クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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よいお年を!


真夜中に

 サクラの部屋の電気が消えたことを確認した桂は、こっそりと家を抜け出し公園へとやってきた。

 

「やぁ、待たせたね!」

「いやこっちが無理を言ったんだ。気にする必要はねぇよ」

「それもそうだね!」

 

 胸を張って答える桂にディーノは苦笑いするしかない。そもそもサクラを中心に動いている桂は、言葉にしているが待たせたことを悪いとは一切思ってもいないだろう。

 

「それで僕に聞きたいこととはなんだい?」

「……あいつの能力について、確認だ」

 

 さっきとは打って変わり、緊迫した空気が流れ始める。

 

「お前はわざとオレの前で聞いたんだろ? 教えてもらうぜ」

 

 桂はフッと笑った。合格という意味で空気を緩める。僅かなヒントを見逃さなかったのも、本当なら一番聞きたいであろう内容をディーノは口にしなかったから。

 

「単純な二択なら、今のサクラは外さないよ」

「やっぱ、あがっていたのか……」

 

 白蘭の能力と科学者達の知識が合わさって出来た匣兵器だ。桂であっても設計図が頭にあるだけで簡単に出来はしない。未来の桂は匣兵器を作っていたのではなく、匣兵器の改造を専門にしていたのだから。初めから作れるなら、未来で白蘭に治療に使える匣兵器を用意しろとは言わない。まして、この時代にない素材が必要なら尚更桂の力だけでは無理だった。

 

 恐らく、サクラは予知夢を見ている。外さないのは夢で見ているから。本人に自覚がないのは夢を覚えてないだけだ。匣兵器の研究内容は大したインパクトがないため、起きた拍子に忘れてしまうのだろう。

 

「僕はね、シモンファミリーの考えは正しいと思うのだよ」

「そう、だな……」

 

 兄妹という組み合わせにより、妹であるサクラに手を出せなかっただけで、シモンファミリーは桂よりもサクラの力の方が脅威と感じていた。そしてそれはこれからずっと続いていくと2人は結論を出す。

 

 しばらく沈黙が流れた。

 

「……まっ、オレや9代目がうまく誤魔化しとくから心配するな。無いとは思うが、もしもの時はオレが逃すぜ」

「君はそれでいいのかい?」

 

 桂の言葉にディーノはキョトンとした。サクラ達を逃すのはディーノの中では当然の考えだったのだ。仕方なく、桂はヒントを出す。もっとも、ヒントと言っていいのかわからないぐらい、誤魔化されているが。

 

「サクラと会えなくなんて、人生で損にしかならないからね!」

「会えなくなるもんな……」

 

 手紙のやり取りすら出来ないだろう。その未来を想像したのか、ディーノは顔をしかめた。

 

「オレのとこに入るっつー選択もあるが、お前が居るしなぁ」

 

 未来の世界の時とは違い、桂はサクラの側にいる。依存し合う危険性を桂がしっかり自覚したので、安心して任せられる。

 

 ディーノの中で、予防策だとしても危険度の高い自分の手元に置くという選択は余程のことがない限り、ない。まだ実害がない一部の人物に気付かれているだけなのだ。わざわざ危険な世界に飛び込む必要はない。

 

「寂しくはなるが、オレが手を出す場合は最悪の時だぜ? 仕方ねーよ」

 

 ディーノは浮かんだ感情を忘れるように首を振る。

 

 そもそもサクラ達の保護をする理由としてあげられるので一番大きいのは、シモンの時のように他のマフィアにバレた時だ。その場合はディーノが手を貸すことはあっても、ボンゴレから頼まれない限り、サクラ達の保護の先頭を切るのはキャバッローネの役目ではない。

 

 今までなら、ツナが幼いからといって通っていたことでも、サクラ達は9代目と縁が出来た。もし緊急事態が起きた場合、ボンゴレの意向にそう形になるのだ。

 

 ディーノが独断で動く時。それは限りなくゼロに近いが、ボンゴレ内部で異変が起き、サクラ達の危険が迫った場合だ。無事に逃がした後はどこから漏れるかわからないため、サクラ達との接触は出来なくなる。ディーノが仕方がないと割り切るのは当然だ。

 

 もっとも、9代目やリボーン、10代目候補であるツナ、さらにボンゴレの門外顧問である家光がいる限り、それは起きないだろう。

 

「お前だけ入るっていうのも手だが……」

「お断りさせてもらうよ!」

「まぁそうだよな」

 

 桂がキャバッローネに入っていれば、ディーノが手を回しやすくなるだろう。先頭を切って動いてもおかしくはなくなる。だが、ボンゴレと一緒でキャバッローネもイタリアにあるのもあり、緊急時にはあまり意味がない。

 

 他のマフィアに牽制出来るという点は良いかもしれないが、ボンゴレ10代目候補であるツナの友人だけで十分だ。それでも手を出してくるなら、キャバッローネに入っていたとしても変わりない。

 

 そもそも自分のせいで桂が未来の世界でマフィアに入ることになってしまったことを、サクラは気に病んでいる。今、桂がキャバッローネに入れば、サクラは自分のせいかもしれないと考えるだろう。ヒミツにしたとしても、漏れた場合が危険だ。

 

「ふむ。君の考えはわかったよ!」

「そうか」

 

 軽く返事をしているが、ディーノは試されていることに気づいている。ただ合格か不合格かは正直なところ関係ないのだ。ディーノは今まで通り過ごすだけだ。

 

「サクラは君に会えなくなると泣くだろうねぇ」

 

 呟いた桂の言葉にピクリとディーノは反応を示す。桂は先程の揺さぶりではマフィアのボスとして、妹分のサクラを守る回答をするので、少し方向を変えて攻めてみたのだ。

 

 沈黙が流れる中、無自覚というのは厄介だと桂は感じていた。今までのディーノの回答はマフィアのボスとして正しい。ただ、サクラを前にした途端、ディーノは回答が感情的になるのだ。死ぬ時は一緒だ、というような回答は桂の前では出さない。

 

「……そんな未来にはさせねーよ」

 

 絞り出した答えにディーノの答えに桂は呆れるしかなかった。つい先程は仕方ないと割り切っていたのに、サクラが泣く未来を想像しただけで割り切れなくなっている。そのことになぜディーノは気付かないのか。

 

 桂は不思議に思いながらも、これ以上のヒントを与えるつもりはない。サクラの幸せは願っているがまだ早いと思っているから。

 

「では、僕はもう行くよ!」

「ああ。今日は悪かった」

「気にすることはないさ」

 

 優雅に去って行く桂をディーノは見送った後、サクラが触った箇所を撫でた。

 

「オレがこの位置で食らう相手か……」

 

 真正面から攻撃を受けて防げなかったということだろう。下手をすれば相手に目をつけられれば桂でも守りきれない。いや、もしかするともう手遅れだ。危険な橋を渡っているにも関わらず、桂はサクラから離れているのだから。

 

「それでも、守ってみせる」

 

 何度目になるかわからない誓いを立てた後、ディーノは公園を後にする。

 

「いでっ」

 

 しかし残念ながら、格好良く去れないのがディーノである。

 

 実は桂を殴った時から桂もファミリー枠に入っていたが、その桂が去ってしまったため、ディーノは転んだのだ。そしてサクラとは違い、桂はディーノにはそこまで親切ではないので、部下へ連絡を入れない。結果、心配したロマーリオが見つけるまで、ディーノはホテルへと戻ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 ディーノが街を彷徨っていた頃、リボーンは夢を見ていた。アルコバレーノになるきっかけとなった日の夢である。

 

 一度ツナに心配され起きたものの、再び夢は運命の日へと進んで行く。

 

 見たくもない夢だ。

 

 確かにリボーンはそう思った。

 

 その夢が唐突に終わる。

 

 自身を嵌めた男……鉄の帽子をかぶった男が現れたことで。

 

 鉄の帽子の男の話によると、アルコバレーノの呪いが1人だけ解ける。アルコバレーノ本人ではなく、各々代理を立てて争い、勝者がその権利を得れるものだった。

 

 あまりにも胡散臭く、リボーンは目の前の男の話だけでは参加する気が起きなかったぐらいだ。

 

 しかし、リボーンはアルコバレーノの誰よりも速く「やる」と答えた。

 

 リボーンの返答の速さに驚いている面々の横で、コロネロも参加を表明する。

 

 この2人には共通点があった。目の前の男ではない人物の言葉を信用したのだ。

 

 サクラは言った。『君達が幸せにならないと困る』と。

 

 1人ではない。サクラはアルコバレーノ全員が幸せになる方法を知っているのだ。知っているのに解かなかったのは、何かが不足していたから。

 

 鉄の帽子の男が現れたことで、今しかないと判断したのだ。

 

「リボーン君とコロネロ君は物分かりがいいようだ。彼女のおかげかな」

 

 僅かに2人は反応を示した。サクラのことを知っている。知っていて、サクラを利用しているのか、利用されているのかで話はまた変わる。

 

「彼女も物分かりが良かった。私の目に狂いはなさそうだな」

 

 リボーンとコロネロは目で会話した後、リボーンが口を開いた。

 

「……あいつに何をした?」

「私は何も。先程も言ったが、彼女は物分かりが良い」

 

 リボーンは舌打ちをした。この身体になった時、ロクな最期を迎えることはないと覚悟していた。だが、それはサクラと出会うまで。

 

 幸せにならなければ、サクラが一生気に病む。

 

 リボーンは自身の身体のことよりも、サクラを傷つけたくないという理由で、積極的に動き話に乗ったのだ。だからこそ、鉄の帽子の男の反応に苛立つ。

 

 結局、最後まで鉄の帽子の男の考えはわからないまま、夢は終わる。リボーンとコロネロが参加を決めたことで、他のアルコバレーノもすんなりと参戦となった。

 

 この流れすらもリボーンは誘導されたようで、気に食わない。目を覚ましたリボーンは、すぐに動き出す。

 

「リボーン、身体は大丈夫なの!?」

「心配かけたな、ビアンキ。オレはピンピンしてっぞ。わりぃが野暮用が出来ちまった。ツナ、先にサクラのとこへ行ってるぞ」

「えっ! お、おい!?」

 

 目が覚めず、心配して様子を見ていたのに、リボーンは起きたらすぐに出て行ってしまった。ツナは呆気にとられ、しばらくの間、ポカーンとしていた。

 

「ツナ兄はサクラ姉のとこ行かなくていいの?」

「そういや、リボーンが言ってたような……。って、なんでサクラのところ!?」

 

 フゥ太の言葉で復活したツナは慌ててリボーンを追いかけ、サクラの家へと向かったのだった。




明日も更新。

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