「もし継承式編も書いたなら」
最初の1話ぐらいなら大丈夫かなーと思って、書き上げました。
雲隠れ
マンガを読もう。今日の放課後の予定が決まった。……今日も、と言ったほうが正しいか。
未来の世界から帰ってきて落ち着いた私は、束の間の平和を満喫していた。束の間というのは、これから起こることを知っているからだ。
未来で私はバランス調整のために原作知識を得たことを知った。いや、正確には兄のために知ったと言ってもいいだろう。
そして、その兄はもう問題がない。兄が死んでも、必ず彼女の父の元に――正しい場所に魂がかえる。もう心配することはないだろう。
ただ少し気になることがあった。私の悪夢について、彼女は何も言わなかった。兄に相談すれば『サクラが元々持ってる力というだけの話だよ』と軽い感じで言われた。流石にそれはないだろうという顔をすれば『サクラは僕の妹なんだよ?』と言われて納得してしまった。
だからといって、特に変わることもない。なぜなら、あれから特に夢をみていない。それに兄も黙っておけばいいといっていた。それもそうだ。私はユニのように自由につかえないのだ。当てにすることも出来ない。
私が出来ることと言えば、たまに何となく嫌な予感がするので、直感を信じて行動しているぐらいだ。少しラッキーになったぐらいに思えばいいレベルだろう。誰かに話す内容でもない。
疑問が解決したので、私は継承式編までゆっくりと過ごすと決め、今に(マンガを読む毎日に)至るという感じだ。
しかし継承式編はいつ始まるのだろうか。集団転校生の噂はまだ聞かない。雲雀恭弥から探りを入れればすぐにわかるのだが、極力会いたくない。それに下手に聞けば、彼は勘ぐるだろう。
まぁ今更、原作からズレるとか気にはしないけどな。兄も居るし、何とかなるだろう。
危険なのはD・スペード。彼にのっとられている加藤ジェリーも同様に危険だ。厄介なのはD・スペードにも未来の記憶が流れていることだ。つまり私と兄のことも知っているだろう。
……ちょっと待て。
とんでもないミスをしてる気がする。
「助けてドラ……じゃなくて、助けてお兄ちゃん!」
「僕を呼んだかい!?」
バンっと扉から現れた兄を見て思う。いつからスタンバっていたのだろうか。
最初の方は遠い目をしていたが、私たちは真剣に話し合った。
そして、兄も私と同じような考えに行き着いた。
「やっぱり死亡フラグたってるよな」
「盛大にね!」
軽い感じで言ったのは、私に気を遣ってるのだろう。
はぁと溜息が出る。何が嬉しくて、命を狙われなくちゃいけないんだ。でもまぁ今気付いて良かっただろう。もう少し遅ければ、命がなかった気がする。兄の言うとおり、私は盛大に死亡フラグがたっているのだから。
よく考えればわかることだった。私は未来の記憶がわかるとD・スペードにバレている。計画に支障が出る可能性が高い。そんな私を野放ししたままにするわけがないだろう。特に問題は私の能力だった。戦闘力がない私を無気力化するのは簡単で、殺すまでいかない可能性もあった。しかし私は幻覚が効かない。D・スペードと相性が良すぎるのだ。
「僕が今のうちに倒してこようかい?」
「それもありだけど、逃げられない?」
「…………」
黙り込んだので、兄も勝機が薄いと考えたのだろう。下手に兄が接触すれば、D・スペードは機会を次にするだろう。上手く倒せそうになって、肉体から魂になってしまうと兄の炎の性質上、倒すのは難しくなる。肉体を持たない状態になれば、炎で倒すしかない。しかし兄はどうしても威力をあげようとすれば、元々もってる炎まで放ってしまう。つまり治療してしまうのだ。匣兵器のエリザベスも炎で攻撃すれば、治療してしまう。魂だけになると眠らせることが出来るのかは微妙だ。
第8属性の炎を得る間に倒したいが、倒せないということだ。
さらに私は兄に説明する時に第8属性の炎のことは話さなかった。否、話せなかった。復讐者が管理しているので、下手に話せば彼らがやってくる。このタイミングでそれは避けたい。
兄も私が何か黙っていると気付いたようなので、はっきりと「これだけは話すとヤバイ」と言った。はっきりというのは、私が兄に未来の内容を教える時、連想ゲームのように話すからだ。今まで読んだマンガや小説の知識をフル活用して、兄だけにわかるように説明している。
回りくどいことをするのは、兄が誰もいないといっても、復讐者の覗きかたを考えれば、はっきりと話すのは危険だと判断したからだ。復讐者がマンガや小説を読んでるとは思わないし、マニアックなことを混ぜているので調べようとすれば時間がかかるだろう。そもそも彼らはマンガや小説ネタとわかってるのかも、怪しい。たとえ気付いたとしても、時折混ざるサクラちゃんクイズ大会の内容で詰まる。まさかあの内容を残してないと思う。それ以前にあれを真剣に聞こうと思ったとは考えられない。まぁどうしても兄に伝わらなかった時は耳打ちするけどな。滅多にないが。
いろいろ工夫してるにも関わらず、第8属性の炎についてだけは話せなかった。嫌な予感がするから。
「学校はやっぱり危険?」
「……現実的に考えると僕が四六時中、側にいることは出来ないからね。クローム髑髏を頼むのもありだろうけど、やっぱり難しいと思うよ」
まぁそれはそうだろう。トイレに行くにもついてもらわなければならなくなるからな。守護者とは少し違うが、クローム髑髏が兄が護衛出来ない場所を一人でフォローするのは難しいだろう。
「しばらくは海外に雲隠れだね」
兄の言う通り、日本から離れるしかないのか。
「迷惑かけるのは減るって言ったんだけどなぁ……」
はぁとため息が出る。言って早々、頼る羽目になるとはなんとも情けない。
「いい機会と思えばいいんだよ。初めての海外でも彼がいれば、不安はないだろ?」
「お兄ちゃんがいるもん」
「僕は行かないよ?」
なん、だと……!?
「僕だって行きたいさ! サクラの初めての海外旅行だからね! でも仕事があるのだよ」
「そういえば、お父さんの仕事を手伝ってるんだったか」
正直どこにでも現れるので、いつ仕事してるのか謎だ。
「父上は融通してくれるけど、流石に海外旅行しながら仕事すれば怒られるよ。場所か違うだけでサクラを観察するのは同じなのにね!」
プンプンという擬態語が聞こえうなぐらい兄は怒っていた。内容はもの凄く残念だが。
「まっとにかく彼に電話しようか」
そういうと兄は電話をかけ始めた。
「もしもし、ディーノかい? 今すぐにサクラの元に来たまえ。拒否権はないよ!」
それだけを言うと兄は切った。もう少し説明してやれ。ディーノが不憫すぎる。
数秒後に私のケイタイが鳴り始めた。兄にかけても無駄と判断したのだろう。間違ってはいないが、その選択は良くない。予想通り私が電話を出ようとすると、兄にケイタイをとられた。
「この時間が命取りになるんだよ。全く、君はサクラが死んでもいいのかい? 見損なったよ」
それだけ言うと兄は再び切った。お人よしのディーノは慌てて来る羽目になるだろう。不憫である。
「さて、サクラも準備しようじゃないか」
「……そういえば、パスポートを持ってないぞ?」
「心配しなくて大丈夫だよ。ディーノがなんとかするさ」
合掌。
「サクラは自分の心配をした方がいいよ。長期間休むには雲雀君の許可がいるだろ?」
「……任せた」
「彼がそれで納得するとは思えないよ」
行きたくないという意味で動かなければ、兄に横抱きにされて移動する羽目になった。もちろん抵抗したが、強さを隠さなくなった兄は、容赦がなかった。
「やぁ雲雀君!」
「…………」
「…………」
無駄に元気な兄、死んだような目をしている私、ノックもせずに入ってきた兄と私を無言で睨む雲雀恭弥。なかなかシュールである。
「お兄ちゃん、おろして。私が話すから」
残念そうだったが、無事におろしてもらうことが出来た。
「しばらく休みたい」
「……理由は?」
おお。日ごろの行いが良かったのだろう。まさかすぐに私の意見に耳を傾けるようになるとは……。ちょっと感動である。
「死ぬ可能性が高いから」
ピクリと雲雀恭弥の眉があがった。
「狙われる。兄の目が届きにくい学校が1番私を殺しやすい」
「正確には狙われている、だよ。視線を感じたからね」
慌てて兄の方を向くと、真剣な顔をしていた。先程までのふざけた態度はわざとだったようだ。
ガタッと音がしたので振り返ると、雲雀恭弥が引き出しから何かを取り出していた。
「……この紙にサインしなよ。理由は書かなくていい」
恐る恐る紙を取りに行くと休学届けと書いている紙だった。彼の目の前では書きにくいので、ソファーに座らせてもらおう。
「雲雀君、少しの間だが君にサクラを任せていいかい?」
「お兄ちゃん?」
「狙いは僕かもしれないからね」
D・スペードの腕があれば、兄に気付かれるようなヘマはしない。誘っている可能性もあるのか。
雲雀恭弥と一緒にいるのはもの凄く嫌だが、腕はいい。私の目があれば、すぐに殺されることはないだろう。
「……そこから動かないでよ」
動かなければ咬み殺さないという意味のようだ。それぐらいなら大丈夫だろう。同じ空間に居たいとは思わないが、我慢は出来る。
「わかった!?」
語尾が跳ね上がり、思わず動きそうになった。まかさ私が座ってるソファーの肘掛けにもたれかかるように彼が来るとは思わなかったのだ。トンファーとロールを出してるところを見ると、彼は本気らしい。校内で死なせたくない理由とわかっているが、ほんの少し、ほんの少しだがドキっとした。
「頼んだよ、雲雀君」
雲雀恭弥の行動で安心したのか、兄は外に飛び出していった。窓から出て行ったにも関わらず、雲雀恭弥は怒っていないらしい。
「…………」
「…………」
気まずい。コミュニケーション能力が低い2人がそろってしまった。
「……君が調べる方にならなかったんだな」
「目的が彼だとしても、君が狙われるからね」
当然のように彼は言った。悲しい事実である。
「…………」
「…………」
再び沈黙が流れる。会話が続かない。
「……気をつけろよ」
「僕の心配をする余裕があるの?」
これには黙るしかない。
「君はもう少し気をつけた方がいい。予知以外にも利用価値があるからね」
予知のことはバレていたようだ。彼が気付いてるなら、リボーンとディーノにもバレていると考えた方がいい。しかし予知以外にも何かあっただろうか。兄はもう大丈夫なはずだ。よくわからなくて雲雀恭弥の方を向けば、覗き込まれた。ち、近い……。
「この目も十分価値がある」
至近距離でジッと見つめられているが、不思議と恥ずかしくはならなかった。彼は私の目から彼女の姿を見ていると思ったから。
バンッという扉の開く音に、私と雲雀恭弥は揃って目を向けた。
「恭弥、サクラを見なかっ……」
目の前にいたため、言葉が途中で切れる。そして私が咬み殺されそうと思ったのだろう。気付けば私の横にいて、さらに腕を引っ張られ立ち上がることになった。
「ディーノ?」
「……ん? わ、悪い!!」
謝ったし、許してあげよう。そこまで痛くなかったしな。
チラッと視線を向ければ、本物と判断したらしく、雲雀恭弥はトンファーをしまって離れていった。
しかしなぜディーノがここにいるのだろうか。
「日本に来てたのか?」
「……ああ。つっても、電話があった時はまだ空港だったけどな」
つまり、いいタイミングだったようだ。
「何があった?」
説明しようとした時、ケイタイが鳴る。画面を見ると、兄からだったので先に電話に出ることにした。
「お兄ちゃん?」
『サクラ、僕を待たずに日本から離れたまえ。父上と母上からは僕から説明するよ」
ここに彼がいると知っているようだ。ディーノから連絡があったのだろう。
「そっちは大丈夫なのか?」
『逃げられたよ。でもそこから距離があるからね。今のうちに移動した方がいいと思ったのだよ』
「ん、わかった。後で連絡する。気をつけてね」
『サクラも気をつけたまえ』
返事をし、電話を切る。ディーノには悪いが、説明は後回しだ。兄が私を見送るのを断念したことを考えると、急いだほうがいい。
「ディーノ、悪いが今すぐ私を海外に逃がしてくれ。かなり危険な状況のようだ」
ディーノの眉間に皺がよったと思ったときには、私の身体が浮いていた。
「えっ?」
「しっかり捕まってろよ。恭弥またな」
私が現実に戻ったのは、イタリアへ向かってる飛行機の中だった。
これで終わろうと思ったんですが、せっかくなのでイタリアでの生活も書こうかなと考えています。