クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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リクエスト作品。
時期は両思いで結婚前です。


初デート

 目が回るような毎日というのはこういうことなのかと自身の身体で体感中である。

 

 ディーノは私がプロポーズを受けいれたその日に、その足で父と母に挨拶しに行ったのだ。急な話だったが、ディーノの必死な姿に両親は微笑んで話を聞いてくれた。……父の目は一切笑っていなかったが。

 

 その様子を私は他人事のように見ていた。現実逃避である。かといって、嬉しそうなディーノを見て水を差す気にはならなかったので、密かに喜んでいたのだろう。だから父は話を聞いたのだ。捻くれた私の性格をよく知っているから。

 

 1番の懸念だと思われていたディーノがマフィアのボスということなのだが、思ったよりも問題にならなかった。私の予知の力があがったので、この家で守り続けるよりは遥かに安全だと兄が言ったからだった。

 

 それでも父は唸っていたが、兄は恋人関係の方が危険だといったのだ。物騒な内容に私は父と母と一緒に驚いた。……当然のように、母以外から残念な子を見るような目で見られた。おかしい。

 

 すぐに結婚をしなくても婚約だけはしなければ、私を守りにくいらしい。婚約さえしていれば、何かあった時に正式に他のマフィアにも協力をお願いできるようだ。つまり私に何かあった時はボンゴレがシガラミに囚われぜず、堂々と手助けできるのだ。もちろん周りにも私の存在を周知させることで、私に手を出せば、キャバッローネが敵にまわるぞと周りに威圧出来る。

 

 だからこそ、ディーノはプロポーズだったのだ。そこは結婚ではなく、付き合ってではないのか?と思いながらも、まぁいいかと了承した私が1番わかっていなかったのである。残念すぎる。

 

 ちゃんと説明された後、ディーノにもう一度「オレのワガママなのはわかっている。それでも側に居て欲しい」と言われれば首を縦に振るしかなかった。……家族の前だったので死ぬほど恥ずかしかったが。

 

 この会話を聞いた後に、2人を引き離すか、結婚の許可を出すかの二択しかないため、父は折れるしかなかった。まぁ条件はつけたが。

 

 そこからはあれよあれよと具体的な式の日などが決まった。普通なら式場などの予約に時間がかかるはずだが、ディーノ自身に権力もコネもお金もある。ディーノのファミリーはまだかまだかと待ち構えているし、話を聞いた9代目まで張り切ったため、恐ろしいことになったのだ。あまりのスピードに珍しく父も頬を引きつらせていた。

 

 私はというと、引きつらせる余裕もなく、息切れしかけていた。

 

「……初デートもしてないのに」

 

 ポツリと呟く。ディーノは忙しい合間を縫って日本へとやってきて、私と一緒に式の内容を決めてくれている。両片思い中にデートと呼べるようなものをしていた。だが、それはデートとは違うだろうと私は思うのだ。

 

 結婚して落ち着けば、恐らく出来るだろう。でも、私は今したいのだ。結婚した後ではなく、恋人期間中に一度ぐらいしたいと思うのは私のワガママなのだろうか……。

 

 というわけでグチりにきた。

 

「ツナ、君はどう思う!」

「うーん、そうだね。サクラの言いたいことはわかるかも。でもディーノさんに言えば解決じゃ……?」

 

 確かにそうだろう。彼は私が言えば、すっ飛んでくるはずだ。だからこそ言えないのだ。私の複雑な心境を察したのか、ツナは話題を変えた。

 

「それにしても珍しいね。お兄さんに相談しないで、オレにするなんて……。や、迷惑という意味じゃないから!」

「……お兄ちゃんに避けられてる気がするから」

 

 くそっ、視界が歪む。

 

「サ、サクラ!?」

 

 ツナのアタフタする姿を見て、ちょっと落ち着いた。

 

「ん、ごめん。多分お兄ちゃんはディノに気をつかってる。兄離れさせようって考えているのかも」

「……そっか」

「まぁしないけど」

 

 開き直った私を見たツナは嬉しそうに笑った。ディーノの次に肯定してくれたのがツナなので私も嬉しい。

 

「悪い、もう時間だ。急にお邪魔するし忙しなくてゴメン」

「いつでも来ていいから!」

「……ん、ありがとう」

 

 ツナの家を出ると、待たせていた車に乗り込む。……今日はいったい何着のドレスを試着しないといけないんだろうか。これから必要になるとはいえ、ちょっと憂鬱だった。

 

 

 

 ツナに愚痴った次の日、家を出るとディーノが居た。

 

「サクラ」

 

 間違いなくディーノである。駆け寄りながらも変だなと思う。今日はパーティ用のアクセサリーを選ぶ日だったはずだが。正直、宝石を見ても何がいいかわからないが、つけないわけにはいかない。だから宝石云々は置いといて気に入ったデザインを選ぼうと思っていたのだが。しかし、ディーノが居るということは式の方の打ち合わせだったか。

 

「ごめん、ディノ。今日の予定、覚え間違えていた」

「いや、間違ってないぜ」

 

 不思議に思いながらも、されるがままに頭を撫でられる。

 

「ディノ?」

「……気付かなくて悪かった」

 

 何について謝ってるかすぐにわかった。だからこそツナが話すと思わなかったので、ちょっとショックだ。

 

「ツナから聞いたんだな……」

「ん? ツナからは連絡はないぜ?」

「教えたのはオレだぞ」

 

 突如聞こえた声に反応して、ディーノがすぐさま私を庇うように立ち位置を変えた。しかし今の声は……。

 

「んだよ、リボーンかよ……」

「ちゃおッス」

「気配がなかったから焦ったぜ」

 

 それについては同意する。全く気付かなかった。それにしても先ほどの発言から考えると、リボーンはツナとの話を盗み聞きしたのか。もしくは独自の情報網で聞いたのだろう。……今の季節だと何の虫だろうか。

 

「お節介かと思ったんだが、普段フォローする奴が動いてねーからな。教えることにしたんだ」

「……悪い」

 

 いろいろと気をつかわせてしまった。私のワガママで今日の予定を変更して、どれだけの人に迷惑がかかったんだろうか。

 

「とりあえずここじゃなんだ。車の中に入ろうぜ」

「……ん」

 

 返事をしてすぐにリボーンの姿を探したがもう居なかった。ディーノが気にせず私の背を押すので、私が気付かないところでアイコンタクトでもとっていたのだろう。また気をつかわせてしまったと密かに落ち込んだ。

 

 助手席に座りシートベルトをつけるとディーノが車を出した。車の中で話してから動かすと思っていたので、ディーノの顔をチラチラと見て様子を伺う。視線を感じたのか頭を撫でてくれた。

 

「今日のことで謝るのはなしだ」

「や、でも」

「オレだってもっと謝りたいんだぜ? でもせっかくのデートなんだ、辛気臭いのはやめよう」

 

 喉から出そうだった言葉を飲み込んだ。飲み込んだが、すぐに切り替えれるほど私は器用じゃない。自然と視線が下がる。

 

「まずは着替えに行くぜ」

「え!? 変か!?」

 

 慌てて服装をチェックし直す。最近の私はホテルや高級店によく行くので、ちょっと清楚っぽい服にしているんだが。家族の似合ってるという言葉を鵜呑みにしたのが失敗だったようだ。

 

「可愛いし、似合ってるぜ? ただ思いっきり遊べねーかと思ってよ」

 

 よく見れば、今日のディーノはスーツではなく、カジュアルな服装だった。なるほど、言いたいことはわかった。とりあえずヒールはなしだな。

 

「着替え直すから、戻って」

「まっここはオレに任せろって」

 

 上機嫌で運転しているので、家へ戻る気はないようだ。なんだか楽しそうなディーノを見て、ちょっと笑った。

 

 ディーノに連れられてきた店はカジュアルな服を置いているが、見るからに高級店だった。……まぁそうだよな。

 

 そもそも朝の早い時間から営業しているのはディーノが手を回したからだろう。こういう店じゃなきゃ、融通が利かないだろうし。

 

「お? これ良さそうだな。こっちもありだな。っと、サクラはどれがいいんだ?」

 

 しかしまぁ女の私より楽しそうなのが笑える。TPOは考えるが、私はファションに興味があるわけじゃないからなぁ。ディーノはアクセサリーも拘ってそうだし、多分こういうのは好きなんだろう。

 

「ディノのセンスに任せるぞ? 私はサッパリだから」

「そんなことねーと思うが……まっ、ちょっと待ってろよ」

 

 思わずクスクス笑う。明らかに自身で選べることにディーノは喜んでいる。私が笑ったことで浮かれていたことに気付いたらしく、ディーノの頬が赤くなっていた。

 

「……リボーンから聞いた時、嬉しかったんだ。申し訳ねー顔をしているサクラを見て、なんで先に気付かなかったんだって自分を殴りたくてしかたなかったんだ。それでもよ、やっぱ嬉しいんだ」

「ディノ……」

「だから、反省したり悩むのは後にして、楽しむって決めたんだ。サクラもそうしねーか?」

 

 素直に頷いていた。私も思うところはあるが、嬉しかったのだ。だから甘えるように腕に抱きつく。ディーノは優しく頭を撫でてくれた。

 

 ハッとして、周りを見渡す。店員からの温かい視線に恥ずかしくて逃げ出したくなった。チラッと店の扉の位置を確認していると、ディーノが服を見繕ってくれて試着室へ行くようにと促した。

 

 ……いや、確かに確認はしたが、外には出るつもりはなかったぞ? なんて心の中で言い訳しながらも、試着室へと逃げた。非常に助かる。

 

 落ち着き、着替え終わった私は扉から顔を出す。すぐにディーノが気付いてくれたので、扉を全開にする。

 

「ど、どうだ?」

「可愛いぜ」

 

 満足そうに何度も頷いているのでテレる。それにしても肌触りがいいな。いい素材を使っているのだろう、高そうだ。タグはないので確認出来ないが。

 

 その後、靴から鞄、アクセサリーも全て揃えて店を出た。ディーノも気に入った物があったらしくアクセサリーが変わっていた。ちなみに私がさっきまで着ていた服は後で家に届くらしい。ディーノがお金を払った様子もないし、感嘆の溜息しか出なかった。

 

「ん? どした?」

「私が知っている買い物じゃなかったから、驚いているだけ」

「いつもこんな感じじゃねーよ。街のみんなと触れ合いながら買い物する方が楽しいからな」

 

 以前、ディーノのシマへいった時のことを思い出す。確かにディーノは屋敷に呼び寄せたり、先ほどのようなスタッフが一歩引いた店ではなく、住民と触れ合いながら私の服を買っていた。……住民もディーノも楽しそうだったな。

 

「私も出来るかな……。わ、悪い!」

 

 今日はデートを楽しむという話だったじゃないか。何をしているんだか……。

 

「そういうのは口にしていいんだ。今日のデートについて、反省や後悔するのは考えるのは止めようってことだ。……それによ、知らない土地にくるんだ。不安になるのは当然だぜ。だから遠慮なく話せ。それぐらいの時間ぐらい、すぐに作る」

「……いいのか?」

「あのなぁ、オレが一番怖いのはお前がやっぱり無理だって断られることだぜ? 不安を取り除く時間を惜しむかよ」

 

 本当なのかなと運転中のディーノを盗み見る。あっさりバレて頭をガシガシと撫でられた。

 

「サクラ、毎日忙しいだろ?」

「え、うん、まぁ」

 

 急に話題が変わったので、どもってしまった。

 

「なんでだと思う?」

「必要な物を揃えるためだろ?」

 

 私の回答にディーノは声を殺しながら笑った。意味がわからなさすぎて、この流れについていけない。

 

「間違っちゃいねーよ。だけどな、一緒に住んでからも間に合う物も大量にあるんだぜ?」

「は? え? 急ぐものじゃなかったのか? じゃ、なんで?」

 

 ディーノは疑問がいっぱいな私を見て、ニヤリと笑いにながら言った。

 

「怖気付く時間を与えねーためだって言ったら?」

 

 ポカンと口を開けて間抜けな顔を私はしているだろう。

 

「オレの必死さ、ちょっとは伝わったみてーだな」

 

 壊れたおもちゃみたいになったが、なんとか頷いた。……ディーノの新たな一面を見た気がしたぞ。

 

 よくよく考えれば、雲雀恭弥をうまく誘導出来るのだから、私なんかは簡単なんだろうな。しばらくの間、現実逃避をしても許される気がした。

 

「ついたぜ」

 

 しかしディーノは私に現実逃避する時間を与えなかった。

 

「たまたまだ」

 

 ……狙ってやったのかと警戒していたのが、バレていたようだ。ディーノは気にした風もなく、私をエスコートして車から降ろした。

 

「遊園地?」

「おう! 定番だろ?」

 確かに定番である。それなのにディーノと一緒にまだ行ったことがない場所だった。去年は受験生だったため、彼の誘いに乗ったのは水族館や科学館など少しは知識を得れると、言い訳出来そうなもの以外は断ったからな。

 

 開店直後だったらしく、すぐに入場出来なさそうだ。もっとも5分も待たないだろうが。チケットはもう用意していたので、ディーノと一緒に並び世間話をする。

 

「遊園地はマフィアランド以来だな」

「ん? あそこに行ったのか?」

「コロネロに用があったから。だからアトラクションには乗ってないな」

「それは行ってないのと一緒だろ」

 

 ディーノのツッコミに頷く。

 

「マフィアに目をつけらたくなかったから、裏で居たんだ」

「……正解だな。オレもそう思って選ばなかった」

 

 あの時は知識だったが、今は予知があるからな。まだバレていないが、いつか私が予知出来ると勘付かれるはずだ。話のネタになりそうなマフィアランドは論外だったのだろう。

 

 ちょっとは考えているんだぞとアピールしている間に入園の順番がやっきた。入ったタイミングで貰えるマップをディーノと一緒に広げる。私は子どもの時に来たが、久しぶりすぎてサッパリなのだ。ディーノは調べてはきているが、ここの遊園地は初めてなので先に一緒に見ることにしたのだ。

 

「サクラは乗り物に強いのか?」

「普通だな。乗れるけど、連続は無理な感じ。ディノは……って聞かなくてもいいか」

 

 自ら動きまわれて、スクーデリアのスピードに問題ないのだ。酔うはずがない。

 

「ジェットコースターと急流すべりは絶対に乗りたいな」

「わかった。まずは近いジェットコースターから行くかっ」

 

 ディーノと手を繋ぎ、一緒に向かう。周りが楽しそうに賑わっているので、私もテンションがあがってきた。手をブンブンと振る。子供っぽい行動だが、ディーノは笑って付き合ってくれた。

 

 遠目から見ても、行列がわかる。やはり人気のアトラクションは結構並んでいるな。

 

「ディノ、最後尾はあっちだぞ?」

「いや、ロマーリオの話だとこっちでいいって聞いたんだ」

 

 ロマーリオの情報なら大丈夫だろう。ディーノのエスコートに従う。

 

「……ディノ、何をした?」

 

 ちょっと低い声が出た。シングルライダーのところにいる従業員に声をかけただけで急に慌ただしくなったぞ。嫌な予感しかしない。

 

「そういや、貸切しようとしたら、優遇してくれるって話で落ち着いたって聞いたな」

「君達はバカか! 前日にいきなり貸切にしてくれとか言われたら、迷惑に決まってるだろ!? 開店前の服屋を貸し切るのとは規模が違うぞ!」

「そうなのか?」

 

 繋いでない方の手で頭を抱える。服屋を貸し切った時点で気付くべきだったのだ。そんなフラグの回収とかいらないぞ!?

 

 そういえば、ディーノ達はツナの入院中に拳銃を渡そうとしていたな……。まだ最低限の常識があって良かったと思えばいいのか? 無理矢理貸し切っていれば、ここに来ていた人達を追い返すことになっていたぞ……。

 

「サクラがそこまで言うなら、オレ達が間違っていたんだな。謝罪しねーとな」

「萎縮させない程度で謝罪するんだぞ……」

「ん? わかったぜ」

 

 今までは問題なかったのに、なぜこうなったんだ。初デートで浮かれていたのはディーノだけじゃなかったのか?

 

「……ディノ」

「ん? どした?」

「君の部下達はここに来ていないよな?」

「………………居るな」

 

 今度はディーノが頭を抱えた。ファミリーにデートを見守られているのは流石に嫌だったようだ。

 

「とりあえず、こっち側は受け持つ。そっち側は任せた」

「……すまん」

 

 ディーノは私の頭を撫でてから、部下達に説教しに行った。……私は今から来るだろう偉いさんへの対応に集中しよう。無理矢理貸切にしなかったので、そこまで引きつった笑みをしていないだろうし。……多分。

 

 しかしまぁ初デートは失敗だなと溜息を吐いてしまったのは仕方がないと思う。今度、穴埋めとしてデートを催促しても罪悪感はなさそうだ。……良かったのかどうかは微妙なところである。


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