あなたが手を引いてくれるなら。   作:コンブ伯爵

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翔「今回は後書きの後に設定集があるぞ。」

電「感想でも度々話題になっていた“出撃”を中心に解説されているのです!」

翔「もちろん、読んでも読まなくても本編にはなんら関わってないから安心してくれ。それでは────」

翔・電『────本編へ、どうぞ!』



41話 北の大地へ

 

 

 

 

 補給よし、整備よし、出撃目標確認よし。

 

 私たちは今から出撃...数日に渡っての作戦行動に出るのだ。

 

「みんな、準備はできてる?」

 

 旗艦の暁お姉ちゃんが帽子を被り直して声をかける。

 

「はいは〜い」

 

「アタシは大丈夫だ!」

 

「今回も上手くいくといいわね...」

 

「大丈夫...提督の指揮を信じましょう。」

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

『今回の作戦は我々第七鎮守府〜樺太間の貿易路を確保するにあたって、敵性勢力の中枢と思われる艦隊を撃滅すること、というのは分かっているな?

 前々から他鎮守府にて轟沈が増えているのもそうだが、何より先任のクz────提督でも繋げられなかった海路だ。

 ...輪形陣で進撃、如何なる時も警戒を怠るな。』

 

 

 

 ∽

 

 

 

 翔からの忠告を改めて思い出し、電は気付いた。

 先任の提督のような休み無しの超過密な出撃でも突破できないということは、今回の海域はそれほどに相手が強大であるということだ。

 

 だが、翔が指揮を執る。

 

「いなづまー、行くわよー!」

 

 たったそれだけで進むことができる。

 

「...準備完了なのです!」

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

「前方二十三時の方向、敵艦隊発見よ!」

 

「こちらに向かってくる...重巡一、軽巡二、駆逐三、迎撃体制を。」

 

 暁お姉ちゃんと加賀さんが通信機から指示を出してくる。

 

『敵ははぐれ艦隊だな...深追いはせず、ダメージを与えて追い払うんだ。』

 

 「「「了解ッ!」」」

 

 ガッシャゴン!と音を立てる山城さんの艤装。

 

「この距離なら...撃てぇぇぇぇぇい!!!!」

 

 

 ズドスドォォォォォォォン!!!!

 

 

 腹の底に響き、大気を揺らす轟音。

 ...着弾。装甲を貫き、爆砕する。

 

「...軽巡一大破、駆逐一撃沈。」

 

「まずまずね。」

 

 弾着観測無しというのに、やはり普通の戦艦よりも命中率が高い気がする。

 

 

 ────ドドォォォン!!

 

 

「敵重巡、軽巡の砲撃よ!気をつけて!!」

 

 暁お姉ちゃんの声。刀を構えて空を見上げると曳光弾の筋が私に真っ直ぐ描かれていた。

 

 

「────っ!」

 

 

 極限までに集中し、空に向かって刀を振り上げる。

 

 

 ────ぎゃりりりりりりりりり!!!!

 

 

 弾を刃に乗せるように当て、艤装で強化された手首を思い切り返す。

 

 

 ────ギィィィィィンッ!!!!

 

 

 鋭い音を立ててはじき出される砲弾...しかし

 

 

 (もう一弾...なのです?!)

 

 

 とてつもなく運の悪いことに、二つの弾がほぼ同じ軌道で迫っていたらしい。

 砲弾は斬ると爆発すると翔からは聞いているが、反射的に腕が動いてしまう。

 

 

 ────キィィィィィン!!!!

 

 

 ...思いっきり斬り飛ばしてしまったが、何故か爆発せず真っ二つになって後ろに飛んでいく砲弾。

 

 

 (まさか────)

 

 

 パリパリと紫電を放つ刀を見て、電は思い出した。

 

 深海異形姫との戦闘で、彼女は黒い謎の力を使ってガラクタを散弾のように飛ばしていたのだ。

 金属はともかく、火薬が無い...と思われる深海棲艦が榴弾を放ってくるのは、爆発を黒い力で起こしているからだとすると...?

 そしてその黒い力が込められた刀で斬っても何も起こらないということは...?

 

 

 (黒い力を、相殺している...のです?)

 

 

 電が結論を出しても、刀はただパリパリと無機質に音を立てているだけだった。

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

「この辺りで一旦武装を解くわよ!」

 

 あの後龍田の魚雷が敵旗艦を大破させ、被害軽微で敵旗艦を撤退に持ち込んでからかなりの距離を会敵せずに進むことができた。

 たぶん日頃の警備遠征で深海棲艦を追い払っているからだろう。

 

「疲れたなぁ...龍田、悪ぃが先でいいか?」

 

「ちゃんと交代しないと、鼻に海水流すからね〜?」

 

 そしてさっきの暁お姉ちゃんの指示。

 武装解除とは、深海棲艦は何故か艦娘に対しては夜襲撃してこないということを逆手に取った行動である。

 文字通り機関部以外の武装を解いて体を軽くし、武装している艦娘に曳航してもらうという航法だ。

 これを交代で繰り返せば休憩しながら移動できるという、翔が生み出した効率的な作戦だが、まだ提督会議では出していない。

 

 ...過密スケジュールで回している他鎮守府の艦娘を慮った結果である。

 

「電、来ていいわよ」

 

「お願いするのです...」

 

 (艤装)をドッグタグに変換し、暁お姉ちゃんの背中に掴まる。

 

 ちなみに足は海面に着いているが、通常移動よりもだいぶ遅めに移動するのと足には船底を展開しているので引き摺られることはない。

 

 お姉ちゃんの背中に揺られていると、だんだん眠くなって...

 

 

 

 ∽

 

 

 

 二日後。

 

「あと少しで敵中枢海域ね!

 みんな、一旦足を止めて加賀さんの偵察機を待つわよ!」

 

 お姉ちゃんの声で目を覚ます。

 

 朝日が顔を出そうとしている...5時くらいだろうか。

 

「...はっ、ごっごめんなさいなのです!」

 

 あわててお姉ちゃんに謝る。

 一晩二〜四回交代で曳航するのだが、今起きたということは昨晩交代せず、お姉ちゃんに任せっきりで寝てしまっていたということだ。

 

「いいのよ電、あたしもお姉さんなんだから...たまには頼りなさい。」

 

 そう言ってぽんぽん、と優しく背中を叩いてくるお姉ちゃん。

 普段は少しおっちょこちょいだが、一般には“練度”と呼ばれている艦娘としての力は加賀さんとほぼ互角...いや、加賀さん以上なのだ。

 電自身は時に戦艦を超える攻撃力を持っていて、お姉ちゃんより単純な戦闘力は上を行っているだろう。

 しかし戦況を把握し全体に指示や情報を正確に伝え、仲間を牽引する力はお姉ちゃんの方が遥かに上なのだ。

 やはりお姉ちゃんは尊敬できる────

 

「────電、今のあたしカッコよかった?お姉ちゃんっぽかったでしょ??」

 

「あー...はい、なのです。」

 

 ────が、レディと言うには少しばかり遠いかもしれない。

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

「────偵察機より入電。

 敵中枢艦隊を捕捉...空母二、戦艦一、雷巡一、駆逐二。

 そして上空にて敵偵察機と離合...すれ違ったようです。

 すぐに航空攻撃を仕掛けるので、こちらも対空射撃準備をお願いします。」

 

 待機から一時間ほど過ぎて加賀さんが通信する。

 

「みんな、電と加賀さんを囲んで輪形陣よ!」

 

「「「了解ッ!」」」

 

 ...悔しいが、私は軽量化のために砲を積んでいないぶん航空攻撃にはめっぽう弱いのだ。

 

 故に、敵に空母がいた場合は今のように守られることになるのだ。

 

 三十分ほど敵艦隊に向けて進撃すると、キーン...という音がどこからが聴こえてきた。

 

「敵航空部隊よ!電、気をつけなさい!」

 

 確かによーく目を凝らすと、ちいさーな黒い点がいくつも見えてきた。

 

 (私より目が数段良いみんなは、敵機の数も数えれるのかな...)

 

「クソっ、数機逃がしちまった!」

 

「敵機直上、回避するわよ!」

 

 少しばかり考えに耽っていると、摩耶さんとお姉ちゃんが声を張り上げた。

 

 空を見るとこれまた運悪く、私目掛けて爆弾が。

 

「電ちゃん!!」

 

 龍田さんが庇おうとこちらに駆けて来る...

 

 

 ────いや、もしかして。

 

 

「龍田さん、大丈夫なのです!」

 

 

 刀を構えて集中し、迫ってくる爆弾に一閃。

 

 

 ────キィィィィィン!!!!

 

 

 ...爆発することなく、やはり真っ二つになって海に沈む。

 

 

『電、今どうやって...?』

 

「えと、その...やったらできちゃった、のです。」

 

『.....』

 

 

 はぁー、と翔さんため息をついているのが目に見える...

 

「敵航空攻撃は凌いだし、今度はこっちが攻める番ね〜?」

 

 うっすら見えてきた敵艦隊に向けて薙刀を構える龍田さん。やる気である。

 

「うっし最後の戦い、気合い入れて────」

 

 摩耶さんが鼓舞しようとしたその時、加賀さんが苦い表情で耳の通信機を抑えながら話す。

 

 

 

「────偵察機より入電。

 敵艦隊を発見...このままでは挟撃を受けてしまいます。

 

 提督、指揮をお願いします。」

 




後書き・天の声
 ────ここまで読んでいただきありがとうございます。
 ────天の声、です。
 ────今回の戦闘シーンは手早く済ませる予定だったのですが、急遽尺が伸びたらしいです。
 ────書き貯め無しって、恐ろしいですね。

 ────次回、サブタイトル予想『“協撃”』。
 ────『挟撃』ではないかと思った読者さま、次話内容でご理解いただけると思います。
 ────第七鎮守府艦隊の運命や如何に!


 ────と、言ったところでしょうか。
 ────このあと出撃に関する細密な設定が書かれています。
 ────興味がある方は、お楽しみ下さい。





 設定集・出撃

 出撃はそもそも一、二ヶ月に一度程度のものであり、またゲーム『艦隊これくしょん』における出撃時のマス目をひとつ進むのに半日〜一日掛けているという設定です。
 戦闘も半日〜夜戦突入で次の日の朝まで。
 艦娘たちは艤装を展開している間は燃料などを源に活動しているので、寝たりご飯を食べる必要は無い、という設定です。
 また収納された艤装はドッグタグに変換される...というのはだいぶ前に説明したような...?

 作中で電ちゃんは寝てしまっていますが、肉体的な疲れよりも、索敵能力が数段低いのにいつ会敵するか分からない、という精神的な疲れを癒すために寝た...ということでしょう。
 あと刀を使う時の集中もキツいでしょうから、ね。

 艦娘たちは“艦の魂”が肉体を得て具現化した姿(という設定)。彼女たちは物理的に頑丈ですが、その本質は魂...精神にあるので、そう考えると美味しいご飯や十分な睡眠、頼れる仲間や指揮官は艦娘たちの戦力に大きく関わるのかもしれません。

 ...さて、前任の提督がご飯や睡眠を与えずにひたすら出撃させたのに、突破できなかった今回の海域。
 どうなるのでしょうか、ね。

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