クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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それぞれの思い 2

 堂々と道を歩く1人の男がいた。その男はすれ違う人々が彼をもう1度見るため振り返るほどの容姿端麗だった。彼は周りから向けられる視線を気にしない。産まれた時から彼にとってそれは日常なのだ。更に、彼は自身が選ばれた存在と思っているのもあるだろう。普通ならば、彼の考えが間違ってると誰かが注意しそのまま育つことはない。しかし、周りも認めてしまうぐらい彼は特異だった。

 

 そんな彼にも頭があがらない人物が3人いる。まず両親だ。彼いわく、自身を産んで育ててくれた両親を尊敬するのは当たり前らしい。間違ってはいないが、それを当たり前のように話すことさえ、なかなか難しいだろう。

 

 最後の一人は彼の妹だ。

 

 彼は産まれてくる妹に興味はなかった。しかし、彼は産まれたばかりの小さな妹を抱き、大事にしようと思った。それは彼にとって初めて生まれた感情だった。

 

 妹は彼と違って平凡だった。彼が1度で出来たことは妹は何度も何度も繰り返さなければ身につかない。彼にはそれを理解出来なかった。

 

 そんな妹を彼は見下さなかった。出来ないなら彼は何度でも付き合い教えた。これだけ聞けば、いい兄だろう。しかし、妹は彼と違い完璧ではない。いくら教えても全てのことをその高みに登るのは不可能に近かった。そのことを気付いた妹は彼と距離を置いた。

 

 彼は妹と話す回数が減った。歳が離れてるのもあり時間が合わないのも原因と思えたが、妹が自身を避けてる気がしたのだ。

 

 彼は考えてもその理由がわからず、妹に尋ねることをした。妹は諦め、兄に本当の気持ちを話した。兄と違い私にはできないと……。

 

 兄は自分の妹だから大丈夫と声をかけようと思ったが、泣き出した妹を見て何も言えなくなった。いつも無理して笑って話していたのではないかと思い、彼は産まれて初めて反省した。

 

 反省して接すれば、妹との仲はすぐに元に戻ったが、妹が事故に遭い生死をさまよった。運よく助かったが、彼は何も出来ない自分が悔しく、人目につかないところで何度も泣いた。小さき妹を守る力がほしいと願った。そして、彼は努力することを覚えた。

 

 彼にとって妹は特別だった。他にも今まで感じたことのない感情を1つ1つ教えてくれたのだから……。

 

 一方で、自身のせいで妹に友達が出来なくなってしまったことを彼は気に病んだ。もちろん、彼がそう思ってると知れば、妹は悲しむので表には出さないが。妹に大事な人が出来るまで妹の笑顔を守り続けると心に誓った。そして、大事な人が出来ても守り続けるだろうという未来を想像して笑った。この感情も妹からもらったものだった。

 

 そんな彼に学校からフランスの1年留学の話が来た。両親は彼の意思に任せると言ってくれた。彼は妹を守ると誓っているため、当然のように断るつもりだった。それにもし留学すれば留学中に引越しすることになるのも心配だった。妹が街に馴染めるのはわからないのだから……。

 

 しかし、妹に「チャンスを掴まないのはバカだ」と、一喝されて「心配しなくても大丈夫。新しい街で友達を作る。約束するから」と妹が笑顔で言ったのだ。彼が気にしていることを妹は気付いていたのだ。情けないという気持ちもあったが、それより自身が寂しくなると思ったことに少し笑ってしまった。

 

 彼は妹の言葉を信じて留学することにした。妹はその約束を守る気がないと知らずに――。

 

 

 

 そして、1年がたち彼はもうすぐ帰国する。彼が外を出ていたのはお土産を買うためだった。彼は妹に高い物を渡しても喜ばないと知っていたので、値段に気をつけて妹が喜びそうな物を売ってる店を転々とした。もちろん彼は両親にも感謝を込めてお土産を渡すつもりだが、どうしても妹ばかりに気合が入るのは仕方の無いことだった。

 

 しばらくすれば彼は両手にお土産を持っていた。自身でも少し買いすぎたと苦笑いし、これ以上は持てば、お土産の質が下がると判断し寮に帰って行った。

 

 帰ってすぐにルームメイトに買いすぎと言われ、彼はまた苦笑いしたが、もうすぐ妹と会えるので幸せそうに笑ったのだった。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 草壁は気が重かった。普段なら雲雀に頼まれた仕事を喜んで報告するのだが、今回はいつもと違ったのだ。

 

 頼まれた仕事は雲雀の靴箱に手紙を投函した人物の特定だった。雲雀の靴箱に投函したという目撃情報は一切なかったため、全校生徒が容疑者になった。そのため雲雀の許可もらい、夏休みの過ごし方と称して全校生徒からのサインを集めた。それは筆跡を調べるためだった。本来なら筆跡で犯人を見つけるのは難しい。が、字が綺麗だったのだ。

 

 ただ字が綺麗なだけならその方法では探せない。だが、手紙の字は「とめ」「はね」「はらい」が完璧だった。草壁はいくら雲雀に出す手紙といっても全ての字が完璧になるとは思えなかったのだ。これは犯人の癖という結論に至ったのだ。

 

 そして、該当者は1人しかあがらなかった。

 

 もちろん、サインだけでは確定はしなかった。他の筆跡も検証したのだ。夏休みに入ったため、筆跡を探すのは苦労すると思ったが、図書委員の貸し借りの記録用紙があったため検証することでき、草壁は確信したのだった。

 

 草壁はなぜこのような周りくどいことをしてるかというと、目撃情報がなかった点から犯人は警戒しているのが予想出来たからである。もし草壁が風紀委員の権力を使い、筆跡の提出を求めれば、必ず字を崩すと確信していた。

 

 このように苦労して草壁は犯人を特定したのだが、気は晴れなかった。

 

 草壁は特定した後、その人物を調べた。真面目な生徒という印象しかなく、教師からの評価も良かった。つまり草壁には犯人は本当に雲雀に助けを求めて手紙を投函したとしか思えなかったのだ。

 

 しかし、雲雀が草壁に命令したということは雲雀は指図されたのが気に食わず咬み殺すためと予想している。草壁はこの生徒のこれからの運命に同情してしまい気が重かったのだ。もし、風紀を乱すような人物なら一切同情しなかったが。

 

 草壁は意を決して雲雀に声をかけた。いくら同情したとしても報告を怠ることは出来ない。それに、この生徒はただの被害者と草壁は雲雀に直接伝えることは出来るのだから――。

 

「委員長、報告します!」

「なに」

「特定の件ですが……1ーAの神崎サクラという人物でした」

「そう。……ああ、彼女ね」

 

 草壁は驚いた。草壁は報告のために彼女の資料を雲雀に渡したのだが、彼女の写真をみて雲雀が反応するとは思わなかったのだ。草壁は雲雀の知り合いと思い声をかけようとしたが、知り合いなら匿名で手紙を出す必要がない。それに雲雀は名前を出しても反応しなかったのだ。

 

 しかし、そうなると草壁は混乱した。草壁が調べた限りでは雲雀が興味を持つ人物とは思えなかったのだ。

 

 結局、草壁は悩みながらもそのまま報告することにした。

 

「……彼女は特に目立った行動もなく、成績も悪くありません。教師からは真面目な生徒と信頼されています」

「だろうね」

 

 草壁は雲雀の返事を聞いてますます混乱する。草壁が調べた通りならば、雲雀の興味がもつ相手にならない。しかし、雲雀は彼女を知っている。草壁は雲雀に質問する決意をした。

 

「恐れながら委員長……彼女はいったい――」

「さぁね。僕にもわからない」

「――わからないとは……」

 

 草壁は雲雀と彼女が出会い名前を尋ねた時の話を聞いた。雲雀に対する態度は他の生徒との違いは大してないと感じ、ますます疑問が解けない。

 

「僕もその時は興味がなかったよ。でも、目が気になった。あれは――僕を観察してる目だ」

 

 草壁は息を呑んだ。雲雀が発した瞬間、空気がかわり猛獣が暴れる寸前と感じたからだ。しかし、雲雀が暴れることもなくすぐに空気は元に戻った。

 

「……何を隠してるのかわからないし、すぐに咬み殺そうかと思ったよ。でもそれじゃぁつまらない。彼女は行動を起こすまでは抵抗せず、ただ咬み殺されると思ったからね」

「それは……危険です! 委員長! 彼女は力でくるとは思えません!」

 

 雲雀の話を聞いて、草壁は資料の信憑性はほぼないと判断した。だが、雲雀の前で観察するような度胸がある人物と考えれば、力だけで来るとは思えない。そして、手紙を出したのは雲雀を見極めるためだったとも想像できる。草壁は雲雀が興味が持つのが当然と思うほど彼女は危険人物と結論したのだった。

 

 草壁はこのまま彼女を見過ごすのは出来ない。雲雀では対処できない事態が起きる可能性があるのだ。

 

「僕に口答えする気?」

「そ、それは――」

「ならいい。彼女に手出ししないでね」

「――わかりました」

 

 草壁は雲雀に気付かれないように溜息を吐いた。今の雲雀に言っても何を聞いてもらえず、咬み殺されるとわかっていたからである。

 

「少しは楽しませてくれればいいけど――」

 

 雲雀は草壁の気持ちに興味はなく、つぶやきながら眠るのであった。

 




兄はどこかで主人公をしてそうな雰囲気です
しかし、残念。主人公は妹w
なので兄視点で書くことは多分ありません。三人称では書きますが。

雲雀さん……w
しっぽをふるの効果を観察してただけなのに……w

次からまた主人公視点に戻ります

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