立花くんのゾンビな日々   作:昼寝猫・

24 / 28
ミラーさんーCV山寺宏一

進行が遅くてホント申し訳ない。


Lalaland

「この箱は解いちゃっていいのかい?」

 

「あ~もう、全部開けちゃってください!どうせ本棚に入れるか収納箱に収納するだけですし」

 

 ズズッ

 

「なんだこれ・・・『FBI心理分析官』?すっごい禍々しい表紙してるけど、こんなの読んでるの?・・・気持ち悪くならない?」

 

 ズズッ

 

「意外かもしれないですけど、社会的弱者保護の重要性が死ぬほどよくわかりますよ、その本。でも学校のゼロ・トラレンスポリシーにもろに引っかかりそうですね」

 

「サイコパスも実は社会環境に造られるってやつ?俺はその論は暴論だと思うけどなぁ・・・たぶん退学じゃないの?」

 

 ズズッ

 

 

「・・・二人ともそんなのよく飲めるわね」

 

「そうですか?俺はこれ気に入ったんですけどね」

 

 

 荷解きをしながらマグカップからコーヒーを飲む僕とミラーさん。僕が淹れたものだが、母さんには不評のようだ。

 

「いやぁ、いいものを教えてもらった!これならインスタントも美味しく飲めそうだ!」

 

 顔に似合わず甘党と言うので、甘めに入れたコーヒーに生姜粉を入れたものを出すとミラーさんは大絶賛しながら、既に二杯お代わりをしている。

 嫌いな人はウエッとするので、このおっさんはスタバの常連と見た。

 

 

 話を聞いていくと彼は、普段建築作業員をしているとのこと。配線周りを独学で勉強したらしく、修理が得意らしい。

 

 本人曰く

「こういう配線とか勉強しとくと、首切られにくいかな~って」

 とのこと。

 

 なんでも妻を早くに亡くし、一人で娘を育てているらしい。会話していてわかったのだが本人の頭は良い。しかし金銭的な理由で大学に行けず、作業員でギリギリの生活をしていたらしい。

 

 ハンディーマンとして理解のある以来の仕方をしてくれて、かなり助かっていると母は感謝されていた。少しテレながら、有能な人だからよ~なんて言っているが、主な理由じゃあないだろう。

 

 

 聞けば高校在籍中に妊娠してしまったらしく、実家からは二人とも勘当されてしまったらしい。

 ・・・たぶん自分の過去とダブって見えたのだろう。じゃなきゃ父も母も、若い屈強な男を母一人の時でも家に頻繁に呼んだりしないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・あとは母さんが、近所に誤解されないために頻繁に一緒に遊びに来ているという、娘さんのサラを猫かわいがりしているからだろうね、うん。

 

 

 さっきチラリと見た冷蔵庫には僕の写真は一枚だけだけど、見たことの無い金髪の女の子と母さんが一緒に写った写真がたくさん貼ってあったからね。

 

 

「この前も一緒にケーキを焼いていたよ・・・い、いやぁ。このまま行くと娘取られちゃいそうな勢いだよね!ハハハ!」

 

「そのうちパパじゃなくて、おじさんて呼ばれたりしてね」

 

 

 おいおい、洒落にならんことを言わんでくれよとミラーさんは言っていたが、案外母さんがママと呼ばれる日は近い気がする。

 

 

 それにしても、床巣の実家も麗ちゃんと冴子ちゃんと撮った写真ばっかりだった。たぶん何も知らない人が見たら、僕がこの家の子だってわからないんじゃないかな?

 

 

 その後も色々話を聞いたが、どうやら僕とその娘さんは同じクラスになるらしい。あまり拘束されたくないので、公立小学校に行くからだ。

 家が近いのかとも思ったが、地図で見せて貰った限り、そんなことは全然なかった。米国はほんとなんでもでかいようだ・・・。

 

 いくつか高校入試問題などをやってみたが、正直アメリカの教育レベルは私立の良いところにでも行かない限りかなり低い。理系科目に関しては壊滅的なところが多かった。

 そして良いとこに行ってもどちらかというとレポートが重視されるので、時間ばかりが拘束されるのだ・・・日本のグレーゾーンも白と言い切る、右翼的で談合の集大成みたいな教科書教育が最高とは言わないが、正直日本式の方が効率的だし肌に合う・・・と思う。

 

 

 そんなこんなで当てどなく雑談をしながらだったけれど、それほど持ち物が多いわけでもないので、割とすぐに荷解きは終わってしまった。

しかしながら終わるまでにミラーさんは、結局四杯のコーヒーを飲み切った。

 

 

 この人、相当な甘党だな~。

 考えたのは僕だけど、二杯以上短時間で飲む気にならんぞ、僕は。

 

 

 

「さて、これで最後ですね!ありがとうございました」

 

「どういたしまして。さて、それじゃあ良い時間だし俺も家に帰るよ」

 

 

 ありがとう、助かったわ~と、相変わらずぽわぽわした母さんがサラへのお土産を手渡す。

 

 

「そうだ、洋介君。明日は暇かい?」

 

「明日ですか?明日は来週から通う事になる、小学校でも見に行こうかな~とか考えてましたけど、なんでですか?」

 

 

 それなら丁度いいと頷くミラーさん。

 

 

「サラも明日は暇なんだ、どうせだから娘に案内して貰ったらどうだ?」

 

 

 

 非常にありがたい提案をしてくれるミラーさん。どうやらいつの間にか携帯で連絡を取っていたようだ。

 

 

「それなら晩御飯はみんなで食べましょう?」

 

「え、いいんですか?いや~助かるな~!ここの家の飯は美味しいからな!」

 

「あらあら、褒めてもお酒ぐらいしかでませんよ?」

 

 

 満更でもなさそうな母さん。

 

 

「うわ、ミラーさんそれが目的か!こすい!」

 

「いいか、洋介君。褒めて得するなら、人間迷わずそうすべきなんだよ!

 

 

 

・・・それと最近娘の舌が最近肥えて来たみたいでね、この間パパのごはん美味しくないといわれてしまった・・・俺も正直物足りなくてな・・・」

 

 

 

「あ~、なんかすみませんでした」

 

「そこで謝られると、もっと立つ瀬がないんだけど・・・ゴホン!とにかく明日は学校の下見ってことでいいかな?」

 

「それじゃあお願いします。冗談めかしてしまったけど、割と助かります」

 

 

 困ったときはお互い様さと肩をすくめていうと、ミラーさんは中々様になっていたが、もしかしてこの差し出されたマグカップは五杯目という事だろうか?

 

 

 




説明

 ゼロ・トラレンスポリシー
 アメリカの教育機関における割れ窓理論を極端に取り入れた政策。学校側の考えるありとあらゆる危険物の所持、危険行為に対して厳罰に処すというもの。
 コロンバイン高校銃撃事件以降かなりの暴走を起こしており、食事用のナイフを食堂で使う、鉛筆を小型ナイフで削る、サウンドオブミュージックの演劇のために持っていたナチス将校の軍服、苛めに堪え切れず木の椅子で反撃に出た等の事柄で退学になる生徒が後を絶たない。例はすべて成績上位者にも関わらず退学処分を受けた。
 しかしながらいわゆるジョックと呼ばれるスポーツの得意な者たちによる虐めには寛容であり、コロンバイン高校事件以降アメリカではおよそ約一年半に一度の割合で、教育機関内でいじめを受けていた生徒による無差別銃乱射事件が発生している。無差別のモノを含まないモノは月一、犯人が生徒ではないものを含める場合は2012年以降週に一度をマークしている。
 ゼロ・トラレンスポリシーが虐めになんら効果が無いことや、根本的な解決に全くなっていない、また切り捨てられた生徒による犯罪の増加を促進しているという批判を受けている。日本においても同程度の厳しさを持つポリシーの導入が検討された事がある。

 ジンジャー入りミルクコーヒー
 作者がスタバのジンジャーマンブレッドコーヒーを気に入ったために作ったもの。特に何も考えずに入れたら美味しかったので、たぶん先駆者はいくらでもいる。

 アメリカの教育水準
 いうほど低くはないです。ただ理系科目は基礎教育では非常に衰退しており「レジ打ちがお釣りを間違えないなんてありえない」「ネイソン・ゾナーによる一酸化二水素に関する社会実験」等、特に数学分野における上位校以下の学校の生徒の水準は日本の中学生程度でしかない。

 サイコパスと社会環境
 いわゆるサイコパスとされる人物の、そのほとんどが幼少期から重度の継続的心的あるいは精神的虐待を受けている。故に社会保障によりそのほとんどの発生が抑止可能であり、サイコパスの条件にDNAは関係ないとされている。
 虐待被害者が加害者になる確率は10~20%程度である。ただし重度の虐待を受けたものの加害者転向率は80%を超えている。

 教科書教育
 そういう考えもあるということ。作者は制度自体は悪くないと思うが、「誰にとって効率的であるか」という事は常に考える必要性があると思われる。いまだに「四大文明」等と記しているあたり、心底権威的な書物であることはたぶん誰にも否定できないと思われる。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。