Fate/Smith Order   作:色慾

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第2話

シャワーで汗を流し、少しすっきりしたところで、支給された制服に袖を通す。カルデア戦闘服と名付けられたこの礼装は、物理・魔術の耐久に優れ、更には立香のような魔術を体系的に学んでない人間でも簡単に魔術を行使できるよう補助してくれる優れものだ。唯一の難点はベルト二本で上下挟まれているせいで、立香の豊かな胸からすると窮屈に感じる点だろうか。なぜこうも胸部を目立たせたかったのか、設計者に問い質したい。

 

「先輩、そろそろ時間です」

 

時間通りに来たマシュと一緒に管制室へ移る。歩きながら聞いたところによると、所長は若い女性で、名門アニムスフィア家の現当主だとか。話半分聞き流した立香に、最近かなりイラついているようなのでできればあまり刺激したくないと締めくくって、マシュは管制室の扉を開いた。

 

「…っと、ちょっと!!そこの貴女!よりにもやって最前列で寝るなんて、いい度胸ね!?」

 

ヒステリックな声で意識が浮上する。どうやらマシュの忠告も虚しく、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。常からは考えららない状況に、一つの疑念が頭を過ぎった。恐らく、何らかの睡眠暗示にかかっている。思わず思索に耽る立香だったが、それを無視と取ったのか、一層甲高い声でオルガマリーは喚き立てた。

 

「聞いているの!?一般枠の足でまといの分際で、よくも私に恥をかかせてくれたわね!!良いわ、出て行きなさい!貴女のような役立たずにカルデアの席がないと知るが良いわ!!」

 

 

 

廊下に追い出されて、一息つく。意識を朦朧とさせる何かがある空間など、長居は不要だ。あとは優秀なマスター候補諸君に頑張ってもらうとしよう。唯一、一人残して来てしまったマシュが少し気がかりではあったが。とは言えあの場から無理に連れ出そうとするのは不自然だ。仕掛けて来た誰かに警戒されては元も子もない。自室に戻り、念のため、自作の歩行補助器具と杖をを調整する。

 

「やあ」

 

ノックして、返答も待たないうちにゆるふわ系ドクターが部屋にやって来た。

 

「どうしたんだ、ロマン」

 

「いやあ、実を言うとこの部屋、前は僕の避難場所だったんだ。現場にいると場の雰囲気が緩むってよく所長に怒られてたからね。それで、同じ怒られた同士の君と、一服しようかと思って、ほら、お茶とお菓子」

 

「それは避難というか、ただのサボ…」

 

「おっとその先は言わせないよ!おや?それは」

 

「自作の歩行補助器具だよ。私は左足の骨が変形してしまっているから、この外部骨格のようなもので、荷重を分散してバランスを取りやすいようにしてるんだ」

 

「すごいじゃないかコレ!君さらっと言ったけど結構大発明だぞ!」

 

興奮したロマニに予備のものを渡す。しげしげと手にとって眺める姿はなんだか子供のようで少し微笑ましかった。

 

『ロマニ、あと少しでレイシフト開始だ。至急管制室へ来てくれ。Bチームの一部に体調の悪い者がいる。医務室からここなら、2分もかからないだろう?』

 

アナウンスを聞いて、ロマニはあからさまに嫌そうな顔をした。さらばお菓子タイムなどとぶつくさ言いながら、腰を上げた。

 

「どうするんだ?ここから管制室は遠いぞ?」

 

「大丈夫、適当に言い訳するよ。今の男はレフ・ライノール。あの疑似天体(カルデアス)を観るための望遠鏡ーー近未来観測レンズ・シバを作った男さ。それじゃあ、僕は行くよ…っ!?」

 

ロマンが踵を返そうとした途端、明かりが消え、遠くで爆音が響いた。

 

「緊急事態発生、緊急事態発生。中央発電所及び中央管制室で火災発生。中央区画の隔壁はあと90秒で閉鎖されます。職員は速やかに第2ゲートから退避ーー」

 

「なっ!?爆発か?モニター、管制室を映してくれ」

 

モニターに映した管制室は既に火の海だった。マシュの姿が見えない。やはりあそこで無理にでも連れ出すべきだったか。立香は杖を握りしめ、立ち上がった。

 

「無茶だ。君は速やかに避難してくれ。僕が管制室に行く」

 

「いや、私も行くよ、ロマン。どちみちこの足じゃ避難はもう間に合わない。まだ構造的に一番頑丈な管制室の方が生存確率は高い」

 

少し悔しげな顔をして、ロマンが頷く。

 

「分かった。でもくれぐれも無茶をしないように。僕の無線を持って行って。何かあったら絶対連絡して」

 

先に行ってしまったロマンを見送る。無線機をポケットにしまい、枕の下から小さな金槌を取り出す。

 

「やれやれ、こいつを使う日が来るとは」


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