【完結】もしも、藤ねえが同い年だったら   作:冬月之雪猫

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第十五話『Let sleeping dogs lie』

 衛宮が眠ると、釣られるように藤村も眠ってしまった。

 

「……無理しやがって。大方、僕達に心配を掛けないように、無理に明るく振る舞ってたんだろうな」

 

 勝手知ったるなんとやら。僕は隣の部屋の襖を開いた。

 そこには藤村が寝泊まりする時に使っている布団が入っている。ついでに、一緒に入っている桜の布団も敷いておく。

 

「おい、ライダー。藤村をここに寝かせておいてくれよ。僕は衛宮の布団を取ってくる」

「かしこまりました」

「シンジ。私も手伝います」

 

 手伝いを申し出てくれたセイバーに待ったをかける。

 

「布団を運ぶくらい一人で出来るよ。それより、イリヤスフィールを監視しておいてくれ。あと、桜の事も見ておいてくれると助かる。桜は衛宮と藤村の事が大好きなんだ」

「……かしこまりました」

 

 セイバーも感じるものがあったようで、素直に従ってくれた。

 

★もしも、藤ねえが同い年だったら 第十五話『Let sleeping dogs lie』

 

 二人を寝かせると、とうとう痺れを切らした桜が口を開いた。

 藤村と衛宮の性格は桜も熟知しているから、今までは我慢していたのだろう。

 

「……なんで、先輩達を狙ったんですか?」

 

 少し怖い。

 腰が引けている僕とは対称的に、睨まれている当人であるイリヤスフィールは涼しい顔をしていた。

 

「あなたに教える義理はないわ」

「あなたはっ!」

 

 立ち上がりかけた桜の肩を掴む。

 

「落ち着けよ、桜」

「でも! 兄さん!」

「……ライダー。自己封印・暗黒神殿(ブレーカー・ゴルゴーン)を使え」

「かしこまりました」

 

 イリヤスフィールの表情が歪む。だけど、容赦するつもりも、躊躇う理由もない。

 

「シンジ。彼女に何をしたのですか?」

 

 セイバーの目に警戒の光が宿る。

 

「情報を吐き出させる。衛宮と藤村が嫌がるから、始末はしないが、安全は確保しないといけないからね」

「……なるほど」

「文句があるなら言っときなよ。聞くだけは聞いてやるからさ」

「ありません。彼女の危険性は未知数ですから、情報を抜き取る手段があるのならば僥倖です」

 

 理想的な回答なのに、苛立ちを覚える僕は本当に性格が悪いな。

 

「……衛宮なら、僕をぶん殴ってるぞ」

 

 そう言うと、セイバーは僅かに目を見開き、そして微笑んだ。

 

「なんだよ……」

「失礼。少々、知人を思い出しました」

「はぁ?」

「お気になさらず」

 

 意味が分からない。

 

「シンジ」

 

 どうやら、ライダーが情報を抜き取り終えたようだ。

 なんだか、困ったような顔をしている。

 

「どうやら、イリヤスフィールはエミヤシロウの姉のようです」

「……は? いや、え? 姉?」

 

 耳がおかしくなったのかと思った。

 

「ラ、ライダー。姉って、どういう事?」

 

 どうやら、桜の耳にもイリヤスフィールが衛宮の姉というエキセントリックな言葉が聞こえていたらしい。

 

「……なるほど。では、彼女はキリツグの娘なのですね」

「は?」

 

 理解が追いつかない僕とは裏腹に、セイバーは納得したような表情を浮かべている。

 どんな理解力だ!?

 

「……え、ええ、その通りです。彼女はエミヤシロウの父親であるエミヤキリツグがアインツベルンのホムンクルスとの間に設けた娘です」

「ちょっ、ちょっと待て! 処理し切れない! まず、なんで衛宮の親父がアインツベルンのホムンクルスと子作りなんてしてるんだよ!?」

「キリツグは前回の聖杯戦争に参加していたのです。アインツベルンのマスターとして」

 

 答えたのはライダーではなく、セイバーだった。

 

「……なんで、お前はそんな事を知ってるんだ?」

「前回、キリツグが召喚したサーヴァントも私だったからです」

「は?」

 

 駄目だ。何から聞けばいいのか分からない。

 

「ストップ! 待て! 整理させろ! クソッ、衛宮を起こすべきか!? いやでも、どう説明する!?」

「……落ち着いて下さい、シンジ」

「落ち着けるか! ……とにかく、一つ一つ確認していくぞ。いや、とりあえず抜き出した情報を全部聞いてからにしよう」

 

 僕はライダーに続きを話すよう促した。

 

「セイバーの言うとおり、エミヤキリツグは前回の聖杯戦争に参加していたようです。……ただ、過程は不明ですがアインツベルンを裏切り、イリヤスフィールの下に二度と戻ってくる事は無かったようです。その為、彼女は父親が自分を捨てたのだと考え、復讐しようと目論んだようです」

「……なるほどね。衛宮の親父は随分前に死んだらしい。本人がいないから、代わりに息子をターゲットにしたってわけか」

 

 僕はセイバーを見た。

 

「……で、その過程については教えてもらえるのかい?」

「長くなるので詳細は省きますが、キリツグと私はアーチャーとそのマスターを除く全ての敵を殲滅しました。そして、聖杯に後一歩の所まで近づきました。けれど、瀬戸際でキリツグが裏切り、私に聖杯の破壊を命じました。何故、彼が裏切ったのかは分かりません」

 

 聖杯を破壊した。万能の願望器に後一歩の所まで近づいておきながら?

 

「質問なんだけど、衛宮切嗣はなんでアインツベルンのマスターなんてやってたんだ? そもそも、アインツベルンは外部との接触を極端に嫌う一族の筈だぞ」

「……詳しい事は分かりません。なにしろ、彼とまともに会話をした回数は片手で数えられる程度でしたから」

「はぁ? なんだよ、それ。意味わからないぞ」

「必要性を感じなかった事と、私達は互いに……いえ、そこはどうでもいい事です。ただ、会話もほとんどが戦略を練る為のものだったので、プライベートな事はほとんど聞いていません」

「マジかよ……」

 

 そもそも、英霊は召喚される度に記憶がリセットされる筈だとか、ツッコミたいところがたくさんがあるが、僕も割りと疲れている。

 そろそろぶっ倒れそうだ。

 

「……とりあえず、事情は分かった。一応、ブレーカー・ゴルゴーンは維持しておいてくれ。明日、改めて衛宮達と話そう」

「かしこまりました」

 

 静かだと思ったら、桜も大分うつらうつらしている。

 時計を見ると、もう二時を過ぎている。

 あくびを噛み殺しながらライダーに桜を布団へ運んでもらって、その間にセイバーに話し掛けた。

 

「お前、なんであんなにペラペラ話したんだ?」

 

 衛宮の親父のサーヴァントだった事を含めて、仮にも敵対する可能性がある相手に話すべきではない事まで彼女は語りすぎていた。

 

「……先程も言いましたが、貴方は知人によく似ている。彼も妹を大事に思い、友を大切に思う人物でした」

「それが何だよ……」

「貴方は、口でどう言おうと、最期までマスターを裏切らないでしょう。ならば、むしろ話しておいた方がいいと判断しました」

「……意味分からねぇ。お前、そんな調子で他の奴にまでペチャクチャ情報を漏らしたりするなよ」

「ええ、もちろんです」

 

 なんというか、掴み所のない女だ。

 

「……僕も寝るよ」

 

 ライダーに警戒を頼み、布団に潜り込む。

 すると、ブレーカーが落ちたように意識が闇に沈んだ。

 まったく、濃密過ぎる一日だったな……。


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