Fate/Smith Order   作:色慾

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だんだんオリジナルルート分岐していきます


第6話

アヴェンジャーの背に乗せられて辿り着いたのは、冬木市の西外れにある森だった。とは言っても、既に焼き跡の新しい枯れ木の残骸しかなかった。半ば崩れ掛かった白亜の城跡を、器用に瓦礫の山を飛び越えながら、アヴェンジャーは行く。同じ四つ足とは言え、馬とは比べ物にならないほど反動の大きい獣の背から落ちずに居られるのは、偏に背後から器用に支えてくれている黒衣の騎士のおかげだろう。少し後ろから、サーヴァント化したため飛躍的に身体能力が上がったマシュが難なく併走する。

 

日はすっかり落ち、ポツポツと小雨が降り始めている。かつては立派な吹き抜けのホールであっただろうか、美しい面影を僅かに残した西洋の宮殿風の建物の中へ一同は入った。やや乱暴に狼の背から放り出された藤丸立香を、マシュが流れるような動きで抱きとめた。瞬間、獣の冷ややかな視線と、怒気を孕んだマシュの眼差しが交差した。前途多難だとこめかみを抑えながら、ロマニとの通信回線を確保し、物資を送ってもらう。黙々と火を起こし始めた騎士を尻目に、銀狼は早々と森の中へ姿を消した。

 

「漸く一息つきましたね、先輩。取り敢えずご飯を食べて、今日はゆっくり休みましょう」

 

「そうだね。ありがとう、マシュ」

 

言われた途端、ぐぎゅるううとお腹が鳴った。お約束である。どこからともなく笑った気配がして、横を見てみれば、ソツなく火を起こし終えた首無しの男が、本来口があるはずの位置に黒皮に覆われた片手で覆い、小さく肩を震わせて居た。思わずマシュと二人揃って赤面する。転送された小鍋で湯を沸かし、粉末を溶かしただけの即席スープを啜る。そこで漸く、一息ついた。

 

「少し情報を整理しよう。君に話を聞きたいけど、良いかな?」

 

雨足が強い。半壊した建物の壁では風までは凌げない。焚き火に手を翳しながら、ひとしきり笑った黒衣の男を振り返る。左胸に右手を置き、優雅に上体を傾げた姿に、先の戦闘の猛々しさは微塵もなく、立香はほっと胸を撫で下ろした。

 

「ありがとう。それじゃあ、肯定はこう手を縦に、否定は手を横に切ってくれるかな」

 

〈はい〉

 

「君たちは二人で一つのサーヴァントなんだよね?」

 

〈はい〉

 

「主体は君の方?」

 

〈いいえ〉

 

「名前を教えてくれる?」

 

〈いいえ〉

 

「覚えてないの?」

 

〈いいえ〉

 

「そうか。なら、勝手に呼び名を決めさせてもらうよ。デュラハン…いや、ホロウでどうだろう?」

 

ざわりと、男の雰囲気が変わる。殺意とは違うものの、ピンと張り詰めた空気に、立香は胸が苦しくなる。マシュなど、咄嗟に宝具の盾を構え、臨戦態勢だ。はて、何か触れてはいけないところに触れてしまったのだろうか。だが予想外にも、男が表したのは、狂おしいほどの歓喜だった。片膝をつき、火のそばでくつろぐ立香の手を、聖人のそれであるかのように取り、本来頰があるべき所へ持って行く。

 

「ええと、もしかして、気に入った?」

 

〈はい〉

 

「それは良かった。今日から君の事はホロウと呼ぼう」

 

ホロウという言葉が、どうやら男の根幹のようなものに触れた気がした。今回は喜んでもらったから良いものの、サーヴァントと接する時はもっと慎重になるべきか。男の真意に立香が気づくのは、まだ先の先である。

 

 

 

 

『ごめん、急いでくれ。目標まであと3キロだけど、魔力反応が弱くなってる』

 

ロマニの緊迫した声が通信越しに聞こえる。時刻は夜0時を回った所だ。ホロウに見張りを任せ、眠りについて暫くして、耳をつんざくような女性の叫び声に叩き起こされ、現場に急行していた所である。守りの要であるマシュの両手を塞ぎたくなかったので、今回はホロウが立香を抱き抱えながら移動していた。因みに、アヴェンジャー(本体の狼の方)は、森に消えたまま行方が知れない。一先ずホロウに聞いたところ、放っておいても問題なさそうなので、あえて呼び戻したりはしていない。しかし、事前のドクターの観測によれば、生身の人間は立香とマシュだけのはずだった。なぜ今になって生存者が現れたのだろう。


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