軽いですが無理矢理描写があります。ご注意を。
※IFルートです。
サクラの相手はディーノさん以外は認めない!という人は読まないでくださいね。
昼食後の授業はなぜこんなにも眠くなるのか。
眠っちゃダメだ。
頭に入っているかは別だが、授業は真面目に聞くのが私のモットーである。夜に兄に解説してもらうためにもノートは取っておきたい。しかし、陽当たりの良い窓際に座っているのもあるのか、身体がポカポカし眠気を誘う。
眠っちゃダメだ。
少しでも効果があると願って、頭をブンブンと振る。隣の席のクラスメイトが驚いているが無視だ。私は必死なのである。それでも、私を眠りに誘う。
次の対策として、手の甲を摘んでみた。が、これもあまり効果がなかった。ここまで来れば、意地である。脳内で眠っちゃダメだという言葉を繰り返した。
授業が残り10分を切った。ここまで来れば、私の勝利である。……眠気に打ち勝ったというより、気持ち悪くなってきて目が覚めただけだが。
しかし体調を崩す心当たりがない。朝に兄は何も言われなかったし。まぁこれ以上悪くなれば、エリザベスが頑張ってくれるだろう。
…………。
なんだか頭も痛くなってきたな。まぁ後8分ぐらいなら我慢出来るはずだ。もう少しで授業が終わるのに先生に報告すれば、注目を集めてしまう。それは嫌だ。
…………。
思わず時計を確認した。まだ後5分もあるぞ。観察日なら、兄はとっくの前に来ていている。つまり今日は仕事なのか。くそっ、タイミングが悪い。
エリザベスの形態変化である指輪を見る。まだ発動しないのか。発動しているなら、兄がそろそろ来るはずだ。窓の外を見ておこう。外の景色を見ていれば、気持ち悪さはなくなるかもしれないし。
……まずい、頭がガンガンしてきた。それに気持ち悪さも増した気がする。ボヤけた視界の中、黄色いものが見えた。……ヒバードか? かまってる元気はないから、しっしと手を振った。
どこかへ行ったのを見てホッと息を吐いたのが悪かったらしい。いっきに何かが流れ込んでくる。ちょっと待て。経験上、それは厳しい。私には耐えられないから止めろ!
……良かった。これで見えない。
教室がざわついた。休憩時間に入ったのだろう。……助かった。ツナに電話を頼むか。ちょっと疲れて目が開けられそうにないから。
ぐぃっと肩を引っ張られた。お兄ちゃんやツナにしては手荒である。
「だ、れ……?」
「……見えてないの?」
この声は雲雀恭弥だと思う。彼が現れたからざわついたのか。え?どこにいるんだ。真っ暗だぞ。手を伸ばせば、握ってくれた。ちょっと安心する。
安心したのも束の間、頬に何かが触れたので身体が跳ねた。
「僕だよ。……大人しく、戻ってくるんだ。君がみているものは現実じゃない。未来だ」
そう言われ、あまりの情報量に拒絶したことを思い出す。だから何も見えなくなったのだ。
今ならわかる。あれほど眠かったのは予知をみるためだったのだ。私が受け入れようとしなかったので暴走した。病気や怪我ではないから、エリザベスが発動しないのである。
「待って、怖い。量が多くて、閉じたんだ。戻るには開かないといけない」
「知らない。はやくしなよ」
相変わらず扱いが酷い。仕方ないので、深呼吸を繰り返す。そして勢いをつけるため、息を止めた。
「うぅ……」
何の未来か、いつの未来か、全くわからない。映像の切り替わりが速すぎる。いったい私に何を見せたいんだ。……って、痛っ! 一瞬手が痛かったぞ!?
「探らなくていい。戻ってくることだけ考えて」
そうだった。とにかく見ないフリをする。閉じ込めるんじゃなくて、見ないフリ。そしてふわふわと身体を浮かべるような感覚をイメージする。映像の波から出てくるんだ。
「はぁっ……はぁっ……」
なんとか戻って来れた。呼吸を整えながら、目の前に居た人物を見る。……おおう、眉間にシワを寄せていた。なかなか機嫌が悪そうである。
「ごめっ、ありがと、助かった」
怖いが助けてもらったのは事実なので、お礼を言った。ツナ達も心配しているだろう。早く安心させないと。しかしなぜか顔が動かない。目の下を拭われた感触で思い出した。そういえば、彼は見えていない私と視線を合わせようとしていたな。
「わっ、悪い!」
片側は彼の手があったのでわかりにくかったが、ボロボロと泣いていたようだ。もう片方を拭おうとする前に、彼が優しく拭ってくれた。
「ん、ありがと」
もしかすると彼の左手は私の涙でビショビショかもしれないな。
って、変じゃないか?
つい癖で甘えたが、雲雀恭弥はそんなことをするタイプじゃなかったよな……? よくよく考えるとツナ達ならもっと私に声をかけそうである。あまりにも静かすぎる。
原因はやはり目の前にいる人物だろう。しかし彼は相変わらず眉間にシワを寄せていた。……もしかして心配している顔なのか?
「雲雀、恭弥……?」
「たてる?」
「お、おう」
返事をしたものの、うまく力が入らない。まだ身体は混乱中なのかもしれない。
「……無理なら力を抜いて」
それは大丈夫な気がする。ゆっくり息を吐いて、脱力していく。手から何がが離れる感触で思い出した。彼の手を握っていたことに。
いや、多分握るとかそんな可愛らしいものじゃない。溺れそうな感覚から抜け出すために思いっきり握り締めたのだ。いくら彼が頑丈でも、無我夢中で握った力はかなり痛かったはずだ。
「ご、ごめっ」
「いいから、黙って」
口を閉じた。それで彼の気が済めばいいなと願って。
しかしまた予想外の出来事が起きた。なぜ私は彼に抱き上げられているのだ。
「ま、待って。ツナ達に運んでもらうから」
おおう、また先程の顔である。どっちかわからないから困る。それでも必死に口を動かす。
「や。君は群れれば蕁麻疹が出るんだろ。後は友達に頼むぞ。大丈夫、見えている。君のことがちゃんと見えているから」
私が持つ彼女の目と視線が合わなくなったから、彼はここまで私のために動いてくれた。だから安心してほしくて、視線が合うと伝えたのだ。私のために積極的に動くのは彼らしくない。
ジッと見つめ合う。つい視線を逸らしたくなるのを必死に我慢した。ここで逸らしては意味がないからな。……気のせいか? 彼の顔が近づいていないか?
「……んーっ!?」
「うるさいよ」
彼はバカなのか! いや、私がバカなのか!? 触れる前になぜ察しなかった!
……いやいや周りを見てみろ。誰もが驚いているじゃないか。彼がキスをするなんて誰も思わなかったはずだ。そもそも人にいきなりキスして、驚いた私に向かっての第一声がうるさいってどうなんだ! 私は悪くないだろ!? 原因は100%雲雀恭弥にある! これは間違いない!
言いたいことは山程あるはずなのに、パクパクと口を動かすだけで声は出ない。人は驚きすぎると声を失うようだ。
「まぁだけど、思ったより……悪くはないかな」
この言葉で私の中でプチっとキレた。
「悪くないってなんだ! 私のファーストキス返せっ!?」
雲雀恭弥の胸倉を掴む。咬み殺される恐怖なんて、どうでもいい。キスして比べるな! それに私は彼女のように大人しい人物ではないぞ!!
「返してほしいの?」
「……違う! いや、返してほしいが、それは違う! もう一度しろとは言っていない!」
「はぁ。これ以外でどうやって返すの? もう少し考えてから口にしなよ」
うがぁぁぁ!と叫びたくなる。なんだ、この理不尽!
「……私はファーストキスだったんだぞっ!」
視界を歪めながらも元凶を睨みつける。教室じゃなければ、泣き喚いていただろう。……家に帰ったら泣くのは決定事項だ。
「泣かないで。君に泣かれると……困る」
なぜ眉間に皺を寄せて私の顔を覗き込むんだ。心配しているつもりなのか!?
「だったら……するなよっ!」
「嫌だったの?」
「当たり前だろ! キスは好きな人とすることなんだぞっ!」
「へぇ」
あぁ、もう! どこからツッコミすればいいかわからない。なぜそこで感心する。彼の言うことがまかり通っていた弊害なのか!?
「それなら、君が僕を好きになれば問題ないんだね」
「はぁ!?」
「違うの?」
「常識で考えろっ! こんなことをした君を好きになるわけないだろ!? 好感度は最悪だぞ!」
再び彼は感心したような声を出した。……なんだが疲れてきた。先程から糠に釘である。
「……とにかく、おろしてくれ。もう自分の足で歩けるし、危険人物から一刻も離れたい」
そう言うと彼は周りを睨みつけた。……彼の辞書の中に、恋愛の常識とかはないようだ。
「き、み、が、危険なんだ! わからないなら人に聞け。……私に聞こうとするな! 君が本気で知りたいなら、草壁哲也ならどれだけ非常識だったか、一から教えてくれるはずだっ!」
「そう」
一応納得したらしく地面におろしてもらえた。すぐさま、ツナの後ろへと逃げる。戸惑いながらもツナは庇ってくれた。普段なら逃げ出すツナでも、今回ばかりは雲雀恭弥から守らないといけないと思ったようだ。
「またね」
全力で聞かなかったフリをする。しばらく動かなかったようだが、彼は去っていったようだ。
「サクラ、ごめん!」
「……君が悪いわけじゃないし、それにアレは防げなかったと思う」
流石にツナに八つ当たりするほど自身を見失ってはいない。他の者達は声の掛け方がわからないようだし。謝ってくれただけ凄い方なのだろう。今の私にはそれを感謝するほどの余裕はないが。
……そうだった、今度こそツナに頼もう。私は今ゴシゴシと口を袖で拭くことに忙しいし。
「悪いけど早退するから、お兄ちゃんを呼んでほしい」
「わ、わかった」
待っている間に笹川京子がハンカチを貸してくれた。どうやらわざわざ濡らしてきてくれたようだ。普段なら躊躇するが、今日はありがたく使わせてもらった。
今日は最悪だったと私はこの時に思っていた。まさか今日からが彼との攻防の始まりになるとは、思いもしなかったのである。
そして、怪我を負いながらもやってくる彼の執着に更なる恐怖を覚えるのも、この時の私は知らなかった。
……もちろん一生の付き合いになることも。