……嫌も何も、サクラはディーノと結婚するのだよ?」
「ん、わかっているぞ?」
私に何か言いたそうな兄だったが、諦めたように首を振りディーノを見た。
「君はそれでいいのかい?」
「オレが好きになったのはお前のことが大好きなサクラだからなー」
ディーノの言葉に恥ずかしくなり兄に隠れるように抱きつく。
「だから相手が違うのだよ……」
「桂、いい加減に気付け。サクラからお前を取れば、それはもうサクラじゃなくなるんだ」
兄を離さないようにと、ぎゅーと力一杯抱きしめる。振りほどかれれば、どうすればいいかわからないから。
「……サクラ、僕が会いに行ってもいいのかい?」
「来てくれないなら、会いに行くもん」
やっぱり距離を取る気だったんだと知り、悲しくなった。
「……ディーノ、君も本当にいいのかい?」
「オレが手元に置きたくて、サクラに我慢させるんだ。それぐらい叶えてやらねーで、どうすんだ」
また恥ずかしくなり、兄の身体に隠れるように抱きつく。
「遠慮していた僕が……バカみたいじゃないか……」
兄の呟きに顔をあげれば、ポツリと頬に冷たいものが落ちてきた。
「……お兄ちゃん?」
「サクラ!」
「うわぁ」
急に抱き上げられて、ビックリして声をあげてしまった。
「サクラから僕に会いに来なくていいよ! 僕が会いに行くからね!」
「ほんと?」
「本当だとも! サクラの体力を考えるとそれが最善さ!」
「それは助かるぜ。オレもそこが心配だったんだ」
私が喜んでいる間に、ディーノと兄で私が書いた条件に修正を入れ始めた。抱っこされている状態なので、ちゃんと私も確認する。私の身体を心配しての変更が多いようだ。結構な量で兄の負担が増えてしまったが、良いのだろうか?
「僕が喜んでするのだから、良いのだよ」
「ん、わかった」
兄とディーノが考えたのなら、この条件は完璧だろう。ただちょっと文書が汚くなってしまったが。
「新しい紙を用意したまえ」
偉そうに兄はスタッフに指示を出し始めた。どうやら書き直すようだ。ここは字が綺麗な私の出番だろうか。
「ここは僕に任せてほしい!」
私の字は兄を真似たのだから、当然兄も綺麗だ。兄が張り切っているので任せることにする。
「ディーノ、サクラを頼むよ」
「ああ」
ヒョイっと兄の腕からディーノの腕へと移る。今度はディーノに抱っこされた状態で紙を覗き込む。その途中でなんとなくディーノに視線をうつせば、目があった。
「サクラ、良かったな」
「……うん!」
ディーノにぎゅっと抱きついた。
私は彼を好きになった。でも多分子どものする恋だった。ふわふわと想像するだけで幸せだったから。今のままで十分で進みたいと思わなかった。だからディーノの本気が怖かったのだ。一度この気持ちを捨てて、やっとそのことに気付いた。
「ディノ、ありがと」
「ん? ああ」
目をそらそうとする私を何度も彼は本気でぶつかってきた。挙げ句の果てには、兄とディーノを天秤にかければ兄を選び続けると言った私に、それでいいと言い切ったのだから本当に変わり者だと思う。
でも……だからこそ、もう一度彼に恋をした。
「サクラ、ディーノ、出来たよ!」
兄が掲げた紙を、ディーノと一緒に見る。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「桂、ばっちりだぜ」
「僕だからね!」
偉そうな兄を見て、みんなで笑う。ディーノに連れてこられるまで、式に参列しなかったのに、と。
「サクラ。順番が違うけどよ、もう証人のサインしてもらうのはどうだ?」
「それいいかも」
この流れだとそれが正解な気がする。
「オレの方の代表は……リボーン、頼むぜ」
「いいぞ。元教え子の晴れの舞台だかんな」
「サンキュ」
華麗な着地を見せたリボーンは、ツッコミどころ満載の文書に躊躇なくサインした。
「サクラ、半人前だがヤル時はヤル男だ。安心して任せていいぞ。家庭教師だったオレが保証する」
「ん、ありがと。そうする」
「ディーノ。サクラはオレの恩人だ。いつでも力を貸すつもりだが、まずはオメーがしっかりと守るんだぞ」
「ああ」
半人前のいう言葉にディーノはスネたようだが、最後には真剣に返事をしていた。
「次は……サクラ」
「ん。お兄ちゃん、お願い」
「僕は構わないが……そこは父上や母上じゃないのかい?」
「そうかもしれないけど、この内容だとサインしにくいと思うぞ」
父と母に視線を向ければ、苦笑いしながらも頷いていた。
「では、僕がサインするよ!」
兄がサインし終えたところで自然と拍手が起きた。それだけ私達兄妹の歪な関係を心配していたのだと思うと、ちょっと恥ずかしかった。
順序がぐちゃぐちゃになったし別にいいが、なぜ兄が進行しているのだろうか。思わずディーノと目を合わせて笑った。
指輪の交換などを終え、後は退場というところで司会役の兄が言った。
「ディーノ、サクラ。誓いのキスを忘れてはいけないよ」
「はぁ!?」
「お兄ちゃん!!」
元々予定になかったことである。ディーノと一緒に抗議するが、兄はどこ吹く風と聞き流し、参列者からは早くしろと野次が飛んできた。
……おい、今リボーンが3人居たぞ!?
ツナが必死にリボーンの暴走を止めようとしたが、止められるはずもなく、ディーノと顔を見合わせる羽目に。
「……嫌か?」
「や、ではないけど……」
……恥ずかしいではないか。
「目、つぶってろ」
ディーノに言われれば、閉じるしかない。くそっ、頬が熱い。
「……んっ。ひゃ!」
柔らか感触がしたと思う間も無く、ディーノに抱きしめられた。……助かった。恥ずかしいので顔を隠すようにぎゅうぎゅうとディーノに抱きつく。
「悪いな、桂。今のサクラの顔はお前にも見せたくねぇんだ」
「わかったよ! 僕では一生出来ない顔だからね! ここは負けを認めるよ!」
兄とディーノの会話が恥ずかしい。落ち着くようにディーノが背を叩いてくれているが、もうしばらく時間がかかりそうだ。
私が恥ずかしがっている間、ディーノはずっと冷やかされていた。またも律儀にツッコミを入れるので、私も面白くなって笑ってしまった。
「お? もう大丈夫か?」
「ん」
「じゃ行くか?」
頷くかわりにディーノを引っ張る。苦笑いしながらもディーノは私のスピードに付き合ってくれた。
「あ、そうだ」
「どうした?」
「ツナ」
呼ばれると思っていなかったのだろう。ツナはアタフタしていた。
「な、何?」
「はい、あげる」
ブーケをポイっと投げれば、ちゃんと受け取ってくれたので再びディーノを引っ張る。
「な、なんでオレ!? オレ、男だよ!?」
あまりにも必死に言うので、足を止める。
「好きな人に渡すかなーと思って」
「んなーー!?」
さて、いつものリアクションも聞けたし大丈夫だろう。再びディーノを引っ張る。
「ツナのあの様子じゃ無理そうだな……」
「ん。私も無理に一票」
ディーノは苦笑いしていたが、男性のツナに渡すのを止めなかった時点で同罪である。
控え室に戻り化粧直しが終わったところで、ディーノが聞いてきた。
「で、あのブーケの中に何隠したんだ?」
いつの間にかスタッフがいないな。ディーノが手を回したのか。
「……別にたいしたものじゃないぞ」
「入れるならツナのためになるものだろ。でも用意する時間はなかったよな? ……あの時に作ったバッテリー匣か?」
相変わらず、鋭い。
「ツナの奴、いつ気付くっかなー」
「私達がイタリアに行った後」
「……慌てる姿が目に浮かぶぜ」
それでいいんだ。これでまた話せる口実が出来るからな。
「桂以外のことでもちゃんと言えよ。気にするかもしれねーが、サクラのワガママはオレからすれば可愛いもんなんだぜ?」
「……ツナ達とまた遊びたいって言ったら?」
「そうだなぁ。せっかくだ、みんなで行く旅行の計画をたてっか! サクラも案を出してくれよ?」
思わずディーノを見た。
「どうした?」
「んーん」
「ならいいけどよ」
これから2人で決めて行くんだなと思っただけである。新しく作る道なのに、兄やツナ達がその道に居るのはディーノのおかげなんだろうな。
「ディノ、好きだぞ」
「2番か?」
「2番」
顔を見合わせて笑い合う。
「それなのにオレと一緒に居る道を選んでくれてありがとな」
「……言ってなかったか? そばに居たい人の1番はディノだぞ」
「押し倒してもいいか?」
ディーノがそんなこと言うなんて珍しいな。まぁ今からは無理だとわかっているからこそ、言ったと思うが。もっとも、下心はゼロじゃないと思ったので真面目にツッコミする。
「この後、披露宴。それに18になるまで手を出さないって、父と約束してなかったか?」
「……今、猛烈に後悔しているところだ」
不憫だなと横目で見る。相手の私が16歳だからロリコンって言われているみたいだし。イタリアでは18歳からしか出来ないからか、裏でいろいろ手を回したのも原因の1つだと思うが。まぁだからこそ、父はどうしても結婚するなら、18までは手を出すなという条件を出したのだろう。
「まっこれからずっと一緒なんだ。それだけで十分だよなっ」
「ん。ディノが手を離さなかったら大丈夫」
「その心配は必要ねーよ」
ディーノの手を差し出したので、その手を取って立ち上がる。
……私が手を離そうとしても、ディーノは離さないんだろうな。
そう思った時、ふと未来がみえた。
「どうした?」
「なんでもない」
……今はまだ黙っておこう。話してしまって幸せそうな未来が壊れてほしくないからな。といっても、ディーノが足を止めたのでバレてしまったようだが。
「言えないことか?」
「このままなら、ディーノにも見える未来」
「じゃ、ぜってぇ見れるな!」
私の言いたい事がわかったらしく、エスコートを再開した。
ああ、幸せだな……と本気で思った。