呼ばれている声がして、目を開ける。一番最初に見えた顔がディーノだったので、つい手が出た。
「なんで殴るんだよ……」
「兄だと思って」
「そういうことか」
納得したらしく許してもらえた。兄の変態と知れ渡っているからこそ出来る言い訳である。……本当は照れ隠しだったが。
「それでなんだ?」
眠っていた私をディーノが意味もなく起こさないので急かす。……敵というわけじゃないが、安全と保証出来ない場所で、のんきに眠ってしまった私が一番悪いけど。
「あれをどう思う?」
ディーノが指をさした方へ向くと、第8の炎があった。起こしたのはこれが現れたからだろう。炎を出したのは復讐者だと思うが、説明ぐらいしてほしい。
「多分、くぐっても大丈夫」
「なら行くか」
あっさりと決めたディーノに文句を言いそうになったが、私が言ったから信じるという言葉を思い出して我慢した。
「今、何時?」
「日付が変わって30分ぐらいだな」
思わず眉間にシワを寄せた。
「どうした?」
「3日目は日付が変わってすぐだったから」
「決着がついたってことか?」
それは私にもわからないので首を振る。でも復讐者の闇討ちは多分なくなっていると思う。ツナの様子からしてあの後にリボーンは説明したはずだ。彼らと離れて行動するとは思えない。
「まっ行ってみるしかねーか」
「ん」
ディーノは当たり前のように私を抱きかかえたまま移動し始めた。……楽だから別にいいかと思い始めている自身が一番ヤバい気がする。
ディーノにしがみつきながら、第8の炎の中へとくぐる。恐る恐る顔があげると兄が見えた。
「お兄ちゃん!」
すぐに手を伸ばせば、兄に抱っこされていた。……いつ移動したのか、わからなかったぞ。
「サクラにやましいことはしていないだろうね!」
「してねぇよ!」
「なんてもったいないことを! サクラとずっと密着出来る折角の機会を利用しないなんて、僕は同じ男として君が心配だよ!」
「オレにどうしろって言うんだ……」
「大丈夫じゃないのか? ぎゅーとはされたぞ」
「か、桂落ち着けって。それはそう言う意味じゃ……」
兄とディーノに爆弾だけ放り投げ、私は周りを見渡す。私を抱っこした状態じゃ兄も手荒なことはしないだろうし。
「……すごい」
思わず漏れた言葉。復讐者とチェッカーフェイスはもちろんのこと、XANXASや骸達も居る。……パッと見だが、今回代理戦争に参加したメンバー全員が揃っている気がする。クロームも元気そうだ。隣には笹川京子達がいる。他にもこんな時間なのにランボやイーピンも居る。……ビアンキはまだわかるが、Dr.シャマルまでいるぞ。
これだけのメンバーを集められる人は1人しか居ない。私が探す前に彼は駆け寄ってきた。
「サクラ! 大丈夫!? 痛いところはない!?」
「……いや、ほとんどディーノの血だから」
「そうなの!?」
慌ててディーノにも大丈夫か確認しているツナをぼーっと見ていた。すると、兄の肩にリボーンがのった。
「なに驚いてんだ。ツナなら出来るから任せたんだろ」
「確かにそうだが……」
予想以上としか言えない。さっさとしろとXANXASに睨まれ、焦ってる姿はいつもと変わらない。でも彼が本気で動かなければ集まらなかったメンバーだ。
兄の服を引っ張り、少し離れた位置から見たいと訴える。全体が見える位置でみんなを見たいと思ったから。
「僕も手伝ってくるよ」
兄は私の頭を撫でた後、彼らの輪に混じった。バッテリー匣なのでこの位置からでも参加出来るが、私が全部見たいと思ってるからだと思う。兄が向かった場所は白蘭と笹川了平の間だった。笹川了平とは拳同士で合わせた後、白蘭と何か話していた。2人とも笑っているから涙が出てきた。
「サクラちゃん、一緒に見よう?」
「ハルも一緒に見ます!」
三浦ハルの決定済みの言葉に泣いているのにも関わらず笑った。でも多分それぐらい強引じゃなければ、私は素直に彼女らと見ようとは思わなかっただろう。
夜中なのに、大量の死ぬ気の炎で彼らの顔がしっかりと見える。みんなの顔は失敗するなんて誰も思っていない。だから止まりそうだった涙がまた溢れ出た。
全てが終わるまで時間は然程かからなかった。チェッカーフェイスから無事に終わったという言葉が聞こえたと同時に私は走り出していた。
「ま、待ってくれ!!!!」
終わったならさっさと帰ろうとした者も、私の声に一瞬だけこっちを見た。でもそこに居るのは私だ。すぐに興味をなくなる者もいるとわかっていたので、必死に口を開いた。
「ありがとう!!」
しっかりと頭をさげた。私の感謝の言葉なんて、時間の無駄だと思う者もいるとわかっている。それでも言わないという選択はなかった。
どれぐらい頭をさげたかはわからない。多分そこまで長い時間はなかったと思う。でも私が顔を上げた時には兄とディーノだけでなく、ツナ達やアルコバレーノ達もが私の周りに集まっていた。
何か言わないといけないと思うが、口を開いてもひっくひっくと喉が鳴るだけだ。もしかすると兄が死んだ時と同じぐらい泣いているかもしれない。多分こんなにも私が泣くと想像していなかったと思う。だから泣き止まないといけないと思ったが、うまくいかない。
「サクラ、オレ達はもう大丈夫だぞ」
リボーンの言葉にさらに涙が出た。でも頑張って声をだす。
「よか、っだ!! よが、っだ!!」
もっとマシな言葉はかけれないのかと自分でも思ったし、赤ん坊のままがほとんどで良かったと声をかけられても微妙だろう。でもそれしか言えなかった。
「ずっとオレ達のことを気にしながら、ツナ達と一緒に居ただろ? 遅くなっちまって、悪かったな」
そんなことはないと必死に首を振る。私はいつも自身のことしか考えていない。普段丸投げの私が行動しようと思ったのも、これからも堂々とツナ達と一緒に居たかったという自分勝手な理由だ。そもそも遅くなったとリボーンが謝ることではない。
「サクラはもっと誇っていいんだぞ。ロクな死に方を期待してなかったオレが、生きたいと思ったのはサクラと出会ったからだ。最近の話じゃねぇぞ、随分前からだ」
ずっと胸の奥にしまい込んでいれば良かったのに。リボーンの発言にツナ達がギョッとしているぞ。ただ、その反応がちょっと笑えて、少し落ち着いた。
「みんなも、ありがど。とぐに、ツナ、無茶、言っだ。ごめん」
リボーン達からは強くするためにほとんど教えられなかったし、私も話せないくせに最後は全部彼に丸投げした。兄やディーノは大人だし、慣れてきて諦めもついているが、ツナはそうじゃなかったと思う。
「謝る必要はないってば。そりゃ最初はちょっとムカついたけど、それはサクラが無茶しようとしたことに気付かなかった自分にだし……。サクラがオレ達を信じて待っているって思うと、嬉しかったんだ」
「……だって、ツナだもん。ツナは、ダメツナなんかじゃない。みんな、私にも、声をかけてくれた、優しい、人達。信じ、ないのが、おがじい」
また涙がボロボロ出てきた。ツナがオロオロしているのが歪んだ視界の中でも見えた。
「10代目」
「ツナ」
「え? えっ?」
獄寺隼人と山本武に押され、戸惑っているツナがいる。不思議に思いながら見ていると、ツナと目があった気がした。その次の瞬間、包み込まれた。
「こ、これでいいのかな……」
慣れない手つきでツナは私の頭を撫でたり、背をさすってくれた。
号泣した私は落ち着くよりも先に疲れ果てて眠ってしまったようだ。……自身のベッドの中で頭を抱える。
「サクラ、そろそろ起きないと遅刻するよ!」
「……今日は休む」
「沢田君が迎えに来ると言っていたよ?」
「ごめんと彼に伝えて」
布団に隠れるように包まる。昨日の失態を考えると恥ずかしくて死にそうなのだ。
「朝からすまないね! 今日はサクラが休みたいと言うんだ」
ツナに電話してくれたようだ。二度寝するか。
「サクラ、彼がかわってくれって言ってるよ」
仕方なく、布団から手を出す。兄が手に置いてくれたので、電話だがちゃんと謝ることにした。
「悪い、今日は休む」
「そう」
「……ひ、雲雀恭弥!?」
思わず布団の外へとケイタイを放り投げ、耳をおさえる。心臓が飛び出るほど驚いた。今も心臓がドキドキしているぞ!?
「……ないとは思うけど、ズル休みをしようと考えていないよね?」
チラッと布団から顔を出す。兄は偉そうにケイタイを持ってたっていた。彼の声が聞こえるのはスピーカーにしたからか。
「まぁでも……その時は咬み殺してあげるよ」
ガバリと起き上がる。ジャスチャーで元気だと必死に兄にアピールした。
「どうやら僕の勘違いだったみたいだね! サクラは学校に行くのを楽しみにしているよ!」
「……まぁいい。これからは朝から迷惑かけないでね」
必死に頷けば、兄は雲雀恭弥に偉そうだが謝って電話を切った。ドッと朝から変な汗が出たぞ。その原因を作った兄を睨む。
「休むなら雲雀君に連絡するように言われているのだろう?」
確かにそうだが、今の流れならツナだろ!?
「しばらくお兄ちゃんと遊んであげない」
兄がショックを受けているが放置だ。私は結局ツナが来るまで、無視した。
「おはよう、サクラ!」
「おせーぞ」
「ははっ。獄寺はオレ達より来るのが早かったもんな」
「黙ってろ! 野球バカ!」
いつもの彼らだったので、ホッと息を吐いて一歩踏み出す。
「おはよ。今日は雲雀恭弥の機嫌が悪いと思うぞ」
「えぇ!? なんで!?」
「ヒバリと会ったのか?」
「んーん。でも電話で兄が朝から絡んでいた」
「チッ、めんどくせーことしやがって!」
くだらない話をしながらツナ達と歩いていたが、ふと足を止める。
「サクラ?」
「忘れもんか?」
「いや……」
「ねーなら、さっさと来やがれ。置いて行くぞ」
「……ん」
小走りし彼らに追いつく。そして、チラッと振り返って「お兄ちゃん、ありがと」と口パクする。
「やっぱり忘れ物あるの?」
「誰か居る気がしただけ」
ツナ達が確認するが、私達の後ろには誰も居ないので再び学校へと歩き出す。
いったい、どれだけの人が私達が一緒に登校しているか確認しに来ているんだろうな。なぜかちょっと面白くて、笑った。
あとがき。
ディーノさんとの甘〜い話に隠しましたが、普段動かないサクラが自分の命をかけてまで頑張ったのは、ツナ君達とずっと友達で居たいからでした。
よくディーノさんに説得されられて話していますが、サクラが最初の予定から覆してまで話すのは、基本自分と桂さんとツナ君のためなんですよね。
つまり実はサクラの中では、ツナ君>ディーノさん、なのです。本人は気付いてませんが。
さっさと付き合えよと作者も思うんですけど、これが変わらない限り進まない。
まぁツナ君の後には桂さんという大きな壁がありますがww
先は長い。
長々と書きましたが、おまけ話で一番思ったのは、作者の力量がなく、ツナ君達の頑張りが書けなかったのが心残りですね。……精進します。
では、ぐだぐだなおまけ話でしたが、お付き合いありがとうございました。