あなたが手を引いてくれるなら。   作:コンブ伯爵

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電「ちょっと前に話していた、コンブさんの“計画”が実行に移ったのです!」

翔「正直、これを遂行するかはかなり迷ったらしいな...まあ、この小説の投稿ペースにも関わるからな。」

電「気分を変えたいということで、なんでも匿名投稿で────もごもごもご」

翔「ほっ、本編へどうぞ!!」




47話 静かな侵食

 

 

 

「〜〜♪〜〜〜〜〜♪」

 

 一昔前のアイドルの歌を口ずさみながら、俺は鎮守府敷地内を散歩していた。

 

 憲兵になって二十と五〜六年。

 いわゆるベテランってヤツで、あと数年で五十路を迎えるが、まだまだ体は動く。

 

 歩きながらふと、胸ポケットの手帳に挟んでいる色あせた家族写真を見つめる。

 

 内地の方にかわいい妻と娘がいるが、深海棲艦が現れてからのここ十年近くお盆や年末年始でさえ会えていない。

 

 しかし────

 

「〜〜♪〜〜〜〜〜♪」

 

 しかし、今俺の隣には白髪の少女が鼻歌を真似ながらちょこちょこと着いてきている。

 

 そう、駆逐艦だ。

 

 昼に軽く(甘)酒をあおって、日課である散歩に行こうと艦娘たちに別れを告げると、なんと彼女だけ一緒に行きたいと立ち上がったのだ。

 電たちは電たちで用事やらどこかに行くやら用事があるそうで、丁度予定がない俺に駆逐艦を任せて散ってしまった。

 

 しかし俺は憲兵と言えど一人の男。すんなり受け入れるのもなんだか腑に落ちないので、こんな男に本当に任せていいのかと問い詰めると、

 

『憲兵さんは“大きい”人にしかきょーみないのです。駆逐艦さんは心配ないのです。』

 

『女の子は~、そういう視線にはビンカンなのよ~?』

 

 電は生気のない顔でぺたぺたと、龍田はぷにゅと隠すように自身の“それ”に触れる。

 

『おいおいちょっと待ってくれよ、俺は』

 

『けんぺいさん...』

 

 弁解しようとする俺の袖をちょいちょいと引っ張りながら、駆逐艦が俺を見上げて、

 

『だめ...なの?』

 

 目にきらきらと涙を浮かべて抱きついてくるその姿は、一瞬娘と重なり...

 

 

 ...そして今に至る、って訳だ。

 ついでにだが、俺が艦娘たちの身体を見てしまうのは欲望からではなく、皆可愛らしく美人すぎるからということを言いたい。

 目を合わせるのが少し恥ずかしくなって、つい目線を少し下に逸らした時...そこにあるんだ。

 そう...不可抗力、仕方の無いことだ。

 

「...けんぺーさん、次...どこ?」

 

「おう、次は海岸にでも行こうか。」

 

 

 

 ∽

 

 

 

「...さて。」

 

 電たちに出迎えてもらい、無事第第七鎮守府に帰ってきた翔。

 いつものドライバーに礼を言い、車で酔った加賀を山城に任せて執務机に着く...と思いきや、翔は工廠の木材に腰掛けていた。

 悩みの種...終わり際に渡された次回会議にて話し合う議題の資料を開く。

 

『艦娘建造計画』

 

「はぁ...」

 

 車の中でざっと見たが、やはり現実味が無い。

 

 

 ────建造。

 それは、妖精さんの手によって艦娘を造ることである。

 ほとんどの艦娘が建造の存在を知っているが、今まで一度もなされたことの無い技術である。

 曰く、大量の資材を妖精さんに渡し、多大な時間を掛けて造ってもらうらしいが...妖精さんと会話どころか視認できる人間があまりにも少なく、そもそも妖精さんの存在を認めていない提督も多いのだ。

 艦娘を通してコミュニケーションを取ることはできるものの、建造には大量の資材と時間を要する...つまり、現時点押しつつはあるもののあまり戦況のよろしくない日本の鎮守府が、そのような未知の技術に投じるような資材も時間も無いのだ。

 しかし少しずつとはいえ押しているからこそ、戦力増強は避けられない。

 つまり、実在する“であろう”技術にも手を出さねばならないのだ。

 

 

 恐らくこの計画の中心となるのは、妖精さんと会話ができる元帥か翔になる。

 いくら翔と言えど、未知の技術を知ることなどできない。故に思い悩んでいたのだ。

 

 てーとくー

 げんきだせー

 これくえー

 

 うつむく翔に妖精さんたちがわらわらと寄って集まり、誰か他の艦娘から貰ったのか飴玉を持ってくる。

 

「はぁ...ありがとう。」

 

 撫でてやりながら受け取って、口に放りこむ。

 ...翔も苦手なハッカ味だった。

 

「建造ってなんなんだよ...

 そもそも生き物を造るって意味わからん...」

 

 しょーがないねー

 わかるよー

 

「いのちの倫理問題として、人工知能とかよく話題には上がるけどなぁ...」

 

 うんうんー

 そうだねー

 

「艦娘をMRIやレントゲンに掛けても、艤装展開時に驚異的な身体能力の向上が見られるだけで...ほぼ人間と変わりないんだよな...」

 

 ひとだもんねー

 かわいいもんねー

 

「それに大量の資材を使うことになるんだよな...」

 

 ひとだもんねー

 せいめいのしんぴー

 

「もしも艦娘が建造できたら、私は“父親”になるのか...?」

 

 パパていとくー

 いなづままー

 

「いや、艦娘を“生み出す”のではなく、艦船の魂を“喚び戻す”と考えれば...」

 

 そーだねー

 しんぴだねー

 

「どちらにせよ、大量の資材と時間が掛かるのは仕方の無いことか...」

 

 しょーがないねー

 どうしようもないねー

 

「でもまあ、景気づけにぱーっと使っちまっていいぞ...」

 

 やったー!

 ものどもー、かかれー!

 よんじゅうびょうでしたくしな!

 

「────なーんて言いたいが、どうしても私は貯蓄癖がなぁ...」

 

「確かに今までの遠征分は大量に貯まっている。」

 

「そもそも、うちの鎮守府は他と比べて出撃や演習の回数は少ないからな...」

 

「でももしものために、取っておきたいんだよなぁ...」

 

 ここで翔、やっと気付く。

 

「...あれ?」

 

 つい先程まで愚痴のようなものを聞いてくれていた妖精さんたちが、一人残らずいなくなっていたことに。

 

 

 そして山のように貯めていた資材が、ほとんど無くなっていたことに。

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

「...!......!!」

 

「転ぶなよー?

 そんな痛くはないが転ぶなよー?」

 

 砂浜を駆け回る駆逐艦を暖かい目で見守りながら、俺は海水をたっぷり含んで重くなった、打ち上げられている漁網を引きずっていた。

 

 ぱちゃぱちゃぱちゃ...

 

 ちなみにだがあの一件...いや二件以来、海岸の見回りに来るとまず一番に人を探すようになっちまった。

 

 ざぶざぶ...

 

 ...二度あることはなんとやら、だ。

 

 ごぼぼぼ...

 

「オイイイイイ!!!!」

 

 海に駆けていった駆逐艦の頭が見えなくなった俺は、網をほっぽり出して海に飛び込もうと上着のボタンに手を掛けたが...

 

「......!」

 

「はあ...?!」

 

 姿が見えなくなって2秒少しで、10メートルちょい沖から呑気な笑顔を出して手を振ってきた。

 まるで海中でワープしたかのような、あまりにも速いその泳ぎに俺は目を疑った。

 

「一緒...いこう...?」

 

「あーまた今度、な?」

 

 俺の体で塩水に浸かった時には、恐ろしい激痛が走るだろう。

 まぁ“あの時”は生傷に塩水をぶっかけられていたが、痛みに対する耐性が低くなった今じゃあ相当辛いはずだ。

 

「...わかった。」

 

 駆逐艦はそう言うとただならぬ速さで浜に戻って、ふるふると身体を震わせてから俺の手を取る。

 

「次は...もう一度鎮守府見て回ろうぜ?

 今日は日差しが強えけど、傾いてきたらすぐ肌寒くなるはずだ。」

 

「...ん。」

 

 その手は少しひんやりしていて、既に乾いていた。

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

「────ここが工廠なんだが...何作ってんだ?」

 

「...ちょっと、うるさい。」

 

 ガインガインと鎚が吠え、ぎゅるるると電動工具が唸る。

 ちょいちょい翔が装備開発で一喜一憂しているのを憲兵は知っているが...ここまで騒がしくなることはないはずである。

 

「鎮守府の貯蓄が...資材が......」

 

「っておい!大丈夫か?!」

 

 隅の方で体育座りのまま横に倒れ、提督がしくしくと涙を流しているではないか。

 あわてて駆逐艦は憲兵の背中に隠れる。

 

「何かあったのか?俺でよけりゃ聞くぜ?」

 

 役職的には翔のほうがずっと上だが、歳は憲兵の方がずっと上だという理由で、(通常なら)敬語などは使わなくていいと許可は出ている。

 

「この鎮守府の貯蓄が...九割飛んだ...」

 

「まあまあ、元気出すんだ。言うても貯蓄だろ?備えあればなんとやらって言うかもしれんが、パーッと使っちまうのも大事じゃあないか?」

 

 憲兵は案外賭け事が好きである。

 

「しかし...」

 

「いんや提督...あんた、意外と倹約家なところがあるだろ?

 それに大量資材を使い込んだってなら、それなりの見返りはあると思うぜ?」

 

「いや...」

 

 元気づけようと憲兵が声をかけるが、さらに翔は落胆する。

 

「その...見返りについて、なのだが...」

 

「...なにか、あるの?」

 

 憲兵の背中に隠れながらも顔だけ覗かせて、駆逐艦も聞く。

 

「知らぬ間に艦娘建造をしてしまったみたいで...誰を迎えることになるのか、わからないんだ...」

 

 艦娘建造...語感から艦娘を造るということだろうか。とはいえ艦娘自体謎が多いし、妖精さんについては存在すら定義できていないのだ。今更建造などと聞いて驚く憲兵ではない。

 

「い...いやいや、言うても船を造るよりも艦娘はずっと小さいだろ?二日三日もすりゃあすぐに────」

 

 完成するんじゃないか...と言いかけたが、遮るように翔が無言で指をさした。

 

 

『4499時間38分』

 

 

 反転式フラップ表示機...空港とかでたまに見る、あのパタパタ時刻表のようなものに、確かにそう表示されていた。

 

「4500時間...?」

 

「...187日半だ」

 

「────よし、他の場所も回ろうか!」

 

「...ん。」

 

 あくまで憲兵は警備やら門番が仕事。

 つまり提督の仕事に首を突っ込むのは身の程知らずな行動なのだ。

 

 ...そんな言い訳を頭の中で考えながら、憲兵は見なかったことにして駆逐艦の手を引き立ち去るのであった。

 

 

 

 ∽

 

 

 

「〜〜♪」

 

 山城と一緒に買い出しから帰り、着替えようと部屋に向かっていると、偶然にも駆逐艦と憲兵に鉢合わせた。

 

「あら〜、憲兵さんと駆逐ちゃんじゃない」

 

「おう龍田、買い物帰りか?

 そのかわいい服似合ってるぞ。」

 

「きれい...」

 

「ふふっ、ありがと〜♪」

 

 二人から褒められて少しむず痒い気分になる。意外と褒められることに慣れていないのだ。

 

「んじゃあそろそろ龍田に着いてったらどうだ?一緒に風呂でも浴びるといいさ。」

 

「...ん。」

 

 露骨に世話を押し付けるあたり、相当遊んだのだろう。見た目はそこそこ若いが意外と歳食なことを龍田は知っている。

 

「はいはい、じゃあ着替え取りにいくから〜、ちょっと着いてきてね〜。」

 

 駆逐艦はぱたぱた駆け寄ってきゅっと龍田の手を握る。少しひんやりしているけど、ぷにぷにしていて柔らかかった。

 

 

 

 ∽

 

 

 

 二階に上がって廊下を突き当たりまで進んで右の部屋に、私は招き入れられた、

 

「そういえば〜...山城さん以外に私の部屋に、誰かを入れるのは...初めて...かなぁ?」

 

 縦長ロッカーを木製にしたような、小さなクローゼットの前で着替える龍田さんを、ふかふかのベッドに腰掛けて待つ。

 

 ほわほわした白い雲にリボンと顔を描いたような少し風変わりなクッションや、ひとつぶ涙をこぼす長いくちばしのペンギン人形...その他かわいい?人形がたくさんベッドには置いてあった。

 

「あら〜...ハンガー買ってくるの忘れちゃったぁ」

 

 開いている窓からは風がよく通り、優しくはためく薄い青色のカーテンが西日を見え隠れさせる。

 

「お洗濯は〜また明日、ね。」

 

 ふと横を見ると、枕近くの壁に、いつも龍田が持っている刃のついた黒い棒が置いてあった。

 

「〜〜♪」

 

 生身のワタシからすると、かなり重くて持ち上げるにも一苦労だった。

 体格差があるとはいえ、日常的に持ち運べる龍田はかなり力が強いのだろう。

 

「あなたの分のタオルも持っていくわね〜。」

 

 決して音を立てないように、床が軋まないことを願って立ち上がる。

 肩に担ぐようにして先端を斜め下に構え、重力に任せて、無防備な背中に振り下ろ...

 

「駆逐艦ちゃん?危ないから勝手にさわっちゃダメよ〜?」

 

「...ん?...ん。」

 

 いつの間にやら(・・・・・・・)持っていた、ずしりと重い龍田さんの薙刀をひょいと取られ、代わりにおおきなタオルを手渡してくれた。

 

 風呂といえば、身体を洗いあたたかい湯に浸かるあれのことだ。

 

 自分でも気づかぬうちにぴょこぴょこ跳ねながら、龍田と一緒について行く駆逐艦であった。

 

 

 

 

 




後書き

翔「全く...コンブの奴もこのお話一本ではそりゃあ少し厳しいのもあるさ。あっちの話は失踪するかもしれないが、この話は確実に完結させると言っている。気分を変えさせてこっちの話の質を上げる為にも、許してやろうじゃないか。」

電「翔さんがそういうなら、わかったのです...
 あと、あちらの方はほぼ確で失踪するのです。もちろん“あなたが手を引いてくれるなら”は確実に失踪しないのです!」

翔「もし、この小説が終わったら...いや、なんでもない。
 次回も読んで頂けると嬉しい。」

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