電「六章はシリアス少なめでお送りするのです!」
翔「読者の皆さんには気軽に楽しんで貰いたいな。
...それでは────」
翔・電『────本編へ、どうぞ!』
39話 姉、襲来...?
マーシャル諸島沖...
深海異形姫との決戦から二日。
みんな一通り傷を癒し、いつもの運転手さんに長門の護送を頼んだ翌日。
「も、もうすぐ...よね?」
「どきどきしますね...はい。」
...第七鎮守府は少しざわついていた。
長門が一昨日の夜から護送され、昨日朝到着したと聞いた。そして帰りに新たな仲間を連れて今日昼に到着予定らしい。
...誰が来るのかを何故か教えてもらえていないのもあって、みんな緊張しているのだ。
作戦後ということもあり暫くの
盗み聞いている限り出た予想として一番有力なのは陸奥。長門の妹であり、能力も長門とほぼ同じ強さのはず...等価交換、ということだろう。
他にも実は大量の資材や資金、艤装なのでは?という意見もあったが、あまり現実的ではない。
────ジリリリリリン!
「「「────!!」」」
電話だ。
みんなの視線を感じながら受話器を取ると、運転手からだった。
『────こちら
「わかった。
引き続き安全運転を心がけてくれ。」
『はい、失礼します...』
がちゃん。
「しれーかん、どうだったの?」
うずうずしながら雷が聞いてくる。
「あと五分もなく着くそうだ。
...加賀、山城は執務室まで案内を頼む。」
「わかりました。」
「仕方ないわね...」
加賀は相変わらずの無表情で、山城は一つため息をついて執務室から出る。
「...(山城、変わったな。)」
出会ったばかりの頃。
あれだけ私に敵意を向けていたあの山城が、今では私をここまで信頼してくれている。
ついさっきも『雑用に使われるなんて不幸だわ...』とか言われると思っていたのだが。
なんというか、胸の奥がじーんとあったかくなる翔であった。
程なくして窓から正門を開く重い音と電気自動車の静かな走行音。
鎮守府の陰になっている駐車場へ進んで行き...見えなくなった。
頭の中で考えた挨拶の言葉を
...緊張しているのは艦娘たちだけではないのだ。
こんこんとドアがノックされ、扉が開かれる。
「第七鎮守府へようこそ、歓迎する。
私は提督を務めている────」
「────翔、くん...?」
「えっ」
緊張のあまり冷静さを欠いていたが、落ち着いて目の前の艦娘を見ると...
「君...いや、あんたは...」
ピンク色の薄手のシャツに凹凸のある身体を惜しげも無く浮かばせ、ふわふわとした髪を大きな赤いリボンで一つ結びにしているその艦娘は...
「間宮......姉...さん...?」
「「「姉さん?!!」」」
「翔くん!!」
みんなが私の言葉に反応するが、気にすることなく間宮さんはこちらに駆け寄って、電ごと抱きついてきた。
「────のわっ!」
「────ふにゃ!」
「翔くぅぅん電ちゃぁぁん、会いたかったわ!」
「い、電も会いたかったのです!」
ぎゅーと電は抱擁を返すが、私はそれどころではない。...みんなの視線が容赦なく突き刺さる。
「一旦離れろ!
電は間宮...を連れて鎮守府内を案内してくれ。」
「着いてくるのです!」
「はいはーい♪」
ばたん。
「────提督。
少ーーーしばかりお話があります。」
山城が変態などと罵らず、弁解の余地をくれるようだ。
...やはり変わったな、山城。
「なんで提督が間宮さんとあんなに仲がいいんですか??」
可愛らしい笑顔で問う榛名。
しかしその顔を見て、何故か私は“人間の笑みは牙を見せて威嚇するのが起源”という豆知識を思い出した。
「い、いや...みんなも彼女には軍学校で世話になったと思うが、私と電は少し事情があってな...」
「────艦娘と人間が同部屋に住む...」
鈴谷が何かを思い起こすように呟く。
「人間と艦娘のルームシェアだぁ?
軍学校の寮でんな馬鹿なことする奴...」
と摩耶が言いかけるも、目の前の翔を見て押し黙る。
「前々から聞きたかったんだけどさ、提督と電ちゃんって天龍ちゃんと仲が良かったっしょ?」
「む?」
「そんでもって電ちゃんのあの刀...いや、“EX天龍ブレード”。
模擬戦一か月前くらいに天龍ちゃんから貰ったりしてない??」
「何故それを...!」
「やっぱり??!
実はあたし、軍学校の時に天龍ちゃんとルームシェアしてたんだよねー!
うっわやっぱあれが提督と電ちゃんだったんだー!」
うんうんと頷きながら顎に手をあててしみじみとした表情を浮かべる鈴谷。
本当に何故か分からないが腹が立つ。
「ま、まぁ...電と私は同じ部屋で暮らしてて、間宮...にもかなり迷惑掛けたし世話にもなったんだ。」
「間宮姉さんでいいよー」
呼び捨てに慣れない翔に北上がジト目を向ける。彼女はこういう時に限って妙に鋭いのだ。
ちなみに迷惑というのは、男女でルームシェアしてはいけないと思い込んでいた学生たちが、
『あっああああ愛宕さんと一緒に...!』
やら、
『お、俺は瑞鶴たんと...!』
さらには
『かっかかかしかし鹿島先生と...!』
などとよからぬ事を考えて寮長室に押し入り、小さな騒ぎになった事件があったのだ。
...結局、申請するためにはあくまで“双方の同意”が必要であり、男女ルームシェアができたのは翔と電の一組だけだったが。
「ともかく、みんなが思ってるような変な関係は無いからな!」
「ほんとぉ?」
「本当だ────」
と言いかけたその時、扉が開かれる。
ガチャ。
「か〜け〜る〜く〜ん!」
「見切っ『甘い。』────?!」
ぎゅーーー。
「「「「「......」」」」」
私の体捌きを
「あぁ、もう翔さんが捕まってしまったのです...」
「電?」
遅れて執務室に着いた電のつぶやきに、丁度隣に居た雷が反応する。
「間宮さんに本気で抱きつかれたら、間宮さんが満足するまで離して貰えないのです...
いや、離してもらえないというより...」
「というより?」
「雷お姉ちゃんも...すぐに分かるのです。」
「???」
「────ふう、翔くん成分充電完了。
あ、皆さんご迷惑掛けてごめんなさい。
改めて、私は給糧艦間宮です。戦闘には出られませんが、皆さんのサポートをさせていただきますね!」
おおー、やったな、と拍手とともに間宮さんを歓迎する一同。
何故私が突然抱きしめられたことに誰も突っ込まないのか...
「...提督、どうしたんですか?」
膝をついていた翔を心配そうに覗き込む加賀。
「大丈夫だ...いずれわかる。」
「???」
∽
「この人は大本営から派遣された、給糧艦の間宮さんだ。派遣...と言っても余程のことがない限り異動はしない。
つまりはこの鎮守府の仲間になるってことだ。」
掃除の仕上げに行っていた龍田や暁など、全員を集めた私は間宮さんを紹介する。
「そんでもって、いくつか聞いていいか?」
「なんですか??」
「...まず、みんなも知っている通り元は寮母を務めていただろう?
ここに来てもらってもいいのか?」
間宮さんは元々軍学校で働いていたのだ。しかも寮食の準備やら購買に携わっていたため、そうそう代わりとなるような人材は見つからないだろう。
「あー、それなら私のお仕事は伊良湖ちゃんに任せたわ。私と同じ給糧艦だから大丈夫なはずよ!」
伊良湖ちゃん...?
そういえば、購買でバイトしていた女の子がそんな名前で呼ばれてたはずだ。
しかしバイトから本職に移るのは...大丈夫なのだろうか?
学校の規則で臨時講師やバイトに来ている人間は会計に携わることが出来ない...いわゆる『レジ打ち』ができないのだが、購買で一番大変なのはこの作業である。
チャイムが鳴った瞬間、好みのパンを手にするために学校中から生徒が詰め寄るのだ。更には学校新聞を作っている写真部の生徒が視線を求めたりとお祭り騒ぎなのだが、間宮さんはパンを渡しお金を受け取りお釣りを返し、さらには合間合間にウインクやピースサインを決めていたのだ。
その姿はかの十人の話を一度に聞き分ける聖徳太子に見えたという。
余談だが、写真部の男子生徒に“何故ピークの時間を避けないのか”と質問をすると、“被写体が一番輝いてる瞬間...働いている間宮さんを撮りたいのだよッ!!”と返ってきた覚えがある。
...情熱も程々にしてほしいものだ。
「さて、みんなはお昼ご飯は食べたの?」
間宮さんの言葉にうっ、とたじろぐ。
...朝からずっと掃除でうっかり忘れていたのだ。
「まだ...だな。」
「もー、女の子にご飯も食べさせずに朝から晩まで馬車馬の如くこき使うなんて酷いわ翔くぅん」
しくしくしく、と口で言いながらオーバーに悲しむ間宮さん。
偶然忘れただけだ、そう言おうとすると
「おいおい、自分よりアタシ達のことを優先するバカ提督だからどうせ忘れてただけじゃねーのか?
それこそ間宮、アンタを歓迎するために頭がいっぱいでな。」
フン、と鼻を鳴らす。
「摩耶...」
「ふふっ、冗談よ。翔くんったらモテモテね♡
みんなお昼済んでいないなら...私が作ってあげようかしら?」
新たな仲間の歓迎会は、仲間に食事を作ってもらうという一風変わった始まりとなった────
「やったあ!!間宮さんの手料理よ!!」
「じゃあ暁ちゃんはテーブル拭きお願いね〜」
「わかったわ!」
どたどたどた────
「...(龍田、子どもの扱いが上手いな...)」
「────へくちっ!」
後書き・間宮さん
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます。給糧艦間宮です。
お話のほうは...私がひっさしぶりの登場ね!皆さんは忘れてるかもしれないけど、第一話で名前だけちょろっと出ていたのよ〜。
...え、忘れてなかった?なら、特製茶羊羹を今度ご馳走するわ♡
次回・サブタイトルは...ひ・み・つ♡
お楽しみにね〜!」