……校歌って毎日耳にする曲じゃなかったと思うんだが。
とりあえず寝ぼけながらも礼を言う。ヒバードは親切心から私を起こしてくてるはずだし。ただ、その前に1日だけというのはどこへいった。あれから毎日放課後になるとやってきて泊まっていくんだが。
まぁ別にいいけどな。ここ数日いろいろあった私を癒してくれたから。
ちょっと振り返るだけでも本当に内容が濃かった。
ディーノが先生になったのはいいが、知識では担任じゃなかったこともあり、私がそばに居ないとディーノの手がまわりそうになかったのだ。最初のうちは嫉妬を浴びていたが、私がそばに居ないとへなチョコになるとわかったのか、積極的に側にいるようにという空気が流れた。
……正直、面白くない。ディーノのカッコ良い姿を見たいだけに私が側にいるのはいいだけであって、不釣合いだという視線はずっと感じるからな。ディーノはディーノで、なぜここまで鈍感なのか。私の機嫌の悪さは察しているのに。
「サクラ、サクラ」
危ない危ない。朝からイライラするところだった。流石、私の癒し枠。ちなみに私の名前は兄が頑張って覚えさせていた。ただヒバードは私の名前を覚えてくれたが、兄に懐いているわけじゃない。ディーノやツナもだ。今でも私の周りにしか来ない。不思議である。
次にコロネロが会いにきた。予想はしていたので驚きはなかった。リボーンから説明を聞いたらしいが、私の口から聞きたかったようだ。なので「もちろんラルの呪いも解けるぞ」と先に言ってあげた。照れながらも、私に協力すると言って去った。ちょっと可愛いと思ったのはヒミツだ。
コロネロが去ってしばらくすると沢田家光がきた。なんとなく察したので「父親の威厳を取り戻すのも大変だな」と答えると、引きつった笑みを浮かべていた。ただ私が反対していないという意味で言ったことを察していたらしく、コロネロは当然として、リボーンも交えて話し合うと言っていた。ツナには悪いが、本来なら辿り着いた強さになってほしいので、沢田家光には頑張ってもらいたい。余談だが、ディーノはツナに同情していた。スパルタのこともあるが、ツナ達には裏で同盟を組んでいることを教えないと決まったから。
古里炎真からはもちろん協力するよという言葉をもらった。話を聞けば古里炎真は、自身が代理戦争に参加すると知ったツナから話を聞いてすぐに同盟を組む気になったらしい。が、スカルはツナの言葉を信用せず反対した。その結果、リボーンがボコって協力する流れになった。そもそもリボーンから話を聞いているのに反対したんだと思っていると、なんでもスカルはリボーンのパシリなので後回しにされたらしい。不憫である。
白蘭は知識通りツナの家に現れた時に自ら同盟を持ちかけたらしい。ユニが予知をみてこの流れを知っているのかわからなかったが、ツナの言葉はちゃんと届けると白蘭は言って去ったようだ。そのため同盟も一旦保留に。これはちょっと意外だった。ただユニが日本にきてツナ達と顔を合わせるまで、こちらからはどこにも仕掛けないと言った。及第点だろう。
問題はヴァリアーである。最初、この話にマーモンは乗り気だった。ただXANXASはツナをかっ消すために参加してもいいと思っただけで、協力する気はないという。そして他のメンバーも確証もないのに協力は出来ないという返事らしい。こっちはこっちで動くということで、最終的に対立した。もっとも私は話を聞いただけであって、いろいろあったようだ。合掌。
雲雀恭弥は話を聞いても返答はない。これはフォンが話を持っていけば組む流れだな、と私は察した。ただフォンはこっちの話に乗るかもしれないので、雲雀恭弥に代理を頼むかもわからない。……まぁツナの周りは誰も声がかかっていないので、結局あの2人は組むのだろう。
結果、今日から代理戦争が始まるのに目標の半数も集まらずツナは落ち込んだ。
ツナが走り回ってる裏で、私も一応動いていた。というのも、スクアーロや骸とも接触していたのだ。一応というのは私から会いに行ったわけではないからだ。
スクアーロはディーノと一緒にいる時にやってきた。本当に呪いが解けるならヴァリアーの戦力もあがる。XANXASとレヴィは参加しないだろうが、他のメンバーは協力してもいいという。ボスを裏切ることになるんじゃないのかと思ったが、あれはただのワガママだからいいらしい。そもそも9代目から命令されれば、XANXASはまだしもスクアーロ達は協力するしかないと言った。ディーノと一緒にその手があったと反応すれば、スクアーロがキレていた。自身で教えたのにおかしな奴だ。リボーンは気付いているがツナの成長のためにギリギリまで使う気はないのだろうとディーノが推測して落ち着いた。
話は逸れたが、とりあえず確証を得るまではマーモンの呪いが解けるために動くということだったので、「最後まで勝ち残っても呪いは解けないぞ。あれはウソ」と教えれば、スクアーロに怒鳴られるだけでなく、ディーノにも怒られた。伝え忘れただけなのに……。確証を得たらすぐに言いに来いとキレながら去って行った。それまでは好きに暴れるらしい。そうは言いつつも自身から仕掛けるのは大空の7属性ではない古里炎真になるんだろうなと思った。
骸と接触したのはスクアーロと会った次の日、兄と一緒にいた時だった。心の中で今日もパイナッポーだなと思っていると、兄が骸を苛立たせていた。骸もイラつくのになぜ兄と一緒にいる時を狙って接触しにきたのだろうか。気になってツッコミしてみれば、骸曰く「この男がいない時にあなたに接触すれば、ネチネチとやってきますからね。この男は本当に性格が悪いのです」らしい。いまいちピンと来なかったので首を傾げていると、「僕と骸君の仲だからね。遠慮するわけがないじゃないか!」と兄が満面の笑みで言っていた。骸が引きつった笑みを浮かべたので、幾度となく迷惑をうけているのだろう。妹の私でも遠慮しない兄とは関わりたくないし。
兄が一緒にいるせいで話が全く進まなかったが、「クロームの件を抜きにしても、僕は手伝う気はありませんよ」と言いたかったようだ。ヴェルデが信用して協力することになった場合、時計は返しても炎を提供する気はないようだ。……私は骸を引き止める言葉を思いつくことが出来なかった。
正直、ユニチームが手伝ってくれれば人数は足りる。そして成功する未来がユニに見えていれば、他のアルコバレーノもヴァリアーだって積極的に手伝ってくれるだろう。それなのに、なぜか骸の言葉がショックだった。理由はわからない。
そんな中でディーノを通して雲雀恭弥と交流が出来たと思ったのか、昨日からクラスメイトが頼み事をしてくる。忙しいからと言って断ってるがしつこい。今日もタイミングを計って声をかけてきそうな気がする。兄は今日から有給をとって、裏で動いているからなぁ……。憂鬱である。
大きく息を吐く。今日から代理戦争が始まるんだ。私は切り替えるように動き出したのだった。
知識通り、放課後まで何もなかった。もしかすればズレが起きるかもしれないと気を張っていたが、取り越し苦労だったようだ。ツナ達も私から時間を聞き出さなかったのもあって、HRが終わると安心したような息を吐いていた。
さて、これから私はどうしようか。古里炎真はこれからスカルと一緒に帰ると言っていたので大丈夫だろう。もしもの時のために兄は彼らの近くでスタンバってるしな。
ツナはスパルタだが、一応教育なので大丈夫。問題はディーノだが、私が一緒に居なきゃヘナチョコだし。仕事に追われてるから放置しても大丈夫だろう。
「じゃ私もここで」
「サクラも帰るの?」
「今日は高みの見物しようかと」
はっきりと言えば、ツナが苦笑いしていた。それでも何も言わないのは彼の優しさなんだろうな。カバンを持って別れを告げた。
文字通り、高みの見物である。学校の屋上にきた私はそう思った。
「ちゃおっス」
「いいのか?」
「家光が側にいるんだ。問題ねぇだろ」
「そうか」
会話が一段落したところでリボーンの時計が鳴り響く。すぐさま爆発音が聞こえたが、本当にリボーンは気にした風もなく、会話を続けた。
「ユニから連絡があったぞ。この後時間あるか?」
急だなと思ったが、確かユニはギリギリまで日本に来れなかったし、未来が見えているなら今日しかないと気付くか。学校を休めば明日でも問題ないが、ツナ達が気にして未来がさらに変わりそうだしな。そうなると2日目の開始時間も変更しそうだ。……本当にユニの負担が多いな。私の僅かな行動の変化で未来が広がりすぎだろ。
「場所を教えてもらえれば、勝手に行くから。そっちは反省会が必要だと思うし」
「……確かにいい位置だな」
獄寺隼人達と雲雀恭弥の戦いを見ながらポツリとリボーンが呟いた。恐らく私への返答でもあったのだろう。リボーンは真剣に戦況を見ていた。残念ながら私の目では彼らの動きは速すぎてよく見えない。が、それでもわかることがある。ただちょっと自信がないので確認する。
「誰も壊されてないよな?」
「ああ」
変だな。私の知識では笹川了平の時計がすぐに壊された。しかし現実は無事。笹川了平は果敢に攻めているし、獄寺隼人と山本武は説得しようと声をかけ続けている。
「サクラはヒバリのこと、どう思ってんだ?」
「どう、って?」
質問の意味がわからず質問仕返す。
「目をそらすんじゃねーぞ」
うぐっと言葉に詰まる。バレていた。そして気付かないフリはダメなようだ。相変わらずスパルタである。……フラグをへし折ろうとしたのにディーノが再び立てたのが悪い。
「甘いと思う。彼女が現れた後から特に。……でも混同はしていないぞ?」
「ああ。そのへん、ヒバリは問題ねーだろ」
問題があるとすれば私の方ってことか。耳が痛い。
ポツポツと雨が降り出して、やっと知っている流れになった。笹川了平も一緒に逃げたことで、結局雲雀恭弥は時計を壊さなかったことがわかる。
XANXASは微妙だがヴァリアーは乗り気だったから何も思わなかった。骸率いる黒曜メンバー全員に断られたからショックを受けたのだ。
……だったら、雲雀恭弥は?
心の中で最終的に彼は私の頼みを断らないだろうなという確信があった。本当に彼は甘くなった。……私に対して。
彼女の目を私を持っているのが前提にあるのは間違いない。それでも、ボーダーラインがかなり低くなっていたとしても、私が彼の逆鱗に触れれば、遠慮なく咬み殺すだろう。ちゃんと私を神崎サクラとして見ているから。
私の最初の予想では、フォンの性格ならツナ達の話に乗るかと思ったのだ。正直、知識通りにこの2人が組むのは意外だったし、同盟を組む気がないのも意外だった。だから今日の勝負を確かめにきた。
……結果、雲雀恭弥は私に甘いのではなく、甘すぎることがわかった。
「まさか鍛える気だったとは」
「ぜってーヒバリは否定するが、間違いねーな。ヒバリの実力なら壊そうと思えばいつでも出来たからな」
確かに私は大量の死ぬ気の炎がいるとは言った。……言ったが、雲雀恭弥はそんなキャラじゃないだろ!
軽く息を吐く。リボーンが私に小言をいうのは仕方ないことだろう。ちゃんと私を見ているとわかっていながらも、彼女の目を持ってるからという理由だけで動いたと、彼の優しさを切り捨てようとしたのだ。
「……先に礼を言いに行く」
「そうか」
リボーンに宣言しなくても、どうせ私のことだから後々罪悪感が出て礼を言うだろうが、何かのついでな気がしたのだ。……この前だって、送ってもらったついでだったし。
終了の音が鳴り響く。礼を言いに行くのは決まったが、どんな顔して会えばいいんだか。
「迷うんじゃねーぞ。その目があったから、桂とわかりあえたんだぞ」
「それは……わかってる」
何かが欠けていれば、今も兄と一緒に過ごすことは出来なかった。
「選んだのはあいつだ」
リボーンの言葉を聞いて、パンッと頬を叩く。グダグタ悩んでいるのは雲雀恭弥に対して失礼だと思ったのだ。リボーンはもう大丈夫と判断したらしく、ユニがいる場所の地図を渡してくれた。
「リボーン、ありがとう。忙しいのに」
「ファミリーの一員を鍛えるのは家庭教師の役目だからな」
ニッと笑ったリボーンを見て、なんとなく言いたくなった。ただ恥ずかしいので、別れるギリギリに言った。
「私もリボーンは、最強の殺し屋で、最高の家庭教師だと思ってるから。ロクな死に方を期待してない……なんて、言わないでくれよ?」
ピョンと階段を飛び降りる。振り返れば、リボーンが珍しく気まずそうに頬をかいていた。すぐに目があったので、ニッと笑ってやった。
雲雀さんとの絡みを書くべきか悩む。