あなたが手を引いてくれるなら。   作:コンブ伯爵

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電「今回は意外とペースが早いのです!」

翔「あぁ、何しろコンブのヤツ、肺気胸...肺に穴が空いて何日か入院したからな。」

電「えっ...肺...穴...えええ?!」

翔「ちなみにコンブは『授業で受験勉強が潰れない』って大喜びで過去問を漁っていたな...」

電「なんて言うか...コンブさんって頭がいいけど、どこかバカなのです...」

翔「ま、身の上話はこの辺で────」

翔・電『────本編へ、どうぞ!』



25話 榛名の長い一日

 

 

二二〇〇、夜。

 

 翔と電は二人でジープに揺られていた。

 今回は大本営からの招集ということで、いつものドライバーさんを手配してもらえたのだ。

 

「......zzz」

 

 電は横になり、私の膝を枕にして寝息を立てている。

 

 ...ガタン、...ガタン。

 

 高速道路の繋ぎ目に合わせて、車内が揺れる。

 

 窓からは星空はあまり見えないがが、家々やビルがの明かりが星のように点々と光っている。

 現代の都会で星が見えないのは街の明かりが強すぎるのと、大気汚染が原因と言われているらしい。空の星が薄れるほど、皮肉にも地の星が強く光る...

 

 ...何を考えているのだ私は。厨学二年生か。

 

 

 

 まだまだ到着までかかりそうだ。

 

 横になっている電を起こして、膝に乗っけて抱きしめる。

 

「んう...?」

 

 一瞬目覚めそうになるが、翔が抱いていることを確認すると顔を埋めてきた。

 

 ...あったかい。やはり人肌ほど安心できるものはない。

 

 出撃したみんなは無事に帰ってきただろうか。

 

 遠征では渦潮に巻き込まれてないだろうか。

 

 ......zzz

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

「────ただいま。」

 

 運転手さんにお礼を言って、電をおんぶしながら門をくぐる。

 

 資材倉庫を見てみると、大本営からの自動供給と別に少し資材が増えていた。きっと上手いこと遠征をこなしてくれたのだろう。

 

 執務室の扉を開くと、みんなが寝ていた。

 ...ご丁寧にもみんな敷き布団を持ち寄って。

 

「まったく...」

 

 執務机の上の近海警備報告書には、特に目立った損傷は無く風呂に浸かって十全に回復できた、という内容が書かれていた。

 

 この調子で海域を広げて夏の大規模作戦に参加できれば、昇進のチャンスが見えるかもしれない。

 

 みんなが寝ている中、仄かなオレンジ色の常夜灯を頼りになんとかぽっかり空いた真ん中のスペースへとたどり着く。

 電を下ろして布団を被り、目を閉じる。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────寝れない。

 

 女の子に囲まれては寝にくいというのもあるが、私はバスの中でずっと寝ていたのだ。

 

 何を思ったのか、ぐるりと周りを改めて見回す。

 

「...ん?

 そういえば────」

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 翌日、一七〇〇。

 

 今日も出撃・遠征ともにうまく行って、一七〇〇〜一九〇〇辺りのいわゆる『自由時間』。

 この時間は基本休みとしているが、大半は執務室でゴロゴロしたり会話を楽しんだりしている。

 そんな艦娘たちの中から一人適当に...

 

「榛名、付き合ってくれないか?」

 

 

 

 「「「「「?!!」」」」」

 

 

 

 ────ピシィ...!

 

 一瞬にして執務室の空気が凍りついた...気がした。

 

「ゑゑ?!

 い、電さんという子がいながらそんな榛名に突然プロポー────」

 

「────買出しに。」

 

 ドンガラガッシャーン!!

 

 何故か全員ずっこけた。同時に張り詰めていた空気が一気に弛緩した...気がした。

 

「へ......あ、はい!お供させて頂きます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドドドドドドド...

 

「こいつを被ったら、紐をうまく調整してくれ。」

 

 私、榛名の目の前でバイクがエンジン音を立てている。

 そして提督から差し出されたヘルメット...

 

「あの...提督さん。榛名、二人乗りは捕まるって聞いたんですが...」

 

「自転車の事だろう?

 このバイクはちゃんと排気量が規定以上だから、二人乗りしても大丈夫だ。」

 

 ......

 

「その...ジープではダメですか?」

 

「私はジープよりもバイク派でな...ほら、早く乗るんだ。」

 

 諦めるしかなさそうだ。

 よいしょっと座ると、提督が前に乗ってきた。

 

「カーブは曲がる方向に体重を掛けるんだ。初めては怖いかもしれないが、私を信じろ。

 

 ...しっかり掴まれよ?」

 

「えっ...あっ...」

 

 ...軽く探ってみるが、掴めるものがどこにもない。

 いや、多分提督の背中にということだろう。

 

「ちょっと、恥ずかしいっていうか...その......」

 

「そうか。じゃあ体重移動をミスって大事故になっても急発進で後ろに持っていかれても責任は────」

 

 私は二度とこの手を離さない。

 

「行くぞっ!」

 

「きゃ────」

 

 ブロロロロロ...と、バイクは提督の声と反してゆっくり滑るように発進した。

 人を乗せるのに慣れているのだろうか、カーブや信号停止でも不快感が全く感じられないドライビングテクニックだった。

 

 二十分ほどすると、『東松屋』という洋服屋に着いた。カメのイラストが目印の、主に子供服を扱うチェーン店だ。

 

「...して、私は何をすればいいのでしょうか?」

 

 どこかへ連れていかれるということは、何かしら仕事があるはずだ。

 

 そう聞くと提督はキョロキョロと見回して、

 

「...じゃあ、駆逐艦のパジャマを見繕ってくれ。あぁ、金に糸目はつけない。

 遠慮なく君の思う一番似合うものを見せてくれ。」

 

「...はい?」

 

 

 

 

 

 

「て、提督。これはどうでしょうか...?」

 

 と言ってちょっとヒラヒラした、いかにも『女の子っ!』な、可愛い感じのものを見せる...が、

 

「フッ...分かっていないな、榛名。」

 

「へ...?」

 

 提督は不敵な笑みを浮かべてやれやれと息つく。

 第六鎮守府だったらおそらくこっぴどく叱られて平身低頭謝罪の姿勢だが、ここの提督はなんというか...腹が立つ反応だ。

 

「じ、じゃあ...提督はどれを選ぶんですか?」

 

 あんな物言いをされたのだ、さぞかし自信があるのだろう。

 

「私なら、これだな。」

 

 私に見せてきたのは薄ピンク、無地のものだった。見れば榛名のものと比べて値段もかなり安い。

 

「そんな地味で安いのは...あ、いえ、ありがとうございます!」

 

 提督のファッションセンスやら財布に関して物申したくなるが、私たち艦娘にパジャマをくれるということ自体感謝すべきことなのだ。

 

 一瞬本音が出そうになるが、なんとかこらえる。

 

「誤魔化したって無駄だ。」

 

 バレちゃいました。てへっ。

 

「────まあ、確かに安売りの地味なものかも知れない。

 でもな、榛名。想像してみろ。

 あの子たちが榛名の選んだ服を着ている姿と、この服を着ている姿を...」

 

 

 

 .........

 

 

 

 (私の服の場合)

 

 『榛名おねーちゃん!』

 

 『わーいわーい!』

 

 駆逐艦たちが夜、ぎうと抱きついてくるのが想像できる。

 

 (提督の服の場合)

 

 『榛名おねーちゃん!』

 

 『わーいわーい!』

 

 『榛名おねーさんはあったかいのです!』

 

 ぎうと抱きついてくるのが想像できる...が、

 

 

 

 .........

 

 

 

「わかっただろう?

 無邪気な駆逐艦にはこういう服が断然似合うということが...」

 

「榛名、まだまだでした...」

 

 本当に私はまだまだだ。

 パジャマとはいえ安いとかそういう理由ではなく、本当に似合うと思うものを提督は選んでくれているのだ。

 

「これのひと回り大きいサイズを、他のみんなには買ってやるとするか。」

 

「はい...榛名、感激です!」

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

「────そろそろ夕飯だし、帰るとするか。」

 

「あっ...」

 

 時計は一八三〇、今夜の献立は第六駆逐隊特製カレーのはずだ。

 第六駆逐隊カレー、略して『六駆カレー』は辛味が全くないのだが、それはそれでどこかやみつきになる美味しさがある。

 実際この鎮守府一、二を争う健啖家のクセに味にうるさい加賀も、エプロン姿の第六駆逐隊を前に『流石に気分が高揚する』とコメントを残して真っ赤な愛を垂れ流していたのを覚えている。

 

 ちなみに私たちは東松屋でみんなのパジャマを買ったあと、『ULICRO(ユリクロ)』へ直行。

 あまり時間はなかったけど、『この服どうですか?』と試着したり、『この娘に合う服は〜...』といったことを提督と議論したり...

 いつの間にか仕事を忘れて思いきり楽しんでいた。

 

「────提督。」

 

「ん?」

 

 私はバイクにまたがろうとする提督を呼び止めた。

 

「その...榛名がこんなにも、楽しんでもいいんでしょうか。

 朝は八時頃まで寝ててもいいですし、訓練は夕方までには終わって、仕事以外のことで外出...いえ、お買い物を楽しんでしまって。

 

 まるで...人間になったみたいです。」

 

「......」

 

 はは、と自嘲気味に笑う。

 

なにせ私たちは────

 

「────人間じゃなければ、君は何者だ?」

 

「...何“者”ではありません。兵器()です。

 やろうと思えば人を簡単に殺せて...いや、人どころか建物も爆破できて、そこらの対人兵器では私たちを傷つけることも出来ませんし、艦娘によっては爆撃機でそこら一帯焦土にできる────」

 

「────それだけだろう?」

 

「え?」

 

 提督がポン、と私の頭に手を乗っける。

 

「人を簡単に殺せて、建物を爆破できて、拳銃で撃たれても傷一つ入れられなくて、艦種によっては攻撃機でそこら焦土にできる“だけ”の...

 

 ────人間だろう?」

 

 わしゃわしゃと私の頭を撫でながら、にやりと笑う。

 

「だ、だけってそんな────」

 

 そんな人間は居ない。

 しかし提督は私の言葉を遮るように問う。

 

「じゃあ逆に聞くぞ?

 

 ...バイクに乗るのを躊躇う兵器があるか?」

 

「......!!」

 

 今日、外出する前の鎮守府正門前を思い出す。

 

「背中に掴まるのを恥ずかしがる兵器があるか?

 

 ファッションセンスを小馬鹿にされて怒る兵器があるか?

 

 失言を誤魔化そうとする兵器があるか?

 

 可愛い服を試着して、可愛い笑顔を見せてくれる兵器があるか?」

 

 提督はカチャリ、と懐の護身用拳銃を出そうとして...仕舞う。

 

「そんな兵器()が...あるわけないだろう?

 楽しいことを楽しく思えて、嫌なことを嫌だと言えるなら...君は立派な“(人間)”なんだ。」

 

「提督...ていとくぅ......はるなぁ......っ!」

 

 

 

 

 

「...こうやって私の胸に泣きついてくる兵器が、あると思うか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∽∽∽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────これが終わったら次はこれだ。

 

 ────いや、でも...

 

 ────あぁ?お前は黙って仕事をこなせばいいんだよ。

 

 ────明日は出撃が...

 

 ────兵器如きが口答えしやがって...

 

 ────もう三時を過ぎ...

 

 ────お前も加賀と同じように降ろされたいのか?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∽∽∽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 軽く榛名にも荷物を持ってもらって、執務室に入る。

 風呂か食堂に向かったのか、艦娘たちはいなかった。

 ...一人、いつも通り北上はソファーで横になっていたが。

 

「────今日はありがとな、榛名。」

 

「いえいえ、私のセリフです。

 よ、良ければまた...その......」

  

 (ピンポンパンポーン↑)

 

 放送だ。

 

『夕飯ができたわよ!』

 

『早く来ないとなくなるわ!』

 

『お姉ちゃん、誰か来たのです。

 ...あっ加賀さ────』

 

 (ピンポンパンポーン↓)

 

 

「「......ふふっ」」

 

 

 どちらともなく笑みがこぼれる。

 

「────行こうか、榛名。」

 

「────お供します、提督。」

 

 がちゃ、きぃーー、ぱたん。

 

 

 

 

 

 

 

「...やっぱ、この鎮守府に来てよかったな。」

 

 ソファーから起き上がる。

 

「────よっし、私も行くかぁ」

 

 緩んだ頬を戻すようにぺちぺちと叩いて、二人の背を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

「────で、榛名さんや。」

 

「二人きりでデート、楽しかった?」

 

 風呂場で早速鈴谷・北上に囲まれる。

 二人とも見た目はピチピチ女子高生なのに、井戸端会議のネタを見つけたオバサン...いや、獲物を見つけた虎のようなオーラを放っていた。

 

「でっ、デートだなんてそんな...」

 

 ...おかしい。あったかいお風呂に浸かっているのに、寒気が走る。

 

「さっ、先に上がらせて────」

 

 榛名が立ち上がろうとすると、

 

 ふよん。

 

「あっ、ごめんな、さ......」

 

「ここは譲れません。」

 

 加賀さんが立ちはだかる。

 相変わらずの無表情だが、子鹿を狙う鷹のような気迫(?)を放っていた。

 

「まだまだ時間はあるんですから、さっ。浸かってつかって...」

 

「きゃっ!」

 

 加賀さんの気迫(?)に気圧されてたじろいでいると、膝カックンの要領で龍田が私を座らせる。

 

「み、皆さんどうしたんですか?」

 

「ちょぉぉぉぉっとだけ、私たちも聞きたいな〜!」

 

「榛名さんどうかしたの?

 私が聞いてあげるから、全部吐い...

 話してみて(ぶちまけて)?」

 

 春雨村雨が現れる。雷が何か怪しげなことを言っていた気がしたが、私は気のせいだと思い込んだ。

 

 ぎゅっ。

 

「榛名さんは、あったかくてやわらかいのです...」

 

 電が抱きついてくるが、腕は二度と離さないと言わんばかりの力で私の身体を締めている。

 

 やろうと思えば無理矢理剥せるが、そんな酷いことを私が子ども(駆逐艦)相手に出来るわけない。

 

「(...もう、あきらめるのです)」

 

 私の思考を読んだかのように、電が耳元で囁いてくる。

 

 ...私たちがこの鎮守府に来てまだ一ヶ月も経っていないのに、恐ろしい連携プレーだ。

 

 はぁ...とため息一つ。電を抱え直して頭を撫でてやると、ふにゃ...と力を抜いてくれた。

 ────私は腹を括った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「zzz......ブボぁっ?!

 がぼぼぼぼごぼぼ、ゲッホゲッホ!」

 

 ...質問責めは、暁が湯船で眠って溺れかけるまで続いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二〇〇〇。

 

 夕飯を食べ終えて、風呂から上がってくる頃。

 

「みんなに渡すものがある。」

 

 『??』

 

 がさがさと袋を探ると手触りのいい無地の服がたくさん入っている。...そう、私たちが買ってきた寝間着だ。

 

「一日中その服を着て過ごすのも...なんというか、不便だろう?

 それに...下着やタオル姿で執務室をゴロゴロされると、目のやり場に困るんだ。」

 

 ...私は先ほどから斜め下を向いてみんなと話していた。

 

 いくら私が女に興味が無いとしても、なんというか...あれなんだ、あれ。

 男子諸君なら分かるだろう...って私は誰と話しているんだ。

 

「提督、私の身体に興味あるの〜?」

 

 下着姿の北上がニヤニヤしながら聞いてくる。

 

「うふーん♪」(バチコーン!)

 

「あはーん♪」(ほわぁ~お!)

 

 これまた下着にタオルの鈴谷がセクシーポーズを見せつけてくる。

 ...艦娘として恵まれた体つき、風呂上がりで血色の良い肌に張りつく濡れ髪。

 少し...いや、かなり色っぽく見える。

 本人はそこまで本気ではないかもしれないが、十二分に魅力的な娘だ。

 

「────という訳で風呂から上がったらこれを着てくれ。」

 

「いや無視されるのって一番辛いんだよ?!」

 

 鈴谷が騒いでいる気がするが気のせいだろう。

 

「ありがとうございます。それでは...」

 

「おい待て何故ここで着替える加賀ァ!」

 

「提督、何を狼狽えているんですか。私はまだ一枚しか脱いでませんよ?」

 

「元がバスタオル一枚のお前はその一枚で致命傷(はだか)ダルルォ?!

 

 ...わかった。10分出るからその間にさっさと着替えてくれ。」

 

 駆逐艦、戦艦組はちゃんと制服を着ているのに、どうして龍田以外の巡洋艦はみんな下着姿なんだ。

 あと加賀、寝間着を買うことになった大半の理由がお前だ。

 どうして一緒に寝たときはあんなに恥ずかしがっていたのに、どうして私の前で堂々と脱げるのだろうか。いまいち羞恥心の境目が見えない。

 ...とにかく、どれだけ私の理性が固くても、流石に毎日は精神的に疲れるのだ。

 

 執務室から出た私は風呂場に向かう。

 基本みんなが入る前か入ったあとに風呂は入るようにしている。

 

 頭と体を洗ってから大浴場に体を沈める。

 

 ついさっきまで、艦娘たちが入っていた風呂...

 

 ...想像するが、やはり性的欲求が刺激されることは無い。

 

 やはり私は大切な...好きな人を喪ったことからか、『人を好きになれない』人間になったらしい。

 

 艦娘たちのことは確かに愛している。

 無表情な娘、グータラな娘、気弱で怖がりな娘、鳩尾に頭突きをかましてくる娘...

 

 いい所も悪いところも、全てひっくるめて『好きだ』と胸を張って言える。

 

 だが、それ以上の感情が芽生えることは無い。

 

 加賀と寝た時も、私の年齢の男なら十中八九...いや、十中十が“ヤって”いるはずだ。

 

 私にもそういう感情は芽生えかけたが、何故かしおれてしまうのだ。

 

 ...あまり長湯は出来ない。そろそろ上がろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 風呂から上がった私は扉を開く。

 

 ガチャ

 

「みんな、サイズは────」

 

「しれーかーーん!!」

 

 ドスッ!!

 

「ぐはぁッ!」

 

 扉を開くと不意打ちの雷撃を受けた。

 相変わらずピンポイントに鳩尾を狙ってくる。

 

「しれーかんありがとう!だいすき!!」

 

 ぐりぐりと頭を擦りつけてくる。...オーバーキルを狙っているのだろうか。

 

 歯を食いしばりながら、改めて見回してみる。

 自分に似合っているか見せあったり、早速ソファーで寝ている娘もいる。...案の定北上だ。

 

 戦艦、巡洋艦たちもみんな着てくれていた。摩耶とか龍田が文句を付けてくるかと思ったが、気に入ってもらえたようだ。

 

「ていとくぅ、あたしと一緒に...寝ちゃう?」

 

 ボタンを大胆に外して敷き布団の上で渾身のセクシーポーズを決める鈴谷。

 

「よしよし、みんな似合ってるじゃないか。」

 

「ちくしょー!覚えてろー!」

 

 胸を隠して一昔前のモブ敵キャラの決まり文句を残し、執務室から出ていってしまう。

 

「あの...その...」

 

「ん?どうした春雨。」

 

「あっ、いや、その...」

 

 何か言いたそうにしているが、村雨の背中に隠れてしまう。

 

「春雨が、駆逐艦みんなの服がちょっと大きいって言ってたのよ。まあ、歩きにくいとかそんなことは無いから大丈夫よ!ありがとう、司令官。」

 

 村雨が話してくれる。

 

 ...春雨、なかなか鋭い娘だ。

 

「そうか、他に何かあったらいつでも言ってくれ。」

 

 背中に隠れている春雨の頭を撫でてやる。

 ...と、加賀と目が合う。風邪でも引いたのか、息が荒くどこかふらついているようにも見える。

 

「どうした?きついのか?」

 

「提督...あなた、前世は策士ですね?」

 

「...は?」

 

 ずいと押し寄って小声で加賀。

 

「(駆逐艦たちのパジャマ、わざとひと回り大きいサイズを買いましたね?

 それも裾を踏んで転ぶことがない、ギリギリの大きさの)...くっ!」

 

 ...どうやら加賀は分かっていたようだ。

 

「(なかなか私のファッションセンスも捨てたものではないだろう?)」

 

 にやりと笑って加賀に話すと、私たちの元に第六駆逐隊がやって来る。

 

「加賀さん、どうしたの?」

 

「大丈夫?私に頼っていいのよ?」

 

「なのです!」

 

 三人が抱きついたり、ちょいちょいと裾を引っ張ったりする。

 

「......私、この海が平和になったら...駆逐艦を────」

 

 加賀は膝をつき、頭を垂れた。

 鼻から一筋、真っ赤な愛がこぼれる。

 

「メディック、メディィィィィック!!」

 

 北上が叫ぶと────

 

 バンッ!!

 

「畜生、あれだけ加賀さんに駆逐艦を近づけるなと言ったのに!!」

 

 さっきどこかへ行ってた鈴谷が駆けつける。

 

 ...日頃から遠征帰りの雷に荒い扱いを受けている扉の蝶番も涙目だ。

 

 しかし、助けるというよりもどこか“ノリ”が強い気がする。

 

「膝に矢を受けてしまいました。」

 

 ...加賀もノリノリだった。

 

 いつも無表情だが、何かと面白い娘である。

 

 

 

 

 そんなこんなでわいわいしながら、夜は更けていく...

 




後書き・山城

「今回のお話、どうだったかしら?

榛名さんが提督とお買い物に行くって流れだったけど、楽しんでもらえたら嬉しいわ。

感想でも話題になった“A”さんは、一つずつお話と短編を挟んでからようやく出られるかもしれないって伝言を預かったわ。

次回・本編サブタイトル予想
『忍び寄る諜報部』


たとえ出番が少なくても頑張りますから、
────姉様...見ててくださいね!!」

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