Fate/Smith Order   作:色慾

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特異点F_A.D2004 炎上汚染都市 冬木
第3話


杖をつき、藤丸立香は必死に火の手が回る廊下を歩く。走れない己に歯がゆさが募るが、焦る感情を必死に押さえつけて、一歩ずつ確実に管制室に近づく。

 

「せ…んぱ。い、……」

 

焦熱地獄と化した管制室から、微かに呻き声を聞き取る。踏み入れた立香の足元に、爆発に巻き込まれたのか、血みどろのマシュが横たわっていた。何らかの機材が倒壊したのか、その下敷きになったマシュを何とか引っ張り出そうとするが、徒労に終わった。

 

「早く、逃げ…僕はもう……」

 

「それはできないよ、マシュ。君は私と一緒に歩いてくれるんだろう?」

 

アメジストのような澄んだ瞳が、大きく見開かれ、そして細められた。

 

『観測スタッフに警告ーーによる観測データをーーます。人類の生存は確認できません。人類の未来は保証できません。ーー封鎖します」

 

「カルデアス…真っ赤だ。先輩は、……バカです…こんな、ぼく、の……」

 

「ずいぶんな言われようだ。大丈夫。私はここにいる」

 

『レイシフトーー員に達していません。マスターを検索ーー者あり。ーー再設定ーー霊視変ーーを開始します」

 

「手を…」

 

「うん」

 

差し出された手を握る。不思議と恐れはない。

 

「ーー完了、

 

レイシフトを開始します。

 

ーー3

 

ー2

 

1」

 

眩い光とともに、藤丸立香の意識は閉ざされた。

 

 

 

 

 

「……ぱい、先輩!…いえ、マスター!起きてください、死にたいのですか!」

 

余りにも必死な呼び声に、立香の意識は急浮上した。すぐ視界に飛び込んだのは、涙に滲んだ紫色の瞳だった。上体を起こした瞬間、ガバリと力強く抱きしめられる。

 

「本当に、良かった」

 

「フォーウ!」

 

いつの間にか忍び込んだのか、フォウくんが肩に飛び乗った。思考が追いつかない。何故マシュや自分が生存しているのか、何故マシュは自分のことをマスターと呼んだのか。なによりーー

 

「マシュ、その装備は……コスプレ?似合うけど」

 

そう、マシュは先ほど管制室に居た時の服装ではなく、中世ヨーロッパの、紺色のプレートアーマーのようなものを身につけて居た。近くには十字架のような紋章のついた、マシュの身丈くらいの、大きな盾まである。

 

「実はーー説明は後で。敵襲です、先輩、いいえ、マスター、指示を」

 

マシュの手を借り、立ち上がる。いつの間にか、骸骨の形をした化け物に囲まれて居たらしい。緊張した面持ちで大盾を構え、マシュが一歩前に出る。余り戦い慣れて居ないのだろう、鈍重そうな盾を振り回し、力任せに敵を打ち砕いている。視野が狭く、前面の敵に気を取られているため、背後を取られやすい。

 

思った通り、撃ち漏らしたらしい一匹が、マシュの背後を襲う形で立香の前に躍り出た。くるりと反転し、立香は杖を握りしめる。逆手に持つ形で、杖に仕込んだ小太刀を振り抜く。素早い一閃が骸骨兵を武器ごと切り裂いた。

 

「先輩っ!?すみませんっ」

 

「大丈夫、集中して。マシュが背中を守ってくれるなら、こっちから近づいた敵くらいは受け持つよ」

 

「はい、心強いです!」

 

一層勢いを増した打撃でマシュが周囲の敵を盾で薙ぎ、払い、そして粉砕する。だが後から後から敵が湧いてくる状況では、戦闘が長引けば長引くほど不利だ。

 

「キリがない。本当は粗方始末したら離脱したいところだけど」

 

思わず歩くのさえままならない左足に視線が行く。最悪自分を切り捨てて、マシュだけでもーー

 

「なら僕の背中に乗ってください。絶対に、守り抜いてみせます」

 

「ふふ、マシュは頼もしいな。10秒だけ隙を作ってくれないか。そうしたら、マシュは私の後ろに、いいね?」

 

「了解です、マスター。マシュ・キリエライト、行きます」

 

まるで考えを見抜いたかのように釘を刺される。思いの外強い眼差しを受け、立香は思わず笑ってしまった。離脱準備のため、マシュに前に出て敵を集めてもらい、ポケットに忍ばせた金槌を取り出す。豪奢な紋様の刻まれたそれに左手を沿わせ、内なる炎を呼び覚ます。

 

『ーー鋼鉄を鍛えし賢者

ーー大河を焼きし勇者

ーー我が身は神の栄光を示すもの

ーー我が手は人の武勲を作るもの

ーー豪炎よ来たれ』

 

「マシュ、今!」

 

「はいっ!」

 

φλοξ Ἥφαιστος(プロクス・ヘファエストス)!!』

 

素早く背後に下がったマシュと入れ替えに一歩踏み出す。立香が炎を纏った金槌を振り下ろす動作をすると、骸骨兵らは足下に走った亀裂から吹き出した炎に飲まれ、跡形もなく消え去った。

 

「マスター、離脱しましょう」

 

暫く呆然とその光景を眺めて居たマシュだったが、素早く立香を背負うと、一目散に駆け出した。


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