クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

142 / 153
時期はサクラが中2です。
2015年に作者のノリで投稿したっぽい。


ホワイトデー

 授業が終わりツナ達と帰っていると校門にディーノがいた。壁に寄りかかって待ってるディーノは少し難しそうな顔をしている。

 

 一時期教師だったディーノは容姿も良いのもあり人気だった。しかし難しそうな顔をしているせいか、遠巻きに見ているだけで誰も話しかけていない。明らかに異常だ。

 

 まぁそのおかげで私達は楽に話しかけることが出来るのだが。

 

「ディーノさん、どうかしたんですか!?」

 

 ツナがディーノに駆け寄って聞いた。

 

「……ん? よっ、ツナ」

 

 ツナ達の顔を見た途端、いつものディーノに戻る。これなら大丈夫かと一瞬思ったが、弟分を安心させようとしているだけなのかもしれない。

 

「何かあったんですか?」

「……何かあった……」

 

 再びディーノが難しそうな顔に戻る。そして、私の方を見た。

 

「いや、何でもねぇよ」

 

 はぁ。と溜息を吐く。どう考えても何かある。私の顔を見てから否定したので、私には話せないことなのだろう。

 

「先に帰るぞ」

「え!? サクラ!?」

 

 ツナの驚いてる声を無視して歩き出す。

 

 ……私が力になれることはもうないのだ。

 

 

 

 

 

 

「これが、普通なんだ。……ん、これが正しい」

 

 ブツブツ言いながら歩くのは怪しいとわかっている。でも自身を言い聞かせるには必要なことだった。そしていつもより少し上を向いて歩く。下を向けば、何かがあふれ出しそうな気がして。

 

 近いうちにこうなるとわかっていた。原作範囲が終われば、私に出来ることはもうないのだから。

 

「……大丈夫、彼らとは友達だ」

 

 ほんの少し繋がりがなくなるだけだ。笹川京子達のように話してもらない立場になるだけだ。友達なのは変わりない。

 

 そもそも戦えない私が前線に近いところにいることがおかしかったのだ。命の危険がなくなるのは喜ばしいことではないか。

 

 納得するように頷く。

 

 それにツナ達とは同じ学校なのだ。何かあっても話してもらえないが、顔が見れば何となくわかる。気晴らしになれるように声をかけるだけで、彼らの役に立つだろう。

 

 ツナ達とは大丈夫。

 

「…………」

 

 グスッと鼻をすする。彼とは距離が遠くなった。……大幅に。

 

 私が言えば、会いにきてくれるだろう。だが、彼から私に会いに来てくれるだろうか。

 

 ……悲しいことに、メリットが見当たらない。

 

 私と彼の関係は友達とはまた違う。ボディーガードと護衛対象という表現の方が正しい。

 

 果たして、守る必要がなくなった者を気にかける余裕があるのだろうか。……いつまで気にかけてもらえるのだろうか。

 

 どうして私は失わないと気付かないんだろう。あんなにいらないと思った知識が、あんなに悩んで嫌になった知識が、今は……欲しい。

 

「わっ!」

 

 グイッと肩を引かれ、力任せに振る向かされる。その勢いで目に溜まっていた水が、ポトリと落ちた。

 

「……何があった」

 

 ビクリと肩が縮こまる。いつもと違って声が低くて驚き、すぐに答えることが出来なかった。

 

「何があったんだ!?」

 

 一体、彼は何に怒ってるんだろう。あまりにも普段の彼と違うので、ジッと顔を見ることしか出来ない。

 

「誰に泣かされたんだっ!?」

「は?」

 

 思わず声が出た。何を言ってるのだろう。

 

「……違うのか?」

 

 コクリと頷く。誰かに泣かされたという話ではない。自身の力がなくなったことが原因だ。

 

「はぁ~……」

 

 すると、力が抜けるような溜息を出し、いつものディーノに戻ったのだった。

 

 

 

 

 ディーノに手を引かれ、歩く。

 

 あの後、怖がらせたお詫びといい、どこかへ連れて行ってくれると言ったのだ。

 

「本当にいいのか? 何か起きてるんじゃないのか?」

「問題ねぇよ」

 

 あんなにも難しそうな顔をしていたのに、問題ないとは思えない。

 

「今、私を優先するのは間違ってるんじゃないのか?」

 

 ディーノは忘れてしまったのだろうか。私はあの雨の日を忘れることが出来ないのに。

 

 ギュッと握られている手に力がこもり、足が止まった。……完全に忘れたわけじゃないようだ。

 

「大丈夫」

 

 恐らくディーノはあの後のことをリボーンから報告を受けてるはずだ。だから安心させるためにいい、空いてる手でディーノが繋いでる方の手の上に重ねた。

 

 離せという意味が通じたようで、ディーノの手が弱まっていく。とても名残惜しいが、仕方がないことなのだ。

 

「……もう守る必要がないんだ。いろいろ知ってる分、多少はあるかもしれないが、もう君が守る必要はないんだ」

 

 ディーノが驚いたように振り返ったので、本当に気付いてなかったらしい。知識がもうない私を同盟ファミリーの中で3番目に大きいキャバッローネが守るのはおかしいということに。

 

「お兄ちゃんがいるけど、ちゃんとリボーンと相談するから。君が安心して任せれる人をつけてくれるさ」

「……わーったよ」

 

 胸が痛くなった。私から言ったのに、ディーノの返事を聞いて辛くなったのだ。

 

「ん。……手を離してくれないか?」

 

 ディーノの目をみることが出来ず下を向いていると、手が握られたままだった。わかったなら、離してほしい。……未練が残りそうだ。

 

 頭を撫でられる。いつもより手つきが荒い気がするのは、最後だからなのかもしれない。

 

 ガシガシ。

 

 ガシガシガシ。

 

 ガシガシガシガシ。

 

 ……長い。そしてちょっと痛い。これはもう文句を言ってもいい気がする。

 

「ディーノ、痛い」

「ん? 気のせいだろ?」

 

 ガシガシ。

 

 ガシガシガシ。

 

 ガシガシガシガシ。

 

 ガシガシガシガシガシ。

 

 ……イラっとしてきた。キッと睨むようにディーノを見上げる。

 

「やっと見たか」

「…………」

 

 冷や汗が流れる。なぜだろう。凄く嫌な予感がする。父が怒る時の雰囲気に似ている気がする。

 

「お前がどう思ってるか、よーーくわかった」

「お、おう」

 

 気後れし、普段使わないような言葉で返事をする。

 

「そうだな。やり直す、か」

「な、何をだ?」

 

 怖いのに、なぜか聞きたくなる。不思議だ。

 

「もうわざわざオレがお前を守る必要がないんだろ?」

「……ん」

 

 再確認しないでほしい。ディーノから聞かれるとかなりのダメージになる。

 

「じゃ、これからオレがお前といるのはそういう意味じゃないってことになる」

「ん?」

「まずは……ホワイトデーのやり直しだな」

「は? もう貰ったぞ?」

 

 ディーノは何を言ってるのだろうか。今年もきっちり14日に届き、いつまでも置いてると食べれない気がして、すぐに食べたのだ。これは間違いない。

 

 食べる前に写真を撮っていると、いつの間にか兄が部屋にいて見られたのだ。恥ずかしくて死にそうだったからよく覚えている。

 

 その後、からかいもせず、紅茶を注げばすぐに出て行ったので私は何とか食べれることが出来た。からかわれていれば、恐らくずっと食べられず賞味期限が切れていただろう。

 

 なので、絶対に食べている。

 

「細かいことは気にするな」

「お、おい!?」

 

 ディーノがスタスタと歩き出したので、私も慌てて足を動かす。手を繋いだままなので、着いていくしかないのだ。

 

「ディーノ、何か問題が起きていたんじゃないのか?」

「もう解決した」

「そうなのか?」

「ああ」

 

 それなら、あの時に言ってほしかった。ディーノと一緒にいれる時間を延ばせたかもしれないのに。

 

「……ディーノ、どこへ向かってるんだ?」

「もうわかるだろ?」

 

 見覚えのあるホテルを見て、顔が引きつる。どう考えても私が入るのは間違っている。9代目やディーノが泊まるホテルに私は堂々と入れるほど図太くはない。……遠まわしにツナが図太いと言ってるのは気のせいだ。

 

「む、無理だ」

 

 しかしディーノの足が止まることはなく、入ってしまった。唯一の救いは私服ではなく、制服だったことだろうか。

 

 周りがキラキラしているように見える。

 

「デ、ディーノ」

 

 腕にしがみつく。ここは場違いだ。

 

「可愛いな、サクラ」

「……わ、笑うな」

 

 クソっ、一瞬ドキっとしてしまったじゃないか! ディーノが笑っていなければ、勘違いするところだった。

 

「心配するな、向かうのはオレの部屋だ」

「君の部屋はどう考えても、このホテルの中で上位の部屋だろ!?」

 

 思わずツッコミした。もちろん小声で。

 

「今から慣れとけば、将来困らないだろ?」

「……こんな高級そうなホテルに泊まる予定はないぞ」

 

 言ってて悲しくなってきた。私の家は貧乏ではないのだが、金持ちというわけでもない。私には縁のない話である。

 

「そうか? オレは必要になると思うぜ?」

 

 ディーノの言葉に少し考えることにした。うーん……。

 

「そうか。お兄ちゃんが連れてくる可能性があるのか」

 

 私と違って兄はガッツリ稼ぎそうだ。足を組んでホテルのソファーに座ってるイメージがすぐに出来た。

 

「今はそれでいいか……」

「ん? なんて言ったんだ」

 

 ボソッと呟いたので、よく聞こえなかった。

 

「今からマナーを知っていれば、苦労しないぜって言ったんだ。桂はどこにでも誘う気がするしな。チケットとか全て用意して渡されれば、断れないだろ? それに桂は有名になっていろんなパーティとかに呼ばれる気がする。その時、お前が結婚してなければ絶対頼まれるぜ」

 

 なぜか否定できない。兄が有名になるのは決定事項な気がする。

 

「大丈夫だ、素質はある。桂にエスコートされてる時は、完璧だ」

 

 これには驚くしかなかった。私は特に意識したつもりはない。それにディーノが断言したのも驚きだ。

 

「ただ……桂にエスコートされた時だけだ」

「それで大丈夫だ」

「そういうわけにも行かないぜ。パーティで、桂が断ることが出来ない相手もいるからな。ダンスを誘われて、お前が1人になるとするだろ。声をかけてきた方も連れがいる。ダンスの邪魔にならないようにエスコートされた時はどうするんだ?」

 

 他にもディーノが具体的な例を話すので、今のままではまずい気がしてきた。

 

「ディーノ、どうしよう」

「まずはオレで慣れればいい」

 

 そういうとディーノが握ったいた手を離し、私の腰にまわした。

 

 こ、これは恥ずかしい!! 兄にされても何も思わないが、ディーノにされると凄く緊張する。

 

「ディ、ディーノ……」

 

 やめて欲しいと目で訴える。

 

「…………部屋まで頑張れば、ケーキがあるぜ?」

「……ケーキ」

 

 もの凄く興味があるが、恥ずかしい思いまでして食べたいのかというと微妙なところだ。

 

「オレの部屋に届けさせるんだ。普通の部屋では食べれないものになるぜ」

 

 ゴクリと喉が鳴った。

 

「家族のお土産も用意するぜ?」

「よし。行くぞ、ディーノ」

 

 敗北である。物でつられた。

 

「ちょっと待て。君にメリットが何もないけどいいのか?」

「心配しなくても、大丈夫だ」

 

 そういえば、ディーノは金持ちだった。これぐらいは全く問題ないのだろう。ボンゴレの同盟の上位にいるとわかっているのに、どうも金持ちとはイメージしにくい。

 

「何か思ったことがあれば、すぐに言うんだ。オレにはわからないからな」

 

 大事なことなのだろう。ディーノは私の顔を覗き込みながら言った。腰に手があるからか、いつもより恥ずかしい。

 

「どうした?」

「……い、いや。大丈夫」

 

 更に近くなったので慌てて返事をする。

 

 ディーノは私の顔が赤くなるのを見て、とても楽しそうに笑っていた。からかって遊んでる気がする。

 

「いてっ!」

「悪い、慣れていないんだ」

 

 すぐさま謝ったので、私がわざと蹴ったと言ったようなものである。

 

「ほんと、可愛いな」

「……今度、眼科へ行った方がいいぞ」

 

 まだからかおうとするので、病院を勧めるとディーノは笑っていた。

 

 まったく、楽しそうで羨ましい。こっちは冗談とわかっているのに、ドキドキしているんだぞっ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。