翔「ゲームしていた時間をそのまま勉強に充てたら、ある程度小説を書く時間が取れたそうだ。」
電「さんざんあんなこと言っておいて...なのです!」
翔「読者のみんなにはお騒がせしたな。」
電「それでも、やっぱり投稿ペースは下がりそうだからご了承ください、なのです。」
翔・電『それでは、本編へどうぞ!』
「なんだこの結果は!!」
惨敗だった。
鞍馬の艦隊が小破程度に対して、俺の艦隊は半壊状態だった。
「何を間違えればこんな結果になるんだ!!」
艦娘共は何か言いたそうな顔で睨んでいたり、黙って下を向いていたり...
気に食わない。
「聞いているのか────」
「────さて、条件ではある程度の希望を叶えてくれると言っていたな?」
「!!」
鞍馬が不敵な笑みを浮かべてかつかつと歩いてきた。
「...わかった。俺も腹を括ろう。いくらだ?」
今月はかなりの節約を強いられることになるだろうが、仕方がない。
預金残高や艦隊運用について考えていると、鞍馬が口を開いた。
「何を言っている、私が欲しいのは金ではない。」
「...?じゃあ、何を────」
「────今日戦ったお前の鎮守府の艦娘を、そのまま私の鎮守府に異動させてくれ。」
∽
私が“希望”を出すと、浦部はしばらくキョトンとした顔を浮かべ...
「...はぁ?!
今日出した六人のうち北上、榛名、加賀は主力艦隊の一員だ。
駆逐は遠征部隊、鈴谷は去年来て放置していたから数合わせに編成したが、重巡は俺の鎮守府では貴重だ。
それに、そんなことを上が許すわけが────」
すごい剣幕でまくし立ててきた。しかしそこへ、
「────ならば、私が許そう。」
「「げ、元帥殿?!」」
元帥と秘書艦?のベレー帽黒髪美人が歩いてくる。病的に白いその肌は日差しに弱いのか、日傘を差している。
「先ほどの演習は見せてもらったが、ま〜ぁ見事な指揮能力ではないか、鞍馬くん。
優秀な艦娘を持っておいて、全く指揮を執らないどこぞの馬鹿の下に置くよりも、君のような優秀な指揮官の下に艦娘は置かれるべきだと私は思う。」
一つ一つの言葉の迫力が違う。ゆっくりと言葉を紡ぐだけでここまでのオーラを出すなど、常人には到底不可能。
元帥が元帥たる所以はここにあるのでは、と翔は感じている。
「────あくまで同意が無ければこの話は無しになるが...君たちはどうかね?」
真面目な面持ちの元帥が突然ニッコリとした表情で浦部の艦娘たちを見やる。
「ど、どうしますか?加賀さん...」
榛名が加賀に少し近づいて小声で聞く。気が弱い子なのだろう。
「......」
「お前らは何を悩んでいる!こんな馬鹿な話断るんだ!!」
浦部が声を荒らげる。しかし、
「...加賀さん。」
暁が加賀を見上げる。
「...ええ、私たちはその異動に同意します。」
「なっ...!」
「よし、それなら後々正式な書類を送ってやろう。確かバスがそこに止まってたな...うむ、今日からこのまま第七鎮守府へ移ってくれ。
あ〜あと、荷物も今から郵送するから待っててくれるかね?」
艦娘に対して話す時、優しいおじいちゃんのような表情と声音になる。
このオンオフの緩急につい笑いそうになってしまうが、右手で左手の甲をつねって耐える。
「わかりました、お心遣い感謝します。」
加賀が答える。
それにしてもあの場で火に油を注ぐようなことを言うとは、本当に馬鹿だ。浦部が狼狽えているうちにどんどん話が進んでいく。
「さて、私はそろそろ帰る。これに懲りたら二度とふざけた賭けをするでないぞ?」
秘書艦を連れて立ち去る元帥。
くるりと、その秘書艦が振り向く。
(.....!)
私と目線が合う。
(.....♪)
ニコっと微笑んで腰まである黒髪を翻し、元帥の後を付いて行く。
「...それじゃあ、マイクロバスを用意しているから挨拶はそこでいいか?」
恐らくこの艦隊のリーダー的な立ち位置であろう、加賀に声をかける。
「わかりました。」
一言言い残し、マイクロバスへとみんなを連れて向かう。
浦部よりかはマシか、と思っているのだろう。
加賀たちの背中を見届け、改めて向き直る。
「みんな、私の滅茶苦茶な指揮に従ってくれて、ありがとう。
次は海に出て実際に深海棲艦と戦うことになるだろうが、流石に今回のような戦いはしない。
君たちの安全を第一に考えていくつもりだ。
だから、私を信じて...共にこれからも戦ってほしい。」
流石にあの作戦行動は艦隊に大きな負担をかけてしまったはずだ。
翔が頭を下げると、
「司令官さん、顔をあげるのです。」
電に言われてみんなを見る。
「司令官、私は司令官だけの私よ?」
雷が翔に寄り添って腕を組んで。
「鎮守府建て直して、一緒に酒飲んで、おまけにあんだけ馬鹿みたいな作戦成功させちまったら...嫌でも信じるしかねぇよ...」
まだ襲撃したことを引きずっているのか、摩耶はバツが悪そうに。
「提督のこと、見直しました。...姉様に会わせてもいいくらいに。」
山城は翔をまっすぐ見据えて。
「いつまでも...司令官と一緒に、第七鎮守府で頑張りたいです。はい!」
春雨は満面の笑顔で。
「みんな...!」
不覚、日本男児ともあろう私の目の奥から熱いものが込み上げてくる。
すると龍田が、
「わ、私はまだ提督さんのこと、心からは信じてませんよ〜?」
その言葉を聞いた春雨が、えっ?と目を丸くして、
「あれ...?
龍田さんが人をさん付けで呼ぶところ、憲兵さん以外で初めて見ました...はい。」
と、不思議そうに呟く。更には、
「しれーかん!龍田さんが嘘をついている時は、頭の輪っかが左回りになるのよ!」
ダダ漏れのひそひそ声で雷が教えてくれる。
「えっ?嘘...えぇ?!」
龍田が自分の輪っかを触る。
「嘘よ!」
「────い、雷ちゃん??」
しかし、龍田はさっき焦っていたということは...
「「「.........」」」
「み、見ないで!そんな生暖かい目で私を見ないで〜!」
∽
「それじゃあ、あまり待たせても悪い。バスに戻ろうか。」
ぞろぞろとバスに乗り込み、最後に翔が「帰りもお願いします。」と、ひとつ礼をしてバスは発車する。
ちなみにこの運転手は軍学校から大本営・第七鎮守府へ翔を運んだ人であり、これからも翔の成長を見届けることとなる...
∽
回転式の座席を横に向け、改めて第七鎮守府の艦娘と対面する。
...?
「私は第七鎮守府の提督、鞍馬翔だ。
艦隊運用は安全第一、みんなと分け隔てなく接していきたいと思っている。
つい一〜二週間前から着任したばかりだから、教えてもらうことも多いかもしれない。
...どうかよろしく頼む。」
提督が先陣を切って挨拶をする。
「電なのです。あまり目が見えなくて、皆さんに迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします。」
「......」
私含む何人かが苦い顔をする。
...とてもあの体捌きをできる子とは思えない。
暁が電に話しかけたいが、ちょっと気まずい、という表情を浮かべている。
...まあ、提督の膝の上に電が乗っていては気まずくても仕方が無いだろう。
「アタシは摩耶ってんだ。よろしくな!」
重巡摩耶...対空能力が高い艦だっだはずだ。
この人が、私の艦載機を落としたのだろうか。
「龍田よ〜、よろしくね?」
にこにこと笑顔を浮かべているが、少しこちらの様子を伺っているのがわかる。
笑顔で警戒心を示す...何とも器用な表情である。
「山城です。...その、扶桑姉様を知りませんか?」
軽く顔を見合わせて首を振ると、はぁ、とため息をついて目線をどこか遠くに向ける。
「は、春雨です...村雨姉さんと会えて嬉しいです!」
村雨の隣に座っている春雨。薄桃色がかった綺麗な白髪にふんわりとした雰囲気、そして姉妹と会えたからか、この上ない幸せそうな顔はなんというか犯罪級であった。
「雷よ!かみなりじゃないわ!
わからないことがあったら私に頼っていいのよ!!」
電と瓜二つの雷。少し尖った犬歯、キラキラした目、ちょっと背伸びしているような雰囲気は暁を見ているようで、なんというか犯罪級であった。
相手の自己紹介は終わった。
こちらのターンだ。
「航空母艦、加賀です。
...それなりに期待はしているわ。」
第一印象は大事だが、少し真面目過ぎただろうか、表情が固くないだろうかと気になってしまう。
「村雨です。春雨共々よろしくお願いします!」
春雨と寄り添いあって座っている。
すりすりと頬ずりする春雨を撫でる村雨の姿はいつもと違って、しっかりした姉に見える。
やはり犯罪級だ。
「暁よ。電と雷は失礼してないかしら?
レディとして扱ってちょうだい。」
「はいはい自己紹介できてえらいえらい。」
鈴谷が暁の頭を撫でると、嬉しそうに身をよじる。
「えへへー、
...って頭を撫でないで!」
「あ、私は重巡の鈴谷でっす。よろしくお願いしまーす!」
相変わらずノリが軽い。人によっては鼻につく態度かもしれないが、加賀自身は明るいムードメーカーとして気に入っている。
「今は軽巡、北上だよー。
改装してくれたら重雷装艦ってのになれるんだけどなぁ〜、ちらちら。」
北上は第六鎮守府にも最近入った艦娘である。
鈴谷を超えるゆるゆるな子に見えるかもしれないが、なんだかんだ指示されたことはきちんとこなし、仲間を思いやるあたたかい心を持っているのを加賀は知っている。
時期的に軍学校で翔と同期だろうか。
「高速戦艦、榛名です。あなたが新しい提督ですね?よろしくお願いします!」
榛名は真面目で、裏表のない素直な子だ。しかし、純粋が故に前の提督からいいようにこき使われていたのだが...
「────全員終わったな?
それじゃあ、後は到着まで各自自由とする。」
そう言って提督は席を一つ正面に向け、カーテンを閉じる。
疲れが溜まっているのだろう、鎮守府まで寝て待つようだ。
...と、くいくい袖を引っ張られる。見れば電が立っていた。
「その...お話があるのです。」
.........
「...こちらに座っていいですよ。」
少しずれて一人分の席を空ける。
「失礼するのです。」
「お話って何かしら?」
だいたい予想はついているが、一応聞く。
「その、演習のことなんですが...」
「...電さん、大丈夫ですよ?
あれはあくまでも演習。油断していたとはいえ、私が反応できない速度の剣さばき、見事でした。」
「あぅ...その、ありがとうございます。」
電を落ち着かせるように撫でてやると、ふみゅう...と寄っかかってきた。あまりの可愛さに膝に乗っけて撫でくりまわしてやろうかと思ったが、なんとか理性でねじ伏せる。
「でも、やっぱり聞きたいことはあるの。
...あの時の電さんの人が変わったような強さについて。」
「それを話すなら、私と司令官...翔さんの昔についても話すのです。」
「────それで心に鍵を掛けて、戦闘時にいじめられていた時の恨みなどの感情を解放させていた、と...」
電とあの提督は、ものすごい人生を歩んで来たらしい。
...暁がさっきからこちらをちらちらと見ている。
姉妹で積もる話があるのだろう。電に行ってあげなさいと押し出して、私は改めて皆を見渡す。
北上、鈴谷、摩耶、山城、龍田は女子会のようだ。
「そ゛れ゛て゛ぇ゛、(ぐすっ)ね゛え゛さ゛ま゛か゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛(ウエェ、ゲッッホウェッホ)」
加賀は見なかったことにした。
ほら、鈴谷さん北上さんとか引いて...
「うんうん、会いたい気持ち...すっごくわかるよ!
鈴谷にも熊野っていう妹がいてね...」
「大井っち、大本営にいるって聞いたけど...上手くやってるのかな〜。」
「鳥海...姉貴ぃ...どこで何やってるんだよぉ...ぐすっ」
「天龍ちゃん、他の鎮守府で迷惑掛けてなきゃいいんだけど...」
みんな姉妹トークに夢中になっていて、鈴谷に至っては山城の話を目を赤くして聞いている。
...加賀は“喋り”が苦手だが、あの雰囲気に常人がついていくのは無理だろう。無理なはずだ。
...ちなみに榛名は春雨を膝に乗せ、寄っかかっている村雨に腕を回して三人で寝ていた。うらやましい。
後で春雨の頬をぷにっぷにしてやろうと心に決め、提督の隣に座る。
「提督、起きているのはわかっています。」
「...なんの用だ?」
ㅤ軍帽で顔を隠したまま答える提督。
「先程の演習での指揮の手腕、お見事でした。」
「ありがとう。だが、私を持ち上げても何も出ないぞ?
加賀も、あの洗練された艦載機の編隊行動は見事だった。」
「...ありがとうございます。」
やはりこの提督は、たとえ敵だとしても私たち艦娘を“見て”くれている。
第六鎮守府のあれは、私たちが疲れていようが補給を忘れていようが出撃させたり、MVPを取っても労いの一言も無いような提督だった。
「あなたは、私たち艦娘のことをよく見てらっしゃるのですね。」
「そんなことないさ。
私はただ、戦況を見て一番良い指揮を執ろうとしているだけだよ。」
「そうですか...」
少し間が空いて、私はふとこんなことを漏らす。
「...あなたは、私たちを受け入れてくれるんですか?」
私としたことが、頭に浮かんだ言葉をそのまま口にしていた。
でもこの提督はどんなことにも真摯に応えてくれるかもしれない。
少なくとも、馬鹿にするような人間ではない。
「挨拶で言った通りだ。私はみんなを受け入れる。それ以上もなく、それ以下でもない。」
「そうですか...」
...また間が空く。
私自身、喋りが苦手故にこういう間か空くのはありがたいのだが、提督も私と同じく苦手なのだろうか。
────ピローン。
提督から音が鳴る。いや、懐か?
ごそごそと内ポケットからスマホを取り出し、メールを開く提督。
「少々失礼...」
ㅤ加賀も内容を覗くと...
「「なっ?!」」
『From:憲兵
北方棲姫と見られる艦を鹵獲。至急、鎮守府に戻って頂きたい。』
北方棲姫といえば、宗谷海峡からタタール海峡にかけて目撃された深海棲艦である。
見た目は幼い子供だが、本気になると恐ろしい火力を秘めた艦載機を次々と発艦する、“姫級”に指定された超危険な深海棲艦だ。
...そんな北方棲姫を生身の人間である憲兵が鹵獲とは、どういう事なのだろうか。
「至急、他鎮守府へ連絡を────」
「いや、第七鎮守府から最寄りの鎮守府でも片道二時間半はかかる。
私たちが戻るまで平和を祈るしかない...ッ!」
ぎりり、と提督が歯軋りする。
「...私は寝る。着くまで起こさないでくれ。」
「て、提督?」
鎮守府どころか日本の危機が迫っているというのに、この男は寝るなどと言い出した。
「一旦寝て、万全の体制で対策に当たるんだ。加賀、この話は内密に頼む。」
「...わかりました。」
なんという肝の太さ。
一分も経たずに寝息が聞こえてきた。私も後ろに戻ろうと、席を立とうとすると...
「加賀、電や雷と寝ても良いぞ。」
「?!!
だ、誰も一緒に寝たいなどと口にしていないはずですが?」
「自己紹介で、うちの駆逐艦を見る時だけ長く目線を向けていただろう?
子ども好きはいい事だ。」
ㅤと言って、今度こそ寝たようだ。
乙女の心を読むとはなんてデリカシーの無い提督だろう。
恥ずかしいという感情が湧き上がって来るが、
「...提督、やはりあなたは私たち艦娘のことをよく見てらっしゃるのですね。」
────ほんの少し、どこか嬉しく感じる私もいた。
後書き・加賀
「ここまで読んでいただいた読者の皆様、ありがとうございます。
お話の方ですが、いきなり異動や鎮守府の危機などまさに踏んだり蹴ったりです。こんな展開を用意したコンブさんに対して、流石に頭に来そうです。
次回は新たな鎮守府へ到着した私たちのお話。どうなるのでしょうか。
サブタイトル予想・『異邦人の漂着』。
『異邦人』とは、外国人を表す言葉のようです。深海棲艦に国なんてあるのでしょうか...?」