2016年の雲雀さん誕生日記念に書いたっぽい
GWと言っても受験生の身。今年はマンガを読みたい欲求を抑えて真面目に勉強をしている。
そんな私が少し気分転換も兼ねて、一階にジュースを取りに行けば、なぜかリビングにディーノが居た。そして彼の正面には父が座っている。……私の顔を見てあからさまにホッとしたな。まぁ仕方がないだろう。父の顔は笑っているが目は冷たかった。
そういえば、まともに父とは会ったことがなかったか。
「……お父さん、何をしてるんだ」
「少しお話をしていただけだよ」
父の言葉を聞いて、ディーノは引きつった笑みを浮かべていた。
「チャラチャラしてるように見えるが、彼は真面目な男だぞ。来るたびにお土産をくれるし、ケーキおごってくれるし、遊びに連れてってくれるし」
「それはサクラが喜ぶだろうね」
おかしい、私のフォローは逆効果だったようだ。
「……ディーノ、行こう」
「いや、それは……」
「兄に丸投げするのが最善だと思うぞ」
兄に任せてしまった方がディーノのためだ。私がグイグイと腕を引っ張ると、困ったようにディーノは眉を寄せた。父のことを気にしているようだが、父は私に弱い。私が出かけたいと誘っているのを無理に引き止めたりはしないのだ。
「……早く帰ってくるんだよ」
「ん」
ディーノは明るいうちに必ず私を送り届けると父に約束してペコペコと頭を下げていたので、引っ張る力を強めた。急かさなければキリがなかったのだ。
家を出ると力を抜くように長い息をディーノが吐いていた。
「悪い。昔、兄の関係でいろいろあったから」
「……それだけじゃねぇと思うが」
首をひねれば、なんでもねぇよと頭を撫でられた。誤魔化されたとわかったが、見逃してあげよう。だからもっと撫でてもいいぞ。
「それで、何の用なんだ?」
ディーノが日本にやってくる時は大抵連絡がある。今回はなかった。連絡がない時は私を脅かそうとしたり、緊急時やツナ達に何かあった時だ。父が捕まっていたことを考えれば、恐らく緊急時ではないのだろう。そして私を脅かす時は兄が一枚かんでいる。今日は居ないので本当に珍しいパターンだ。
「ちょっとお前に頼みがあるんだ。もちろん断ってくれてもいい」
「別にかまわない。出来るかはわからないが」
「すまん」
普段ディーノには世話になってる。協力するのは問題ない。私の知識か予知の力が欲しいということだろう。原作分が終了した時点で私の知識はたいした力になれない。ということは、予知の方か。しまったな、詳しい内容をみようとするには眠る必要がある。家から出るべきじゃなかったか。
とりあえず内容を聞いてからだな。
「実は……今日は恭弥の誕生日だろ? あいつの好きなものがわからなくてよ」
思わずガクッとなる。勝手に真面目な内容と勘違いしたのは私だ。だが、それはないだろう。
「……彼の好みだけでいいだろ?」
「すまん。助かる」
過去に雲雀恭弥の個人情報をペラペラ話してしまったことがある。多少人付き合いが出来るようになり、あれは悪いことをしたと気付き、私は反省した。なので、今回はちゃんと内容を厳選した。
「私が知ってるのは好きな食べ物が多い。だから多分それは参考にならないから除外するぞ」
「……だな」
ディーノが雲雀恭弥を誘い、2人で食事に行く。……絶対にない。
「彼は和の物が好きだぞ」
「そういや10年後のあいつのアジトは和風だったな」
私は何度も頷いた。身につくものなら嫌だろうが、日用品なら外れはないだろう。
「ディーノが用意したものなら渋々でも彼は受け取ると思うけどな」
「だといいけどなー」
「彼は好意には割りと寛容だ。過去に私からの誕生日プレゼントも受け取ったし」
100円コロッケを誕生日プレゼントといっていいのかは別として、睨んだりするが彼はちゃんと受け取ってくれるのだ。
「……恭弥に渡したのか?」
ピタッと足を止めてディーノが聞いてきた。それほど私がプレゼントを渡すのは珍しいのか。ディーノにも一応祝っているんだが。
「まぁあの時は成り行き」
そういうと頭をガシガシと撫でられた。よくわからない。
「よしっ、行くか」
どうやら買い物まで付き合って欲しいらしく、手を引っ張られた。これでも受験生だぞ。……ジッと繋いだ手を見つめる。
「後で何か奢ってくれるなら」
「ああ、もちろんだ」
……仕方ない、付き合ってあげよう。
プレゼントを無事に買い終え、なぜか私も学校にやってきた。
「彼は学校に居るのか?」
「ああ。草壁哲也からの情報だ」
そういえばロマーリオと草壁哲也は仲が良かったな。もっともディーノに悪意がないとわかっているから草壁哲也も教えたんだろうが。
一時期教師をしていたこともあり、ディーノは迷う素振りも見せず校舎へ入っていく。
「屋上なのか?」
「さっき、あいつが飼ってる鳥が見えたんだ」
彼らの視力はどうなってんだか。普通は見えないだろ。
「一緒に行くならフォロー頼むぞ。制服じゃない」
彼は私に甘いが、こういうことは許さないからな。
「……お前は大丈夫だ」
「それもそうか。私を咬み殺すよりディーノを咬み殺ろしたほうが有意義だしな」
私の言葉にディーノは引きつった笑みを浮かべた。ドンマイである。
ディーノが屋上の扉を開けると、雲雀恭弥は不機嫌そうに体を起こした。その拍子にヒバードも飛び立ち、私の頭へとやってきた。
「よっ、恭弥」
軽い足取りでディーノは雲雀恭弥に近づいていく。私ならば絶対に近づきたくはない。ただ、残念ながらディーノと手を繋いでるので行く羽目になるが。
ちなみに今までの経験上、ディーノは簡単に手を離さない。当然、その時々の流れで離すことはあるが、それはディーノからである。私から離すことは成功したことがない。
今回彼が離さないのは大丈夫と思っているからであろう。だが、ジッと雲雀恭弥は私たちの手を見ているぞ。群れるなと目で訴えている。
「そう怒るなって。まっここなら大丈夫か」
ディーノが手を離したのでソッと雲雀恭弥から距離をとる。といっても、彼の腕ならこの距離ではたいした問題にならないだろうが。
「……それで、なに?」
「お前、今日誕生日だろ? プレゼントだ」
雲雀恭弥の目が細まった。私の予想では怒っているというより気持ち悪いと思っていそうだ。
「変なものではないぞ」
「君が選んだの?」
「助言しただけ」
少し興味が出たらしくディーノが持ってる袋をチラッと見た。まぁ趣味があうものなら彼の許容範囲に入ったのだろう。
「……そこに置いといて」
「おう」
相変わらず素直ではない。だが、嬉しそうにディーノが笑ったので良しとする。
「……君は? 君からの分は?」
「「は?」」
ディーノと声がかぶる。だが、仕方がないだろう。それほど彼が私に催促するなんて予想外の出来事なのだ。
「そう」
私たちの反応でないと察した雲雀恭弥は立ち上がって、こっちに向かって来た。まさか用意してないと咬み殺すのか!?
「恭弥……?」
もし雲雀恭弥がトンファーを出そうとしたり、殺気を送っていたならディーノは絶対に止めただろう。だが、雲雀恭弥は私が認識できるほどゆっくりと近づいてきた。ちなみに私はそれでも逃げることが出来なかった。これがレベルの差である。
「3秒でいい」
雲雀恭弥の言葉の意味がわからず、首を傾げる。私の疑問を他所に、彼はスッと私の頬に手をそえた。
ゴクリと喉が鳴った。それほど彼の目は真剣に私を見ていた。いや、正しく言うと私の目を見ていた。
腰が抜ける直前にディーノが私を抱きとめた。そして雲雀恭弥から隠すように体の向きを入れ替えた。私の位置からは2人の様子はよく見えない。会話もなく、ただ緊迫した空気が流れているのはわかる。
くだらないと思ったのか、雲雀恭弥は溜息を吐いて屋上から去っていった。ディーノからのプレゼントが見当たらないので、ちゃっかり持っていったらしい。ヒバードも彼について行ったようだ。
「……大丈夫か?」
「ん。驚いただけ」
「……そうか」
いろいろと思うことがあるのだろう。ディーノから感じる空気は重かった。
「……約束どおり、ケーキを食べに行くか!」
気まずい空気を壊すかのようにディーノは私の頭を撫でる。私はされるがままだった。
「ディーノ」
「ん?」
「……いや、なんでもない。早く行こう」
「おう」
私に出来ることはないのだ。私は甘えるようにディーノの腕に抱きつき催促したのだった。