これは2話目です。
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※念のため
『残酷な描写』です。
落ち着いて気付いたが、この状況はもの凄く恥ずかしいのではないのか。おたおたしだした私のためにディーノが背中をポンポンと叩く。
ん、落ち着く。……そうではないのだ!
思いを断ち切りディーノから離れると、ビアンキが笹川京子達を抱きしめていたので特に変なことではなかったらしい。私が勝手に意識をしすぎてるだけなのだろう。妙に疲れた。
極力、幻騎士の方を見ないようにして兄を探す。私の背後に居たはずなのに居ないのだ。
「お兄ちゃん?」
「どうしたんだね?」
「わっ!」
驚いて声をあげてしまった。いつの間に私の隣に居たのだ。
「すまない。驚かしてしまったね」
「ん、大丈夫」
「いったい何をしたんだ?」
「ヒミツだよ!」
会話の流れからして、ディーノもよくわかっていなかったようだ。しかしなぜ兄は教えないのだろうか。
「まぁ凄いことは私にもわかった」
気にはなるが、話したくないのなら無理に話さなくていい。あまり手の内を教えると兄に不利なことが起きるかもしれないしな。
「なぁに、簡単だよ! ただ二度目の攻撃時に特殊な種を彼の身体に仕掛けていただけさ!」
私の気遣いを返してくれ。私に凄いと言われただけで、あっさりと吐くな。
兄が通常運転すぎて和やかな雰囲気が流れ始めたところに、共鳴音が鳴り響く。ついに始まったようだ。
ズボッという音が聞こえたので見ると、兄が地面に手を突っ込んでいた。他の人たちはユニに夢中で気付かないようだ。
「何をしている?」
「少し試してみようかと思ってね」
兄の言葉が終わると同時に地面から大量のバラが生える。今まで何度も見ていたが、成長速度が違いすぎる。直接地面に死ぬ気の炎を流しているからだろうか。そんなことを私が考えてる間に、バラはユニの結界ごと捕らえる。止まったようにみえたが、徐々にツナの方へ向かっていく。兄の額にうっすら汗が出ているところを見ると、かなり辛そうだ。
「っく!」
「お兄ちゃん!」
無理しなくていいと声をかけようとしたが、その前にブチブチと切れる。いくら兄のスペックが高いといっても大空の共鳴には勝てなかった。
膝をついて立ち上がらない兄が心配で、私は覗き込む。やはり辛かったのだろう。汗が噴出していた。
「先に行ってくれ」
「オレも残る。だからあっちを頼む」
全員に声をかけたつもりだが、ディーノが残る気のようだ。私1人で大丈夫だと思ったが「お前1人じゃ運べないだろ?」といわれれば黙るしかない。
「……もう少し、休めば問題ないさ」
リボーン達を見送った後に、ディーノのが肩を貸そうとすれば兄が言った。私とディーノは顔を見合わせ、もう少しの間だけこのままにすることにした。
「心配かけてしまったね」
私を安心させるためか、兄はいつも通りの笑顔だった。だが、額の汗を見ると無理をしてるのがわかる。せめて拭いてあげようと思いポケットを探れば、ディーノから借りたハンカチがあった。
ディーノに返すため洗ったものだったが、ここは割り切る。ハンカチを持参していない私が悪いのだ。また洗って返せばいい。……今度は私が洗うかはわからないが。
「サクラ、大丈夫だよ」
私がハンカチを使う前に、兄は自身のハンカチで拭き出した。……気付いたのかもしれない。これはディーノから借りたものだと。兄は私が普段ハンカチを持ってないことを知っている。
「どうして……無茶したんだ?」
最初は私に拭いてもらわなかったのだ。と聞こうとしたが止めた。兄は私の気持ちを察して自ら拭いたのだ。近くにディーノがいるため下手につつかない方がいい。それに無茶した理由も知りたかったしな。兄は私の話を聞いて無駄と知っているのだから。
「運命に抗うのはどれだけ難しいか知りたかったのかもしれないね」
兄の言葉がよくわからなくて首をひねる。話をもう少し聞きたかったが、兄は立ち上がり歩き出したので聞き逃してしまったのだった。
私達が到着すると、ちょうど再びボンゴレリングに炎がともったところだった。偶然と片付けれないようなタイミングである。
あまりにも現実離れした光景に、息を呑む。儀式のように感じているのかもしれない。
だが、残念なことに儀式が終わってしまうと私のスペックでは彼らの動きが速過ぎて全く見えない。目が疲れるだけである。
「行ってくるよ、サクラ」
目をパチパチさせていれば兄に声をかけてきた。いったいどこにいくのだろうか。
「次は結界を破るのだろ?」
「ああ。なるほど」
匣コンビネーションシステムをするためにバジルの元へ行くのだろう。だが、大丈夫なのだろうか。兄は炎をかなり出したはずだ。
顔に出てたのか、兄は私の頭を優しく撫でた。心配するなと言っているのだろう。
「サクラ、いい子でいるんだよ」
「ん」
兄に言われた通り、大人しく待つことにしよう。もう決着は近い。
兄達を見送りツナの方を向いたが、やはり動きが見えない。止まったタイミングにそこに居たのかと思うレベルである。
私が若干遠い目になったぐらいで、周りが騒がしくなった。準備が整ったらしい。
バジルが結界に向かっていく姿を見ながら、ふと気付く。兄はいつ指輪から戻したのだろう。アニマルタイプじゃなければ、炎を集めることは出来ないはずだ。手を見ると指輪がなくなっていた。いつの間に。
「ふむ! 僕が想像していたより窮屈じゃないね!」
目をこする。結界の中で変なものが見えた気がする。見間違いだろう。
「サークラー」
私に向かって手を振っていた。どうやら見間違いじゃないようだ。何をやってるんだ!?
「まさか僕に殺されるために来てくれるとは思わなかったよ」
「面白くない冗談を言わないでくれたまえ」
白蘭に声をかけられた兄はとても嫌そうな顔をした。なかなかの嫌われっぷりである。そんなことより、なぜ兄があそこにいる。そもそもγはどうしたんだ。なぜ当たり前のように結界の外でいるのだ。
「僕がわざわざここに来たのは、彼女に用事があったからだよ」
「私ですか……?」
「そうだよ。どうして君が命をかける必要があるのだい?」
「他には方法がないんです。ありがとうございます」
兄はユニを説得しに行ったようだ。γが行けば、2人とも亡くなると私が教えたからだろう。
「ならば、僕がいいことを教えてあげよう。他の方法があるのだよ」
「え……?」
膝を突き、ユニの手を持った兄は妹の目から見てもカッコイイと思えた。
「僕が相手だと不服かもしれないが、そこは許してくれたまえ。数分の我慢さ」
ちょっと待て。兄は何をしているのだ。ユニに指輪を嵌めてるように見えるのは私だけなのだろうか。……止めておけ。それは叶わぬ恋だぞ。
「あの、これは……」
「ん? 説明がまだだったね。たとえ君が命を注いでもそれのおかげで寿命は減らないよ」
……そんな便利な道具があるわけがない。
それに嵌めたのは指輪。私は似たような性能を知っている。しかし似ているだけでそんな機能はなかったはずだ。
「それをつけている間に何かあったとき、僕が全て肩代わりするからね」
「……!」
「僕の意思で外せるようになってるから無理だよ」
兄はとても優しく語り掛けていたのに、私には理解出来なかった。だから、ただ叫ぶ。
「お兄ちゃん!!!」
「ごめんよ。サクラにも騙すようなマネをして。僕の最期の頼みだ、許してくれないかい?」
そんなの許せるわけがないだろう。だが、兄の目は本気だった。
「僕はね、責任を取るのは彼女じゃないと思うのだよ」
「……責任なら私が1番あるだろ!!」
「違うよ。僕は自分で決めて手を汚した」
それも私のためだろう!!
「嫌だ! 嫌だぁ!! 嫌だぁぁぁぁ!!!」
「サクラ、わかってほしい。僕はそれを償いたいんだ」
「それなら、それなら……一緒に!! 私も一緒に!!」
結界へ近づこうとすれば、腕を掴まれた。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!! 私も一緒に連れてって!!!」
兄に向かって手を伸ばす。ディーノが止めることに腹が立った。
「ディーノ、離せ!!」
「……それだけは無理だ」
「離せ!!! それが最善なんだ!! 私が死ねば、全てが上手く行くんだ!!」
パシッと音が鳴り、気付けば頬に痛みが走っていた。
「……桂にあんな顔をさせるな」
ディーノに言われ、兄の顔を見るととても悲しそうな顔をしていた。
「桂の言葉をちゃんと聞くんだ」
グズっと鼻をすすり、目をゴシゴシと袖で拭いて顔をあげる。だが、すぐに涙で視界が歪む。
「……サクラの諦め癖は僕のせいかもしれないね」
そんなことはないと首を横に振る。言葉が上手く出なかったのだ。
「サクラ、よく周りを見るのだよ。サクラが頼れば、必ず助けてくれる良い人達ばかりだ。まぁ当然かもしれないね。サクラの友達なのだから」
「……ん」
「何事も諦めちゃいけないよ」
はっきりと言わなかったが、恋のことも含んでると思う。兄はずっと気にしていたから。
「わかったかい?」
「……うん」
「過去の僕もいるんだ。大丈夫だよ」
耐え切れずグズグズと泣き出すとディーノが頭を撫で始めた。
「サクラのことを頼んでもいいかい?」
「ああ。任せろ」
「桂!!」
笹川了平の大きな声に顔をあげる。2人は特に語ることもなく、握った手を突き出していた。それだけで何かが通じたらしい。
「僕を受け入れてくれてありがとう。とても楽しかったよ」
最期に兄は私に向かって笑って、そしてゆっくりと倒れたのだった。