クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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リクエストの小話作品を話に繋がるよう若干修正し、文字数を増量しました。
これに伴い、小話から「放課後」を削除しました。


放課後

 朝はヒバードの校歌で起こされ、学校に行けば休憩時間はディーノの手伝いをし、授業中は知識と違って時間がズレないかドキドキしていると放課後になっていた。……これは精神的にかなり疲れるな。

 

 ディーノに後で行くと口パクし、教室から追い出す。気にはしてそうだが、流石にずっと待つことは出来なかったみたいで職員室に向かった。

 

 ゆっくり時間をかけて片付けをし、ツナ達にはディーノの手伝いをすると言って別行動を促す。ツナ達が帰ったのを確認してから、やっと私は笹川京子に接触できた。

 

「クロームの様子を見に行くんだろ?」

「うん。そうだよ?」

「じゃ、もう一度『しっかりしろ』と伝えて」

 

 私の言葉を聞いて、不安なのだろう。笹川京子の瞳が揺れた。

 

「彼女は気付かないフリをしているだけで、恐らく自身の中でもう答えが出ている」

 

 きっかけさえあれば、ヴェルデの作った装置が無くてもクロームは自身の力だけで内臓を補えるはずだ。

 

「だから私からの助言は『しっかりしろ』だ。それしか言えない」

 

 リボーンの助言を私から伝えるのは違うのだ。リボーンの立ち位置だからこそ、あの助言が生きてくる。だから私はこの言葉を選んだ。

 

「ありがとう! クロームちゃんに伝えるね! 絶対!」

「ん。頼んだ」

 

 笹川京子は走って帰っていった。恐らくクロームに何かあったと察して、アパートに向かったのだろう。

 

 丸投げしたのは悪い気がするが、最初の助言した時に一緒に聞いた笹川京子から伝えてもらうのが良いと思ったのだ。

 

 さて、ディーノと合流するか。

 

 

 

 

「頼む!!」

 

 廊下でクラスメイトに頭を下げられ遠い目をしたくなる。人通りがないところで本当に良かった。まぁ彼はいつも人目を避けてるので、そのことについては心配していなかったが。

 

「この前もいったけど、今は忙しいから」

「オレはいつでもいいから!!」

 

 本当にいつでもいいなら、考えてあげてもいいだろう。普段の私なら絶対に断るが、彼が本気で言ってるとわかっているため、1度ぐらいなら付き合ってもいいかと思い始めたのだ。……け、決して、しつこくてこれ以上相手にするのが面倒になったわけではないぞ。

 

「一ヵ月後でも?」

 

 ガバリという音が聞こえそうなぐらい勢いよく顔をあげ、キラキラした眼差しを向けられる。若干だが、後ずさってしまった。

 

「く、詳しく決まったら声をかけるから」

「サンキュ!!」

 

 嬉しそうに手を振りながら去っていくクラスメイトを見ながら思う。用が終われば、すぐ帰るのかと。

 

 はぁ。と軽く溜息を吐き、頭を切り替える。1つ悩みのタネがなくなったから良しとしよう。

 

 今度こそディーノと合流しようと思ったが、カギはまだ開いていなかった。少し早かったらしい。

 

「わっ!?」

 

 扉にでも持たれて待っておこうと思って振り返えれば、目の前にディーノが居た。あまりにも驚きすぎて声だけじゃなく肩もビクッとなった。

 

「……ディーノ?」

 

 いつもの彼ならすぐに謝ってくるはずなのに、ジッと廊下を見ているので気になった。何かあるのだろうか。

 

「さっきのは?」

「数日で全員の顔は覚えれないか。クラスメイトだぞ?」

 

 ディーノは私がいればドジを発動しないので、私のクラスの顔は1度で全員覚えてる可能性もあるかもしれないと考えていたが、流石にそこまで万能ではなかったらしい。

 

「いや、それは覚えているが……」

 

 そういう意味じゃなかったようだ。では、どういう意味だ。私がツナ達以外と話してることがそんなに意外なのか。まぁ自身でも意外と思ってしまったので、その線はないだろう。……なぜかむなしくなった。

 

 まさか、会話を聞いて勘違いしたのか?

 

「兄を紹介してくれって言われただけ。いつものこと」

 

 そんなわけがないだろうと思いながらも、きっちりと否定しておく。ディーノに勘違いされるのは嫌なのだ。

 

「だけど、どうしてお前が……」

 

 ディーノが途中で言葉を切ったので首をひねる。彼はまた廊下を見ていた。

 

「隠れるぜ!」

「は?」

 

 私を置いてけぼりにして、ディーノはガチャガチャと視聴覚室のカギを開けた。備品の点検をする予定だったはずだからカギを持ってるのは理解できる。だが、なぜ私をそこに押し込むのだ。

 

「うわわぁ」

 

 情けない声が出た。だが、私は悪くないはずだ。ディーノの力で押し込まれれば、どうなるかすぐに想像できたはずなのだ。

 

 現に私は今、ヘッドスライディングする勢いで倒れそうである。

 

「いっ!」

 

 床と激突する前に、腕を引っ張られる。気付けばディーノの腕の中に居てヘッドスライディングは避けられた。が、助かるためには腕に負担がかかったようだ。ちょっと痛かった。

 

「すまん」

 

 耳元で謝られビクリと肩がはねた。

 

 ……そうだった。ディーノの腕の中に居るということは、抱きしめられているということなのだ。

 

「デ、ディーノ……!」

 

 心臓が持たない。だから離してくれと意味で声をかけ、身じろぐ。

 

「シッ。動くな」

 

 ディーノはいつも通り私に言い聞かせようとしたのだろう。何か危険が迫ってると理解しているため、小さな声になるのもわかる。だが、今の状況を忘れてないでほしい。囁きボイス……!

 

 こうかは ばつぐんだ!

 

 ビシリ!と私は動けなくなった。こんなにも人間は動けなくなるものなのかと関心してしまうレベルである。そして図らずも私の弱点を狙ったディーノは、私が言うとおり動きを止めたと思ったらしく外の気配を探っていた。

 

 そのことにイラっとしたが、私は自分の意思では動けないので何も出来ない。それでもディーノが気にしてる外の音は拾うことはできた。

 

 ……誰かが歩いている。

 

 近づけば近づくほど、ディーノが抱きしめる力が強くなっている気がする。

 

 何分たっただろうか。数十秒だったかもしれない。だが、足音が遠ざかるまで時間が狂ったように長く感じた。

 

「ふぅ、もう大丈夫だぜ」

 

 いつものディーノの声に……声量に、呪縛が解けたかのように私は動き出す。正しくは力が抜けて、ずるずると座り込むように落ちていく。

 

 だが、私は床に座ることはなかった。当然だ、ディーノはまだ私を抱きしめていたのだから。

 

「おい!? 大丈夫か!?」

 

 ウソでも大丈夫とは言えなかった。だからなのか、私はディーノの腰周りの服を握ってしまった。

 

「……すまん。咄嗟に隠れた方がいいと思っちまったんだ。あいつ、代理戦争の件でピリピリしててよ。オレだけが出て上手く流せば良かったな……」

 

 どうやらあの足音は雲雀恭弥だったらしい。ディーノは外に出なくて正解だったと思う。彼は代理戦争中だからピリピリしてるわけではないからな。彼が怒ってるのはディーノに対してだけだ。なぜならディーノが雲雀恭弥の師匠という噂が生徒内で流れ始めているからである。この後、雲雀恭弥はディーノが宿泊しているホテルに乗り込むんだろうな。

 

 ……昨日のヴァリアーといい、ズレているはずなのに、知識と同じ流れになるのが凄い。予定調和なのだろうか。

 

 それにしても本当に見つからなくて良かった。あの状況で扉を開けられたら、上手く言い訳できるとは思えない。

 

 特に今はディーノは教師なのだ。彼の前で教師と生徒が抱き合ってるなんて、処刑ものである。いくら彼が私に甘くなったと言っても、許してもらえそうにないレベルの風紀の乱れだろう。

 

 …………。

 

 ボッと顔から火が出そうだ。教師と生徒が抱き合ってる。それも放課後に。いつも以上に意識してしまう。

 

「……なぁ、どうしてお前が紹介する必要があるんだ? 桂はいつでも話しかけられてもいいようにしてるんじゃないのか?」

「もう一度話したらしい。でももっと真剣に話を聞きたいんだって。将来、パティシエになりたいみたい。だから協力してもいいかと思えた」

「……そうか」

 

 上手く話せているのだろうか。私の心臓の音がディーノに聞こえないか心配だ。

 

「将来か……」

 

 ポツリと呟いたディーノの言葉で思った。私の将来に、彼と一緒に居る道はあるのだろうか。顔をあげれば、ディーノと目が合った。

 

「……見るな」

 

 すぐに耐え切れなくなって、目を逸らす。顔の熱がおさまらない。すると、ディーノが喉の奥で声を押し殺すように笑った。

 

「……君が笑えば、私の身体に響くんだが」

「悪い悪い。可愛いなと思ってよ」

 

 これが大人の余裕なのか。妙に腹が立ち、服を掴んでいた手で肉を摘む。といっても肉があまりないので皮を掴んだ気がするが。

 

「いっ!」

 

 今度は私が声を殺すように笑う。

 

「やったな……!」

「きゃっ」

 

 ディーノに身体を支えられてるのをすっかり忘れていた。仕返しに左右に揺らされた。……ちょっと楽しい。ディーノも一緒に揺れているので、楽しいのか笑っていた。

 

 だが、ふとした拍子に私達は我に返った。

 

『…………』

 

 そっと離れる。ディーノの顔を直視できない。多分、彼も似たような気持ちになってる気がする。

 

 こ、これは恥ずかしい……! 子どもに戻り過ぎた!

 

「デ、ディーノ! さっさと備品の点検をするぞ!」

「お、おう」

 

 くそっ、手伝うと約束するんじゃなかった。逃げ出したい。黙々と確認していれば、この空気に耐えられなかったのか、ディーノが話しかけてきた。

 

「ほんと助かるぜ。今日はこれをやったら終わりなんだ」

「それは良かったな」

 

 確か知識では一時間後にツナ達とホテルで待ち合わせだったはずだ。担任の仕事が増えたが、休憩時間に私が一緒に居ることで同じ時間に終わるようだ。これも予定調和なんだろうな。

 

「お前のこの後の予定は?」

「家に帰る」

 

 ……ウソではない。一度家に帰って着替えるからな。ただ騙している気分になり、会話を続けることが出来ない。

 

「なら、時間があるんだろ。進路相談するか? そろそろ決めねーとまずいんだろ?」

 

 うぐっ。ディーノが担任になったせいで、希望高校の欄が空白だったのがバレている。……将来という言葉で目があったのはそういう理由か!

 

「大丈夫。成績があがってきているのもあって、時間を貰ってるから」

 

 本当に不思議な話だが、ドタバタしているはずなのに成績は徐々にあがっているのだ。それにディーノを手伝っているから、内申点も多分あがってる。いろんな先生に名を覚えられるようになったし。……まぁそれは雲雀恭弥の影響もあるけどな。

 

「心配しなくても、この件が終わればちゃんと考える」

 

 真面目に教師をしているディーノには悪いが、まずは今日を乗り切らねばならない。話はそれからだ。……約束したし、クラスメイトの件は先に兄に伝えといておこう。

 

 パンパンと埃を落とすように手を叩く。話しながらも手を動かしていたので備品の点検は無事に終わった。

 

「じゃ私は帰るから」

 

 逃げるように去ろうとしたが、ディーノは私と違ってスペックが高い。空を切ることもなく、簡単に私の腕を掴んだ。

 

「……なんだ?」

「大丈夫だ。なっ?」

 

 安心させるようにディーノは私の頭を撫でた。廊下に出ると出来なくなるから捕まえたようだ。

 

「ん。ありがと」

「ああ。またな」

「また」

 

 今度は止められなかった。少し名残惜しく思いながらも、私は視聴覚室前でディーノと別れたのだった。


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