電「迫り来る受験からの逃避────」
翔「────ほっ、本編へどうぞ!!
(電、そういうのは言っちゃダメだ!)」
電「(わ、わかったのです...)」
∽∽∽
────私には、姉がいた。
綺麗な白髪の...翔鶴って人なんだけど、優しくて、美人で、落ち着きがあって、怒らせたら鬼よりも怖い...
でも、本当に尊敬できる姉さんだった。
私が艦娘として生まれて、軍学校に通ったあとすぐに着任した鎮守府で翔鶴姉と会えた。
でも、そこに着任してかなり経ってから...あの日。
大規模作戦の時に、翔鶴姉は────
「────かく!
瑞鶴!しっかりなさい!!」
翔鶴姉からの声。唇を噛んで、朦朧とする意識を無理やり覚醒させる。
大破進撃...私よりも翔鶴姉の方が危険なのだ。
「あと少しで夜よ!夜戦に持ち込めば勝てるのよ!!」
...そうだ、甲板をやられて攻撃機を発艦できないが、どうにか夜戦になれば戦艦たちがトドメを...!
『......!!............!!』
仲間が遠くで何か叫んでいる。
ㅤ指さす方向を見た瞬間───
「うぁっ!」
水平線に浮かぶ夕日が私の目を刺してくる。
日差しに怯んだ無防備な一瞬。
────そこに、敵艦の砲撃が飛んできた。
「がっ!!」
「瑞鶴ッ!!」
肺を握り潰されたように空気が押し出され、身体中が焼けるように痛い。恐らく大破したのだろう。
艦娘には、艦娘に対するダメージを服装が肩代わりしてくれるという加護が備わっている。
しかしこの加護は、二つ注意すべきことがある。
一つは陸地では発動しないこと。もう一つは、あまりにも服装のダメージが大きすぎる...大破してしまうと、だんだん肩代わりの効果が薄れていくことだ。
大破状態で進撃して攻撃を受けると、服装が肩代わり出来なくなったぶんのダメージを直接肉体に受け...
────沈んでしまう。
ブロロロロロ...
どうやって飛んでいるのかわからない、飛行機とは思えぬ異形の集団...
敵の艦載機が追撃に飛来するのが見えた。
吹き飛された私は明滅する視界と煙を上げる三半規管を手掛かりに起きるのがやっと...回避運動などできやしない。
...翔鶴姉のいる鎮守府に着任できて、第一艦隊の艦娘として最前線で戦えて、今こうして戦火に呑まれて沈む。
軍人としてこれ以上ない幸せ。
『─────!!』
遠くで仲間が叫ぶ声。
艦載機が近づいてくる音。
敵か味方かわからない砲撃音。
目を閉じる────
「瑞鶴ぅぅぅーーーーー!!!!」
「?!」
ドっ!!
────ズドドドドド!!
翔鶴姉からぶっ飛ばされた。
弓道場で無作法を働いた時より、
────その蹴りは重かった。
目を開ける。緋色が目を刺す。翔鶴姉が手を広げて仁王立ちしているのが、半分近く沈んだ夕日に重なっていた。
...翔鶴姉の身体から、木漏れ日のように無数の光が差している。
ぐらり、と揺れたかと思えば、翔鶴姉は倒れた...
────いや、崩れ落ちた。
穴だらけの身体が自重に耐えられなくなったのだ。
「翔鶴姉ぇぇぇーーー!!」
ぼちょぼちょどぷん、と────
────最愛の姉は、沈んでいった。
∽∽∽
「秀吉、何があったのか話してくれ。」
一度みんなで医務室に行ったのだが、軽い発作による気絶だったようで大した問題は無いらしい。
しかし私と電、加賀は時間を空けて医務室へ向かったのだ。
「......瑞鶴は、」
ボソリ、と低い声で話し始める。
「......瑞鶴は...ここに三年ほど前に、大本営から来た。
...いや、ここにいる大体の艦娘...島風と金剛以外のヤツらが、あの爺さんが寄越してきやがった艦娘だ。
だが、瑞鶴に関してはちぃと事情があってなァ...
...俺が知ったのも、つい去年の事なんだが...コイツがここに来たのは、『メンタルケア』ってヤツの為なんだとよ。
...あの爺さんはそこまでしか口を割らなかったから、俺も赤城に聞いたんだが、どうやら...姉貴を亡くしたんだとよ。」
「「「??!」」」
姉妹艦が沈む...聞いただけで電が涙目になる。
「......まぁ、そんとき一緒に出撃してたらしいからよォ、守れなかったとか、色々背負ってんだろぉなァ...
...男なら────家族とはいえ、仲間の戦死と割り切れるかもしれねぇが...女だから余計に、なぁ...」
...秀吉は本当に自分が嫌われていると思っているのだろうか。
口調は荒いかもしれないが、言っていることを要約すれば女性の心を考えてやれる、ものすごく紳士的な人間だ。
「......こいつがこっちの鎮守府にやってきた時は、打ち上がって腐っちまった魚みてぇな目をしてたんだけどよォ...
俺もちぃと腹立って、ガツンと言ってやったら...弓道場に引き籠もって、練習し始めやがったんだ。」
ㅤガツンと言った、などと言っているが、秀吉のことだ。
「...ちなみに、なんて言ったんだ?」
すると秀吉は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて、
「俺も後から事情知って後悔してんだけどよォ、確か俺が着任したての頃────」
∽∽
────第八鎮守府設立・着任から二ヶ月。
最初は赤城とかいう奴に手取り足取り教えてもらっていた仕事も把握して、ここでの暮らしにも慣れてきた頃。
大本営の艦娘は固ぇ奴らと思っていたら、そこらにいた可愛い女に砲と機関を乗っけたようなのばっかだ。
しかもみんな申し分ない...どころか、着任したての俺がこんなに活躍してもいいのかと思うほどに、いい戦果を挙げていた。
...そういや先週出撃させたら、英語混じりの口調の活発な戦艦を連れ帰ってきたんだっけな。
『......』
だが、そんな艦娘の中に一人...問題児がいた。
目の前でさっきから、いや...この二ヶ月ずっと、波止場から海を見つめている“瑞鶴”って奴だ。
こいつは書類によると、どうやら精神的疾患だかを持ってるらしく...
あれだ、“乙女心”とかいうあれだろう。
...だが、もう限界だ。
恐らくこの瑞鶴とかいう艦娘、俺よりもずっと長く軍で働いた...いわゆる先輩、のはずだ。
しかし俺の立場は指揮官。上司である。
俺は座っている瑞鶴に近寄った。
∽
(んー?あれはズイカクとテートク?
NINJAのようにチョット覗いてみるネー!)
∽
『......瑞鶴』
『......』
やはり、遠くを見つめてぼんやりしている。
『...提督、そっとして────』
『......赤城、お前は先に...執務室に戻ってろ...』
むぅ、と不満げながらも鎮守府へ歩いて行く
しばらく赤城がどっか行くのを待ってから、もう一度。
『......おい、瑞鶴。』
『......』
ぶちり...と、何かが切れた。
俺は息を肺いっぱいに吸い込んで、
『────ずぅぅいかくぅぅぅぅぅぅ!!!!』
『?!』
油を差さずに放置した歯車のように、ゆっくりと、こちらを見る瑞鶴。
俺は勢いのまま思いの丈をぶつける。
『てめぇを見てたらイライラするんだよォ!!
んな所で座り込んでて良いのか?!』
『......ぁ...ぇ...?』
最近ラジオで聴いたことなのだが、本州の方で大敗、撤退するという事件があったらしい。
『(ラジオで話題の他鎮守府の大破・轟沈事件と)
また同じことをここでも繰り返すンかァ?!』
『ぁ......ぅあ......』
俺は指揮官として、
『────もう(他鎮守府のように)仲間を...同じ鎮守府の家族を失いたくねぇって思わねぇのか?!』
『ぇ...ぁ......!』
『いい加減目ぇ覚ましやがれ!!』
『......』
瑞鶴はしばらく俺の目を見つめてから、
『ぅ...あぁ...うわああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
今まで溜め込んでいたものをぶちまけるように泣いた。
...後ろで聞いていたらしい赤城が瑞鶴を抱きしめる。
...あーあ、女泣かせちまった。
ただでさえ艦娘からの信頼は薄いのに、どう顔向けすればいいのやら...
∽
(テートク、ふ、Familyだなんて...
あんなにもワタシたちのことを大切に...っ!)
∽∽
「────って感じだ。
...確かこの日から、妙に金剛が懐いてくるように...なったんだっけな...?
ガチャ、どんがらがっしゃーん!
「「?!!」」
背後から轟音。
見ればドアから艦娘たちがなだれてきたようだ。
「......てめぇら、聞いて────」
「あのさぁ将軍。」
秀吉の言葉を遮って、ぱんぱんと埃を払いながら望月が面倒くさそうに言う。
「この際だから言っとくけど、みんなが将軍のこと嫌ってると思う?」
「......眼鏡餅...
お前を抱き枕代わりに昼寝してから...昼休みになると、変に不機嫌に────」
「────だ、だって...
ㅤ...あれ以来一緒に寝てくれないんだもん。」
頬を紅く染めて...ぎゅ、と秀吉の裾を掴む。
「......望月ィ...」
「Hey!ショーグン!!」
「......似非外国人?
あの時から妙に懐きだしたのも、瑞鶴を泣かせた俺に同情────」
「ショーグンがズイカクに話してたコトを聞いて...ワタシ、涙が止まらなかったデース!
Everyone、Please Listen!」
金剛がポケットから何かを取り出し、電源を入れる。
ぷちん
『......俺はなぁ...艦娘が好きだ。』
「......おい!これって────」
立ち上がろうとする秀吉を、望月が止める。
『明るい奴もいれば、暗い奴もいる。赤城みてぇに『日本』って感じの奴もいれば...妙に懐いてくる似非外国人みたいな奴もいる。
でもなぁ、どんな奴も俺を慕ってくれて、話しかけてくれるんだが...』
「......やめろぉぉぉ!!」
『その...なんだ。恥ずかしいんだよ。
どうしても心から素直になれねぇって言うか...アイツらの前じゃあどうしても口数が減っちまうんだ。
俺自身も自覚しているんだ。でも、直せないんだよ...
んでもって、アイツらからすると、話しかけてやってんのにまともな返事も返されないって事だろ...?
...つまり、アイツらぁ俺のことを嫌ってるに違いねぇんだ。』
「「「「「......」」」」」
『......最初緊張して寡黙なイメージが着いちまったんだろォなぁ。
...懲りずに色々と話しかけてくるのも、上辺だけの付き合いってヤツなんだよ。』
『...私は、』
『......ぁあ?』
『ひっ...!
そ、その...もし、私があなたの艦娘さんだったら...提督さんの本心に、気づくことができると思うのです。
もし、気づけなかったとしても、和泉司令官さんが素直になってくれれば...私は、あなたを喜んで受けいれるのです。』
『......ちびっ子、なかなか嬉しいこと言ってくれんじゃねぇか!』
『ちびっ子じゃないのです!い、電なのです!』
『......そうかそうか、ちびっ子ぉ!』
『はわわ、聞いてないのですぅ...』
────再生が終わった。
しばしの静寂。
ガチャ
「あら皆さん揃って何を────」
金剛の録音機を見た瞬間逃げ出す。
ダッ!
「赤城てめぇ────」
「「「「「このバカ将軍!!」」」」」
「うおぁっ?!」
どどどどど...と艦娘たちが秀吉になだれ込む。
「あたしの脚をはやいって褒めてくれたのは...将軍が初めてなんだから!」
「私の汚れた手を『頑張った証だな』って言ってくれたの今でも覚えてるわ!」
「あなたの秘書艦になって、辛いだなんて一度も感じたことは無いです!」
「今までずっと勘違いしてたなんてバッカじゃないの?!」
逃げたかと思いきや赤城も飛びつき、瑞鶴も掴みかかっている。
...口ぶりから、しばらく寝たフリで聞いていたらしい。
「...加賀、電。」
「「はい。」」
二人を連れて、そっと救護室を後にする...
────怒りと羞恥を感じながらもどこか嬉しそうな、秀吉の表情を濁さないように。
∽
「遅いわ...」
あの子の帰りを待って一週間と少しが過ぎた。
もしも“奴ら”に襲われたら、逃げろと言っておいたのだが。
「やられたとしても...遅い...!」
ガラガラっ!
「姐さん!」
横開きの扉を勢いよく開いて、戦艦が入ってきた。
...たしかあの子と一緒に出撃した子だ。
しかしその身体はボロボロにやつれていて、自慢の盾と砲を組み合わせたような艤装は煙を噴いていた。
「私が...不甲斐ないばかりに......っ!」
「どうしたの?落ち着いて、私に話してちょうだい。」
〜説明中〜
「────それで、不意打ちを食らって渦潮に巻き込まれて、はぐれちゃったの...?」
「そうです...離島で嵐が過ぎるまで待って、丸三日ずっと捜してたんですが、見つからなくて...
うぅっ...あの子、大破してたから...艦載機も飛ばせない...もしかしたら、捕虜にされてるかも...ううぁっ...」
「ありがとう、潜水組を東北の鎮守府周辺に捜索に向かわせるから、あなたは休んでなさい。」
∽
みんなが居なくなって五日目、そろそろこの静けさにも慣れてきた。
朝起きて筋トレと走り込みでひと汗流してから、軽く朝食を摂って書類整理。
...と言っても、俺がこなすのはここの提督...翔くんの10分の1程度だ。
襲撃・異変が無かったか、資材はどの程度残っているかなどを適当にまとめて、ポストに投函するだけの簡単な仕事だ。
「〜〜♪、〜〜〜♪」
そんなちょろい仕事を終えた俺は今、Haveing Dream...通称『ドリハブ』の『福岡LOVERS』を口ずさみながら海岸を歩いている所だ。
今日は暑い日だが、砂浜には俺しか居ない。
そもそもここが夏でもあまり暑くならない北の海岸だから、というのもあるが、深海棲艦が現れてからめっきり
...まぁ、仕方が無いな。
「近そうでまだ遠い、福岡〜〜♪」
人気の無い海でも、ゴミは増える。
...海からビニールやら缶やらが漂着するのだ。
聞くところによるとこの辺りの海流はこの海岸に向かっていて、毎日なかなかの量の
海に人が来なくなってからというもの、少し生意気な話だが...この海岸が自分の土地のように錯覚してしまう。
そんな海岸にゴミが落ちていれば、自分の部屋を汚されているような気がして。
────今日も俺はゴミ拾いに精を出す。
「天神駅前の〜......ん?」
よく見ると人が倒れている。もう少し近づくと、白髪の幼女だ。
────あの姿には、見覚えがある。
「おい、大丈夫か?!
響!!
......響...?」
やけに肌が白く、帽子を被っていない。
...周りには落ちていないようだ。
いや待て、服装が響とまるで違う。
でも、こんな特徴的な格好で...しかもボロボロの状態で海岸に打ち上げられているということは、偶然響と身体が似ている艦娘だろう。
響のように嵐に遭ったのか、艤装の機関部をやられたか...いずれにせよ、保護しなければ。
俺はゴミ袋とトングを投げ捨て...いや、ゴミを散らさないようにそっと置いて、服が濡れるのも構わずに幼女を背負っ...
...ん?全く濡れていない。
撥水加工なんてレベルじゃないくらいにカラカラだが、毎日俺が海を歩いていること、そしてこの子の髪に引っかかったみずみずしい海藻が、今日漂着してきたことを示している。
(ま、最近話題の“装備改装”ってやつだろう。)
俺は急いで鎮守府に駆け込んだ。
∽
「......(じーっ)」
────ちゃぷん。
後書き・電
「ここまで読んでくださった読者の皆様、ありがとうなのです!
今回はコンブさん曰く、かなりお話を動かす分岐点?ターニングポイント?の回らしいのです!
まだまだ回収されていないフラグたちも、この先ドンドン活躍するから是非、待ってて欲しいのです!
次回・サブタイトル予想『最高で最悪の夏』
...お、お楽しみに!(意味がわからないのです!)」