これは3話目です。
まだ1話目、2話目を読んでない方は気をつけてください。
目に飛び込んだ光景は私の家だった。
戻ってきた。ついに戻ってきたのだ。
だが、一歩が踏み出せなかった。ディーノの服を握り締める。彼は急かすこともなく、ただ私の頭をポンポンと撫でてくれた。
「い、行くぞ」
何度か深呼吸した後、自身に言い聞かせるようにディーノに伝える。そうしないといつまでたっても動けない気がしたのだ。
私が一歩踏み出そうとした時、ザッという音が聞こえた。
振り向けば、そこには兄が居た。汗をかき息が乱れている。いつもの優雅な雰囲気は一切なかった。
一歩ずつゆっくりと兄が近づいてくる。家の中に居ると思っていた私は、突如現れた兄に対応することが出来ずに動けない。私は怖くて視線が徐々に下がり、ディーノの服を握り締める手に力が入る。
ついに私の視界に兄の足が見えた。だが、何も起きない。声をかけられることもなかった。
だから恐る恐る私は顔をあげた。兄は不安そうな顔をしていた。
「お兄ちゃん……」
小さな声だったと思う。はっきりと言おうとしたが、喉につまり上手く出せなかった。しかし兄にはちゃんと聞こえていたようで、私に手を伸ばした。
だが、触れる直前に止まった。
躊躇されたことにショックを受けそうになったが、よく見ると手が震えている。
お兄ちゃんも怖いの……? 私がお兄ちゃんに拒絶されるのが怖いのと一緒で。
気付けば、私はディーノの服から手を離し兄の胸に飛び込んでいた。兄はゆっくりと優しく私を抱きしめた。
「……サクラ」
「お兄ちゃん……」
「僕を受け入れてくれて、ありがとう」
私は力いっぱい兄を抱きしめた。それは私のセリフだ。
数日後、私は兄と一緒に空港にいた。散々迷惑をかけたので、空港までディーノを見送りに来たのだ。ちなみに数日後になったのは、私の勝手な判断でロマーリオを呼んだからである。1人で帰らすのは不安だったのだ。
「ほんとにいいのか?」
「もちろんだよ。フミ子は君に懐いている」
何の話かと思えば、アニマルリングをディーノにあげるつもりらしい。私は口に出さないことにした。未来の兄がディーノのためにフミ子を改造していたこともあるので、2人が納得する形にすればいいと思ったのだ。
ちなみに私の手にもリングがある。兄に根負けし、エリザベスの形態変化の片割れをつけることになったのだ。もちろんもう片方は兄がつけている。
強さを隠すことがなくなった兄は容赦がなかった。本当に。それはもう数日でノイローゼになるほど、説得させられた。
若干遠い目をしていると、兄の強引な説得によりディーノが貰うことになっていた。
しかし、こうなると私も何かディーノにあげたほうがいい気がしてきた。私の方が迷惑かけているのに、何もしないというのは流石に問題だと思ったのだ。
「じゃ、元気でな。何かあったら連絡しろよ?」
「ん。でもお兄ちゃんがいるから、前ほど迷惑かけないと思う」
「バーカ。迷惑なんて思ったことねーよ」
ガシガシと頭を撫でられ、嬉しくなる。ディーノならそう返事してくれると思って、言ったのもあったのだ。
「……そうだ。ディーノ」
しゃがんでほしいと手で合図する。すると、彼は耳を向けるようにしゃがんでくれた。恐らくこっそり伝えることがあると思ったのだろう。あっさりと彼は騙された。
ディーノの頬にそっと押し当てる。
「っ!?」
驚いて言葉の出ないディーノを無視して、帰ろうという意味で兄の腕に抱きつく。すぐに兄は通じたようで、出口に向かってエスコートしてくれた。
数歩進んだところで、顔だけ振り返って声をかける。
「お礼」
まだ頬を押さえて唖然としてるディーノに小さく噴出す。しかし実行した私が気になるのも変だと思うが、ロマーリオが腹を抱えて笑ってるのはいいのだろうか。
「サクラ、帰りにどこか寄ろうか」
「お兄ちゃんが作ったホットケーキを食べたい」
すぐさま前を向き返事をすると、兄が苦笑いしていた。だから、私は聞いた。
「……怒ったり反対しないの?」
未来の兄は応援してくれたが、隣にいる兄は違う可能性もある。まして相手はマフィアのボスだ。叶う叶わない以前に、手放しで喜べる相手ではない。それに兄が嫉妬しないのも不思議だと思った。
「サクラの応援をするに決まってるじゃないか! 僕はサクラのお兄ちゃんだからね!」
兄の言葉に、腕に抱きつく力を強める。
未来から帰ってきて、私は決めたことがある。ほんの少しでもいいから、素直になる、と。
もっと兄と話していれば、防げたことがいっぱいあったと思ったのだ。
だから私は言葉にする。
「お兄ちゃん、大好き!!」
ありがとうございました。