あなたが手を引いてくれるなら。   作:コンブ伯爵

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翔「どうにか退院できたようだな。」

電「ほんとに数日間しか入院してなかったのです!」

翔「ここ2〜3話早いペースで投稿していたが、また遅くなるようだな。」

電「どうか気長に、待ってて欲しいのです。それでは...」

翔・電『本編へ、どうぞ!』



26話 忍び寄る諜報部

 どうも!大本営諜報部の青葉です!

 

 私はいろんな鎮守府に忍び...お邪魔して、その鎮守府が上手くやっているかを元帥さんに報告するのが私の主なお仕事なんですが...

 

 今のところ、“艦娘(わたしたち)にとって”いい報告を上げたことはありませんね...

 

 でも、起こっていることをありのままに伝えるのが、私の役割です。

 今回は第八鎮守府か、第七鎮守府に“お邪魔”したいんですが、第八鎮守府はつい3年前に南の島にぽつんと出来た鎮守府で...

 

 はい、めんどくさいです!

 

 フェリーは1日2本ですよ?!

 

 ...えっ?艦娘なら自分で航海しろ?

 

 それが...身軽にするために最低限の副砲と改良エンジンしか装備していなくて...その...

 

 まぁとにかく、こんな北の方まで来てしまったので早速お邪魔しようと思います!

 

 

 

 

 

 

 まずはひょいっと門の前の警備員室の死角から塀を飛び越えます。

 

 ...第七鎮守府。

 前任の頃は嫌な思い出しかないです。

 

 思えばあの頃...まだ諜報部が無かった頃。

 大本営鎮守府に着任した私は、偵察部隊を希望したんですが...

 

 見つかって蜂の巣にされれば終わりだ、と元帥さんから却下されてですね。

 

 けど、あの人はチャンスをくれたんです。

 何かしらの大きな情報を持ってきたら、諜報部設立を約束してくれたんです。

 でもまあ人間の言う事。持ってきてもどうせ難癖つけられると思いましたが、私は諦めませんでした。

 

 向かったのは、悪い噂の絶えない第七鎮守府。

 レーザー光線と張り巡らされた鳴子糸をかいくぐり、やっとの思いで録画した映像を元帥に渡した結果、軍事裁判に発展し第七鎮守府解体が決定したんです。

 

 つまりは、この私が第七鎮守府の前提督を引きずり下ろしたんですよ!

 

 あれから新たな提督が着任したらしいんですが、まだ見に行ってないんですよね。

 ほとんどの艦娘が大本営に移ったんですが、何人か滞在している艦娘もいたはずです。

 新しい提督さん、もしかしたら殺されているかもしれません。それほどに酷い扱いを、あの鎮守府の艦娘は過去に受けていました。

 そうでなくてもまた酷い性格の提督だったら...っ!

 

 青葉、気になってきました!

 

 百聞は一見に如かず。早速建物の中へ潜入です!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は午前4時。

 このぐらいの早い時間に潜入すると警備が手薄ですし、鎮守府の一日の動きを偵察できる、まさに一石二鳥です!

 

 ということでまず、私は工廠へ向かいました。

 

 むむっ!

 なにやつ!

 であえ、であえー!

 

 わらわらと妖精さんがやって来ました。

 ...ここで私の七つ道具が一つの出番です。

 

「みなさ〜ん、一列に並んでください!」

 

 ま、まさか...

 あ、あれは...

 そのなも...

 

 クッキー...それも、チョコチップがゴロゴロ入っているタイプのヤツ。

 これを使って妖精さんたちには黙ってもらうのだ!

 くっくっく...ふはははは!

 

 ...買収?ちっちっち────

 

 取材料ですよぉ、しゅ、ざ、い、りょ、う♡

 

 わーいわーい!

 おいひい!

ふぁふぇふふぁんふぉふぉっふぇふ(翔さんももってる)

 

「みなさん、私がお邪魔していることは黙ってて下さいね?」

 

 おうよ!

 たべものくれるひとに!

 わるいひとはいない!

 

 交渉成立。口いっぱいに頬張って何か話していた子がいましたが、聞き取れなかったです...

 工廠に好きこのんで来る艦娘は滅多にいない...はずなので、大体ここを中心に活動することが多いです。

 とりあえず私も朝ごはんのあんぱんを頬張りながら、鎮守府の朝を待ちましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ...遅い。

 

 4時から待っているのだが、大抵の鎮守府は6時辺りには活動し始めるはずです。

 まあ、ほかの鎮守府の遠征部隊は一日中働くんですが、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ...8時。

 待ちくたびれた頃にようやく窓が開きました!

 近寄って耳を傾けると、

 

『それじゃあ、今日もこの予定表を見て、各自行動に移ってくれ』

 

 とのこと。

 

 予定表ということは、前日...もしくはその前から今日やることを決めていた...

 今までに見たことがない、なかなか勤勉な提督ですね。

 

 (...それでも、まだ過信は出来ません。)

 

 ────ひゅん!

 

 「?!」

 

 何かが通った気がしました。...いや、突風でしょう。

 

 と、入り口付近で盗み聴いていた私ですが、ぞろぞろと艦娘たちが階段を降りる音がします!

 

 近くの茂みに飛び込んで、息を殺します。

 

 ...男と多数の女の子の声。なにやら楽しげに話しているようです。

 

 そっと茂みから覗くと、青葉、すごいものを見ちゃいました!

 

 なんと駆逐艦と提督が仲良さそうに手を繋いでるんです!

 

 ...い、いや...そんなはずありません。

 たぶん無理やり拉致ってるんでしょう...!

 

 そのまま全員工廠の隣の建物に入ってしばらくすると、いい匂いが漂ってきました。

 

 私の(自称)警察犬並の鼻によると...カレーですね。

 

 窓から覗くと談笑しながら、提督や憲兵さんも一緒に朝ごはんを楽しんでいました!

 

 あぁ、朝からあんぱんしか食べてませんが、ここは諜報部の意地でぐっと我慢。

 

 朝ごはんが終わるとみんなバラバラに行動を始めました。

 

 ...あれ?入った人数より、出てくる人数の方が一人分多いです。

 この青葉アイが狂うはずないんですが...いつの間に入ったんでしょうか。

 

 まあ、それはさておき。

 今日は戦艦のお二人は訓練所へ、空母の加賀さん、重巡の摩耶さん、鈴谷さん、軽巡の北上さん、駆逐艦の雷さんと暁さんが出撃、

 軽巡の龍田さん、駆逐艦の春雨さん、村雨さん、電さんが遠征に行ったようです。

 

 ...四人編成なら、ここから近くのあの島に資材を分けてもらいに行ったんでしょう。

 

 あそこまでなら荷物を持ったとしても往復四時間ほど。

 その間の提督の動向を探りたいと思います!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 執務室に戻ったことを確認して、私の七つ道具の一つ...フックショットの出番です!

 

 鎮守府の裏に回ると、手頃な空いている窓を発見。

 狙いを定めて...えいっ!

 

 ぱしゅーー、ぎゃりん!

 

 見事引っかかったようです。

 念の為にグイグイと引っ張って、くい込んだことを確認してたら...もう一度トリガーを引きます。

 

 しゅるるる...

 

 映画の“ミッション・オールポッシブル”っていうのを元帥さんと見たことがあるんですが...あんな感じで建物に忍び込んで秘密の書類を奪うとか、やってみたいですよね!

 あっ、トラブルには巻き込まれなくないですが、ね...

 ビルを吸盤手袋みたいなので登っている途中に充電切れとか...想像しただけで、青葉...鳥肌立っちゃいます!

 

 ...と、考え事をしていたら着いたみたいです。

 窓から靴を脱いで入ると、そこは誰かのお部屋。

 

 中は机一つと二段ベッドの置かれた、質素なお部屋でした。

 机の上には透明だけど、ざらざらしたビー玉...ラムネ瓶のビー玉が二つ並べてありました。...思い入れでもあるのでしょうか?

 カーテンは白いレースで、おしゃれです。

 ...見た感じ、ここ一、二ヶ月で買ったと思われる、綺麗なものですね。

 

 そして一つ、奇妙なことに気付いちゃいました!

 

 二段ベッドに、お布団がないんです!

 普通敷きっぱなしか、畳んで押し入れに入れるはずですが...押し入れも無いですし、どこにあるのでしょうか。

 

 

 

 一つ謎が出来たところでドアノブに手を掛けて、ゆっくりと開きます。そのまま執務室の隣の部屋に入って、窓を開けます。

 おっ!ちょうど提督の背中が見えます!

 

 ていっ!

 

 私の七つ道具、超小型盗撮器を執務室の窓枠に、発信機を張り付けました!

 

 ふふふ...高画質盗撮器、それも前方の音を拾いやすい、いわゆる指向性盗聴器付きですから、執務室の会話はダダ漏れ、不祥事は丸裸です!

 

 これを付けたら私の仕事はほぼ終わったも同然。

 

 あとは安全な場所からモニタリングするだけの、簡単なお仕事です!

 

 

 ...ん?

 朝みんなが起きる前にさっさと取り付けりゃあいいって?

 

 私の座右の銘は『百聞は一見に如かず』、です。

 カメラじゃなくて、ある程度自分の目で確かめないと分からないこともあるんです!

 実際、例のお布団の謎もありましたし...

 

 とりあえず、もう一度工廠に戻ってコンセントでも借りて、スマホに送られてくる映像を眺めるとしましょう!

 

 

 

 

 

 

 三時間後。

 

 ...何もありません。

 何一つ不祥事の匂いもしませんね。

 

 ただひたすらに、書類をこなしています。

 

 強いて起こったことを言えば、出撃から二時間後にソファーで一時間寝ていた程度で、一時間きっかりで目覚めてまた書類整理に戻っていました。

 

 普通ほかの鎮守府なら秘書艦やらに丸投げするはずなんですが...青葉、初めてです!

 

 

 

 それから更に一時間。

 私もつい眠くなってきたその時です!

 

 『ドバンッッ!』

 

「?!」

 

 『ただいま、しれーかん!!』

 

 遠征部隊が帰ってきたようです!

 

 最初にものすごい力で扉を開いたのは...雷さんですね。

 

 『ドスッ!!』

 

『...っ、おかえり、雷。』

 

 うわぁ、魚雷もびっくりな頭突きを、この提督鳩尾で受け止めましたよ...

 

『遠征は成功したわ。私のおかげね!』

 

『よしよし暁よくやったなよーしよしよしよし』

 

『やっ、もう!何でいっつも撫でてくるの!』

 

 続いて入ってきたのは暁さんと電さん。

 

 暁さんが入ったや否や提督さんはなでなでし始めました!

 本人も嫌がってますしこれはパワハラと取っても良いでしょう!

 とうとう尻尾を見せましたねロリコン提督!お覚悟を...

 

『お姉ちゃん、もういい加減素直になるのです...』

 

『聞いてるだけで、“嫌だ”とは言ってないのよね〜...』

 

 最後に入ってきたのは龍田さん。

 

 ...モニターを見てみると、画面越しに伝わってくるほどの幸せそうな顔で提督さんに“自分から”抱きついていました。

 ツンツンしながらデレる...

 なんて言うか、ツンデレって言うより“ツデンレ”感じですね...

 

『ほらほら暁...そろそろいいでしょ?』

 

『...はっ!いつの間に?!』

 

『龍田さんの番なのです!』

 

『えっ、あっ、ちょっと!電ちゃん?!

 提督さんもなに構えているんですか...

 その腕落とされたいんですか?!!』

 

『まあまあ、良いではないか良いではないか!』

 

『も、もう...提督さんのために、ですからね?』

 

『...と、言いつつも素直に自分から行く龍田さんなのです。』

 

「...」

 

 青葉、ブラックコーヒーが欲しいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後もずっと監視し続けていたんですが、全く欠点が見つかりませんでした。

 

 計画表がよほど計算されているのか、十七〜十八時には全艦隊帰投してみんな執務室で寝っ転がったり談笑を楽しんだり...

 

 こんなに余裕のある鎮守府は、大本営以外に見たことありません!

 

 二十時辺りには夜ご飯やらお風呂やらを済ませ、可愛らしいパジャマに身を包んで二十三時あたりまでお酒をみんなでちびちび飲んだり、また談笑を楽しんだり...

 本当に仲がいいんですね。

 

 『よし、そろそろ寝るぞ?』

 

 『はーい』

 

 提督の言葉を聞いて布団を敷き始める皆さん。

 

 ...ん?

 

 画面を見ると、大量の敷き布団が押し入れから出てきました!

 まさか全員でここで寝る...?

 いや、その...別に本人が望むのなら何も言いませんが...ねぇ?

 よく見ると提督の隣を争ってるようにも見えます。

 

 『明日は休みだからゆっくり寝てていいからな?おやすみー。』

 

 『おやすみなさーい』

 

 えぇ...マジで寝ちゃいましたよ。

 んでもって秘書艦?だか分からないですが、電さんは提督に抱きついて寝ていますね...

 そういえば遠征から帰って、常に手を繋いで過ごしていたような気がします。

 よほどの信頼関係を結んでいらっしゃるのでしょうかね〜。

 

 いや、まさかこのまま乱こ...

 

 『......zzz』

 

 ...元帥さん、待ってて下さい。

 初めての、“いい報告”が出来そうです。

 

 私は監視カメラを取りに窓枠にフックショットを撃ち込んで、ぺリリと粘着テープを剥がすと...

 

 

 

 「そこで何をしているのです?」

 

 

 

 「?!!」

 

 まずいです!青葉、見つかっちゃいました!!

 

 片手はフックショットのトリガーを握っていて、もう片手はカメラを持っていて...諜報部創設以来、初めての万事休すです!

 

 ...と、思いきや。

 

「(...静かに、入ってくるのです。)」

 

 手探りで鍵を探し、窓を開けてくれました。

 罠、のようには...感じられないですが、手がちょっと限界の私は入るしかありませんね。

 

 あ、流石に靴で入るのはあれなので、窓枠に腰掛けました。

 

「(...どうして入れてくれたんですか?)」

 

「(あなたは...なんだか、嫌な気配がしなかったのです。)」

 

 艦娘(同類)を見分ける能力を私たちは生まれ(?)ながらに身につけてますが、もしかしたら泥棒かもしれないのに、たったそれだけの理由で私を入れてくれるなんて...

 

「(その...まずは、あなた何者なのです?)」

 

「(大本営より参りました、諜報部の青葉です!)」

 

 ここは正直に答えていくべきでしょう。真実を提供する私が、嘘をついては本末転倒ってヤツです!

 

「(その...青葉さん、ここで何してたのです?)」

 

「(え、えーと...

 内部調査のための機械を撤去していたって言うか〜...)」

 

 と言いながら、電さんが下を向いてることに気付きました。

 ...って、私、手にまだカメラを持っていました!

 嗚呼、このまま元帥さんに監視カメラを付けてたっていう報告が行って諜報部は解体────

 

「(なるほどなのです...)」

 

 あれ?気づいてないのでしょうか。

 

 確かに私の手元を見ていた...はずなんですが、ねえ...?

 

 身をよじるフリをして、電源を切ってこっそりポケットにしまって、電さんの話を聞きましょう!

 

「(...その、報告しないでほしいのです!)」

 

「(へ?)」

 

「(翔さん、あんなに私たち艦娘...女の子と抱き合ったりしてますが、ほんとにいい人なんです!

 ちょっと、長話に付き合ってもらうのです...)」

 

 と言って、私は電さんと提督...翔さんの昔話を聞きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(────と、いう事です。)」

 

「(なるほど...)」

 

 極度の弱視を持った電さんと、電さんと“再会”を果たした提督さん...

 

 

 スクープの塊ですよ!!

 

 

「(後日、正式にお邪魔してもよろしいでしょうか?)」

 

「(もちろんなのです!

 こんな遅くまでお仕事だなんて、お疲れさまなのです!)」

 

「(いえいえこちらこそ。

 また、お会いしましょう!)」

 

 窓枠からしゅるるる...と降りて、門を乗り越えて私の仕事は終わりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間後。

 

「今日は大本営から客人が来ている。失礼のないようにするんだぞ?」

 

「「「「「はーい」」」」」

 

「青葉さん!」

 

「あ、電さん!」

 

「「────ふふっ」」

 

「?

どっかで知り合ったのか?」

 

「...何でもないのです。ふふふっ」

 

「まあ、いいんじゃないですか?」

 

山城が翔の追求を止める。

意味ありげな笑みをこぼす二人を、みんなは不思議そうに眺めていた。

 




後書き・コンブ

「ここに出るのは久しぶりですね、コンブです。

この度後書きスペースを借りるということは重大な発表がありまして...

なんと、この私...コンブのtwitterアカウントを作りました!

twitterから『コンブ伯爵』で検索していただいたら出てくると思います。
次回投稿日を事前にお知らせしたり、近況報告、お話の裏、さらには制作中の文をちょろっと載せたいと思っています。
読者様は積極的にフォローしたいと思っているので、リプなどで教えていただけると助かります。

次回・サブタイトル予想『第七鎮守府の日常』。

短編集を投稿する予定です。どうか気長にお待ちください。


最後まで読んでくれた読者様に、最大の感謝を。」

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