なんだろう、朝から残念感が凄い。チラッと時計を見るとそろそろ起きないと間に合わない時間だったので起こしてくれたのだろう。だが、目覚ましに校歌とか微妙である。喜ぶのは雲雀恭弥ぐらいだ。……雲雀恭弥のペットなのだから、いいのか。
とりあえず軽く礼を言い、起き上がり行動を開始した。
顔を洗いながら、変だなと思う。今日は私の目覚まし時計と化している笹川了平の声がなかった。眠りが深かったのだろうか。リビングについたところで、答えがわかる。兄が家に居たのだ。
泊まり込みで匣兵器を作っている日以外は、走り込みを欠かさずしていたはずだ。昨日はディーノと一緒に帰って、ヒバードの寝床を作り終えたぐらいに兄が帰ってきたのだ。ディーノに絡んでいたので間違いない。ディーノが帰ってからは私とほとんど一緒に居たし、帰ってきた父に説明を一緒にしてくれた。……うん、間違いなく昨日は家で眠っている。朝帰りではない。尚更、走り込みに出かけていないことが不思議だ。
「おはよう! サクラ!」
「ん。走り込みは?」
「しばらくお休みだよ」
「ふぅん」
つまり目覚まし時計を仕掛けないといけないのか。そんなことを思いながら、朝食を食べた。
学校へ出る準備が出来たところで、ヒバードを観察する。エサがなくなっているので、ちゃんと食べたようだ。
「君はどうする?」
私が声をかけると首を傾げた。……可愛いな。
写真を数枚撮ったところで、我に帰る。そろそろ行かなくてはいけない。
「とりあえず、一緒に行くか」
雲雀恭弥にどうやって返せばいいのかわからないので、そう言葉をかけると頭に乗った。可愛くて頭がいいとか最高だな。ヒバードの人気が高いのはよくわかる。
母が可愛いとテンション高くなっていたが、兄がいないので対応は楽だ。しかし、どこへ行ったんだろうか。母はヒバードの写真を撮って忙しそうなので父に聞いてみる。
「お兄ちゃんは?」
「少し前に出かけたよ」
……珍しい。私が起きているのに声をかけずに出て行くなんて滅多にないぞ。
「桂から伝言は預かっているよ」
「なんて?」
「確か『寂しい思いをしてないかい。大丈夫だよ。僕は陰ながら見守っているからね』と言っていたよ」
父の淡々とした話し方だと、兄のセリフは物凄く怖いな。あのテンションだから許されることだったようだ。
「望遠用カメラを持って行ったから、ウソはついていないと思うよ」
「……ああ。陰ながら見守るは、盗撮するよってことか」
「そうだろうね」
父に止めて欲しかったという視線を送る。兄は父が言えば、止まるはずなのに。
「心配しなくてもいいよ。ヒマそうだったから、仕事を増やしたから。夕方からサクラの頼まれごとをするみたいだし、桂の力量なら登下校ぐらいしか出来ないと思うよ」
……父が怖い。兄が本気を出せば、ギリギリ終わるだろう量の仕事を割り振ったようだ。さっき止めなかったのは、ヤル気というエサを与えるためだ。そして頑張って終わらせれば、私にかまう時間があるというエサをぶら下げている。
「い、いってきます」
さっさと登校しよう。このままでは兄が可哀想だ。早く仕事に向かわせて、夕方に相手をしてあげよう。そうしよう。
学校につけば、ヒバードが私の頭から飛び上がった。そして、ぐるっと私のまわりを一周してから、屋上へと向かった。……居なくなると寂しいな。
残念ながら、さっさと切り替えなければ。聞こえないと思っているのか、私を見てヒソヒソと会話しているからな。……やっぱり雲雀恭弥に関わるとロクなことがない。
教室に入ると、落ち込んでそうなツナが見えた。獄寺隼人と山本武が一緒に居るので、放置しても問題ないかもしれないが、状況を知りたいのでツナに近づく。
軽く挨拶すれば、ツナから話題をふってきた。
「その、今日……朝から骸に会ったんだ……」
「断られたんだろ?」
「そうなんだ……。って、あれ? サクラはショックじゃないの?」
私が軽い口調で言ったからか、ツナが気になったようだ。
「まぁ。骸は今の段階では話にのれない理由があるし、ヴェルデは慎重派だろうし」
「理由?」
ツナの目を見て、教えるべきか悩む。焦れたのか獄寺隼人と突っかかられた。仕方ないので本音を言う。
「人の命がかかってるから、安易に答えていいのか迷ってる」
ツナは女子のクロームにこれ以上戦ってほしくないと思っているからな。下手に教えてクロームが死んでしまう未来がきても困る。
「んー。ツナの目を見て迷ってるなら、やめとけばいいんじゃね? オレなら、その直感を信じるのな」
「……けっ。オメーの直感とこいつの直感を一緒にすんじゃねぇ」
多分、獄寺隼人となりに私の判断を信用していると伝えているのだろう。私が言い淀んだ理由を知って、詫びのフォローもあるだろうが。
とりあえず言葉に甘えて黙ったままでいることにした。本人に助言はしたし、リボーンは気付いているはずだから任せよう。……本当にリボーンへの信頼度が高いな。
ちょうど話が区切れたところで廊下が騒がしくなる。今回は雲雀恭弥ではないらしい。女子がキャーキャーと言っているからな。雲雀恭弥は人気があるが、本人の前であんな声を出せば咬み殺される。
なんだなんだとクラスが気になり始めたところで、チャイムがなり教師が来た。席に座るように言われたが、担任ではなく学年主任だった。もちろん大人しく席に座るが。
話を聞けば、担任は実家の都合とかでしばらくの間休むらしい。つまりその間、学年主任が代わりをするのだろう。
そう思っていたら、臨時の担任が来るらしい。この流れで眉間に皺が寄った。嫌な予感がする。
「よっ。少しの間だが、このクラスの担任のディーノだ。教科は英語担当だぜ。よろしくなっ!」
日にちがズレた。確か今日の夜に代理戦争の説明が入るはずだ。つまり4日後が代理戦争の初日である。知識では代理戦争の2日目にディーノは教師になったはずだから、5日もズレている。……きっかけはなんだ?
チラッと視線を向ける。安心させるようにわざとヘラっと笑ったりするが、今のディーノはどちらかというと真剣モードだ。
……面白くない。
ディーノから視線を外す。周りの反応が面白くない。イケメン爆発しろ!
「神崎」
「……はい?」
学年主任に名を呼ばれ、一応席を立つ。
「神崎はディーノ先生とは家族ぐるみの付き合いなんだってな。オレがわざわざ声をかけなくてもいいだろうが、初めての担任らしいし、フォローしてやるんだぞ」
「そういうことだから、頼むぜっ」
一体、いつ私はディーノと家族ぐるみの付き合いになったんだ。確かまだ父と会ったことがないだろ。
いろいろ言いたいことはあったが、嫉妬の視線を感じて大人しく席に座る。
「そういや、オレ……神崎さんを横抱きで運んでいるところ見たな」
「そんな面白そうなイベントあったのね。私は手を繋いで歩いているのを見たわよ」
名を知らない男子はまだいい。思い出してしまったのだから、仕方がない。もちろん本音は思い出してほしくなかったが。それより問題は黒川花だ。絶対に今のは悪ノリだろ!!
「えー、付き合ってるんですかー?」
「大事な妹分だ」
……本当に面白くない。期待した視線を浴びていることになぜディーノは気付かないんだ。私が近くにいるんだから、ドジじゃないはずだろ。
「あ、あの!」
「ん? どした?」
「神崎さんって、ヒバリさんと親しいようですけど、ディーノ先生もですか?」
シンっ……と静まった。確かに彼らにとって大事なことだろう。曖昧にしていれば後々問題になるかもしれない。ただ一点、私と雲雀恭弥が親しいというのが間違っているがな!
「ああ。恭弥はオレの弟子だかんなー」
『えーー!!』
私はこの流れを読んでいたので、耳を塞いでいた。クラスメイトの大半と質問タイムとして黙って成り行きを見守っていた学年主任も叫んでいたのだ。なかなかの声量だった。
「やべっ。話したのはまずかったか?」
ディーノが視線を送ってきたので、手を合わせた。骨は拾ってあげる。
私の反応を見て、ディーノは頬をかいた。しかし腹をくくったのか、クラス全体を見渡してから言った。
「恭弥は気難しい性格をしてるけど、悪い奴じゃないんだ。あいつのこともよろしく頼む!」
ディーノが頭を下げたことでクラスメイトは顔を見合わせていた。雲雀恭弥を怖いと思うが、普通に過ごしていれば被害はほぼない。実際この中で咬み殺されたことがある人物は少ないだろう。雲雀恭弥に関わるとロクなことがないと考えてる私でも、クラスメイトがディーノの言葉に頷くのは当然の流れだと思った。
「ありがとな!」
雲雀恭弥の師匠でも怖いイメージはなくなったらしく、クラスにほんわかした空気が流れた。その中でボソッと私が呟く。
「師匠面しないでって怒りそう」
小声で言ったが、ディーノには聞こえたらしい。慌てて「恭弥にはさっきのことはヒミツだぜ!」と言っていた。締まらない先生である。