あなたが手を引いてくれるなら。   作:コンブ伯爵

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翔「予定は外れるものであり、謝罪はするが、どうしてもな理由もあるんだ。」

電「まさか投稿しようと『コピー』しようとしたら『切り取り』を選んでしまって、その後すぐに別の変な文字を『コピー』してしまったのです...」

翔「言うなれば、今回載せる予定の本文全てが消えてしまった。」

電「ちょっと、投稿ペースが遅れますが、失踪だけはしないのです!」

翔「消えてしまったぶん、もう一度練り直しながら執筆するらしい。応援よろしく頼む...では────」

翔・電『────本編へ、どうぞ!』



32話 深海棲艦は夜を歩く

ㅤあれから俺の日課の散歩に、一人仲間が加わった。

 

 

 

「ケンペー、なにアレ。」

 

「あれは車ってやつだ。あの中に人が入って、陸をすごい速さで移動出来るんだ。今度乗せてやろうか?」

 

「ヤッターい!

 

 ...ケンペー、なにアレ。」

 

「あれは馬だ。あれに直接乗ったり小さな車のようなものをひかせて、人は移動するんだ。

 今度乗せてやろう...と言いたいが、俺...馬乗ったことないんだよなぁ。」

 

「クルマに、似テる...

 

 ...ケンペー、

 暑く、ナイの...?」

 

「あ?あー...そりゃあ夏に長袖はもちろん暑い。でも...俺の身体はあまり見せられるものじゃあないんだ。」

 

「フゥーン...」

 

 

 

 仕事中。

 

「ケンペー、なにコレ。」

 

「こいつはペンだ。この先っちょを紙になぞらせると...」

 

「ワッ、線が引けタ!」

 

「絵でも文字でも、ほっぽも何か描いてみるといい。」

 

「ワーイ!」

 

「......おい待てそれ報告書ぉぉぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 夕暮れ時、何日か振りに潜水艦の偵察部隊が帰ってきた。

 

「ほんとに、あの鎮守府に連れていかれてたの?」

 

「......(こくこく)」

 

 確かに見た、と言わんばかりに二度頷く。潜水艦のこの子は極度の恥ずかしがり屋かつ無口なので、私もたまにしか聞けないが...実はものすっごく綺麗な声を持っている。

 目元から口まですっぽりガスマスク(?)で隠しているが、この基地にいる艦の中で一番の美人は誰かを聞かれたら迷わずこの子を選ぶ。

 

 少し話が逸れてしまった。

 

 どうやらあの子は北の鎮守府に連れていかれたらしい。

 北の鎮守府と言えば、数ヶ月前まで出撃してくる艦娘はみんな、全ての艦を絶やさなければ自分が死ぬと言わんばかりの勢いで襲ってくるので、なかなかの脅威だったのだが...ここ最近は活動が大人しくなっている。

 

 しかし、私の家族が...妹が、囚われてしまったのだ。

 

「...私が、出撃()るわ。」

 

 ドクン...ドクン...

 

 “あの時”捨てたはずの怨念が脈打つ。

 

 本気を出すのは何時振りだろう。

 

 陸と海の境...沿岸・港湾部が持ち場であり、しかも...海上よりも陸地で戦うのを私は得意としている。

 

「夜襲で片付けるわ。あなたたちは待ってなさい。」

 

「......ん。」

 

 潜水艦の子が一つ返事を残し、部屋を出る。

 

 手早く準備を済ませて今から出れば、あの鎮守府に丁度夜頃...到着するはずだ。

 

 

 

 

 

 「────待ってなさい...妹よ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 

 

 みんなが酔いつぶれて泥のように眠り、駆逐艦、龍田、摩耶、秀吉も自室に戻ってしまい、残った翔は軽く酔いを覚ますため電を背負って外を歩いていた。

 

 真っ暗な夜の海岸にざくざくと足跡を残しながら、懐中電灯の光を頼りに歩く。

 

 「────翔さん。」

 

 電が沈黙を破った。

 

 「どうした?」

 

 「...翔さんは、もし、深海棲艦の中に、人間の味方がいたら...信じきれるのです?」

 

 「ふむ...」

 

 翔は悩んだ。

 

 確かに、両親を殺した深海棲艦に対する恨みなど言葉にできないくらいにあり、今も翔の腹の中で渦巻いている。

 

 しかし、実は翔の父親は深海棲艦とのコミュニケーションを図る研究をしていたのだ。

 確かに当時、他の学者から散々馬鹿にされていたが...それでもなお立ち上がり、それこそ死ぬ前日まで研究に明け暮れていた父親を、翔は誇りに思っている。

 

 「そうだな...

 そんな深海棲艦がいるなら、話してみたいところだ。

 話してみてから、判断しようかな。」

 

 少し曖昧な返しになってしまったが、このぐらいが妥当だろう。

 

 「そう、ですか...」

 

 電も電で納得したのかわからない、曖昧な返事をする。

 

 「ソウに決まってルじゃナイ。」

 

 そうだ。我々人類も人類同士で幾多の戦争を起こし、対立してきたが...どんなときも最後に話し合いを通して、条約・和解を以て...一時的だが、平和を築いてきたのだ。

 常にどこかで対立や戦争は起こっているが、終わらない戦いは無い。

 

 

 

 

 

 

 ...ん?

 

 

 

 

 

 

 「はわわわわ?!」

 

 「また会っタわネ、電チャン。」

 

 刀だけを展開したのか、少し背中が重くなる。電を下ろし、手で制して後ろに下がらせつつ懐中電灯でその声の主を照らす。

 

 腰よりも下まで伸びた白髪のツインテール、前髪で右目を隠し、露出多めな真っ黒い服...水着?を着ている。箱を抱えているが、暗くて何が入っているかまではわからない。

 

 だが、こいつは沖縄から国民を追いやった張本人────

 

 「────南方棲鬼?!

 と、また会ったとはどういうことだ!」

 

 南方棲鬼は大規模作戦で撃破され、それ以来目撃情報は無いと軍学校では習ったはずだが、今、目の前に立っている。

 深海棲艦は人型であっても甦るとでも言うのか...?

 

「ヘェ...そのニンゲンが、電チャンの...

 

 ...艦娘ヨリもニンゲンの方が弱イのに、アナタが前に立つノネ。

 フフッ、愚カ...実に愚カ、だけド......

 

 

 

 ────美シイわネ。」

 

 

 

 ガチャン、と箱を降ろす南方棲鬼。

 

「...何が言いたい。」

 

「イイエ...ただ、電チャンの強さノ秘密ガわかっタ気がするワ...フフっ。」

 

「お前は電とどういう関係だ!」

 

「そ、その...翔さん、落ち着いて...落ち着いて、聞いて欲しいのです。

 実は────」

 

 

 

 

 

「────遠征中にそんな事が?!」

 

「その...ちょっと、言い出せなかったのです...」

 

 人差し指をいじいじさせながら、電が申し訳なさそうに言う。

 ...いや、言い出せなくて当然だろう。艦娘と深海棲艦は水と油のような関係だというのに、話が本当ならそれが覆されたということだ。

 

「驚イタかしら?フフフッ」

 

 ニコニコしながらどこから取り出したのか、ピラフに刺さってそうな白い旗を指先でふりふりと弄んでいる。

 

 ...なんというか、思いっきり慌てていた自分が、何故かおかしく感じてしまう。

 いや、おかしくないはずだ。この状況の方がおかしいのだ。

 

「...で、お前は何故こんな所にいる。」

 

「あぁ、少シそこの建物ノ物を拝借シヨウかと...

 ホラ、そこの鎮守府モ使ってるデショウ?」

 

「......」

 

「何よ!イイじゃないノ!」

 

 人間側どころか深海棲艦側からも設備を使われているなんて...リゾート施設の支配人が可哀想に思えてきた。

 

「...いや、それにしては偶然が過ぎる。」

 

「そうネ...ま、ホントは電チャンが外に出テキタから、気にナッてね。」

 

「...何故電が外に出たことが分かった?」

 

「それは、電チャンが持っテるアレのおかげヨ。」

 

「これ、なのです...?」

 

 電がごそごそと懐から、電自身の手に収まるくらいに小さな真っ黒い結晶を取り出した。

 

「ある程度近くに居たラ、私ダケ結晶の位置を辿レるのよ。

 ほかのコには出来ないカラ安心してちょうだい。」

 

「ふむ...」

 

「あらあら、信用ナイのね。

 スデに元帥のトナリにあの人ガ...フフッ」

 

「待て、どういうことだ?」

 

「ゴメンなさいネ、そろそろ帰らナきゃ。」

 

「あっ...」

 

 

 

 箱を抱えて、海の方へ歩いていく。

 

 ...しかし、私はそれを追わなかった。

 いや、追う気になれなかった。

 

「電、帰るぞ。...酔いが覚めてしまった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は怒りで煮えたぎっていた。

 

 普通、どんな艦でも鎮守府を夜に強襲するような奴は居ない。

 怨みがどんなに強くても、どこかに騎士道精神というか、黒く染まった我々にも、まだ武人として戦う心が残っているのだ。

 

 しかし、今私は妹を捕虜にされている。

 ...“どんなこと”をしてでも、私は妹を取り返す。

 

 「......」

 

 例の鎮守府が見えてきた。

 

 ドクン、ドクンと、自分の怨念が強まっていくのを感じる。

 

 砲をぶち込むというのも手だが...援軍を呼ばれたら不味いし、何より妹を助けにきたのだ。陸地のあの子に誤射誤爆でもしようものならひとたまりもない。

 

 「......」

 

 海岸に着いた。

 

 「......!」

 

 あれは...妹が肌身離さず持っている『ゼロ』だ。

 ギリリ、と歯ぎしりを立てる。

 これが落ちているということが、確かにこの鎮守府に拉致られたという証拠になる。

 艤装を収納し、海岸を歩いていく...

 

 「......」

 

 正門を飛び越えていざ侵入。

 ...だが、あまりにも気配が少ない。

 

 もしやすると既に気づかれて...?

 

 細心の注意を払って建物内に入る。

 

 「...おかしい。」

 

 夜中でも少しくらい電気がついていてもいいと思うが、この鎮守府は人がそもそも居るのかというほどに暗く、静かだ。

 

 そして私は鎮守府内を探し始める前に少し考える。

 もし誰かを捕らえたとすれば...大抵地下牢だろう。童話や本で(私が知る限り)人が捕まったら、大抵お城のてっぺんか地下牢なのだ。

 

 「......」

 

 廊下でしゃがんで、床の金属部に爪を立て、ゆっっっくりと引っかく。

 

 

 

 

 

 (────────────!!)

 

 

 

 

 

 人間には聞こえない程に甲高い音。

 ...音の響き方で、この付近の地形を調べているのだ。

 

 (...この廊下の行き止まり、左に地下空間。)

 

 

 

 

 ...着いたが、階段の(たぐい)は何も無い。だが、あるはずだ。

 

「......」

 

 くるりと一周見回してみるが、全く何も無い。

 

 

 ────ギリ。

 

 

 小さく、だが、確かに床板が軋む。

 

 廊下は規則的...フローリングのように板が張られているが、この行き止まりの床板だけ微妙にズレている。

 

 長い爪を板目に引っ掛ける。

 

 キィ...と、隠し階段が現れる。

 

 怪しく思った私は、意識を階段の先に向ける。

 私ほどの強大な力を持つ艦は、艤装を出さずとも...ごく短距離(しょうめん)だけとはいえ生体反応を感知できる。

 

 「......」

 

 ...反応は無いが、調べておくに越したことはない。

 

 カン、カン...と足音が響く。空気は通っているようだが、ほぼ密室だ。

 

 階段を降りて細い道を数歩進むと、目測五メートル四方の部屋があった。

 

「......?」

 

 しかし不思議なことに、この地下室は使われた形跡が全く無い。

 

 そして何より────

 

 

 

 ────妙に“空気が美味しい”。

 

 

 

 ∽

 

 

 

 謎の地下室から出た私は、ゆっくりと階段を上り『執務室』の看板が掛かった扉を見つける。

 

 「......!」

 

 二つ、反応を捉える。

 この先に艦娘が待ち構えているかもしれないし、妹がいるのかもしれない。

 

 「.........」

 

 ドクンドクンと脈打つ怨念を落ちつけるように、大きく息を吸って...ふっ、と気を込める。

 

 そーっと、扉を開ける。

 

 中は畳とフローリングで分かれていて、足元に靴箱と段差がある。

 

 「......」

 

 ...一応私も、マナーについては心得ている。

 

 靴を脱いで、ゆっくりと足音に気をつけて奥へ進む。

 

 「......!!」

 

 やけに膨らんでいる布団が敷かれている。

 

 おそらく、ここの提督にあたる人間が寝ているのだろう。

 

 「(こいつが...妹を...っ!)」

 

 ドクンドクンと、感情が強まっていく。ドス黒いオーラが身体から湧き出て、窓から差す月明かりにギラりと爪が光る。

 ...居場所を聞き出す理性など、私には残っていなかった。

 

 「(死ね......ニンゲンッ!!)」

 

 ゆっくりと腕を振り上げ────

 

 「────ケンペー...」

 

 「?!」

 

 よく目を凝らすと、布団から白い頭が見える。

 

 「(ほっぽ...?)」

 

 振り上げた腕をゆっくりと下ろして、切り裂かないようにそっと布団をめくる。

 

 「「zzz...」」

 

 男に抱きつくようにして妹が寝ていた。

 私以外の、しかも人間と一緒に寝ているのだ...この子が。

 

 「......」

 

 その幸せそうな寝顔を見て、なんだか気を削がれてしまった。纏っていたオーラも虚空へと霧散する。

 

 「......ふふ」

 

 また今度、昼に改めて伺うとしよう。

 コト、と枕元に“プレゼント(ゼロ)”を置いて、静かに立ち去────

 

 「ぉねぇちゃん......」

 

 ...寝言のようだ。これ以上ここに用は────

 

 「...ぁいたいよぅ......」

 

 「......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

 窓から差す朝日に目元を照らされ、俺は目覚めた。

 誰かに抱きしめられているような、なんだか幸せな気分だ。このまま二度寝と行きたいが、俺にも一応仕事はある。

 

 パチリと目を開けると、目の前にツノがあった。

 

 ツノが、あった。

 

 「?!!」

 

 あと1〜2センチで眉間にぶっ刺さっているくらいの距離に、鋭く尖った黒いツノがある。

 

 まずは落ち着いて、ゆっくりと首を回して周りを見る。

 腕の中にはほっぽ。目の前にツノ...を生やしたすっごい美人。寝ているようだ。背中に爪。

 

 ...爪?

 

「??!」

 

 軽く30センチを超える長さの黒い爪が、俺の背中に回されていた。

 

 ツノを見てこの美人さんを突き飛ばしていたなら...私はズタズタになっていただろう。

 自分の肝の太さに感謝である。

 

 (さて......)

 

 この美人(べっぴん)さん、肌や髪がほっぽのように白い。おそらく深海棲艦だろう。

 それも見た目からして、ほっぽよりずっと強い姫級上位のはずだ。

 ほっぽを探しにきた、ということは予想できるが...何故ここで一緒になって寝ているのかは全くわからない。

 

 私にできることは三つ。

 ほっぽを起こすか、美人さんを起こすか、現実逃避(にどね)か...

 

 頭を悩ませていると、

 

「...!

 ぉはヨう、ケンペー。」

 

「おっ、おはようほっぽ。

 

 突然で悪いが、この人...誰だか知ってるか?」

 

「んぅ...?

 

 ...オネーチャン!!」

 

 ?!

 

「......ホッポ?」

 

 ガバッと体を起こす美人さん改めてお姉さん。

 俺も同時に体を起こす。...爪で裂かれるところだった。

 

 そのままお姉さんはほっぽを抱えてサッと距離を置いて、

 

 

 

「...何ガあったか、話シテ。」

 

 

 

「おいおい、そいつぁはこっちのセリ...

 

 ────分かった話すからまずは落ち着いてその爪を下ろしてほしいな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「アナタが、ホッポを...ナントお礼をスレば...」

 

 このお姉さん曰く、人間からは『港湾棲姫』と言われている深海棲艦で、“深海”棲艦なのに陸地や浅瀬で戦うのが得意らしい。

 

 ...蛇足だが、俺が今まで見た中で一番大きなものを持っていた。何が、などと野暮なことは言わない。ただ、言うなれば...縦セーターのような服装と相まってすっごく、その...良かった。

  

「いやいや、大丈夫。俺もちょうど話し相手が居なかったからさ。

 ...んじゃあ、ありがとな、ほっぽ。」

 

「オネェチャン、帰ル、ノ...?」 

 

 うるうると、俺の顔を見つめる。

 ...前々から、子どもには妙に懐かれるんだよなぁ。

 

「ほっぽの仲間(?)も、心配してるんじゃないか?」

 

「でも、ソレじゃあケンペー独りぼっち...

 

 ...ア!今カンムスが居ないなラ────」

 

 

 

 

 




後書き
「ここまで読んで頂いた読者の皆様、ありがとうございます。コンブです。
えー、二人が冒頭でもお話してくれた通り、今回載せる予定の本文が全て消えました。
今回は5742文字の本文ですが、予定では短編集のような話も含めて20000文字近く載せる予定でした。

しばらく投稿ペースが落ちますが、どうかお待ちいただけると嬉しいです。」

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