これは1話目です。
こいつ、すげぇ……。
ディーノは心の中で呟く。桂の戦い方に戦闘中でありながらも舌を巻いたのだ。
チョイスの時はいたぶりながら相手を壊す印象が強かった。しかし今は味方が戦いやすいように動き、危険な攻撃は桂が受け持ち、さらにスキを見ては相手に決定打を入れようとしている。
攻撃に参加する数を考えると爆発力が減り弱くなった印象もあるが、一緒に戦ってるものからすれば、彼ほど背中を任せれるものはいない。なにせ攻撃を受けてもすぐに治るのだ。他の者と比べると安心感に差がありすぎる。
そして攻撃に転じれば、真6弔花が桂を避けるのだ。特に嫌がるのがブルーベルである。そのことから絶対防御領域の力より桂の活性の力の方が強いとわかる。ブルーベルをフォローするために桔梗が動くのだが、地中からの攻撃は桂のバラにより察知され脅威が軽減されている。1番桂にとって相性が悪いザクロは、ボンゴレとヴァリアーの手により桂に近づけもしない。
連携など取らない人物が揃ってる中、桂を中心に歯車が噛み合う、圧倒的なカリスマ性。だが、それはツナのように全てを包容するのではなく、全て桂色に染めてあげてしまうのだ。良い意味だけではなく、悪い意味でもだ。
しかし、その危うさが今はない。このまま行けば、時間の問題だ。だからこそ、この場にいるものは警戒した。白蘭は必ず何かしかけてくると。
そしてそれはやってきた。
「……GHOST」
ディーノは近くに居たためその言葉を発した人物が誰か気付いた。そのためすぐに声をかけようとしたが、桂はもう駆け出していた。
桂の渾身の攻撃だったが空振りに終わり、サクラの話通りだと確信する。炎を吸いとり、ツナを引っ張り出すために投入されたのだろう。
しかしそれでは疑問が残る。サクラの力に気付いたなら、他にも対策を立てるはずだ。現に桂からは死ぬ気の炎を吸うことができないし、もう片方の手袋を持ってるディーノも気付けば使うだろう。
たった2人だが、白蘭の計画の邪魔になるのは確実だ。どうしても腑に落ちない。
「桂、何か知ってるなら説明しろ!」
「……ディーノ、サクラの力は知識と予知だけであってるかい?」
説明を求めたのはディーノの方が先だったが、桂の真剣な様子に返事をすることにした。
「ああ。あいつの力は――」
言葉に止まったディーノに、桂は肩をつかみ必死に声をかける。
「サクラの力は他にもあるんだね!?」
「力といっていいのかわからねぇが、あいつは幻覚に強い。この中でも上位に入るはずだ」
動きを止めた桂のためにディーノは守るように動き出す。そして疑問を口にする。
「あいつは大丈夫なんだろ!?」
「……僕が間違っていた。戻らないといけない! ディーノ、君も来るんだ!」
サクラが避難している場所に向かった桂を見て、ディーノは戦況を1度だけ見て断ち切るように駆け出した。
「桂、説明しろ!」
「白蘭の狙いは僕達を戦場から離すことだと思う」
「ちょっと待て! それだと相手の思惑通り動いてることになるだろ!」
「仕方がないのだよ! 僕1人だけでは防げるかはわからない!」
桂の焦る様子を見て、息があがることになるがディーノは詳しい説明を求めた。
「GHOSTは沢田君にしか対処できない。だから彼はあそこから離れることになる。白蘭はそれがわかっていた」
「そうなるとしても、あそこにはリボーンがいるだろ」
「敵は術士だ。サクラしか気付かない可能性が高い。しかしサクラは戦闘に関しては素人だ。彼にサクラの反応だけで敵の居場所が読めるとは思えない」
「そうかもしれねーが……」
「彼の腕の良さは僕もわかってる。だけど、守る人数が多すぎるのだよ」
「……狙いはユニやあいつじゃねーのか!?」
「その通りだよ。サクラを殺せる可能性は低いと彼は知っているからね。壊すならこっちだ」
自らの心臓を刺しながら話す桂をみて、ディーノは苦い顔になる。桂はサクラに何かあれば、今度はどうなるかはわからない。何よりサクラが傷つくと知り、それを防ぐのに自身が必要というなら向かわないわけにはいない。GHOSTを何とかするためにも、これは必要な離脱だった。
桂も苦い顔をしていた。ヒントはサクラから貰っていた。
ユニには特殊な炎粉がつけられていない。戦闘に向かないものはユニと一緒に桂のシールドに守られていた。つまり戦場にいる誰かにつけられている。白蘭はユニの位置を正確にわかっていなかったのだ。
そのため真6弔花すら、囮に使った。
彼らが派手に動けば動くほど、ユニを探していることに気付かれない。ツナの性格を考えれば、ユニを守ると約束しても仲間から離れる可能性は低い。必ずすぐに駆けつけれる距離にいるだろうと世界を翔べない桂でも予想できる。
もし桂が気付かなかったり行かなかったりすれば、ユニがさらわれるだろう。そのついでにサクラも壊されるのだ。許せるはずもないし、サクラを元に戻すためにはユニの力が必要になる。
ツナが残ったとすればGHOSTが野放しになり、ユニの居場所がわかった時点でGHOSTが向かうことになる。現象ならば手出しは出来ないだろうが、混乱は必ず起きる。一般人が多いことを考えると1番避けたいものだ。たとえツナがユニを連れて移動するとしても、サクラ達が無事なのかはわからない。
桂が行けば、ツナを誘導しサクラの知識通り結界が出来る。そして、もしそこに手袋の存在に気付いたディーノを残していれば、殺されていた可能性が高すぎる。それを避けたいと思っている桂に選択は残ってなかった。
たとえユニとサクラが気付いたとしても、守りの手を緩めるわけにはいかない。そこから崩されるだけだ。白蘭の方が数手先を読んでいたのだ。
もしサクラだけが見える状況で、彼女達が亡くなってしまえばどうなるのか。ゾッとする未来しか浮かばない。
「あれは……」
「急ぐよ、ディーノ!」
ツナがGHOSTの元へ向かった姿を見え、焦る気持ちを抑えながら二人はサクラの元へ向かったのだった。
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ツナを見送り、ユニが連れて行かれるのも時間の問題だなと思った。だからついユニの顔をのぞいてしまった。
私と目があったユニはニッコリと笑う。黙っていろという笑いなのか、私が気にすることではないといっているのかわからなかったが、とにかく彼女は凄いということだけは断言できる。
「サクラ!」
兄の声が聞こえたので振り向くと、肩で息をした兄とディーノがいた。何をそんなに慌てて来たのだろうか。
「かわったところはないか!?」
ディーノの言葉に首をひねりながら、周りを見渡す。特に何もないんだが……と返事をしようとしたところで視界に何かが見えた。
「そこだねっ!」
見えた途端、すぐ兄の声が聞こえた。あまりのスピードで何かが起きたかはわからないが、最初に見えたものはわかった。
どうして、ここにいる。
私が驚いてる間に、銃声が聞こえたのでリボーンの仕業だろう。そして舌打ちが聞こえるなと思いながら、再び周りを見渡す。今は見えないので、さっきのは見間違いじゃないのかという気持ちが強かったのだ。
居た。私の見間違えじゃなかった。どうして……。
驚き声も失っている間に、再び見失う。それに見失う直前に見えたのはディーノのムチだった気がする。いったい、どうなってるのだ。
「サクラ、焦らずに落ち着くんだ。後ろからの攻撃は僕が通さない」
ゆっくりと息を吐く。兄の存在が心強かった。
「敵の姿は見えたかい?」
「……今はわからない」
「見えてるだけで十分だよ!」
語尾が強くなった兄が気になり振り向きたかったが、我慢する。状況ははっきりとわかっていないが、相手は強い。油断すれば一気にやられる。恐らく背後では兄がリングをレーダーのように使って、守ってくれてるはずだ。ただ範囲の問題で、私達全員を守れないのだろう。
兄が守るタイミングで相手を捕らえることが出来れば苦労がないのだが、相手は幻騎士だ。そう簡単に行かないだろう。
そもそもなぜ幻騎士が居るのかと思ったが、よく考えれば彼の最期を見ていない。桔梗がチョイスに参加しなかったのでチョイス中に殺されていなかったのだ。勝手にあの後に殺されていると思ってた。知識による弊害だな。
見えた。
声を出そうと思ったが、出す前に再びディーノがムチで攻撃していた。不思議である。
「捕まえた!」
止せ。それはフラグだ。
案の定、何をしたのかわからないが抜け出されていた。残念すぎる。
「……すまないね。僕がいいところをとってしまったようだ」
首をひねる。何事もなく空を飛んでる幻騎士が見えている私には、兄の言葉が理解出来ないのだ。
しかし、それはすぐにわかった。幻騎士の腕からバラが生えはじめたのだ。すぐに腕を斬り離した幻騎士だったが、バラの成長の勢いは止まらない。
「無駄だよ。もう手遅れさ」
目の前の光景が怖く、震えていた私をディーノが優しく抱きしめた。熱を感じ、ホッとしていた私は気付かなかった。兄が今どんな顔をしているのかを――。