立花くんのゾンビな日々   作:昼寝猫・

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「ハンティングはスポーツなんかじゃない。参加していることを、片方は知らないのだから」
                          ~ポール・ロドリゲス~



備えよ、常に

 あれから計二週間の滞在を終え、僕は沖縄に戻る事となった。

 

 試合後からは毎日のように冴子ちゃんに勝負を挑まれたが、もう勝てる気のしなかった僕はせっかくだから勝ち逃げすることにした。

 

 もちろん隠し手ぐらいあと二、三持っているが、手の内を全部晒す気はないし・・・そもそも、使っても勝てるだろうか?

 

 屋敷中を逃げに逃げ、あらゆる手段で気をそらしてついに僕は逃げ切った。

 

 健吾さんいわく、冴子ちゃんは同世代に負けたことが無く、とても悔しがっていたとのことだ。というか六歳で剣道はじめてる子ってそんなにいるのか・・・?

 

 確かに試合直後目に涙を浮かべ、唇をかみしめていた。かわいいなくらいにしか思ってなかったが、もしかしたらいわゆる「初めての挫折」ってやつだったのかもしれん。

 

 特に僕の方がほぼ一歳年下(僕は十二月生まれなのだが、国外の制度と組み合わせると非常にややこしいことになる。まあそれはまた今度話そう)だとわかってからはより顕著になった。

 

 呼び方も自分がお姉さんという事を出そうと「ようすけちゃん」になったし・・・まあすぐに「くん」に変わったが。

 いずれにせよ僕の一勝は、非常に彼女の対抗心を掻き立てたようだ。

 

 いつもより修行に身が入って助かったよ、とは健吾さんの言だが、俺は正直微妙な感じだ。将来とても助かるんだろうけどもさ。

 

 しかし、それ以外に関しては中々良好な関係だった。

「ムキになって突っかかれる初めての人(by健吾さん)」だったこともあって、良い子良い子しなくてよい初めての友達という位置づけに僕はなれたらしい。

 

 それは単純にうれしく思えた。

 

 最初や、試合に勝った直後はあの「毒島冴子女氏」!とか思っていたけども、いざ長く接してみると彼女も人間であると実感できる。

 

 もちろん彼女は人間であることに間違いはないのだけれども、そうだね、「すごい登場人物」といった感じを受けなくなったと言えばわかるだろうか?

 

 

 今は間違いなく、彼女は六歳の女の子でしかない。

 そして僕も、ただの五歳の男の子でしかないのだ。

 

 

 無意識のうちに、まるで彼女を非人間化して考えていた自分の思考を恥じるばかりだよ、まったく。

 

 僕の思い込みを改め、彼女と同世代のライバル兼友達となれるよう全力で遊んだ。

 もちろん多少は大人と子供の関係みたいになっちゃったけどね。

 

 

 年下のライバルのような友達に少しお姉ちゃんぶりたい冴子ちゃんと、同世代だけれど娘のように感じる僕の、奇妙な友情関係。

 

 

 しかし、その甲斐あって僕と冴子ちゃんは急速に仲良くなった。多少の違和感なんて時間が解決してくれる。そして子供の時間はとても速いのだ。

 

 お気に入りの場所を案内してもらったり、町を案内してもらったり、その過程で迷子になって二人して怒られたり。

 用意してもらったお菓子を巡り言い合いになったり、一人だけ稽古しなくちゃいけなくてふてくされた冴子ちゃんをなだめたり、一緒にお風呂に入ったり、一緒の布団で寝たり。

 

 最後の方、問題だろとか思われても仕方がないけれど。正直六歳相手に意識する方がだいぶ問題だと思うんだよね。

 

 どちらかというと、今の俺には、えらいフランクな娘か孫といった気持ちの方が強い・・・残念ながらね。

 それにほら、僕も引っ張られて子供してるし。将来すげえ良い思い出になるだろうな~とは思ってるけども。

 

 

 

 あ、コラ!冴子ちゃんシャンプー洗い落とす前にお風呂入るんじゃありません!石鹸で濁り湯作るっちゃだめだって!・・・え?そんなに楽しいの?・・・・・・じゃ、じゃあ僕もちょっとだけ・・・これはなかなk「コラァ!冴子!洋介ェ!!!!石鹸を無駄使いするんじゃない!!!」・・・「「ご、ごめんなさい」」

 

 

 

 

 あ、なんか変な部分回想してしまった。

 

 

 

 まあそんな感じで、二人して楽しく遊んだ。

 最後のほうでは近くの公園で友達も何人かできた。今僕はすごく青春してると思う。前世の僕が見たら哭いて悔しがるんじゃないだろうか?

 

 

 

 そんな楽しい時間も過ぎ去り、僕は今から沖縄に戻るところだ。

 

 

 

 今も見送りに来てくれているが、「またぜったい会おうね!やくそくだよ!!」と涙ながらに僕の手を握っている。

 

 まるで今生の別れのような、そんな悲壮感が冴子ちゃんから漂っている。

 

 かなり僕の事を気に入ってくれていることがわかる、まさか泣いて別れを惜しんでくれるとは・・・。

 

 

 健吾さんや両親は苦笑しているが、カワイイ女の子の悲痛な叫びに、周りのおばちゃんなどは少し悲しそうな顔をしている。

 

 

 そんな冴子ちゃんの手を握り返しながら、僕は今回の床主市訪問の成果について考察していた。

 

 

 

 今回の床主市訪問はとても有意義なものであった。

 

 

 

 『僕』がしっかり確認できたこともそうだし、床主市のことが確認できた事もそうだ。

 

 毒島の表札を見たときに「俺」だった時の事を、おそらくすべて思い出せたと思う。

 頭にかかっていた靄のようなものも消えたし、頭痛も二週間ばかり感じない。たぶん二度と頭痛に悩ませられることも無いだろう。

 その辺は純粋にありがたい、どこぞのローマ皇帝じゃないんだから、そんな設定はいらないのだ!

 

 

 前世ともいうべき「俺」の記憶を思い出したことで大きかったのが、「床主市」で『HOTD』の物語がスタートすることを思い出したことだ。

 

 急に「奴ら」が現れた世界、学園から主人公が脱出して生き延びていく、ゾンビサバイバルアクション。登場人物たちがだいぶ右翼的だったがかなり面白かったのを覚えている。

 

 

 俺は、地球総闘争状態の「グローバル市場競争」なんてクソくらえだが、今の「保守型資本主義」なんざ滅びてしまえとも思っている、経済右翼思想左翼なので、若干意見もあったが、ガンアクションが大好きなのでかなりハマった。

 

 ガンアクション好きであの作品が嫌いだった奴はいないんじゃないだろうか?

 

 銃にもこだわってるし、安易にショットガンで扉吹っ飛ばし、なんてことも無いし。

 どこぞの、ガスシリンダーの先端の切り替えスイッチにスリング吊ってた「破天荒」な傭兵モノとは、比べ物にならないくらい面白かった。

 

 今の汚れなき無垢な冴子ちゃんを思うと、微妙な気持ちになるが・・・エロイしね。

 

 

 だけど実際にHOTDの世界にいるとなると、困ったことが一つある。

 

 

 そう、完結していないのだ。

 

 

 たしか一応「休載中」扱いだったはずだ。

 

 物語の謎が全く解き明かされていないのは不安ではあるが・・・人生なんてそう何でもかんでも情報を得られるわけではない、そういった意味では諦めるしかないだろう。

 

 しかしいつだかわからないとはいえ、原作介入は決定事項だ。

 

 なんたって原作介入時に床主にいる事は、僕がここで生きていくうえで負託された条件なわけだし。

 

 それに逆らって行動するだけの理由を持ち合わせていないし、生まれ故郷だし、原作地だし、ここにいる分には原作知識が生きるし・・・それにせっかく物語の人物になったのだ、関わってみたいじゃない?

 

 でもだからこそ僕は手を抜くつもりはない。ありもしない絵空事のような危機も、僕にとっては「Clear and present danger(明白かつ現在の危機)」なのだから。

 すべてひっくるめて迎え撃ってやる。

 

 ここには冴子ちゃんもいる。新しくできた友達もいる。

 

 

 僕はここで、この床主で僕は守りたい人共に生き抜いてやる。

 

 

 

 そんな決意を心に秘めながら、

 

 

 

 

 僕は来年には君の後輩になるよ、という事をどう感情的になっている冴子ちゃんに伝えればいいかわからず、現実逃避していた。

 




 遅くなりました!辻堂さんの二次でちょっとしたことがありまして、こっち書くのが遅くなってしまいました・・・。
 ところでHOTDってどこが舞台なんですかね?洋上空港あるし関空あたり?でもアニメだとパンダ車が警視庁なんですよね・・・。
 あの城どこよ・・・。それによってできることの幅が全く違うのですが・・・。

 ちなみにガスレギュレーターにスリング掛けるという、狂気の沙汰を描いたのは「火線上のハテノレマ 」とかいうマンガですな。
 まあどこぞのマガジンをガスガンそのままで書いた漫画に比べれば・・・。



ポール・ロドリゲス
 アメリカのメキシコ系コメディアン。痛烈な風刺が非常に面白く。例のターミネーターが州知事の頃は「メキシコに鉄のカーテンを引くって?やって見な!言っておくが誰が作ると思ってるんだ?当てて見な!スイスチーズ並みに抜け道だらけになるに決まってんだろw」と皮肉した。
 例のロードショーの「不法滞在エイリアンの撲滅」と面白おかしくCMしていたが、エイリアンとはそもそも「外国人」と言う意味で、州知事は不法滞在メキシコ人の取り締まりを公約していた人物なので、『あのCM笑えるけど結構洒落になっていない』。


ガスレギュレーター
 ボルトがブローバックするのに必要な、火薬の燃えた際に発生するガスをどれくらい使うかを調整するノッチ。サイレンサーなどを使うとマズルから逃げるガスが減り、ブローバックに使うには多くなり過ぎるので減少させたりする。またボルトが煤で汚くなると動きにくくなるので、ガスを大目に使って無理やり動かしたりなどできる。また完全に切ってしまい、ボルトアクションにすることも可能。


明白かつ現在の危機
 法律用語。いかなる権利も実情の前には制限されるという意味。作者的にはふざけんなバーカ!と言った感じだが、残念ながらこの理念のもとにいくばくかの良い法律と、いくつもの悪法が作られた。なお、同名の映画で出てきた銃がゲーム「MGS3」のパトリオット銃のモデルであることはあまりにも有名。


完結していないのだ
 先生、続きが・・・読みたいです・・・!

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