クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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それぞれの思惑

 着替え終わって出掛けるのはいいが、ヒバードはどうしようか。こんなことになるなら、鳥カゴを買っておくべきだったな。雲雀恭弥が用意したものに無かったのが悔やまれる。

 

「ついてくるなよ?」

 

 コテンと首を傾げるヒバード。可愛い。……危ない。可愛さに本来の目的を忘れるところだった。おそろしい子!

 

 動くなよ、動くなよと念じながら部屋を出る。……ヒバードのスペックは普通だったようだ。ホッと息を吐く。

 

 家から出る前に、キョロキョロと周りを見渡す。誰も居ないことを確認して、一歩踏み出せば頭に何かが乗った。それも上機嫌なようで校歌を歌っている。

 

「……そうだよな。雲雀恭弥が飼っている鳥だよな。普通のスペックじゃないよな」

 

 遠い目をしながら堂々と歩き出す。いろいろと私は諦めた。

 

 

 

 

 無事にシモンファミリーが今住んでいる民宿についた。知識では料理をしていたし、シモンはこの民宿ごと借りているのだろうか。謎である。

 

 まぁ今は関係ないのでチャイムを鳴らそう。私がボタンを押そうとしたところで、時計のアラーム音が聞こえてきた。まだ時間はあったはずだぞ!?

 

 ……舞台を整えたつもりか、チェッカーフェイス!

 

 彼は復讐者が飛び入り参加する可能性が極めて高いと思っていた。そして私の話を聞いていれば、狙うならシモンファミリーしかない。だから飛び入り参加者が出てくると気付いているチェッカーフェイスと当事者の復讐者は、シモンと私の接触を警戒していたはずだ。

 

 そして復讐者はシモンを狙うなら、他の参加者がバトルに夢中になっているタイミングで狙うのがベスト。

 

 しかし復讐者が動きやすいようにアラームが鳴るのは、明らかに挑発行為だ。

 

 苛立ちながらも入り口へと手を伸ばす。チャイムを鳴らしている時間がもったいない。ガラッと扉をあけると、武器を構えた状態のシモンファミリーが勢揃いしていた。私の存在に気付いていたのだろう。

 

「サクラ、さん……?」

「ごめん。君達を囮に使った」

「それは……」

 

 古里炎真の言葉の途中でざわりと不快な空気が肌を撫でた。これが第8の炎なのか。……復讐者がやってくる。

 

『バトル開始。今回の制限時間は10分です』

 

 腹が立ったのは事実だ。だが、この展開を予想していなかったわけではない。

 

「お兄ちゃん!!」

 

 私の叫びと共に兄は古里炎真を狙っていた復讐者の鎖を掴んだ。私が見えたのはそこまでだった。それだけ兄が速すぎて音しか聞こえない。シモンも状況を把握したのか動き出したようだ。だが、シモンファミリーは殺される可能性がある。私はすぐに口を開いた。

 

「シモンファミリーは私の案に協力してくれている! 時計がいるなら、渡してもいい! でも私は言ったはずだ! 誰とも敵対する気はない! ……君達は復讐を達成したいんだろ!!」

 

 ゾワっと悪寒が走った。メローネ基地の時とは比べものにならない。しかし、私は逃げなかった。説明するには彼等のアジトに連れて行かれるしかない。

 

「サクラさん!?」

 

 古里炎真の焦る声に反射的に目をつぶる。吸い込まれるように足が浮いた。

 

「させるかよ!」

「うぐっ」

「すまん、痛かったよな」

 

 ……確かにお腹にムチが食い込んでちょっと痛かった。だが、そんなことより声を聞いたことで緊張の糸が切れてしまった。ポロっと涙が一粒落ちる。

 

「復讐者! アルコバレーノウオッチ、ボスウオッチ、バトラーウオッチ、全て揃ってる! これが欲しかったんだろ!?」

 

 ディーノがアタッシュケースを開ける。確かに中身がある。

 

「えっ、誰の?」

「フォンのだ。昨日、恭弥を説得するのは大変だったんだぜ?」

「は? え? というか、なんでこれがいるってわかったんだ? そもそもなんでディーノがいるんだ?」

「質問は全部後で聞くから、落ち着け。な?」

 

 ポンポンと頭を撫でられ、仕方なく口を閉ざす。確かにかなりパニックだったようだ。戦闘が止んでいたことに今気づいた。

 

「桂、いいだろ?」

「……そうだね。君の方が一枚上手だったみたいだしね」

「それは違うぜ。お前はシモンファミリーを守っていたから動けなかったからな」

「サクラの心を守るのは僕の役目だからね!」

 

 なぜディーノは兄がシモンについていると知っていたんだ。バッテリー匣だけでなく、私達は未来で使った手袋を元に、兄の気配を隠す装置も開発していたんだぞ。……恐らくないと思うが、兄に視線を送る。案の定、首を振られた。

 

「さっき桂が言っただろ? お前のそばにいないなら、お前が後悔しないように動いているのは考えなくてもわかるぜ? シモンを囮に使った可能性が出て来た時点で予想がついた」

 

 ……何も聞かなかったのは気遣いではなく、バレバレだからだった。恥ずかしい。

 

「復讐者の協力が必要なんだろ? 今なら話せるか?」

「ここでは出来ない」

「だから桂は止めなかったのか……」

 

 そうなのだ。兄がわざと見逃したところをディーノが私を助けたのである。

 

「こいつと一緒にオレも連れて行くってのは?」

「否」

 

 返事は予想通りだった。元々、彼らは第8の炎のことを知っている私をいつか連れ去るつもりで、代理戦争の参加資格を得るまで後回しにしていただけだ。今はただ手の内を見せずに参加資格を得れる可能性があるので大人しくしているのだ。……ディーノと私の距離が近すぎるのも多少あると思うが。

 

「ユニの言葉があってもか?」

「え? ユニ?」

「……いいだろう」

 

 私の疑問は無視され話が進む。目の前に黒い炎が現れたのでくぐれということだろう。

 

 チラッとディーノに視線を送る。ユニの言葉があるなら彼は行くしかない。

 

「大丈夫だ。な?」

 

 視聴覚室の前で別れた時と同じ言葉だ。彼はその時から覚悟していたのかもしれない。だからいつもより力を込めて殴ることにした。……悔しい。相変わらず全く痛がってないし、パフッという音しか聞こえない。

 

「ディーノ、サクラのことは任せたよ!」

「ああ。炎真達も危険な役を頼んで悪かった」

「……ううん。サクラさん、僕達は聞いていたし怒ってないよ。それに本当は勝つつもりだったから……」

 

 思わず目を見開く。知識よりもシモンファミリーとディーノが良好の関係を築いていたのは知っていた。知っていたが、情報を交換し囮役を買って出るとは思いもしなかった。

 

「……ゴメン。本当にありがと」

 

 復讐者のところへは絶対に行かないといけないとわかっていた。怖かったけど、後はみんなに任せれば大丈夫だと信じて動いていた。まさか私のためにみんなが動くとは思っていなかった。

 

 私の頭上でパタパタと暴れる音がする。……そうだな。最初から1人じゃなかったか。

 

 くそっ、視界が歪む。まだ肝心なところが残っているのに。……パンっと頬を叩く。泣くのは全部終わってからだ。

 

「何も叩くことねぇだろ!?」

「必要だったんだ! いいから行くぞ!」

「待てって! 先に行くな! オレから先に入るから!」

 

 おかしい。先程と違って緊張感がゼロだ。……そして怖くない。

 

「サクラ!!」

 

 聞こえた声に驚き、入る直前に振り返る。聞き間違いじゃなかった。……なんでツナがここに居るんだ。肩で息をしているから急いで来たのだろう。それぐらいしかわからないが問題ない。私の言いたいことは1つしかないのだから。

 

「ツナ、後は頼んだ」

 

 全員でかかればヴェルデも折れるしかないだろう。私がうまく説得出来れば、人数は揃っているし、ユニははっきりと明るい未来がみえるはずだ。後は彼を中心にまとまるだけだ。……不安はない。中心はツナだから。彼に任せれば大丈夫だ。

 

 安心して私は目の前にある炎に飛び込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「サクラ!!」

 

 ツナが必死に伸ばした手は届かなかった。そして同じタイミングで復讐者も一緒に去ってしまう。

 

「どうして誰も止めなかったんだ! ……どうして!」

「サクラがそう望んだからだよ。君も賛同したじゃないか。君達が死なないように進んだ結果さ」

「そんな……」

 

 桂の言葉でツナのハイパーモードが切れる。桂が反対しないはずがないと今更ながら気付いたのだ。それほどツナは頭に血がのぼっていたことを意味する。

 

「もっとも君は情報制限されていたようだけどね」

「え……?」

「ごめん、ツナ君……。僕達も全部知っていたわけじゃないんだ。今日ここにサクラさんが来るのは知らなかったし……」

 

 ツナの必死な姿を見て、実は炎真も驚いていたのだ。そして炎真達も囮役を引き受けたが、詳しいことは何も知らなかった。話の流れで囮役が必要だったのは、サクラが復讐者と接触するためだとわかり、ディーノも一緒だから引き止めなかっただけだった。

 

「見たところ、ディーノも全てわかっていたわけじゃないと思うよ。どうかな、リボーン君」

「そうだぞ」

 

 桂へ返事をしながらもリボーンは空から綺麗な着地を見せた。

 

「お前……いつの間に」

「オレだって、おめーらのお守りをしながらいつでも動けるようにしていたんだぞ」

 

 ツナより到着は遅れたものの、ハイパー化したツナについてきていたことを考えれば嘘ではない。

 

「しかしまさか今日だったとはな……」

 

 やられたとリボーンは腕を組む。もっとも味方と思っていた人物に誘導されたのだから仕方がないとも言えるが。

 

「リボーン、説明しろよ!」

「オレ達は復讐者が乱入する可能性が高いとはわかっていたんだ。サクラが接触したがってることもな」

「なんで止めなかったんだよ、リボーン!!」

「止める気はなかったぞ。……ただ、あいつらを抵抗できねーようにしてからのつもりだった」

 

 ツナはリボーンにも予想外の事態が起きているとわかり、一瞬言葉が詰まった。その間にリボーンは炎真に家を使っていいかと確認する。この状況で断れるはずもなく、炎真は家へとあげた。

 

 席についたところでツナは再びリボーンに詰め寄った。が、獄寺達も向かっていると聞き、ぐっと拳を握りながらもツナは待つことを選んだ。

 

 数分後、獄寺達だけではなく、ユニとγ、さらに家光とコロネロとラルも合流した。

 

「ユニ、説明してくれるな?」

 

 はい以外は許さないというリボーンの圧力がこもった言葉だった。ユニを守ろうとしたγを首を振って制し、ユニは口を開いた。

 

「……リボーンおじさま達があの場に居れば、誰かが亡くなりました。私にはサクラさんだけが連れていかれないようにするしか出来ませんでした」

「それでオレ達の足止めをユニ自らしたんだな」

「……はい」

 

 足止めは全てサクラのためだとわかったので、リボーンはこの件についてもう追求するのはやめた。その代わり別の質問をする。

 

「サクラは無事に戻ってくるんだな?」

「……おそらく。血の跡はありますが、お二人とも笑っている姿が見えたので……」

 

 果たしてそれは無事と言えるのか、と誰もが思ったが口にすることはなかった。




遅くなり、すみませんでした。
ツナ君達サイドを書こうと思っていましたが、1000文字ぐらいで、私の文才ではまとまらないと嘆き始め、活動報告に小話をあげたりして気分転換しましたが、3000文字を超えたところで完全に指が止まりました。

……ツナ君達に情報制限しすぎたせいですね、はい。
仕方なくサクラ視点でディーノさんから種明かしする方法を取りました。
それが書き上がったので、明日と明後日も更新します。

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