クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

131 / 153
隠された言葉

 私と白蘭がくだらない話を続け、ディーノが疲れ始めたころにγとユニが一緒に戻ってきた。新しいお茶を入れてきてくれたようで有り難くもらう。口の中はマシュマロで甘ったるく、この部屋の空気も甘ったるくなったからな!

 

 帰ってすぐに白蘭がγをイジっていたが、その度にユニと目で会話するので、流石の白蘭もやめた。面白くないからと言っているが、ユニが幸せだとわかったからだろう。

 

 ちなみに私とディーノはその間静かにしていた。多分ディーノは空気を読んだからだろう。白蘭の性格は掴んだみたいだし。私はただ爆発しろと言いそうなので黙っていただけである。

 

「サクラさん」

「ばく……なんだ?」

 

 危ない、危ない。γならまだしもユニに向かってツッコミするところだった。

 

「お待たせしてすみません」

「謝る必要はないぞ。煽ったのは私だし」

 

 自身に言い聞かせるように何度も頷く。……ちくしょう、爆発しろ!

 

「ありがとうございます」

 

 ユニの笑顔を見ていると、心が洗い流されていく。……如何に自身の心が狭いんだ。反省。

 

「サクラさん、ありがとうございます」

 

 ユニは笑って言った。私にはわかった。同じようで、先程とは違うこと……。恐らく、みえたのだ。そして声をかけれなかったのだ。だからユニは笑顔をつくって、この言葉を使った。

 

「ユニには無理をさせたから、サービス。γが無茶をする可能性を私は知っていたから」

「あはは。ヤケになったんだ」

 

 白蘭が煽ったがγは何も言い返せなかった。γ自身も心当たりがあったらしい。まぁ裏でコロネロと組んでいるので、そこまで家光がするとは思えないが。ここでもし白蘭が戦線離脱するのは痛手だからな。

 

「まぁそれでもユニが気にするなら、この件が方がついてからでいいから、頼みを聞いてほしいな」

 

 ちゃっかり要求してしまった。どっちにしろ、ユニに会いに来た目的の1つだからいいか。

 

「私はオススメしません」

「……オススメ、か」

「はい」

 

 はっきり返事したユニを見て、出鼻をくじかれてしまった。ユニの言い方だと恐らく私がもう一度頼めば、頷いてくれるのだろう。だが、ユニがオススメしないと助言した。

 

 ぐるぐると考え込んでいると、ガシッと頭を掴まれ無理矢理顔の向きを変えさせられた。……ちょっと痛かったので文句を言おうとしたが、顔を見た途端に押し黙るしかなかった。

 

「オレの言いたいことはわかるな?」

「……スイ」

「何をしようとして悩んでるんだ」

 

 ……今、語尾が疑問系ではなかったぞ。

 

「えーと、うん。ディーノに相談してから頼むことにするから、一度先程の話はなかったことに」

「はい。わかりました」

 

 これでいいんだよな?とチラチラとディーノに視線を送る。白蘭が面白そうにニヤニヤしていたり、γが呆れたように溜息を吐いているが無視だ。今の私はディーノの怒りを鎮める方が最優先なのだ。

 

 ディーノは仕方なさそうに笑ってから頭を撫でてくれたので、判断は間違ってなかったようだ。ホッと息を吐く。

 

「ところでさぁ、ヴェルデチームの弱点ってサクラちゃん知らない?」

 

 白蘭の一声で空気が変わる。特にγからは知ってることをすべて吐けという視線を感じる。

 

「……正直なところ、よくわからない」

「まっそうだよね。知っているなら、僕なら同盟の交渉に使っているもん」

 

 その通りだという意味で大きく頷く。

 

「そして厄介なのが、恐らく骸が一番私の力を警戒している」

「どういうことだ?」

「ツナに同盟の話を断った数日後、私にも接触し断るとわざわざ伝えにきた。私の出方を見ようとしたのだろう」

「骸クン達の新兵器をどこまで知ってるか、確認しようとしたんだ」

「そういうこと。一応、彼らの奥の手を知っているが、君達では厳しい。兄なら問題ない可能性が高いけどな」

 

 溜息が出てしまう。本当に厄介なのが敵にまわってしまった。

 

「ちなみに桂だったらどうするんだい?」

「すぐ治す」

「またなんつーか……」

 

 ディーノが思わずツッコミたくなるのは当然だろう。ただの力技である。それに奥の手と相性がいいだけであって、そもそも兄は術士との相性が良くない。術士というだけなら圧倒的に私の方が相性がいいだろう。……最初に骸と対峙した時はギリギリとしか思えなかったんだけどな。今となっては確認しようがないが、私の負担が少ないように徐々に解放されていったのかもしれない。

 

「その前に、兄は別件で動いているから代理戦争には参加出来ない」

「そこだ。アイツは何をしている。それに同盟を組んだオレ達になぜアルコバレーノの呪いの解き方を教えない」

「γ」

「ですが、姫……」

 

 今まで誰も聞こうとしなかったのは、やはり私に気をつかっていたからか。

 

「話さないのではなく、話せない。でもユニが光を見たんだ。このまま行けば整う」

「サクラちゃんは、僕達にこのまま代理戦争を続けてほしいってことでいいのかな?」

「出来ることなら」

「んーでも僕達は骸クンにまた狙われるかもしれないし。どうしよっか、ユニちゃん」

「……続けます。それしか道はないのです」

 

 決まったな。それだけユニの言葉は重い。そして確信する。2日目に復讐者と接触するのがベストってことを……。

 

「無理だけはするな。それとユニの言葉を信じていれば大丈夫だ。帰るぞ、ディーノ」

「……ああ」

 

 急だったが、ディーノは怒ってないようだ。非常に助かる。

 

 私達が車に乗り込むと、ユニ達が外に出ていた。見送ってくれるらしい。

 

「今日はありがとう。助かった」

「いえ。サクラさん、ディーノさん、お気をつけて」

「ん」

「ああ、任せろ」

 

 返事をしたディーノが車を発進させようとした時、私は口を開いた。今言わないとダメだと思ったのだ。

 

「白蘭!」

 

 ディーノはそのままアクセルを踏んだ。私も気にせず声をかける。

 

「今回来れなかっただけで、兄は君に対して怒ってるわけじゃないから! 私も君が悪夢から抜け出せて、良かったと思ってる!」

 

 白蘭からの返事はなかった。でも驚いた顔を見れたから十分である。満足した私はディーノを盗み見る。

 

「停車させれば、お前は桂のことしか言わなかっただろ? 隠れる場所はねーしな」

「……そうかも」

 

 助手席でシートベルトをした状態なのだ。言い逃げも出来ないし、素直に伝えられるとは思えない。……なんだかディーノに見透かされているようで、恥ずかしい。

 

「で、ユニに何を頼もうと思ったんだ?」

 

 私の中で甘い空気が流れていたのだが、一瞬で冷めた。プイッと横を向く。……もう少し余韻があってもいいじゃないか!

 

「あのなぁ、少なくともユニが薦めないんだ。話せないならまだしも、話せるなら1人で抱え込もうとするな。オレが嫌なら桂にちゃんと相談して決めるんだ。な?」

「別にディーノに相談するのが嫌と思ってるわけじゃないぞ!?」

 

 慌てて否定する。スネただけで相談する気はあった。私の必死さが伝わったのか、ディーノは頭を撫でてくれた。

 

「それに少し冷静になったから……。迷った時点で私は軽い気持ちだったんだと思う。覚悟もなくユニに頼む内容じゃなかった」

「そうか」

 

 未だに頭を撫で続けるのは慰めてくれているんだろうな……。

 

「……予知が出来るようになれば、助かるだろうなと思ったんだ」

 

 ディーノの手が止まった。盗み見してもディーノは当然ながら真っ直ぐ前を向いて運転しているので、何を考えているかわからない。なぜか言い訳するように、また口を開く。

 

「今までも、もっとちゃんと使えていればと何度か思ったし、上手く使えないとまた眠れないことになるかもしれないし……」

「お前が決めたことにオレは反対しない。どっちを選んでもフォローするから、じっくり考えればいい」

 

 よしよしと頭を撫でられ、私は大人しく頷いた。今まで過ごした時間が彼ならどちらを選んでも本当にフォローしてくれる証明しているから。

 

「そういえば、ディーノ」

「ん? どうした?」

 

 あからさまな話題変更だったが、彼はのってくれた。

 

「なんで教師になったんだ?」

「何も聞いてこねーから、てっきりオレは教師になっていたと思っていたが、違うかったのか」

「いや、ごめん。言葉が悪かった。私の知識でも君は教師になっていたぞ。ただ代理戦争がはじまって、ツナ達のそばにいないとフォロー出来ないという理由だったから、本来より早くて気になった」

「そういうことか」

 

 チラッと視線を送る。納得してくれたようだが、答えてはくれない。

 

「教師に拘ったわけじゃねーんだ。リボーンの案が一番都合が良さそうだったから教師になった感じだな」

 

 知識でもリボーンの提案で教師になったから、流れは一緒になったのか。

 

「で、仕事が多くて上手く動けない感じなのか」

「そうでもねーよ」

 

 思わず首を傾げる。休憩時間に顔を出しているからわかる。ディーノはいつも忙しそうなのだ。私がいれば、効率が良くなり片付けられている感じだぞ。自由に動く時間はないはずだ。ロマーリオが学校に進入していれば話はわかるのだが。

 

「本音を言えば、放課後も手伝ってほしいけどなっ」

「……少しなら」

 

 視聴覚室の備品のチェックぐらいなら手伝えるはずだ。ディーノが教師になるタイミングはズレたが、私の記憶ではまだこの仕事は頼まれていない。知識通り、明日の放課後に頼まれるのだろう。

 

「ありがとな」

 

 再び頭を撫でられ、ついに私は「安全運転」とツッコミをいれた。

 

 

 

 無事に家に着いたが、ディーノ1人では帰れない。事故を起こすからな。ロマーリオには連絡を入れていたが、まだ来ていないようだ。

 

「お茶でも飲んでいくか?」

「今日は遠慮するぜ」

 

 なぜ今日に限って断るのだ。自ら死亡フラグを立てるなよ。

 

「オレのことは気にせず、入っていいぜ。ロマーリオが近くにいるからここで待ち合わせなんだ」

 

 流石、ロマーリオだ。間に合わないと判断し、先手を打っていた。

 

「じゃ、遠慮なく」

 

 安心して私は家に帰ったのだった。

 

 時間が時間なので私服に着替える気はなかった。制服のままベッドに飛び込む。

 

「このまま進む……」

 

 多分また怒られると思う。でも話したくても話せない。第8の属性の炎のことを話せば、十中八九ユニが見えた光が消える。

 

 窓を叩く音がして、顔をあげるとヒバードが居た。慌てて起き上がり窓をあける。

 

 ここ数日は校門を出る時ぐらいに頭に乗ってくる。今日はディーノと一緒に車で出たから、もしかすると探していたのかもしれない。よく考えると応接室で雲雀恭弥とあった時、見なかったし。

 

「……ごめん」

 

 私の言葉にヒバードは首を傾げた。私の勘違いならそれでいい。とりあえず部屋に入れよう。暖房がそろそろきいてくるはずだ。

 

 手を出せば、ヒバードは嫌がることもなく指に乗った。窓を閉めていると、ディーノがまだ家の前にいることに気付いた。

 

 ロマーリオの姿もある。なぜ出発しないんだろうかと思っているとディーノは電話しているようだ。車の中ですれば寒くないのに。

 

 電話をしているだけなのに絵になるなと思っていると、ディーノと目があった。なんとなく手を振る。ディーノも振り返してくれたので邪魔じゃないはずだ。まぁこれ以上は邪魔だろうと思ったので窓から離れようとしたが、ディーノが電話を切った。

 

 おやすみ。

 

 多分そう言ったと思う。だから私も「おやすみ」と返した。ディーノはフッと笑って、車に乗り込んだので間違ってなかったようだ。単純思考かもしれないが、今日はいい夢が見れそうだと思った。

 

 ヒバードに餌をあげた後、もう一度寝転ぼうかと思ったところで、一階が騒がしくなる。父が帰ってきたのだろう。つまりご飯の時間だ。

 

 

 もぐもぐと口を動かしながら思う。やはり兄が居ないと寂しい。

 

「サクラ」

「ん」

「さっきのは誰なのかな?」

「さっき?」

 

 父にしては曖昧な表現である。私は口を動かすことで忙しいので要件は手短で頼む。

 

「家の前に停車していた車に乗った男と知り合いと思ってね」

「ああ。ディーノのことか。知り合いだぞ」

「ディーノ? 外国人なのかな?」

「あら? お父さん、ディーノ君と会ったことはなかったかしら?」

 

 会うタイミングがないだろ。父は基本帰ってくるのが遅い。余程のことがない限り、ディーノは私を夜遅くまで連れ回さないし。まぁ心の中でツッコミするだけでディーノの説明は母に任せる。私は食べるのに忙しい。

 

 母の説明だけ聞けば好青年だな。それだけディーノは欠点が少ないのだ。……私か部下が一緒に居れば。

 

「そういえば、桂から何度か聞いた名だったよ。彼がそうだったのか……。しっかりと顔を見るべきだったよ」

 

 父に視線を向けられたので、首をかしげる。何か聞きたいことでもあるのだろうか。

 

「サクラはどう思ってる?」

 

 また曖昧な表現だな。思わず眉をひそめる。

 

「……どうって?」

「お母さんが話すような人なのかな?」

「間違ってはないぞ。ただお母さんが知らないだけで彼は厄介な体質持ちだからな。残念度も高い」

 

 体質のことを聞かれたので仕方なく教える。なかなかご飯が進まない。

 

「あら? でもお母さんはディーノ君の部下と会ったことはないわよ?」

「私でも可。理由は不明」

「彼の部下を除いては、サクラ以外はいないのかな?」

「多分」

 

 父は眉間を揉み始めた。ディーノの残念すぎる体質に頭が痛いのかもしれない。

 

「ディーノ君って若いのに部下がいるのねー」

「というか一番偉いぞ。だから究極のボス体質と言われてる」

「まぁ! もしかして社長なの?」

「ちょっと違うけど、そんな感じ」

「年収はどれぐらいあるのかな?」

 

 なんだろう、父の質問がちょっとズレてる。

 

「知らない。でもまぁホテルのスイートルームに連泊しても問題ないみたい」

「スイートルーム!? サクラちゃん、入ったの!?」

「んーん。ホテルに入るだけで緊張するからヤダ」

「もったいないけど、その気持ちもわかるわー」

 

 今日は珍しく母と話が合う。いつもは父の方が合うんだが。まぁせっかく合うので、母にプライベートジェット機に乗った時のことやディーノの家で過ごして驚いた話をする。

 

 母は私と一緒で考え方が庶民的なのだろう。同じように驚いて話を聞いていた。だが、父は眉間にシワを寄せていたので、うるさかったようだ。食事中なこともあり、母と一緒に謝る。

 

「……少し考え事をしていただけだよ。桂と一度じっくり話をするべきかなって」

「ん? お兄ちゃん?」

「桂に任せっきりなところもあったからね。今思うと引っ越してからサクラと出かける回数が減っていたね。来年からは仕事の量を減らして土日は家に居ることにしようかな。どこか行きたいところがあるなら、お父さんに言うんだよ」

 

 行きたいところと言っても、基本私は引きこもり体質だしな。それに疲れてる父を誘うのは気がひける。どうしても行きたいところがあれば、兄かディーノに言えば連れて行ってくれるし。

 

「サクラ、お父さんに言うんだよ?」

「え。あ、うん」

 

 念を押されたが、当分何も浮かばないだろうなと思った。来年は受験生だし。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。