あなたが手を引いてくれるなら。   作:コンブ伯爵

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翔「どうやらコンブは受かったようだな。」

電「ま、まぁ...褒めて遣わすのです。」

翔「すっごい上からだな...」

電「さ、さっさと本編に行くのです!せーのっ」

翔・電『どうぞ!』





31話 深海との接触 〜南北〜

 

 

「...どうシて、私を助ケたノ?」

 

「それは────」

 

 ...正直に答えるべきだ。

 ここで下手に嘘を()いて、あとからボロが出るというのが一番危険だ。

 しかし全部正直に話して相手を傷つけるのも良くない。

 言葉を選び、余計な言葉を削いで発言しなければ...

 

「────それは、ほっぽが怪我をしていたからだ。」

 

「...私タチは、ニンゲンの敵ナノに?」

 

 訝しげな目線。

 

「正直、俺は最初ほっぽを見つけた時、深海棲艦って分からなかった。」

 

「エ...?」

 

 首を傾げる。

 

「俺が海岸を歩いている時、ほっぽが打ち上げられていたのを見つけたんだけど、艦娘か人間かと勘違いしてた。」

 

「じゃア、今にでモ殺セバ────」

 

 この流れは不味い。

 言葉を遮るように少し大きな声で────

 

 

 

「────でも!」

「?!」

 

 

 

「...でも、ほっぽと話していて、人間も艦娘も深海棲艦も変わらないな、って思えてきたんだ。

 ちょいと肌や髪の色が違うかもしれないけど...

 同じような体で、同じ言語を話して、今こうやって武器も出さずに向かい合っている。

 しかも、ほっぽが目覚めて、俺が人間ってわかったとき殺さなかっただろ?」

 

「...ソれは...身体ガ痛────」

 

 言い訳はさせない。

 狼狽えている今こそ────

 

「 ────そのとき俺を殺そうとしなかったから、俺もほっぽを殺さないし、ここで休んでいる間に艦娘が来ても、ほっぽを守ってやる。

 別に俺の言葉を嘘と思うなら、遠慮なく殺しても構わない。

 ...ここから出て医務室、さっき寝ていた部屋に居るから、考えてくれ。」

 

「......」

 

 そのまま風呂場を出て、ふうぅぅぅーーー、と息づく。

 

 とりあえず一時的に窮地は逃れたが、ほっぽが私を殺しに来たらそれで終わりだ。

 

 「......」

 

 あと4時間。

 俺ができるのは家族の写真を手にただ祈るのみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......うし、じゃあ今日は遠征に行ってもらう。」

 

 次の日の朝、いつもより早く起きて食堂に行き、秀吉から連絡を聞いていた。

 

「確かに、私たちもこのままではタダ飯食らいになるからな。

 龍田と第六駆逐隊、望月はここの離島へ行ってくれ。」

 

「......おさげ髪(北上)ベレー帽(村雨春雨)姉妹、島風にはここへ行ってもらう。

 重巡、戦艦は近海訓練、空母も一緒に混ざるか弓道場で練習してこい。

 日が暮れる前には全員帰ってこねぇと、飯は無いと思え。いいな?」

 

 「「「「「了解!!」」」」」

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 弓道場に着いた私は的を並べて弦を張って、早速練習を始め...ようかと思ったけど、加賀さんの弓の腕を見たくなってメンテナンスをしながら、ちらちらと盗み見ていた。

 

 赤城さんと加賀さんの使っているのはいわゆる“長弓”。私が使っているのは“短弓”って言われるものね。

 

 長弓は日本に昔から、それこそ何千年前から武士の嗜みとして根づいている、歴史ある武器。那須与一さんとか有名よね?

 

 それに対して私の使う短弓は、外国から伝わった武器。そのへんも含めて、加賀さんはあまり私のことを気に入ってないらしい。

 

 矢をつがえて、ぎりりと引き込み、ぱんっと離れ...的に(あた)る。

 

 一つ一つの動作がしっかり決まっていて、くやしいけど、かっこよかった。

 

 ...あ、こっち見てドヤ顔を。

 こうなったら短弓の力を見せてやる!

 

 加賀さんが一立ち(四射)終えてから、私も的前に立つ。

 

 

 

 ────加賀さんと同じく、四本全て命中。

 ちらと加賀さんを見る。目が合う。

 

 「「......」」

 

 加賀さんがまた四射皆中。私も────

 

 きりり...と弦を引き込む。

 

 ────今っ!

 

 

 

「(まな板)」ボソッ

 

 

 

 ────ずしゃぁぁぁっ!

 

 集中の乱れてしまった私の矢は、思いきり地面を擦って安土...的を立てるために積まれた土に刺さる。

 

「まだまだ集中力が足りないわね。」

 

 うぐぐぅ...!

 あんな方法で邪魔してくるとはなんて卑劣な!加賀さんがそんなことするなら...

 

 きりりり────

  

 

 

 「────ボーキサイト」

 

 

 

 ずずしゃぁぁぁっ!!

 

 加賀さん...と、赤城さんも外してしまったようだ。

 

「集中力、ね〜。」

 

 うっわっ、すごい目で睨んできてる...

 

 

 

 「Aカップ」

 

 ────ずしゃぁぁぁ!!

 

 「羊羹」

 

 ────ずしゃぁぁぁ!!

 

 「駆逐レベル」

 

 ────ずしゃぁぁぁ!!

 

 「おにぎり」

 

 ────ずしゃぁぁぁ!!

 

 

 

 結局、赤城さんに止められるまで不毛な争いは続いた。

 

 ...さっ、最初に始めたのは加賀さんだもん!

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 海に出た私たちは、いつもと違って望月さんを先頭に、いつもと同じようにみんなで話しながら移動していた。

 

 第七鎮守府近海と違って南の海はものすごく水が綺麗で、たまに私たちの足元を深海棲艦が泳いでいくのが見える。

 

「......はわぁ?!」

 

「んぁ?あー、大丈夫だいじょーぶ────」

 

 望月さん曰く、武装している深海棲艦は海面を移動しているらしい。

 言われてみれば、深海棲艦は名前の通り深海に棲んでいる...と、言われている。足元から奇襲すればほぼ100%勝てるのに、とは思っていたが、何故かどんな深海棲艦も海面を移動しているのだ。

 

「────右に曲がるよ〜?」

 

「────あ、次は左ねー。」

 

 ...先ほどから私たちはぐにゃぐにゃと曲がりながら航海している。

 この辺りは島が多く、ちゃんと避けて移動しなければ浅瀬で座礁してしまうらしい。

 

 ...と、

 

「...んぁ?あれは────」

 

 と、望月さんが目を凝らす。

 私より何倍も目がいい皆さんが目を凝らして見るものなど、私には見えない。

 

「えっ...ちょ、望月ちゃん?」

 

「あ、あたしでもあれは...任せられたく無いわね...」

 

「あれは...ちょっと危険な気がするかな?」

 

 暁・雷お姉ちゃんと龍田さんがその何かを発見したようだ。

 

「大丈夫だいじょーぶ、ちょいと寄ってくぜぃ?」

 

 

 

 

 

 しばらくその島に近づくと、黒い何かがいるのを見つけた。

 ...更に近づくと、真っ白なツインテールのお姉さんが、黒く禍々しい...四足歩行の異形の怪物に乗っていた。

 その怪物にはいくつもの砲台が載せられ、一言で表すならば...移動要塞、だった。

 

「おーい!」

 

 「「「「??!」」」」

 

 その移動要塞に対してなんと望月さんはこちらから声を掛けた。

 

 ────じゃごっごっごん!

 

 異形の怪物が声に反応したのか、ただでさえ盛り盛りの砲台に加え、口から三門の主砲を展開する。

 あのサイズは...下手すると山城さんの41cm三連装砲を超える大きさかもしれない。

 

 今から全力で逃げれば、まだ『超長距離』の範囲だから間に合うだろう。

 

 しかし望月さんは、どんどん近づいていく。

 ────おおよそ中距離。もう逃げられない

 

「おーい!姐さーん!」

 

 「「「「??!」」」」

 

 姉妹艦...なわけないはずだ。そもそも艦娘さんの反応が“あれ”からは全く感じられない。大体近距離、私たち駆逐艦の砲撃も届く範囲だ。

 

 くるり、とお姉さんがこちらを向く。

 

「アら、望月チャん!

 ...ト、お友達?」

 

 ドスン、ドスンと怪物ごとこっちを向いて近づいてくる。

 ...望月さんはもう艤装を解いて砂浜を走っている。

 

 ちらと二人と目配せをして、私が“艤装を展開したまま”砂浜を歩く。

 

 超至近距離なら、私の火力は戦艦をも軽く上回る。

 

「アラ、やっパり怖イのカシラ?」

 

「仕方ないよ、こんな怪物出しててビビらない人なんてそうそう居ないよ?」

 

 近づいてわかったが、体長が3mをゆうに超えている。

 真っ白なツインテールと肌、局部をギリギリカバーする服、黒いサイボーグのような腕と鋭い爪。

 

 (...握手したくないのです。)

 

 震える手を抑えるように、両手で剣を構える。

 

「ウーン...見下ろすのは失礼ネ。」

 

 ぴょん、と足元までありそうな長いツインテールを翻して、軽やかにお姉さんが降りてくる。

 お姉さんが降りると、怪物は膝(?)を折って、頭を垂れる。...まるで電池が切れたかのような動きだ。

 

「ホら、あのコはアタシがいないと動カナイワ。」

 

 それを見て、お姉ちゃんと龍田さんも艤装を解いて砂浜を歩いてくる。

 ...が、龍田さんがもう一度薙刀を取り出し、お姉さんの首を()ね上げんと斜め右上に振り上げる────

 

 見事な太刀筋。だが...

 

 

 

 

 

 

「────こういうノ、確カ...

 『白羽取リ』ッテ言うのカシラ?」

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、かなり間違っていた。

 

 神速の一撃を、お姉さんは平手と平手で挟むようにして...素手(?)で受け止めていた。

 

 

 

 ...刃に対して“垂直”に。

 

 

 

「あらあら、あなた...相当お強いのね。」

 

「フッ...マだ五割のチカラもダしてないデショウ...?

 ソんなハエも止まるヨウな刃には...ヤられないワ。」

 

 ぎりぎりぎりぎり...

 

 薙刀とお姉さんの艤装腕(?)が火花を散らす。

 

「......はぁ。」

 

 しゅん、と薙刀をしまって、何歩か後ろに下がる。

 殺すのは諦めたようだ。

 

「...まずハ、自己紹介ネ。

 アタシは、アナタたちからは南方棲鬼、って呼バれてるノカシラ?

 コノ辺りヲ統治してたケド...ソコの鎮守府の人たちに追い返されチャッタノ」

 

 HAHAHAと暢気に話しているが、龍田さんの薙刀を素手(?)で止めるこの人を撃退するなんて...第八鎮守府の人たちはかなり強いのかもしれない。

 

「でも、トドメって時に話しかけて来たんだよね〜。」

 

「エエ。その時に、『ココの近くに来ないようにするカラ、見逃シテくれ』って頼んだノヨ。

 マア...アタシの言う事を聞かナイ武力派のコは、沈めてもらってるケドね...」

 

「武力派、なのです...?」

 

「ソウ...ワタシたちにも、タダ生きていきたい『穏便派』ト、ニンゲンに何かしら恨ミや悪意をもっテ襲ウ『武力派』に分かれてるノ。

 穏便派のコは、艦娘を見つけルと潜水するか、逃ゲルように動くハズ。

 アナタたちを見つけて、追いカケたり襲うのナラ武力派ネ...」

 

 今までの常識をひっくり返されてしまって、頭の整理が追いつかない。

 今まで敵だと思っていた深海棲艦の中に派閥があったなんて。

 それに、もしかすると...翔さんのお父さんの深海棲艦とコミュニケーションを取れるかという研究は、あながち無駄ではなかったかもしれないということだ。

 

「マ、ココで会えたのも何カの縁。

 望月チャン、持っていきナサイ。」

 

 と言って、怪物の口をぐいと開けて口腔をまさぐる。

 腕を抜くと、手の内に少しばかりの資材が握られていた。

 

「ん、ありがと!」

 

「────ト、ソコのおチビちゃん」

 

「い、電なのです!」

 

「電チャン、ちょっとイラッシャイ?

 

 ...サッキの刀、見せてくれるカシラ?」

 

「??」

 

 下手に抵抗しても仕方ないので、大人しく渡す。

 刀を横にして両手で持ち、刃は相手に向けない。

 ...翔さんから学んだ、刃物を持つ時のルールである。

 

「ソのまま、刃を上に向けてモラエる?」

 

「えっ...?は、はい...」

 

 大人しく言う通りに向ける。

 

「フゥン...?」

 

「い、電をどうかしようってなら、容赦しないわよ!」

 

 暁お姉ちゃんが砲を構える。

 が、それを気にすることなくまじまじと私の刀を見つめて、南方棲鬼さんは刃にチョップをかました。

 

 

 

 ────さくっ、ボトン。

 

 

 

「はわわわわ?!!」

 

「「「「?!!」」」」

 

「えっちょ、何やってんの?!」

 

 重厚な金属質に見えるが、バターを切るかのように刃が通った。

 生々しい音とともに落ちた手から、血がどろどろ流れ出る。

 

「驚イたワネ」

 

「いやこっちのセリフだよ?!」

 

 マアマア、と望月さんの言葉を軽く受け流した南方棲鬼さんは、腕を拾って傷口にぐちゅりとあてる。

 ...しばらくすると腕がくっついて、動きを確かめるようにぽきぽきと指の関節を鳴らす。

 

 そして私に歩み寄って、少ししゃがんで私にしか聞こえない声で囁く。

 

「輪っかチャンの薙刀ジャ手のヒラもオトせないのに...ドウしてカシラ、ネェ?

 ...私タチのチカラは、後悔、屈辱、未練...怨ミの強サで変わるノ。

 逆にアナタたち艦娘のチカラは...フフっ。

 

 ────コレをアゲル。」

 

 懐から黒い結晶を取り出して、私の手に握らせる。

 小石程度の大きさだが、カンカンに照りつける太陽にあてても全く光を反射せず、ただ絶対的な黒を灯している。

 

「コレは“怨恨晶(えんこんしょう)”。

 コレを通してワタシたちを見ルと怨みの強サが見エルケド...ソノ刀と一緒に、メロンチャンに渡しナサイ。」

 

 私は受け取って、少し眺めてから懐に入れる。

 

「マタ会えたラ会いまショウ?

 戦場カ、陸地カ、水底デ...フフっ。」

 

 

 

 そう言い残して怪物に乗った南方棲鬼さんは、その巨体からは予想できない程の跳躍。

 ドボーーン!!と着水して、影はすぐに見えなくなった。

 

 ...お姉ちゃんたちは、二人揃って龍田さんにしがみついてビクビクしていた。

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

「Barning...────loooooooove!!」

 

 ズドズドーーーン!!

 

 直訳すると『燃え上がる愛!』という言葉と共に放たれた模擬弾は、見事移動する的に命中する。

 

「さ、流石金剛姉さん。

 ...どうやったら、姉さんみたいに強くなれるんですか?」

 

 榛名は疑問に思っていた。

 実際、榛名と金剛はほぼ同じ兵装で、ほぼ同じ練度だった。

 しかし先ほどから見ていると命中率どころか、榴弾の爆発範囲も金剛の方が広い気がする。

 同じ模擬弾を使っているのに、こんなおかしな話があるのか。

 

「ンン?

 ワタシの強さの秘訣を知りたい??

 

 それはデスネ......」

 

「そ、それは......?」

 

「それは...............」

 

「それは...............?」

 

 ごくり、と息を呑む。

 

 

 

 「────LOVE POWERデーーース!!」

 

 

 

 デーース!、デーース、デース...

 

 

 ...榛名は思い出した。

 

 自分の姉が、いわゆる『手取り足取り教える派』ではなく、『感覚で掴め派』の人間だということを。

 

「わ、分かりました。愛を込めるんですね!」

 

「さっすがMy sister!!飲み込みが早いネー!

 さぁいっしょに!

 

 Barning......Looooooove!!」

 

 「ば、ばぁにんぐぅ...らあああああぶ!!」

 

 「Loooooooooooove!!」

 

 「らああああああああああぶ!!」

 

 「「ラアアアアアアアアアアアアアアアアアブ!!!!」」

 

 

 

 

 

 「...何やってんだアイツら。」

 

 クレー射撃をしていた摩耶が、大声を聞いて首を傾げる。

 

 後にこの訓練が榛名を助けることになるのだが...それはまた別のお話。

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 「わいわい」

 

 「きゃっきゃっ」

 

 「はやい??」

 

 ......

 

 「────駆逐艦うざい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チリンチリーン、とベルの音が鳴る。

 ...入渠施設に空きができた時の音。

 即ちほっぽ────

 

 ...北方棲姫が出てきたということだ。

 

 程なくして、がららと医務室の扉が開かれる。

 見れば傷は全て塞がっているようだ。

 そして何より目を引くのが、白いボールに大きな禍々しい口をつけて、申し訳程度の可愛さ要素と言わんばかりに猫耳をくっつけたような、なんとも言えない物体...生物?が、ふよふよと北方棲姫の周りを飛んでいる。

 

 ...プロペラや翼が生えていないのに、何故浮いているのだろうか。物理学を鼻で笑うような存在だ。

 

「......」

 

 ぱっ、と北方棲姫がこちらに手を向ける。

 

 ふよふよ〜っと俺の方に謎の物体(?)が飛んでくる。

 

 『ギィ...?』『ギイギイ!』『ギギー』

 

 鳴き声?を発する。見た感じ何かを話しているようで、この謎の物体には自我と言語...とは言い難いが、コミュニケーション能力を備えていることがわかる。

 

 よってこの物体は生物である。証明終了。

 

 しばらく会話(?)を続けた後、またふよふよと北方棲姫の元に帰る。

 

 

 

「......オマエ」

 

 

 

 北方棲姫が口を開く。

 

「風呂で私が敵ッテ分かってモ、殺さなかっタ。

 ダカラ...ニンゲンは嫌いだけド、オマエだけは...信じテみる。

 ...帰リたいケド、ここ、わからナい。

 ...しバらク、オ世話になる。」

 

 と言って、ぺこりと頭を下げる。

 

「...『お前』じゃなくて、憲兵とでも呼んでくれ。」

 

「ケンペー?」

 

「あぁ、そうだ。

 

 よろしくな、────ほっぽ。」

 

「ヨロしく、────ケンペー!」

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 夜。

 

 明日は休み(ほとんど休みのようなものだが)ということで、秀吉が酒を持ってきてくれた。

 

 今日釣ってきた魚の切り身をツマミに、ホテル内の大部屋にみんなで集まってちびちびと飲みながらみんなで談笑...

 

 

 

 ────したかった。

 

「ぐへへへへ〜テートクぅ〜!」

 

「ぁい!はるなぁだいじょーぶれす!」(壁に向かって)

 

「ね゛え゛さ゛ま゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛...ひっぐ。」

 

「一航戦、赤城」

「一航戦、加賀」

 

 「「────脱ぎます!!」」

 

 「「やめろ馬鹿野郎!!」」

 

 ...さっきからこんな感じだ。

 

 駆逐艦たちは少し離れた場所でパジャマパーティーを開いている。

 ...島風がホワイトボードを使って『速さとは何か』について熱弁しているのを、暁・雷・村雨がきのこの里やたけのこの山をつまみながら『ほへー』という顔で聞いている。

 

 ちなみに春雨は北上に抱きついて、北上は春雨に抱きついて端の方に布団を敷いて寝ている。

 駆逐艦(こども)嫌いな北上も、大人しくて抱き心地の良い春雨だけにはかなり甘い。

 

 

 そんでもって私はと言うと、背中には鈴谷が「てーとくぅ〜うへへへ〜」とか言いながら抱きついていて、膝の上には電がオレンジジュースを手にニコニコしながら座っている。

 秀吉の背中には夕張がレンチを片手に寝ていて、望月が膝の上で漫画を読んでいる。

 ...今日の漫画は『カガ〜光に舞い上がった鬼才〜』だった。

 これは主人公の“カガ”が闘牌(大金や身体を賭けての麻雀)にて狂気的かつ奇跡的な才能を発揮し、多額の金にも目をくれず、ひたすら真の勝負を求めて闇社会を歩くという麻雀漫画だ。

 何十年も連載されていたが、つい最近最終回を迎えたということでちょっとしたニュースになるほど、有名で面白い漫画である。

 

 摩耶と龍田は酒に強いらしく、私、摩耶、龍田、秀吉の四人でちゃぶ台を出し、麻雀を楽しんでいた。

 

 打ち方としては、龍田は相手に振り込ま(ロンさせ)ないが、和了(あが)ることも少ない。

 ...龍田と摩耶は前任のいた頃、こっそり飲み水やらパンやらを賭けてやっていたらしい。

 摩耶は大きな役で一発逆転を狙うタイプ。しかし、危険牌も結構捨てていくので振込み(ロンされ)やすい。

 秀吉は...たまに怪しい手つきをする。おそらくここに怖いお兄さんがいたら、指を詰められているだろう。

 

「────ツモ!

 リーチ混一色ドラ2...いや、裏ドラで3、計8翻の倍満だぜ!」

 

 ここで摩耶が一歩リード。

 

「きたぜ。ぬるりと......」

 

 赤城が観客にやってきた。何故かはわからないが赤城の鼻や顎が伸び、駆逐艦のパジャマパーティーの声が『ざわ...ざわ...っ!』と聞こえる。

 

「...お前はアカギ違いだ、しかも似てねぇ。」

 

「うわぁぁぁぁあん!!」

 

 泣きながら走って...加賀に泣きつく。

 

「......フン。これで勝ったと思うな...また危険牌を、相手の手を考えずにパカパカ打てば、また落ちるぞ...?」

 

 調子に乗りそうな摩耶をニヤリと不気味な笑みを浮かべて、睨みつける。

 するとまた赤城がやってきて、

 

「いいじゃないか...! 三流で...!熱い三流なら上等よ...!」

 

「......テメェ、次は無いと思え。」

 

「うわぁぁぁぁあん!!」

 

 またも赤城は走り去って、加賀に泣きつく。

 ...にしても秀吉の声がガチトーンだった。これ以上は危ないと思ったのだろう。

 

 

 

 

 

 『速さとは即ち、軽さである』

 

 『『『ふむふむ』』』

 

 『だから私は、下着は最低限にしているの!』

 

 『『『ほうほう』』』

 

 

 

 

 

 ...いや、納得しないでほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 




後書き・憲兵さん&ほっぽ

「ここまで読んでくれた読者の皆、ありがとう。
憲兵だ。」

「ワタシもイルぞー!」

「...本編ではなんとか生き延びたが、まだまだ安心はできない、とコンブさんからは聞いた。
翔くんたちも急展開を迎えたようだが、俺の活躍にも期待してくれよ?」

『ギィ!ギィ!』

「次回・サブタイトル予想『深海棲艦の夜歩き』。
“二人”の深海棲艦が夜を歩くと聞いたが、一人は南方棲鬼、もう一人は...?」

「ワタシは“イーコ”だから“ハヤネ”スルぞ!」

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