あなたが手を引いてくれるなら。   作:コンブ伯爵

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翔「という訳で回想回だ。」

電「あまり私たちは出しゃばらないのです。」

翔「あぁ、回想は雰囲気を楽しんでもらいたいからな。...この辺で引いとくか。電、頼む。」

電「それでは、本編へどうぞ。」



13話 回想・最強の劣等生

 

 

 

 電と翔のあの夜の次の日から、二つの噂が学校を流れることとなる。

 

 一つは、“物好き”な人間が居るという噂だ。

 

 なんでもある艦娘と常に手を繋ぎ、共に行動し、片時も離れない人間が居るという。

 艦娘と仲のいい人間は数人知っているが、片時も人間から離れない艦娘など聞いたことない。

 

 もう一つは、夜戦訓練場に通う艦娘の噂だ。

 

 いつも川内という夜戦好きな艦娘が通っているのは周知の事実だが、もう一人、夜戦訓練場に通う艦娘が居るらしい。

 ...何人か思い当たる艦娘はいるのだが、こんな噂にはならないはずだ。

 

 

 

 

 

「ねー、聞いた?川内ちゃんじゃない子が、夜戦訓練場に通ってるって噂」

 

「たりめーだろ?オレ様の地獄耳が逃すわけねぇ。」

 

「ちょっと、気にならない?」

 

「まぁ、少しは...な。」

 

「じゃあさ、鈴谷の代わりに見に行ってよ!」

 

「はあ?!なんでオレが行かなきゃなんねーんだよ!」

 

「いやー、蚊も殺せない鈴谷ちゃんより、強くてかっこいい天龍ちゃんの方が向いてるかなーって思ったんだけどなー。」

 

「ま、まぁ...な、軽く世界基準超えてるからな。へへっ。」

 

「お願い出来ない?天龍ちゃん!このとーり!」

 

「し、しょーがねぇな。オレが確かめてやるよ。」

 

「(計画通り...)」

 

「なんか言ったか?」

 

「い、いやなにも!」

 

 

 

 

 ∽

 

 

 

 

 夜に一人で出歩いたのは久しぶりだ。

 春とはいえまだまだ気温は低い。

 冷たい潮風が木々を揺らしてさわさわと音を立てる。

 手入れされていない、古い街灯がぷつん、ぷつんと音を立てる。

 昼とは違って辺りは静まり返り、まるでこの世から自分しか動く人がいなくなってしまったかのような錯覚を起こしそうになる。

 頼りになるのは切れ掛け街灯と月明かり。

 得体の知れない恐怖がこのオレ...天龍を襲う。

 

 ────かさり。

 

 不意に、風に吹かれた落ち葉が足に触れる。

 

「にょわっ?!」

 

 つい変な声が出てしまう。

...幸い聞いている者はいなかったようだ。

 

 (ふふ、怖いぜ...)

 

 時刻は二〇三〇。さっさと帰ってあったかい布団に埋もれて寝たい。

 天龍は足を早めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 ズドーン、ズドーン、ザザザザザ...

 

 訓練場前。

 恐らく川内が暴れ回っているのだろう、爆発音や海を駆ける音がする。

 

 「......」

 

 だが、音は一人分しか聞こえない。

 地獄耳の天龍様が聞き間違えるはずが無い。

 

 「...やっぱり嘘じゃねーか!」

 

 足元の石ころに八つ当たり。

 嗚呼、なんて馬鹿らしい。このオレの夜ご飯のあとのリラックスタイムを根も葉もない噂に踊らされて潰してしまった。

 腰の『EX天龍ブレード・ツヴァイ』も心なしか悲しんでいるように見える。

 この噂を流した元凶を見つけたら刀の錆にしてやろうと心に決めて、寮へと足を向ける。

 

 

 

 

 

 

 ...にゃーん、...にゃーん、

 

 「ん?」

 

 しばらく歩いていると、どこからか猫の鳴き声が聞こえる。

 学校内に人懐っこい野犬や野良猫はよく現れるが、今回は複数聞こえる。

 いわゆる猫の集会所というやつだろうか。

 

 「......」

 

 率直に言おう、天龍は小動物...特に猫が大好きだった。くりくりとした目、もふもふの毛並み、思い出すだけでも愛おしい。

 そんな天龍が猫の集会所を見つけてすることと言えば一つ。

 

 (ちょっとぐらい、いいよな?)

 

 そーっと、陰から覗いてみると

 

 にゃーん、にゃーん、

 

「ちょっと、くすぐったいのです。」

 

 艦娘が猫と戯れていた。

 

 いや、あの艦娘は!

 

「電...?」

 

「!!」

 

 また会おうと言わんばかりに、にゃーん。と、ひと鳴きしてぞろぞろと猫たちは去る。

 

「誰か、いるのです...?」

 

「ここだ、オレだよ!」

 

 声をかけると電はこちらに顔を向けたが、目線は虚空を彷徨う。

 夜とはいえその不自然な動きに、天龍はふと違和感を覚える。

 

 (まさか...)

 

 見れば手に杖を握っている。

 目が見えない艦娘がいるということも噂に聞いていたが、きっと電がそれなのだろう。

 

「その声...天龍さん?!」

 

「そうだ!“あの時”以来だな!」

 

「天龍さぁぁん!」

 

 ゆっくりと歩み寄る電をぎうーと抱きしめて、頭を撫でくりまわす。

 

 

 

 

 

 

 

 しばし邂逅を楽しんで、電に聞く。

 

「そう言えばお前、何でこんなとこにいるんだ?」

 

「えーと、それは...」

 

 と、電が口ごもっていると、また他の声が聞こえてきた。

 

「おーい、電ー!」

 

 男の声。艦娘ではない。

 

「翔さーん、ここにいるのです!」

 

 ...人間のことを下の名前で呼んでいる?

 

「あぁ、いたいた...ん?」

 

 誰だ?という目で天龍を見てくる。

 

「その人は天龍さんなのです。“あの時”にお世話になっていたのです!」

 

「なるほどな...私は鞍馬翔だ。三年生で電とは同じクラスメイトだ。」

 

「オレは天龍、軽巡洋艦だ。

 ...こんな夜中にお前ら何やってんだ?」

 

 単刀直入に浮かんだ疑問をぶつける。

 

「電の戦闘訓練だよ。たぶん分かっているとは思うが、この子は目が見えないんだ。」

 

「...ふむ。

 じゃあ、なんで人間のお前がそこまで面倒見てんだよ。艦娘と関わった人間がろくな目に合わねえのは知っているだろ?」

 

「それには、かくかくしかじかな事情があるのです。」

 

 

 

 

 

 

 

「お前らぁ...なんていい奴なんだ...」

 

 天龍はその“事情”を聞いて涙した。艦娘を手を引く人間と、人間に付いていく艦娘の話。

 鬼の天龍の目にも涙が浮かんでいた。

 

 ...まあ、元々涙もろい性格なのだが本人は断じて認めていない。

 

「よかったら、これからの訓練に付き合ってくれないか?」

 

「えぇー...」

 

 いくら感動したとはいえ、食後のリラックスタイムどころか風呂上がりののんびりタイムも潰してしまうのは流石に気が引ける。土日の昼にでも付き合ってやろう。

 そう言おうとした天龍。だが、

 

「天龍さん...」

 

 うるうると上目遣いで電が一言。

 

「だめ、なのです...?」

 

 ────さようなら、オレののんびりタイム。

 

 

 

 ∽

 

 

 

「とりあえず、あの的に砲撃を叩き込んでみろ。」

 

 脚部と機関部の艤装を展開し、海に出た俺が指さした先には近距離的が浮いている。

 駆逐艦の射程範囲ぎりぎりよりも少し近い。

 

「わかった。電!」

 

「はいなのです!」

 

「〇三十二の方向、近距離砲撃!」

 

 翔が指示を出すと、電は素早く的に向いて砲撃、するのだが...

 

 ────ドボーン!

 

「あちゃー、そこからか...」

 

「距離の伝え方がイマイチ掴めないんだ...」

 

 確かに時間どころか分まで合わせた砲撃の方向は良かったのだが、距離感が全く掴めていない。

 艤装展開すれば電も普通の人間並みに視力は良くなるらしいが、それでも限度というものがある。

 

「んじゃあ、次は雷撃だ!」

 

「電、〇五〇七の方向、魚雷だ!」

 

「えいっ!」

 

 バシュバシュ、と放たれた魚雷は一直線に的へと向かい見事命中。

 

 ドーン、と爆発音。

 練習用なので爆薬の分量はかなり減らされている。

 

「魚雷の腕は大したもんだが...」

 

「砲雷撃戦は魚雷だけでは厳しいのです...」

 

 まさにその通りだ。

 

 うーむ、と頭をひねっていると、天龍に一つのアイディアが舞い降りた。

 

「電、こいつは持てるか?」

 

 シャリン、とEX天龍ブレード・ツヴァイの片方を渡す。

 

「一応、持てるのです。」

 

 天龍のように片手で振り回すのは無理そうだが、両手持ちならしっかりと構えることができるようだ。

 

「砲を全て外して、こいつだけ持ってあの的に一発ぶちかましてみろ!」

 

「えぇ...」

 

 翔が何かを察したような、複雑な表情を浮かべる。

 ...そう、天龍が考えたのはそれだった。

 

「ちょっと、体が軽くなったみたい。」

 

 ちょっとどころか、とても艦娘には出せないようなスピードでざざざざざーと接近し、さっ、と的に一振り。

 

 木製の的はバターのように切れて海に落ちる。

 

 流石EX天龍ブレードだ。毎日手入れしているだけあって恐ろしい威力を持っている。

 

「?!」

 

 翔もその切れ味にポカーンと口を開けている。

 

「うん、電。こいつで模擬戦に行ってこい!」

 

「こ、こんなので演習に出たら危ないのです!」

 

「本番は模擬戦用のインクを染み込ませた布を巻き付けるから大丈夫だ!

 安心して振ってこい!」

 

「でも、天龍さんの...」

 

「いや、もう一本あるし...砲雷撃戦では使わないんだ。」

 

「じゃあなんで装備し────」

 

「────電、聞いちゃダメだ。」

 

 電が何かを言った気がするが、翔が口を挟む。

 

「それと、この剣の名前は────」

 

「────電、多分聞いちゃダメだ。」

 

 電が何かを言った気がするが、またも翔が口を挟む。

 なにか不都合なことがあるのだろうか。

 

「...わかりました。やってみるだけやってみます。」

 

 どこか納得していない様子だが、まあ良いだろう。

 

「よし!じゃあ俺が剣術については教えてやるから、しっかりついてこいよ?」

 

「は、はいなのです!」

 

 

 

 ∽

 

 

 

 ────1ヶ月後の模擬戦にて、生徒の間でまたも噂が流れることになる。

 なんでも模擬戦の最優秀賞を勝ち取った艦娘は、1度も砲撃をせず、戦い抜いたらしい。

 

 しかし、人間側では座学のテストがあって生徒は模擬戦を見学できなかった。

 

 結局、嘘として扱われその噂は消えていくことになり、真相を知っている人間はいない。

 

 ────ただ一人を除いて。

 





後書き・過去の天龍と電の雑談

「ところで、どうして天龍さんは刀を二本持っていたのです?」

「それが、この体で生まれた時に一本持っててよぉ、『うわっカッケー!』ってなってだな...二本目は妖精さんからこっそり鋼材分けてもらって自前で作ったんだよ。」

「じ、自作なのです?!」

「あぁ。少しばかり大本営の明石っていう魔改造職人...
いや、工作艦にも手伝ってもらったんだ。まあ流石に生まれながらに持っていた刀は大事だから、今俺が腰に差している。」

「...ってことは、これ天龍さんの自作の?!」

「そういうこった。俺の器用さに声も出ねぇか?」

「怖くはないのです。」

「そ、そうか...
 ちなみに明石は『二刀流でカッコイイなら三本で三倍、もっと作ればもっとカッコイイですよ!』っつって五本作ったんだが...」

「多ければ良いという問題じゃない、ってことですね...」

「あぁ。BASARAの政宗の六爪流なんて、現実じゃあ絶対無理だと身をもってわかったぜ...」

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