翔「今回は連続投稿のようだ。」
電「三連休で調子に乗っているのです!」
翔「誤字報告が上がらなければいいのだが...」
みんながドックへ向かってひと段落。
私が一人倉庫で休んでいると、
「......」
誰かの視線を感じる。
「む?もう上がったのか?」
「!!」
扉から誰かが離れる。しかしその扉の隙間から、薄桃色がかった水濡れの白髪がちらりと見えた。
「春雨か、やけに上がるのが早いな。
...ちゃんと暖まったか?」
覗いていたのがばれて、観念したのかそっと倉庫に入ってくる。
「その、私は駆逐艦ですし、あまり怪我を負っていなかったので...はい。」
確かに昨晩見たときの服装や身体は、そこまで傷ついていなかったことを思い出す。
「そういえばそうだったな。
ふむ...ちょっと来てくれ。」
「??」
そう言って翔はバッグの中から...
∽
ブオーーーー!!
「な、なんで...こんなの持ってるんですか?」
「聞こえないぞ!」
気の弱い春雨はうっ...となったが、こうなってはやけくそだ。勇気を出して声を張る。
「な、なんでドライヤーと櫛を持ってるんですかー!」
「電の髪を乾かすのが私の仕事の一つだからだ!」
「私の髪を乾かす必要なんて無いですー!」
「濡れたままでは風邪を引くだろう!それと今から君を買い出しに連れていくためだ!」
「電さんと行けばいいじゃないですかー!」
「いや、君に来てもらう!」
「なんで私なんですかー!」
「みんな入渠しているだろう!」
なんということだ。
艦娘の電をあれほどに手なずけたロリコン(?)司令官と2人きりだなんて。
もう泣きたくなってきた。
「(うぅ、私と司令官だけで...何されるんだろ...)」
「聞こえないぞ!」
「司令官には関係ありませんー!」
∽
乾かし終えると、シャンプーのCMに出てくる女優のようなさらっさらの髪に仕上がっていた。
乾かされる時は嫌がっていた春雨も、今は手櫛で自分の髪を梳きながら、つい「ほわぁ...!」と感動してしまう。
「では、そろそろ行こうか。」
「は、はい...」
初めての鎮守府からの外出。人間と二人きりと言うのは気が引けるが、悪意は無さそうだ。
こんな程度で少しドキドキしてしまう自分自身のチョロさに少し情けなくなってしまうが、とてとて後を付いていく。
∽
ドドドドドド...
出発の時を今か今かと待つように音を立てる二輪車が一台。
「えーと、何ですか?これ。」
「見ればわかるだろう、バイクだ。」
「...何でこんなものがあるんですか?」
「鎮守府にはジープとバイクが支給されると聞いてな。私はジープより燃費のいいバイク派だ。」
────ちなみに軍のジープの動力もガソリンだが、ものすごく燃費がよくなるように改良されてある。
「じゃあどうして...二人分のヘルメットがあるんですか?」
「私と電の関係を元帥が知っていてだな、勝手に送ってくれた。」
ということはもしや...
嫌な予感が春雨の頭をよぎる。
「ほら、かぶるんだ。顎の部分は紐で勝手に調節してくれ。」
ぽん、とヘルメットを渡される。
少し小さめな女性用のサイズが支給されており、言われた通りに紐を締めるとぴったり固定できた。
司令官とお揃いの黒色だった。
「よし、ちょっと失礼。」
「わわっ?!」
有無を言う間もなく司令官に持ち上げられた私は座席後方に乗せられ、前に司令官が乗ってきた。
「しっかり掴まれよ。」
「えっ?あっ...」
見た感じ何も掴まるものは無い。恐らく司令官の背中に...
恥ずかしがって躊躇っていると、
「掴まらなくていいのか?体重移動を間違えれば横転するぞ?」
「.....」
無言でがっしりと抱きついた。
「よし、行くぞっ!」
ブローーーブロロロロロロロ!!
「ひゃぁあ!!」
一瞬慣性でぐん、と後ろに身体が持って行かれそうになるが、腕に力を入れてなんとか耐える。
ごうごうと容赦なく耳朶を打つ風。
今自分がすごい速度で移動していることを体感して、怖くてとても目を開けられなかった。
∽
「春雨、着いたぞ。」
どれほど経っただろうか、バイクは大きなホームセンターの前で止まった。
司令官に降ろしてもらって、地面に足をつくと同時にほっ、と息をついてしまう。地面にここまでの安心感を覚えたのは初めてだ。
「海の上を駆け巡ってるのに、バイクは苦手だったか?」
「ひ、人それぞれですー!」
∽
何故私がバイクを運転できるのかと言うと、軍学校時代友達が居なくて暇していた放課後に、(無断で)車庫の鍵を開けておいてこっそり電を乗せて走っていたのだ。
電も最初はかなり怖がっていたが、何回か走っていると慣れたのか電の方からやってきて、よくコンビニやらショッピングモールやらに連れて行ったものだ。
バイクに鍵を掛け、春雨を連れて店内に入る。
もちろん軍服というわけにはいかないので、翔は鎮守府(倉庫)で私服に着替えてきている。
...さて。
「まずは生活必需品だな。」
春雨の手を引いて店内を進んでいくと、まもなく目的地が見えてきた。
「昨日の夜寒かったし、毛布を買っておこうか...」
...と、春雨を見ると片方の手で他の布団をもふもふしていた。頬がゆるみきっている。
「春雨、これにしようか。」
「ひゃ?!
え...?こ、これを、買ってくれるんですか...?」
「そうだ。全員分だ。」
提督は、日本の平和を握っている存在であり、責任も重大。
故に年給何千万という金を手にする提督もいるらしいが、鎮守府を家としているので家賃は要らない、都会から離れているので娯楽にも使わない、何より質素な暮らしを好む翔にとって月百万を超える金などあっても使い切れないだろう。
(まあ、その前に鎮守府改装にかなりの金が飛ぶだろうな。)
少しかわいそうだが、布団をもふもふしたりなさそうな春雨を連れて奥へと歩いていく。
∽
そのあと司令官さんは、椅子やら机やらいろんな家具を買っていきました。
前の司令官が使っていたような豪華なものや、きらびやかなものには目もくれず、木製や革製の味気ない物ばかりを選んでいた気がします。
たまに私にもどんなデザインがいいかを聞いてきましたが、前の司令官のことを思い出しそうで嫌だからシンプルなものを選ぶと、
「やっぱりシンプルイズベストだな。私と趣向が近い。」
と、気に入ってもらえて、買ってくれました。
ちょっとだけ...ちょっとだけ嬉しかったです。はい。
バイクで運べるのかと聞くと、なん万円以上か購入すると宅配してくれるサービスがあると教えてくれました。
そして最後に、
「これを五百本ほど頼む。」
木の板を大量に買っていました。
司令官さんのお財布は大丈夫なのでしょうか、とっても心配です。はい。
...やっぱり、お会計はすごい桁数になっていました。しかし司令官さんは、
「ここにツケといてくれ。」
と、ものすごく悪そうな顔をして言ってました。
『ツケる』という言葉は初めて聞きましたが、多分他の人に払わせるんだな、ということは予想できました。
司令官さんは優しい人ですが、悪いところもあるんだな、と思いました。はい。
∽
提督着任を頼まれた時、元帥は『ある程度の資金は工面してやる』と言っていたはずだ。...これを使わない手はない。
軍のトップの人間だ。何百万程度はした金だろう。
堂々と元帥宛に請求書を送り付けた私は、少しスッキリした気分で店から出る。
...さて、
「春雨、帰るぞ。」
「ひうぅ...」
しぶしぶとバイクの後ろに跨って、私にしがみついてくる。
そんな様子を見て、私は出発直前に春雨に言った。
∽
「ゆっくりでいいから、バイクが走り出したら落ち着いて目を開けてみろ。」
私はえ?と聞き返そうとしましたが、ブロロロロロと走り出したので、あわてて縮こまりました。
しばらくしていると、風の音や曲がる時の体重移動にも慣れてきて、少しだけ余裕ができました。
さっきの司令官さんの言葉を思い出して、そっと目を開いてみました。
そこで待っていたのは、前から後ろへ流れていく景色。
遠くに見える輝く海。
いつの間にか、殴るように耳を打っていた風の音も気持ちいいものになっていました。
今まで鎮守府か軍学校しか見たことの無かった私にとって、その風景はとても新鮮なものでした。はい。
後書き・春雨
「ここまで読んでくれた読者の皆さん、ありがとうございます。
今回はロリコ...
電さんや雷さんに優しい司令官さんにお出かけに連れてってもらえました。
次回は回想回になるようです。翔さんと電さんがなぜお互いにあれほどの信頼を置いているのか分かるそうです。
ということでサブタイトル予想・『回想・出会い』。
次回も見ていただけると嬉しいです!はい!」