クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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それぞれの思い 1

 ドタドタと階段を駆け上がる音が聞こえ、サクラは寝転んでいた身体を起こした。少し前にツナ達から逃げれたためリラックスモードだったのだ。もちろん手にはマンガが握られている。

 

 身体を起こした瞬間、ノックも無くサクラの部屋のドアは開かれた。サクラの予想通り、ドアのところに居るのは母親だった。サクラは急にドアを開けられても怒りはしない。母親に言ってもすぐ忘れると気付いてるからだ。

 

「サクラ! 兄ちゃんが帰ってくるわ!」

「……そう」

 

 留学中の兄が帰ってくると聞いて、サクラは少し気が重くなった。嫌いなわけではない。多少変わっているが、いい兄と思ってる。ただ、苦手なだけなのだ。いくらサクラに甘く、わがままを聞いてくれるとしても、あのテンションの高さはついていけないのだ。

 

「空港までサクラが迎えに行ってね。お兄ちゃんが喜ぶから」

 

 サクラは露骨に嫌な顔をした。迎えに行けば、空港で抱きしめられると想像がついたのだ。それに1年ぶりに会うため、恐らくこれは回避できない。逃げようにも兄の方が頭脳・運動などが上回っているのだ。サクラはどうせ抱きしめられるなら人前は避けたいと思い、何か用事をつくろうとサクラは必死に頭をめぐらせた。そして偶然にも本当にその日は用事があることを思い出す。

 

「お母さん無理だ。私、その日は図書委員の活動がある」

「休めないの?」

「午前中だけだし、すぐ帰る」

「……そう。わかったわ」

 

 これで抱きしめられるのは家だと安堵し、サクラはマンガに視線を戻そうとした。

 

「サクラちゃん、ちょっと手伝ってほしいの。暑中見舞いを出したいのよ」

「……それはお母さんが書いた方がいいと思う」

「だって、私よりサクラちゃんの方が字が綺麗じゃない~」

「……わかった」

 

 サクラは母親にマンガを買ってきてもらうつもりなので、あまり強く言えなかった。それにサクラの方が字が綺麗というのは本当だった。兄にも勝てるかもしれない、サクラの唯一の特技である。勝てるかもしれないというのは、サクラは幼い時に兄のマネをして練習したせいで、ほぼ一緒の字と言ってもいいのだ。ちなみに、兄は初めから綺麗な字だった。

 

「今頃、サクラのお土産を買ってるわよ~」

「そうかも」

 

 サクラは時差があることに気付いていたが、母親に話を合わせた。言ってもすぐ忘れるのもあるが、サクラには叶えたい願いがあったのだ。

 

「普通がいいな」

「ふふ。それは無理よ~。だってお兄ちゃんよ」

 

 サクラは何も言えなかった。納得したくないが納得してしまったのだ。

 

 考えることを放棄し、サクラは母親の仕事を手伝うためにベッドから起き上がって1階に降りて行った。

 

 

――――――――――

 

 

 ツナは息を吐いた。それは自身が思っていたより大きな音となり部屋に響いた。そしてツナは頭を抱え込んだ。

 

 しかしそれは悩んでいたからではない。頭に強烈な痛みを感じたからだった。痛みの原因はリボーンが蹴ったからである。

 

「いきなり何するんだよ! リボーン!!」

「京子に振られたか?」

「ち……ちがうよ!!」

 

 ツナは文句を言うつもりだったが、リボーンに好きな子の名前を急に言われ、顔が真っ赤になり忘れてしまった。ちなみにリボーンはツナを励ますために蹴ったのだが、もちろんツナは気付いていない。気付かない1番の理由は励まし方がスパルタだからだろう。

 

「じゃぁどうしたんだ?」

「神崎さんとあまり話せなかったなぁって……」

「なんだ? 京子だけじゃなくサクラも好きになったのか? 他にもハルがツナを好いてるのに物足りねーとはやるな」

「んなー!! 違うって!! そもそもハルとはそういうのじゃないし!!」

 

 ツナは最近仲良くなった?ハルを思い出した。出会った次の日に惚れたと言われて、対応に困ってからあまり日にちはたっていない。今までモテたことがないツナの経験からすれば、ハルは凄く変わった子だった。もちろん、好意を抱いてくれてるのは純粋に嬉しいとは思っているが。

 

「それで、サクラがどうかしたのか?」

「え……。どうかしたって……」

 

 途中からずれた思考をリボーンの言葉で戻ったが、ツナは口ごもる。どうかしたと聞かれたが、サクラとは少し言葉を交わしただけで何も無かった。つまり、何も無かったのがツナを落ち込ませる原因だったので、咄嗟にリボーンの問いに答えることが出来なかったのだ。

 

 一方、そんなツナの様子を見てリボーンはサクラがどのような人間か思い出す。サクラは1人で居ることが好きなようで、少し観察力がいいだけの女子生徒だった。ツナの態度で、話しかけても反応が良くなくて落ち込んだというのは、これ以上聞かなくてもリボーンには理解できた。

 

 しかし、疑問に思う。ツナは今までダメツナとして過ごしてきた。ツナは好意を向けようとしない相手に自ら話しかけることはしない。それに女子だ。ツナが積極的に行動したことにリボーンは違和感を感じた。

 

「なんでサクラと話してーんだ?」

「え? それは……山本が助けてもらったって言ってたし……」

 

 リボーンは以前ツナから聞いたことを思い出した。山本は飛び降りる前にサクラは相談したと……。その時、サクラの言葉は山本に届かなかったが、山本はツナと同じぐらいサクラにも好意を抱いた。教室の様子を観察していれば、ツナの話は本当だというのはすぐにわかる。もちろん、サクラ本人がその好意を嫌がってるのも気付いたが、面白いので山本には教えずそのまま放置していた。山本が女子に無理強いをすることはないとわかってたのもあるが。

 

「それだけじゃねーだろ?」

 

 いくら山本が助けてもらったと思っても、まだ疑問は残る。山本のために話しかけて話せなかっただけでは、ツナがここまで落ち込むとは思えない。ツナもサクラと何かあったのかとリボーンは思ったのだ。

 

「う、うん……。なんていうか……山本から助けてもらったって聞いて、神崎さんを意識してみた時に、1人にしちゃいけない気がして……。最初は山本に任せれば大丈夫と思ってたんだ。でも……神崎さんは山本を避けてる気が……ううん、人と関わることを避けてる気がするんだ。そりゃ、神崎さんが用事のない時に話しかければちゃんと返事をしてくれるよ。獄寺君や山本と普段から一緒にいる前に、オレが話しかけた時もバカにせず普通に返事をかえしてくれたよ。でも、壁があるんだ。オレはそれをどうにかしたくて……」

「そうか」

 

 リボーンの返事は短かったがツナは嬉しくなった。自身でもよくわかっていないことだったため、話しても理解してくれるとは思わず、真面目に話せと言われ殴られると思っていたのだ。

 

「それなのに……夏休みに遊ぶ約束も出来なかった……。しばらく会えないのに……」

「家に行けばいいだろ。最近引っ越して来たからツナも知ってるんじゃねーのか?」

「そうだけど……。女の子の家だし……」

 

 リボーンの言った通り、サクラが引っ越して来る前から新しい家が建つとツナは母親から何度も聞いていた。家も遠いわけじゃない。しかし、少し前まで女子とまともに話したことがないツナからすれば、家に直接行くのはハードルが高い。

 

「それに忙しいみたいなんだ……」

「じゃ、学校で会えばいいだろ?」

「だから夏休みだから会えないんだって! 神埼さんは補習がないみたいだし……」

「ツナと違って平均点以上はあるみてーだしな」

「うっ……。って、なんでそんなこと知ってるんだよ!」

「裏の社会にも関わらず、情報収集は今じゃ当たり前だぞ。まっ、オレもサクラに少し興味あったのもあるけどな。今はその話は置いておくぞ。確か、サクラは図書委員で夏休みに図書室いる日があるぞ」

「え!? それって本当!?」

「ああ。8月1日から5日だったはずだぞ。だが、午前中しかいねーぞ」

「その日だと補習は終わってるし……。ありがとう! リボーン!」

「気にすんな」

 

 ツナは感動した。リボーンが来てから振り回された記憶が多く、何度も殺されかけたこともあり、優しくもないリボーンが本当に自身をマフィアのボスにする気があるとは思えなかったのだ。もちろんツナはマフィアのボスになるのは嫌だが、ボス候補の自身にもう少し優しくしてくれてもいいと思っていた。相談しても普通にアドバイスしてくれるとは思わなかったのだ。

 

「そのためには補習をクリアしねーとな。今からねっちりするぞ」

「ねっちりやだーー!!」

 

 

 

 

 

 いつものようにツナの叫びがこだましたのを聞いた沢田奈々が「今日も仲が良いわね」といいながら、夕食にとりかかった。

 




三人称は難しい。

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