Fate/Smith Order   作:色慾

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第4話

「何とかなりましたね」

 

「うん。マシュのお陰だ」

 

「いえ、僕なんて。それに、先輩がいなければ…」

 

『ああ、やっと繋がった!もしもし、こちらカルデア管制室、聞こえるかい!?』

 

「はい、感度良好。こちらAチームメンバーマシュ・キリエライト。藤丸立香と一緒に行動しています」

 

『やはり藤丸くんもレイシフトに巻き込まれてたか。コフィンもなしによく意味消失に耐えてくれた。それは素直に嬉しい。もちろん、マシュ君もだ。無事で何より。けどその服装はどうしたのかな、君まさか鎧(それ)のままコフィンに…」

 

「Dr.ロマン!良いから僕のバイタルをチェックしてください。それで全て分かると思います」

 

『君の状態?どれどれ、…っ!?お?ぉおおおおおおおおお!?身体能力、魔力回路、全部上昇してる!これじゃあ人というよりーー』

 

「ええ、御察しの通りですね。爆発の際、今回の特異点調査用にカルデアが事前に用意した英霊と融合しまして。そちらもマスターを失い、消滅する運命にあったので、サーヴァントとしての能力や宝具を譲り渡す代わりに、僕らにこの特異点の元凶を突き止め、解決するようにと」

 

『まさかカルデア6番目の実験が成功するとはね。それで、君の中の彼の意識は?』

 

「残念ながら。戦闘能力を託してそのまま消滅しましたので、僕は自分の真名はおろか、この宝具の使い方すらロクに分かりません」

 

『そうか…』

 

通信先でわずかに落胆したような声が聞こえる。マシュも思うところがあったのか、ショックで少し俯いてしまっている。淡い菫色の髪を梳くようにして、頭を撫でてやる。

 

「先輩?」

 

「大丈夫、マシュがいれば百人力だ。英霊だって最初から何でも出来たわけじゃない。これから学んでいけば良い」

 

『その通りだ。サーヴァントの唯一の弱点はマスター不在で存在を保てないこと、つまりこれからは藤丸くんとマシュのどちらも、お互いの命脈となる。どうか力を合わせて立ち向かって欲しい。

 

もちろん、カルデアからのバックアップもある。今回のミッションはーー』

 

「Dr.ロマン、通信が安定しません、通信途絶まで、10秒」

 

『ああ〜、予備電源でシバが安定しないのか!2キロほど進んだ先に霊脈の強いポイントがある、まずは其処を拠点として召喚サークルをーー』

 

 

 

幸い霊脈地までは敵襲もなく、安全に移動できた。再び通信が回復し、ロマニの指示通りマシュの盾を使って召喚サークルを設立する。カルデアの技術を使えば、詠唱を破棄してこの虹色のモヤッ●ボールを投げ入れるだけで召喚ができてしまうのだから、便利なものである。何だかガチャガチャのようで少し気が抜けるが。これからの戦力を考えると、マシュには引き続き守りをお願いするとして、機動性のあるランサーか、遊撃に適したアサシンなどが望ましいがーー

 

『すごいぞ!藤丸くん、初めての召喚だというのに凄まじい魔力反応だ!これは心強い味方が、…いや、すぐそこを離れるんだ!!」

 

期待に反して、耳に飛び込んできたのは、遠雷のような獣の唸り声だった。通信越しに、ロマニの慌てた声がする。青い炎を纏った、3メートルと言う大きな体格を誇る銀狼が目の前に顕現する。その上に乗るのは、一対の大鎌を構える首なし騎士だ。相互理解など不可能。ただ憎悪のみが宿るそれは、事前に説明を受けた七騎のどれでもなく、復讐者(アヴェンジャー)というエクストラクラスとして実態を得た。

 

甲高い金属音が響く。藤丸立香は振り下ろされた前足を避けはしなかった。本能的に湧き上がる恐怖を押さえ、それを仕込み杖の刃で受け止める。圧倒的な力の差に無様にも地に倒され、顔の横に大きなクレーターができる。噛み付こうとするそれに、マシュが大楯で突撃を加えようとするが、体格差もあるのかビクともしない。

 

「くっ、φλοξ(プロクス)」

 

内なる炎を呼ぶ。立香の身体に纏わされたそれに、獣は本能的に後ずさり、すかさずマシュが庇うように割り込む。苛立ったように低く唸り、凄まじい跳躍力で大地を蹴る。地面に亀裂を入れながらほぼ真横へ飛び上がった獣の巨体から、首なし騎士がマシュを突き飛ばし、再び立香は銀狼の下へ囚われた。遠吠えを上げ、大口を開ける名も知らないサーヴァント。澄んだ瞳と視線が交差した瞬間、互いの混ざり合い、走馬灯となって一気になだれ込んだ。


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