クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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※念のため
『残酷な描写』です。
お気をつけください。


兄妹 1

 ふらふらと兄に近づき、膝をつく。

 

「……お兄ちゃん」

 

 声をかけたが起き上がることもなく、兄の身体にしがみつき涙を流す。ユニの肩代わりをしたが、身体は残ったのだ。

 

 ツナが白蘭を倒し、平和な世界になった。アルコバレーノも無事に復活した。それなのにどうしてこんなにも悲しいのだろう。私が全て話してしまったからなのだろうか。

 

「話さなきゃ良かった……」

「恐らく、桂はユニの力を知っていました。僕のところに何度か出入りしてましたから」

「骸……?」

「ただの独り言です」

 

 彼のいってることは本当なのだろうか。答えを知りたくてももうわからない。

 

「お前のせいじゃない。あいつはずっと前から覚悟していた。上手く説明できねぇが、そんな気がしていたんだ。だから、お前が責任を感じて泣いてるとあいつは悲しむぜ?」

 

 ディーノが私の頭を撫でながら話すので、涙がもっとあふれ出した。

 

「まっ、今日ぐらいはあいつも許してくれるか」

「……ディ、ノ……にいちゃん、が……死ん、じゃった……」

「ああ。そうだな……」

 

 私が泣きやむまでずっと付き合うだろうとわかっていたが、ディーノの優しさに甘えることしか出来なかった。どうしても思ってしまうのだ。兄は笑って起き上がるのではないか、と。 

 

 だが、そんな都合のいい話があるわけがなく、兄の心臓の音は完全に止まっていた。

 

「お兄ちゃん……」

 

 私がまた呟いた後に、パチパチパチと拍手の音が聞こえた。誰だか知らないが、私を怒らせるには十分な行動だった。兄が死んで拍手するなど、許せるわけがない。だから私は音がしたほうを思いっきり睨んだ。

 

「お前らも見えるのか?」

 

 拍手した人物は雲戦の時に見た男だった。そして男の言った内容に私も疑問を感じた。あの時、私以外に認識できなかったはずだった。しかし今はツナ達が男を警戒し、武器を向けてる。だが、ヴァリアーやγ達は警戒してるが、若干方向がずれているところを見ると認識できていない気がする。もっとも戦闘タイプのアルコバレーノの方向はずれていなかったが。

 

 私もなぜツナ達は見えるのかと疑問に思ったが、後回しにする。この男が今現れた理由の方が重要なのだ。涙が止まってしまうほどである。

 

「まぁいい。お前はオレの予想を超えた。まさかこいつが死ぬなんて思いもしなかった」

 

 男は残念そうに私を見て言ったが、恐怖とかは感じなかった。そんなことより気になったのは、兄をこいつと呼んだことだ。兄の知り合いなのだろうか。

 

「おかげで桂を使い、この世界を滅茶苦茶にしようとしたオレの計画が台無しだ」

「……桂を使って?」

 

 気力を使いきったはずのツナがいつの間にか起き上がっていた。

 

「オレの最高傑作だったんだがな。こんな馬鹿げたことで死ぬとは思わなかった」

「うおおおお!! 桂の生き様をバカにするのは極限にオレが許さーーーん!!」

 

 ふざけるなと私が行動を起こす前に、笹川了平が男に殴りかかっていた。

 

「っち。面倒だな」

 

 私にはよく見えないが、音からして1度も攻撃が当たっていないらしい。それどころか話す余裕すらあるようだ。

 

「いいのか? 桂の魂はオレが持ってる。……いつでも壊すことが出来る」

 

 その言葉に笹川了平はピタリと動きを止めた。それを見て男が溜息を吐く。言わなければわからないのかというようなバカにした溜息だった。

 

 気付けば男の手の上でふわふわと何かが浮いていた。何名からか視線を感じるので答える。震える声になったが、しっかり伝えた。幻覚じゃない、と。

 

「『真実の目』か? 知識といい、また弱弱しい能力を授けたな。あいつと繋がりを持つためにこれ以上与えることが出来なかったのか?」

 

 私を見ながらブツブツと呟く男の言葉に青ざめる。誰かから能力を授かったことではない。そんなことはどうでもいい。問題は男の最後の言葉だったのだ。

 

「……話すな。それ以上話すな!!!!」

「何があった!?」

 

 ディーノの焦る声すら、聞きたくないという風に耳を塞ぎ、ガタガタと震え始める。知りたくない、これ以上知りたくない。

 

「……はははは!!! これは傑作だ!! 気付いててごっこ遊びをしてたのか!!」

 

 ……ああ。耳を塞いでるのににどうして男の声は聞こえるのだろうか。

 

「話すな!! 話すな!!! 話さないでくれ……」

 

 こんなことを言えば、助長するとわかっている。だが、言わずにはいられなかった。

 

「お前のことなんて桂は何とも思ってねーよ」

 

 ツナ達が否定しているが、私には否定する声を出すことが出来なかった。

 

「はっ。桂がこいつを気にかけたのはこいつの能力のせいだ。……忌々しい。これのせいでオレの計画がつぶれたんだ」

 

 私の中でガラガラと何かが壊れるような音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 チョイスの時、兄に触れれば元に戻る夢を見た。

 

 鼻で笑うような内容だ。私に対して冷たい目を向けた兄が、私を刺そうとした兄が、それだけで治るなんてありえない内容だと誰もが思うだろう。……私以外は。

 

 現にディーノとリボーンも本当に大丈夫かと確認してきた。だから私は夢で見たから大丈夫と押し通した。死んでも話せなかったのだ。

 

 私のことを知らない兄が、本当の兄なのかもしれない、なんて……。

 

 夢を見てから、小さい頃に私が産まれて良かったと言った両親の言葉がこれほど重く感じたことはなかった。

 

 両親の言うとおり、兄は私と会って変わったのだ。……違う。私に触れて変わったのだ。

 

 私がツナに触れて、知識を得た時のように――。

 

 この時から私は思ってしまったのだ。兄は記憶を――兄は感情を植えられたのではないか、と。

 

 もちろん私はすぐに兄の眠っていた感情が解放されただけという可能性も考えた。ツナは何も知らず、私は思い出したように知識が流れたのだから。

 

 だが、それはないという可能性が強かった。なぜなら、兄は忘れたのだから。一向に私の知識は消える気配がないのに。

 

 もちろん誰かに話せば、他の世界を翔べる白蘭がやったから忘れた可能性があると言うだろう。しかし、それなら解放するのは私じゃなくても良かったと思うのだ。兄と私は歳が離れすぎている。他人のツナに触れて私は知識を得ることが出来たのだ。兄より後で産まれた人物じゃなければいけないのならば、兄が触れそうな人物にすればいいだけのことだ。7年も時間をかける必要があるのだろうか。

 

 私がツナに触れてから知識を得たのはズレを減らすためだと考えられる。だが、どうしても兄が7年も時間をかける必要があるのか説明することが出来なかった。

 

 それにスペックの低い私が、兄に触れるのはとても難しい。もし兄が感情を忘れた時のことを考えるなら、私じゃない方がいい。

 

 だからツナと兄は何も関係なく、全て元始は私だという考えが胸にストンと落ちたのだ。

 

 それからはとても不安だった。私に弱く甘いのは本当の兄ではなく、能力のおかげで大事にしてくれてるんじゃないのかという考えが頭から離れなくなった。

 

 私はどうしても不安になり、兄の首に腕を回したり手を握ったりすることを止めれなかった。触れていれば、私のことを忘れないのだから。

 

 そしてそれをすればするほど、兄は嬉しそうに笑うのだ。不安は減ることはなく増す一方だった。

 

 だが、こんなこと誰にも話せなかった。

 

 もし私のことを知らない兄が本当の兄なら……チョイスの時に兄が誰かを殺してしまえば、生き返れないかもしれないのだ。

 

 知識のある私が問い詰められるまでディーノに頼めなかったのは、本当に死んでしまうかもしれないから。『私のために死んでくれるのか?』という言葉は本気で言ったのだ。兄が変わってしまっても、それは白蘭の悪事に入らないのだから……。

 

 本当の兄はあの冷たい目だとしても、それでも、それでも私は兄が好きなのだ。

 

 たとえ植えられた感情だとしても、私は兄のことが大好きだ。

 

 気付いていて好きだと思う私は男が言ったように『ごっこ遊び』かもしれない。何も知らないフリをして、仲の良い兄妹を演じていたとも言えるのだから。

 

 ……兄はどうなのだろうか。

 

 もう声を返すことが出来ない兄に、聞きたい。

 

 ――それでもお兄ちゃんは、私のことが好き?


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