クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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サクラは中2です。
2015年のクリスマス記念で書いたっぽい


本編&おまけ終了後の小話
クリスマス


 クリスマス。

 

 私には縁のない1日である。いつも通りに目覚めて起き上がり、ドアを開ける。

 

「メリークリスマース!」

 

 閉めた。

 

 幻覚を見たのかもしれないと思いながら、目頭を押さえる。しかし残念ながら、兄の悲痛の叫びが聞こえてくるので、現実のようだ。……まぁ私には『真実の目』という能力があるらしいので幻覚を見るわけがないとわかっていたが。

 

 軽く溜息を吐いてドアを開ける。

 

「サクラ!!」

 

 ネガティブホロウ状態の兄が、顔をあげた。

 

「……似合ってる」

 

 本当に。

 

「そうだろう! 僕に似合わないものなんてないのさ!」

 

 その姿勢のままで威張るのはわざとなのだろうか。トナカイの着ぐるみをかぶってる兄を見て、本気で考えそうになった。

 

「さぁ! 乗りたまえ!」

 

 スタンバってる兄の横を素通りして私はリビングに向かう。

 

 残念ながらトナカイ姿をした兄は復活が早かった。ネガティブホロウ状態のまま着いてきたのだ。ちなみに私はそれをスルーした。今回は服装のおかげなのか、Gには見えなかったからな。

 

 

 

 ご飯を食べ終わったので、二階にあがろうとすれば兄が声をかけてきた。トナカイの姿のままで。

 

「サクラのサンタ服も用意しているからね!」

 

 ピタリと足を止める。私はマンガ・アニメが大好きだが、コスプレの趣味はもっていない。楽しそうだと思うが、自身がするかは別問題である。

 

「そうなの!? 楽しみだわ!」

 

 ギギギと首を後ろに向けると、お母さんが嬉しそうにしている。これはまずい。ノリが良すぎる2人が手を組むと危険なのだ。助けを求めてお父さんの方をチラっと見ると、手招きしていた。助けてくれそうなので、慌てて向かう。

 

「サクラ、出かけてきなさい。桂もお母さんも外に出ると聞けば、無茶なことは言わないよ」

「おお!」

 

 流石お父さんである。そんな方法があるとは気付かなかった。

 

「サンタ服はスカートだからね。サクラが風邪をひくと2人は判断するよ」

「……知っていたんだ」

 

 ニッコリ微笑むお父さんを見て、それ以上何も言えなくなった。下手につつくのは危険と判断したのだ。

 

 

 

 

 お父さんの助言どおり、問題なく外に出ることが出来た。

 

 が、今日はクリスマスである。辛い。

 

 言っておくが、私以外がリア充爆発しろという光景だからではない。もちろんカップルの数は多い。しかし子ども連れで歩く家族もかなり居るのだ。他にも同性同士で歩く姿もよく見る。1人で居る人もいるのだが、私と違ってヒマそうではない。待ち合わせ前なのか、仕事に行こうとしているのだろう。

 

 結果。クリスマスというのは、恋人がいないことが辛いのではなく、ぼっちに辛い日だった。

 

「………ああ、そうか」

 

 ポンッと思い出したように手を叩く。今年はいつもと違うことを思い出した。

 

 私はぼっちを卒業していたのだ!

 

 ゴソゴソとケイタイを取り出し、画面を見る。

 

 真っ先に浮かんだのはディーノ。だが、彼は日本に居ないだろう。恐らく彼はイタリアでファミリーと一緒にクリスマスを過ごしているはずだ。現実的に今から遊んでもらうのは不可能だ。

 

 それにディーノはマフィアのボスだ。もしかするとパーティに行ってるかもしれない。そして女性に狙われているだろう。

 

 ……住む世界が違いすぎて、自身の力ではどうすることも出来ない。辛い。

 

 頭を振り、ディーノのことは一旦忘れる。好きになった時点でわかっていたことなのだ。考えすぎることではない。

 

 何より、ディーノ以外にも連絡出来る人が私にはいる。

 

 再び画面を見る。そして、固まった。

 

「……連絡していいのか?」

 

 ぼっち歴の長い私は、このような日に人に連絡した経験がない。手が止まってしまったのだ。

 

 そもそも誘ってもらえなかったことを考えると、彼らは家族と過ごしている可能性が高い。果たして私に家族の団欒に入っていく勇気があるのか。

 

 答えは否。

 

 おかしい。ぼっちではなくなったはずなのに、ぼっちだ。

 

「そうだ、彼が居る」

 

 今まで連絡したことがあったのか怪しいが、ケイタイには彼のデータもある。女子に甘い彼なら文句を言いながらも付き合ってくれるだろう。

 

 なので、電話してみた。

 

「………………出ない」

 

 コンビニでバイトしてるかもしれない。非常に残念である。獄寺隼人ならツナの家にお邪魔している可能性もあったので、密かに期待していたのだが。便乗計画も崩れてしまった。

 

 大人しく家に帰るべきなのだろうか。しかし、コスプレは嫌だ。

 

 数秒悩んで、私はマンガ喫茶に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 公園なう。

 

 マンガ喫茶はどうしただと?

 

 ぼっちは考えることが一緒なようだ。満室である。

 

 しょうがないので、時間を潰すためにコンビニで肉まんとホットティーを買って公園に来ていた。1人で喫茶店に入るのはむなしかったのだ。今の状況もかなりむなしいだろうが。

 

 ベンチに座って、はふはふと肉まんを食べながら思った。

 

 ぼっちは卒業することが出来たが、新たな悩みが出来た。それもぼっちの時より悩みが増えたと思う。

 

 だからといって、ぼっちに戻るという考えはもうない。私はいろいろ知ってしまった。悩みが増えたが、それ以上に楽しい思い出が出来たのだから。

 

 ギシッ。

 

 誰かが隣に座ったようだ。肉まんをくわえながら、間を空けるためにほんの少し横に移動する。食べ終わったら早くどこかに行こう。人見知りタイプの私にはこの距離も気まずいのだ。

 

 ……隣から視線を感じる。

 

 殺気にあたる機会が増えたからなのか、そういうことが最近わかってきたのだ。なので、見られるのは間違いないのだろう。まだ食べ終わってはいないが、早く逃げたほうがいい。隣の人物が気になるが、この場合は顔を見ないほうが安全だろう。

 

 スッと立ち上がると、腕を掴まれた。どうやら判断を間違えたようだ。すました態度が気に食わなかったらしい。

 

 腕を掴まれた私だったが、余裕がある。もしもの時はエリザベスが出てきて助けてくれるのだ。なので、相手を睨んだ。

 

「よっ!」

 

 しばし沈黙。

 

「おーい?」

 

 私が無反応だったので、私の目の前で彼は手を振っていた。なので、返事をした。

 

「肉まん」

 

 腕が掴まれた拍子に落ちた物とディーノの顔を交互に見ながら私は圧力をかけたのだった。

 

 

 

 場所はかわって、ファミレス。私の目の前にはパフェがある。もちろんディーノの奢りだ。

 

 ちなみにディーノはもっといいものを奢ろうとしていたが、私が断った。高すぎるものを奢られるのは気を遣うし、妙に恥ずかしくなりそうと思ったのだ。そしてその判断は間違っていなかった。以前ディーノとファミレスに来た時と違って、意識している。それでも食べる手は止めないのだが。いや、正しく言うと気を紛らわせるために食べているのかもしれない。

 

「で、何の用で日本にきたんだ?」

 

 モグモグと食べながら声をかけたので、ディーノに注意された。当然、私はそれをスルーする。

 

「……ったく。今年は部下達が日本で過ごしたいっていうから、こっちに来たんだ」

「そう」

 

 手と口を動かし続けながら思った。私に会いに来たわけではないようだ。まぁついでに様子を見に来てくれるだけでも嬉しいが。

 

「ほっといていいのか?」

「一緒に観光するつもりだったんだが、ロマーリオが気になるなら行けばいいじゃねーかって言ってよ」

 

 チラっとディーノの顔を盗み見る。彼はどういう意味で気になっているのだろうか。

 

「まさか1人で公園に居るとは思わなかったぜ……。てっきり桂と過ごしてると思っていたから、お前ん家に行って驚いたぜ。ツナ達に聞けばオレと同じことを思ったようで、誰もお前の居場所がわからねぇし……」

「で、肉まんを食べてる私を発見した?」

「そういうことだ」

 

 この寒い中、探してくれていたのか。口元が緩みそうなのを必死に耐える。申し訳ない気持ちより、嬉しいという感情の方が強かったのだ。

 

「こういうときは連絡しろよな」

 

 なぜか説教モードに入りそうになったので教える。

 

「獄寺隼人には連絡したぞ」

「……そ、そうか」

 

 ディーノが納得したようなので、上手く説教は回避できたようだ。

 

『……………』

 

 しかし、なぜか沈黙がこの場を支配する。

 

 モグモグと食べながら、なんとか話題を出そうと考えるが出てこない。結局、先に口を開いたのはディーノだった。

 

「……いいのか?」

「なにが」

「その、獄寺と遊びたかったんじゃねーのか?」

「特に。彼がぼっちの可能性が高かったから連絡しただけ」

 

 自身でも失礼なことを言ってる自覚がある。でもまぁディーノなら聞き流してくれると思ったから言ったのだが。

 

「そもそも君が日本に来ていると知っていれば、1番最初に連絡したぞ」

 

 彼は嫌な顔をしない。断言できる。

 

 ツナもしないだろうが、友達だからこそ家族の団欒を邪魔したくはない。どうしても遊びたければ明日遊ぼうと言えばいい。何もクリスマスに言わなくてもいいだろうと思うのだ。

 

 やはりツナとディーノではどこか違う。

 

 友達じゃないのもあるだろう。大人というのもあるだろう。だが、今日という日に会えて嬉しいと思うのは彼だけだ。真っ先に彼が頭に浮かんだのはそれが理由だ。

 

「だから……会いにきてくれて、ありがとう」

 

 恥ずかしくなったので、パフェに集中する。本当に素直になるというのは難しい。

 

 私の言葉に驚いたのか、ディーノから返事はなかったようだ。だが、先程と違って沈黙は辛くなかった。

 

 

 

 ディーノは家まで送ってくれるらしい。

 

 だからお腹が苦しいといい、ゆっくり歩く。少しでも一緒に過ごせる時間を増やせるように。

 

 いつまでたってもハンカチを返さないのも、彼と会える口実が出来るから。

 

 白い息を吐いてるのに文句を言わない彼が、このことを知ればどう反応するだろうか。……多分、困った顔をする。

 

 ……笑ってほしいのに。

 

「そんなに苦しいのか?」

 

 心配そうなディーノの顔が見えて、我に返った。

 

「大丈夫」

「無理するなよ?」

 

 コクリと頷いてると、いつの間にか手が握られていた。相変わらずの心配性である。手を振りほどく気は一切ないが。

 

 手袋をするんじゃなかったと思いながら考える。ロマーリオに連絡するタイミングがなくなった。利き手はディーノが握っている。もう片方の手でも操作は出来るが、手袋を脱がなければならない。

 

 離すという選択肢がなかったため、ついに家が見えてきてしまった。

 

「ん? あれは……ロマーリオ!」

 

 ディーノの声で目を凝らせば、私の家の前にロマーリオが居た。軽く手をあげてるところを見ると、トラブルがあったわけではないようだ。

 

「迎えに来たぜ」

「ったく、いつまでたっても子ども扱いかよ」

「それは違うぜ、ボス。大人だから心配なんだ」

「ん? どういう意味だ?」

 

 2人の会話を聞きながら、私も首をひねった。ロマーリオの言葉の意味が私もよくわからなかったのだ。彼はドジすると思って迎えに来たと思っていたのだが。

 

 ディーノの疑問を無視し、ロマーリオは私の方を見た。

 

「ボスが怖いと思ったら、オレに連絡してくれよ。ボスの暴走を止めるのはオレの仕事だ」

 

 再び首をひねる。ディーノが何か叫んでるが無視だ。

 

「ボス、そろそろ帰るぜ! 時間を作ってまた日本に来るぜ」

「お、おい!? 悪い。もうすぐ飛行機の時間なんだ。また来るからな!」

「ん、わかった」

 

 2人を見送りながら、ロマーリオの言葉の意味を考える。

 

 応援してくれてるのだろうか。ロマーリオはあの見送りの時に私の気持ちに気付いてるはずだからな。もしかすると日本に来たのは偶然じゃないのかもしれない。

 

 だが、私のためにロマーリオが動くだろうか。それに軽はずみで行動することではない。ディーノはマフィアのボスだ。

 

 ……まさか、な。

 

 

 

 家に入ると普段着の兄が玄関まで出迎えてくれた。

 

「お兄ちゃん、今日は夜中までゲームしよ」

「しょうがないね。一緒に怒られようか」

 

 兄はお父さんに怒られるまで付き合ってくるようだ。本当にそれは助かる。今日はほんの少しだが期待してしまって眠れそうにないのだ。

 


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