あなたが手を引いてくれるなら。   作:コンブ伯爵

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翔「読者の皆さん、待たせたな。」

電「案外早めに投稿できたのです!」

翔「また次回投稿も遅れるそうだ。」

電「読者の皆さんにはご迷惑かけますが、どうか待っていただけると嬉しいのです。それでは────」

翔・電『本編へ、どうぞ!』



20話 響のいる日常

 

 

 

 私たちは遠征任務ということで支度をして、海に出た。レーダーから頭に送られてくる情報を読んで、隊列行動を乱さないようにしつつ海を駆ける。

 

「さっさと帰らないと...怒られない?」

 

「大丈夫なのです。今日の予定表にもあったように、たとえ今から雑談しながらゆっくり行って帰っても司令官さんは怒らないのです。」

 

 第六鎮守府のあの司令官なら、さっさと帰らせて次の遠征に飛ばすだろう。

 

「────ところで電、あなた本当は目が見えるんじゃないの?」

 

「いえ、見えないですが...艤装のおかげである程度は見えますし、目が使えなくてもほかの感覚を鋭くすれば大丈夫なのです。」

 

「でも、それだけじゃないだろう?」

 

「まあ、インカムで翔さんと繋がっているからある程度は安心できるのです。」

 

 普段は何も指示は来ないが、こちらから二回小突くと翔が出てくれる。

 

「そろそろ目的地なのです。」

 

 島に着いて陸地にあがり、妖精たちを建物に向かわせる。

 しばらくすると鋼材やら燃料やらを持ってきてくれた。

 建物の中に何があるのか誰ひとりとして知らないが、妖精さん曰く

 

 おねーさん!

 へーわしゅぎー!

 おっとりー!

 

 ...おっとりした平和主義のお姉さんがいるらしい。この辺りはまだ安全だが、深海棲艦がうようよしている海に浮かぶ無人島にどうやって生きているのだろうか。まったくもって不思議である。

 

 ちなみに電が軍学校に通ってたくらい昔は、耳あてをしたグータラメガネがいることもあったのだという。...当番制なのだろうか。

 

 帰り道は響お姉ちゃんのウラジオストクでの生活を聞きながら帰港。

 

「────遠征から戻ったのです!」

 

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 ────バンっ!!

 

「ただいま司令官!」

「帰ったよ。」

 

 ドスドスっ!

 

「ぐはァッ!」

 

 勢いよく扉が開いたかと思えば、雷と響が魚雷のように突っ込んできた。

 ...私の鳩尾は大破した。

 

「お、おお...おかえり。雷、響。」

 

 息絶えだえに二人を撫でてやると雷は犬のように喜び、響は無表情だが少し目を細めて気持ち良さそうにしている。

 

「全く...そんなのじゃ立派なレディーにはなれないわよ。」

 

 遅れて暁が電を連れてやってくる。

 

「よしよしおかえり暁。電を連れてきてやっていたんだな流石は長女だないいこいいこよーしよし。」

 

 すぐに鳩尾の痛みから立ち直って暁も撫でてやる。...四人とも身長はほぼ同じなのだが、なんというか暁が一番撫でやすいのだ。

 

「頭を撫でないで!子ども扱いしないでくれる!?」

 

「...と言いつつ素直に撫でられてるのです。」

 

 そんな茶番を一歩離れた所からニコニコ見つめる龍田。

 

「うふふっ...」

 

「ほら、龍田さんも...」

 

 調子に乗って彼女にも手を広げて構えると、ニッコリと微笑んで一言。

 

 

 

 

「その腕...落とされたいんですか?」

 

 

 

 

「────スイマセン調子乗りましたァッ!」

 

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 

「ここ、ですか...」

 

 地図を頼りに歩いていると道場に着いた。

 ぱっと見た感じ公民館に見えるが、奥に弓道場があるのがわかる。

 

 私...加賀は受付で手続きを済ませて弓を取り出し、弦を張る。

 

 ちなみに艤装として扱っていない弓の重さは21キロ。

 弓における『重さ』とは弓本体の重さではなく、弦を引き込む時に必要な力の強さである。

 人間の成人男性は平均17〜18キロ辺りの弓を引くのが一般的であり、女性が21キロの弓を引くのはとても珍しいらしい。

 しかし私は艦娘。守るべきもののため、心身の鍛錬に気を抜くわけにはいかない。

 ちなみに艤装展開時は数百キロの弓を引く。私自身も、艤装の弓がどういう構造で出来ているのかは知らないが、よく耐えているものだ。

 

 四本の矢を矢筒から取り出して、的前に立つ。

 

 筈を弦に掛けて“物見”を入れる。ゆっくりと腕をあげて“打ち起こし”、手首を返して“大三”、胸を開くようにしながら肘を下ろしてくる“引き分け”、その姿勢をしばらく保つ“会”、肘を支点に“離れ”。

 

 ────パン!

 

 強く張られた霞的の正鵠...中心の白い円の内側に(あた)る。

 

 弦音よし、矢飛びよし、弓返りよし。

 

 ...今日は調子が良いわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 四射(一立ち)を終えた。

 一応おじいさんおばあさんが居るので、順番待ちの間に一息つく。

 

「あんた...なかなかいい腕しているじゃぁないの。」

 

「どっかの学生さんかえ?」

 

「あら、べっぴんさんじゃない!」

 

 ぼんやりとしていると、おばあさん軍団に囲まれてしまった。

 

 ...正直、面倒だ。

 

 道場の中では基本静かにしなければならないが、どうやらご老人たちは平日の昼からここに来るくらいに暇らしい。おそらくここの弓道場の持ち主で、学生の昇級・昇段試験に二〜四千円近く払わせて季節ごとに何十万か収入を得て、年金も合わせぬくぬく暮らしているご老人なのだろう。私は艦娘だが、弓道に関しては妙に詳しいのだ。

 

「いえ、私は艦娘としてここに練習を────」

 

 言おうとして、ハッとする。

 艦娘を人間が嫌っているこのご時世、自分から艦娘を名乗るなどすればこの道場から追い出されるかもしれない。どうすれば...

 

「あんたぁ、まさか第七鎮守府の艦娘さんかぇ?」

 

「...はい。」

 

「あらまァ!あんたここまで逃げてきたんか!」

 

 おおぉ...とおじいさん軍団もやって来る。

 

「うちに来なさい。いくらでも匿ってあげるよ?」

 

「おまいみたいなスケベジジイなんかにやるわけにゃあいかんわい。

 やい節子や、確か家を出たケンジの布団やらが押し入れにあるじゃろ?それを────」

 

 なにやらおかしな方向に話が進んでいる。

 

「あの、私は────」

 

「あんたもあの鎮守府で酷い扱いさ、受けたんだろう?」

 

「...いえ、第七鎮守府の提督は変わりました。」

 

『?!』

 

 まだこのご老人達は知らなかったようだ。これを機に...

 

「...皆さんがご存知の通り、第七鎮守府の前任は私たちを道具として扱っていました。

 ですが、大本営に連行されて四月から新しい提督がやってきました。」

 

 実際第七鎮守府に来たのは数日前なのでほとんど知らないのだが、適当に言っておけば大丈夫だろう。

 

「そ、その新しい提督はどうなんじゃ??」

 

 一人、おじいさんが聞いてくる。

 

「少なくとも自由に鎮守府の外へ出してもらえますし、休みも出してくれるので...普通の鎮守府よりも待遇は良いと思いますよ。」

 

 すると一瞬おじいさんは驚いたような顔をして...優しく微笑んで、

 

「...自然にこんな笑顔出来ンなら、この娘は嘘ついてねェだ。」

 

 少し驚いて自分の顔をぺたぺたと触る。

 私は表情を作るのが苦手なのだが、第七鎮守府のことを思い浮かべると自然な笑顔を見せることができたようだ。

 

 周りのおじいさんおばあさんも「んだんだ」「違いねぇ」と納得してくれる。

 

「んにしてもよォ、こんなかわいい娘をモノ扱いばするなんてぇちゃんちゃらおかしいたぁ思わんか?」

 

「ほんと、うちの娘にもらいたいわぁ。」

 

「あ、あの...」

 

「そういえばあんたんとこの────」

 

 お年寄り特有の変な方向へのヒートアップ。ここはこっそりと退散しよう。

 

「あ、ありがとうございました。」

 

 小さく礼をして、道場を後にしたのであった。

 

 しかし練習はあまり出来なかったとはいえ、艦娘に優しい人間が提督以外にも居たということは加賀にとって大きな発見であった。

 

 

 ...

 

 

「自然な笑顔、ですか...」

 

 第六鎮守府からの仲間、第七鎮守府で新しく出会った仲間、かわいい駆逐艦たちを思い出す。そして...

 

「あの人のおかげ、ですね。」

 

 提督と電の顔を思い浮かべるのであった。

 

 




後書き...とでも思ったか!

私、コンブの紹介がないです。というご意見頂いたので、最後に載せておきました。


ここまで読んでいただいた読者の皆さん、ありがとうございます。次回もまた遅くなりそうですが、間に軽く短編を挟めたらと思っています。
よろしければこのあとの作者自己紹介にもお付き合い下さい。『ンなもん興味ねーよバーカ!』という方は遠慮なくブラウザバックして下さいm(*_ _)m

では、どうぞ...




“作者”コンブ伯爵

味噌汁よりもお吸い物派、一番気に入っているゲームは“艦これ”。
言わずと知れたこの物語の作者。
シイタケ侯爵とは同盟関係を結んでおり、カツオ辺境伯・イリコ男爵とは犬猿の仲。
また本人曰く、自称廃ゲーマー。
スマホゲームはゲームではないという害悪懐古思想を持っていて、最近の若者の据え置きゲーム離れが悩みの種。

小五から付き合っていた彼女が高一で病死、以後不全レベルで3次元の女の子に性的興味が無くなり、ラノベ・ゲームにのめり込む。生前彼女が艦これを勧めてきたのを思い出してやってみるとどハマり、小説投稿に至る。
翔くんが女の子に欲情しない設定と在りし日の電はこの作者の経験からきている。
後々このままでは彼女も浮かばれないと考えゲームをやめて勉強に没頭、高一の三学期で校内最底辺級の学力を高三の一学期で9位にまで上げる(自慢)。


...次回投稿のお話は、シリアス100%です。

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