クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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時期はサクラが中2です。
2015年のお年玉企画っぽい。


正月

 気を抜けば笑い声をあげそうなので必死に我慢しながら歩く。流石にいきなり街中で笑い出すのは怪しすぎるからな。

 

 なぜ私がこんなにも機嫌がいいのかというと、正月だからだ。いや、正しく言うとお年玉を貰ったからである。

 

 素晴らしい。正月はなんて素晴らしい日なのだ!

 

 ……まぁ並盛に引越ししてきたため、例年より少ないのだが。

 

 私は気を取り直し、お年玉の使い道を考える。本を買うべきか、ゲームを買うべきか、それともグッズを買うべきか。

 

 ああ。ニヤニヤするのを止められない。この時間が1番楽しいのである。

 

「サクラ、ご機嫌だね!」

「ん」

「驚かない!?」

 

 急に兄が現れたが、特に何も思わず返事をすれば兄の方が驚いていた。

 

「ついに僕がいつでもスタンバってると気付いたんだね!」

「それは知らなかった」

「ガーン」

 

 その言葉を口に出す人物をはじめて見た。そしてまさかその人物が実の兄とも思いもしなかった。

 

 ちなみに驚かなかった理由は、兄がツナ達と渡り合えるほど強いと知ったし、暇そうだったのでどうせ追いかけてくるだろうと思っていたからだ。

 

「それで何を買うか決めたのかい?」

「まだ」

「ならば、僕に任せたまえ!」

 

 ドンッと胸を叩き、兄はむせていた。何をやっている。

 

「あんたバカぁ?」

「くっ。そのツッコミは予想外だった!」

 

 くだらないことをしながら私達は歩き出したのだった。

 

 

 

 

 兄が最初に連れて行った場所は神社だった。

 

「まずは、初詣だよ!」

「それもそうだな」

 

 お年玉のことで頭がいっぱいですっかり忘れていた。そして何より兄と一緒に行けば楽になる。このタイミングで行くべきだ。

 

 私の予想通り、兄を避けるかのように人が道を譲る。……別に彼らは兄を嫌いで避けているわけじゃないぞ。興味津々のように見ているからな。声をかけるきっかけさえあれば、すぐに寄ってくるだろう。

 

 なぜか心の中で兄のフォローをしながら、石段を歩き出した。その後手を洗い兄にハンカチを借りて拭き、本殿へ向かった。

 

 混雑のため、鈴は鳴らせないようになっているようだ。残念である。

 

 兄が賽銭をくれたので、それを投げる。後は兄の真似をする。

 

「サクラが幸せでありますように」

 

 心の中で念じろというツッコミを我慢し、私も願う。今年はいろいろ迷ったが毎年恒例の『健康』にした。

 

「さぁ、サクラ! おみくじをしよう!」

 

 兄と一緒に向かうと、驚いた。

 

「大きいな」

「そうだね。これは混ぜるのに一苦労しそうだよ」

 

 おみくじの筒を見ながら兄と話す。普通のもあるのだが、私達の目が釘付けになったのは1mほどある物だった。

 

「サクラ、やってみるかい?」

 

 兄の言葉に頷く。どうやら顔に出ていたようだ。私1人では持てないので兄と一緒に持ち上げて振る。

 

「お、おもい……」

「もう少しだよ! サクラ!」

 

 手をプルプルしながら何とか棒を出した。が、ちょうど数字が見えない。角度が悪かったようだ。

 

「7番だよ」

 

 誰だが知らないが見てくれた。筒を置き、一汗を拭って声をかけてくれた人物に礼を言う。

 

「ありがとうっ!?」

 

 顔を見て声が裏返った。

 

「やぁやぁ、雲雀君。あけましておめでとう。今年もよろしく頼むよ」

 

 なぜ兄は馴れ馴れしく声をかけれるのだ。不思議である。

 

「……騒がしいと思って来てみれば、また君か」

 

 どうやら雲雀恭弥は初詣の風紀を守っていたようだ。そしてまたということなので、兄は何度か彼の前でやらかしているらしい。

 

「サクラが可愛いからね。しょうがないよ」

 

 ダメだ。雲雀恭弥の嫌味も兄には通じていない。

 

「……さっさと行きなよ」

「いいのか?」

 

 しまった。思わず確認してしまった。だが、彼ならこの状況を作った私達を咬み殺すと思ったのだ。

 

「僕は忙しいんだ。かまってる暇はない」

 

 なんと、忙しいときは兄を適当にあしらえばいいと彼は知っていた。

 

「苦労してるんだな……」

 

 睨まれてしまった。

 

 

 

 

 

 兄のおごりで買い食いをして初詣を満喫した後、私たちは本題に入った。

 

「僕のオススメはこの店だよ」

 

 よくわからなくて首をひねる。なぜ兄はこの店を選んだのだろうか。私には縁のない店だと思うのだが。

 

「サクラ、よく考えてみたまえ。来月はイベントがあるじゃないか」

 

 来月というと2月だ。2月といえば、私の嫌いなバレンタインデーがある。目の前に製菓道具・材料店があることを考えると間違いないだろう。

 

「今年は渡したい相手がいるんじゃないのかい?」

 

 ぐっ、と言葉に詰まる。

 

「道具は僕のを使えばいいけど、材料はサクラが用意したいだろ? お金に余裕があるうちに買っておくべきだよ」

「……私でも出来るのか?」

 

 下手な物を渡すなら、買ったほうがいい気がする。それにディーノは舌がいいだろう。

 

「僕がついてるよ」

「……お願いします」

 

 兄に甘えて、私は一歩足を踏み出したのだった。

 

 

 

 

 

 お金が余ったが、今日の買い物はもう終了である。慣れないことをしたので疲れたのだ。

 

「あれ? サクラ?」

 

 名を呼ばれたので振り向くとツナだった。とりあえず新年の挨拶をする。

 

「あけましておめでとう」

「あけましておめでとう! 今年もよろしくね!」

 

 思わず目をパチパチしてしまった。

 

「どうしたの?」

「……何でもない。今年もよろしく」

「うん。よろしく!」

 

 普通に返事がかえってきた。彼にとっては普通のことだったらしい。兄は私の頭を優しく撫でているので、私の気持ちに気付いているようだ。

 

 今年もよろしくという言葉に驚き、喜んだことに。

 

「桂さん、どこか調子が悪いんですか?」

 

 ツナは兄との挨拶を終えるとすぐ、不思議そうに質問していた。

 

「僕は元気だよ!」

「あれ? じゃぁどうして?」

 

 ツナの視線は私が持っている荷物に向けられていた。彼の中では、私は兄に荷物を押し付けるイメージなのだろう。失礼である。

 

「サクラはね、大事な物は自分で持つんだよ。とってーーーーも可愛いだろ?」

「は、はい」

 

 新年早々、気を遣わせるな。

 

「……そうだ。後で家に行ってもいいか?」

「うん。大丈夫だよ。今から帰るところだし」

 

 許可をもらえたのでランボ達のお年玉を渡しに行こう。お年玉と言っても中身は飴だが。

 

 また後でといい、ツナと別れて歩き出すと兄がまた頭を撫でた。

 

「早く荷物を置きに行こうか」

 

 後で、と言った理由に気付いていたようだ。

 

「……お兄ちゃんには敵わないな」

 

 ボソッと呟くと、兄は嬉しそうに言った。

 

「僕はサクラに敵わないよ」

 

 互いに笑みをこぼす。

 

 距離が近づいたので私たちは去年より良い1年を過ごせるだろう。そう自然に思えた。


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