クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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時期はサクラが高1になる年の春。
2016年のエイプリルフール企画で書いたかな。
活動報告に載せた時より加筆しています。


嬉しいウソと課題

「その、好きな人が出来たんだ」

 

 ピシッと固まったディーノを見て思う。彼は似たような内容なのに、なぜ何度も騙されるのだろうか。……もっとも、ウソをついた私が心配することではないのだろうが。といっても、時期が今じゃないだけで、内容自体はウソではない。

 

 ウソの中に本当を混ぜるというのが、バレない秘訣だと私は思ってる。

 

「……だからディーノに聞きたいことがある」

 

 ちょっと顔が赤くなってないか心配だ。未だに驚きのあまり返事が遅いが、これ以上沈黙が耐えれないので早口で話す。

 

「デ、ディーノはどういう女性が好みなんだ。参考までに教えてほしいっ」

 

 頑張った。自画自賛してもいいだろう。

 

 もう気付いているだろう。今日はエイプリルフールなので、ウソをつき騙しながらも、ディーノの好みを聞き出そうという素晴らしい作戦である。

 

 ちなみに誰に語りかけているのか、深くツッコミしてはいけない。ぼっちレベルが戻るぐらい、私は恥ずかしさで軽くパニックなのだ。

 

「……サクラ」

「お、おう」

 

 やはり下の名前で呼ばれるのは慣れないな。

 

「オレは何でもお前に協力するつもりだった。だけど、それだけは協力できねぇ」

 

 ガーンとショックを受ける。ちょっと兄みたいに両手と膝をつきたくなるレベルである。まさかここまでディーノの好みについてガードが固いとは……!

 

「そ、そうか。無理を言った私が悪かった……」

 

 本人に聞けないなら仕方がない。地道にディーノを観察して気付くしかない。……と思ったが、部下からさりげなく聞こう。そっちの方が早い。なぜか知らないが私はディーノの部下に好かれているしな。

 

「いや、お前は悪くないんだ。オレの心の問題だ」

「……そこまで真剣に悩まなくてもいいぞ?」

 

 あまりにも必死に悩んでいるので、もうネタバラししよう。そうしよう。

 

「そうじゃないんだ」

 

 口を開こうとしたが、先にディーノが話し出してしまった。コミニケーション能力の低さがここで出てしまったな。

 

「オレは……お前のことが好きなんだっ!」

 

 ガタッと立ち上がり、ディーノは言い放った。数秒固まった私だが、すぐに立ち直って言った。

 

「……ディーノ、もう少し場所を考えてくれ」

 

 思わずツッコミをしたのは今私達がいる場所がファミレスだからだ。興味津々の周りの視線が辛い。

 

「す、すまん」

 

 私の指摘を聞いてディーノはサッと座った。顔が真っ赤である。

 

「ん。その、なんだ。悪かった」

 

 申し訳ないと思う。恐らくディーノはするつもりがなかったはずだ。きっかけは私のせいだ。素直に謝る。

 

「……いや、オレこそ、すまん」

 

 妙な沈黙が流れたので、ゴホンと咳払いして顔をあげる。ディーノは私の咳払いに反応したのか、真っ直ぐ私を見ていた。

 

「ディーノ、出来れば勢いで言わないほうが良かった」

 

 うっ、と言葉が詰まる。ディーノが落ち込んでるように見える。

 

「……それは悪かった。で、どうなんだ?」

「はっきり言うぞ」

「ああ」

「30点」

「は?」

「咄嗟に考えたウソにしては、頑張った方だと思うぞ。ただ、やはり場所と勢いで言ったのが悪かった」

 

 間違いないと何度も頷く。もう少し本音を言うとすれば、タイミングが最悪である。

 

「まったく。私のウソを見抜くのはいいが、君が無理して私に付き合う必要はなかったんだぞ」

 

 ちょっと理解が追いついていなさそうなので、今の間にプリンアラモードを追加注文する。

 

「それにしてもよく私の『好きな人が出来た』というウソを見抜けたな」

「……ま、まぁな」

「来年のエイプリルフールはもう少し難易度をあげる」

「そうか……」

 

 ……落ち込んでるようにみえる。いや、そうにしか見えない。そのため、もう1度口を開く。

 

「それと私からアドバイス。今回、相手が私だから良かったが、ウソでも君はそういう内容は使わないほうがいい」

「ん? なんでだ?」

「どう見ても君は優良物件だろ。お金と地位があり、イケメンで性格が良し。君と付き合いたい思う人物は多い」

「そうか?」

「そうだ。だから間違っても私以外の女性には言うなよ。面倒なことになるぞ」

 

 自覚してなさそうだったので、私は言い切った。

 

「……お前から見てもそう思うのか?」

「ん。君は私が出会った中で、1番良い男だぞ?」

 

 おい、テレるな。私の方が恥ずかしいんだぞ。

 

 ちなみに兄と父は家族なので別枠扱いである。……これは黙っておこう。

 

「君はもう少し自覚した方がいい。くれぐれも気をつけたまえ」

「……なんで桂の口調なんだ?」

「今の私の気分」

 

 私がそう言うとディーノは仕方なさそうに笑った。

 

 

 

 その後、家まで送ってもらった私は真っ直ぐ自分の部屋に行き、ベッドに寝転ぶ。

 

「……バカ」

「僕を呼んだかい?」

 

 部屋に入ってきた兄を見て、どこにツッコミすればいいかわからない。結局いつもと同じ言葉にした。

 

「……ノック」

「ブレないサクラも可愛いね!」

 

 兄の残念さに遠い目をした後、紅茶がほしいとお願いすれば喜んで用意しにいった。ちょっとやけ食いしたので、本当に助かる。

 

「ディーノのバカ」

 

 静かになったので、もう一度呟いてしまった。だが、これは仕方がない。私は悪くない……と思う。

 

 本当になぜ今日言ったんだ、ディーノ。

 

 ウソなのかすぐに判断出来ずに、なかったことにしてしまったじゃないか!

 

 もしウソだった場合、本気で喜んでしまった時は彼はどうするつもりだったんだ。百歩譲って私が恥をかき、気持ちがバレるのはまだいい。……ディーノのことだから、責任をとりそうで怖い。そういうのは私は望まない。だからなかったことにし、押し切った。

 

 ……まぁあの反応からすれば、本気だったようだが。

 

 つまり、ディーノは私のことが好きなようだ。

 

 自身のことでいっぱいいっぱいで気付かなかったが、少し考えれば思い当たることが多々あった。まぁだから私以外には言うなと釘を刺したのだが。

 

「サクラ、機嫌が良さそうだね」

 

 いつの間にか戻ってきた兄に言われ、思わず頬に抑える。それでも口角があがってる気がするので誤魔化すのをやめた。

 

「ディーノから、いいウソを聞けたんだ」

「それは良かったね、サクラ」

 

 兄に言われ、素直に頷く。

 

 ただ、先行き不安だ。

 

 一応、予知夢が専門だが、これは何となくわかってしまった。私から告白しても、上手くいく未来がまったくみえない。

 

 ……理由は恐らくディーノがいる立場の問題だろう。

 

 冷静になったディーノは私のことを思って諦めさせようとしそうだ。そして私はメンタルはそこまで強くない。1回や2回ならまだ頑張れるが、何度も断られれば折れるぞ。

 

 なかったことにするんじゃなかったな……。

 

 ディーノがもう1度話す未来もまったく見えないぞ。それでも私から告白した時と違って、今のような関係は続きそうだが。

 

「……お兄ちゃん」

「なんだい?」

「今日のお出かけってどう思う?」

「世間一般ではデートというものだよ」

「そうか」

 

 ……このままでいいか。

 

「やっとディーノの気持ちに気付いたのかい?」

「えっ」

「僕が気付かないわけがないよ!」

 

 それもそうかと納得する。兄は私と常にいるし、鈍いわけじゃない。

 

「いつから?」

「彼が自覚したのはちょうど一年前ぐらいだと思うよ」

「自覚したのはって?」

「そうだねぇ。彼は随分前からサクラを好いていたよ。それこそ未来に行ったぐらいからかな」

 

 驚きのあまり兄を二度見した。

 

「恋と明確に変わったのはもっと後だと思うよ。芽生えという意味さ」

「ふぅん」

 

 何事も順序があるってこと、か。私だって、いつからかはわからないしな。意識し出したのは、10年後のディーノがきっかけだと思うけど。

 

「僕からも質問していいかな?」

「なに?」

「ディーノの気持ちを知ったのに、告白する気はないのはどうしてかな?」

 

 さっきの確認で兄にこのままでいいと思ったのがバレているようだ。

 

「んー、うまくいく未来が見えないから?」

「そうだろうね」

 

 当然のように兄が返事をしたので、首を傾げる。

 

「僕がディーノなら断るからさ」

「……彼はマフィアのボスだからな」

「それは関係ないよ」

 

 それ以外に何があるんだ。他は全く思いつかなかったぞ。

 

「もう1つ質問するよ。さっきの答えに繋がるものだから、真面目に答えることをオススメするよ」

「ん」

「サクラはディーノとどうしたい、のかな?」

「どうしたいって?」

「キスしたいと思ったことは?」

 

 兄の発言にむせた。甲斐甲斐しく背をさすってくれるが、原因は兄だからな!

 

「ごほっ。いや、ないだろ。私とディーノだぞ?」

「どうしてだい? 2人は好き同士なのだよ?」

「ええっと、それは……」

 

 なんでだ?と固まる。確かに兄の話は理屈が通っている。

 

「これが解けないと僕はディーノと付き合うのは反対だよ」

「反対、なの……?」

 

 兄が反対するとは思わなかった。ちょっと泣きそうだ。

 

「付き合うのが、だよ。両片思いの状況なら反対しないよ」

「ちょっとわかんない」

 

 付き合うのと両片思いはほとんど一緒だろ。互いの思いを自覚しているかの差ぐらいだ。

 

「そうだねぇ……。サクラはディーノと結婚したい?」

「そ、そりゃ、いつかは……」

 

 恥ずかしくてゴニョゴニョと言葉を濁す。兄がからかわず、教える気でいるから答えることが出来たのだ。普段ならありえないだろう。

 

「それなのにサクラはディーノとのキスは想像出来ない。これがヒントだよ」

「さっきと一緒」

 

 ヒントと言うが、同じことしか言ってないじゃないか。兄を睨む。

 

「あまり教えると答えになってしまうからね! ここまでだよ!」

「教えてくれればいいのに……」

 

 ブツブツ文句を言う。兄が優しくない。

 

「焦ってもロクなことはないよ。それにディーノが本気でサクラを好きだからね。わかるまで付き合ってくれるさ」

「……本気なのかな」

 

 兄は自信満々に言うが、本気かどうかは本人に聞かなきゃわからないじゃないか。

 

「サクラはおかしなことを聞くんだね。彼は今生きているじゃないか」

 

 遊びだったらどうするつもりだったのだ……。ふと頭に浮かんだが、私の心の平穏のために気付かないフリをした。


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