翔「...すまない。今まで旅行で二週間近く家を空けていたんだ。」
電「失踪なんてしないのです!でも、Wi-Fi飛んでいなかったから皆さんにお伝え出来なかったのです...」
翔「急に決まったから、事前に伝えることも出来なかった...読者の皆さんに多大なる迷惑をかけたな。」
電「これからは気をつけるので、許して欲しいのです...(上目遣いで目をうるうるさせながら)」
翔「それじゃあ久しぶりに────」
翔・電『────本編へどうぞ!』
11話 鎮守府改装・戦いの予感
「ん〜〜〜っ、ふぅ...」
私、春雨が目覚めると両隣りで雷電姉妹が寝ていた。
そういえば昨日、提督たちが飲み出して止まらなくなっていたから先に寝ていたのだ。
「......」
それにしても、誰かと一緒に寝るのはいいものだ。人肌があたたかくて、腕や身体に抱きつくと...なんだかふわふわした、とてもいい気持ちになれる。
春先とはいえこの地はまだまだ寒く、特に朝が冷えるのは言うまでもない。
遠くの山も白く雪が積もっている。
二度寝の魔力に引き寄せられつつも気を確かに持って、提督たちを起こしに行くべきだと考えて雷電姉妹を揺する。
「...!
おはようなのです!」
「おはよう、春雨ちゃん!」
「はい、2人ともおはようございます。
司令官さんたちを起こしますよ?」
ぞろぞろと3人で歩いていく。工廠から出ると、朝日が登り始めていた。
おおよそ〇六三〇、いい朝だ。
食堂の扉を開くと、
「ぐあぁぁ...っ!」
「ぎぃい...っ!」
「あ゛あ゛...っ!」
「うふふ......っ!」
四人が悶え苦しんでいた。
「し、司令官さん?!」
「何か悪いものでも食べたの?!」
「はわわわ...?!」
...と、司令官たちが起き上がる。
「...いや、寝違えただけだ。」
「し、心配しなくてもいいわよ〜?」
龍田さんは平静を装っているが、脂汗が浮かんでいる。
あの龍田さんがここまで苦悶の表情を浮かべるとは、相当ひどい寝相だったのだろう。
飲ませてもらえても、お酒は程々にしようと改めて思った春雨であった。
∽
やい、かけるさんや
わたしたちのさくひんが
かんせいしたよー
「「「!!」」」
朝ごはんを適当に済ませると、妖精さんたちが歩いてきた。
とうとう鎮守府改装完了のようだ。
頼んでからたった二日で出来上がるとは、本当に妖精さんたちの技術力は計り知れない。
ささ、どーぞどーぞ
おはいりください
おきゃくさんいちごーう
扉を開くと、別世界が広がっていた。
床は綺麗に張り替えられ、窓ガラスも1枚も割れていない。
明かりは天井ではなく壁に取り付けられ、ホテルの廊下のように小洒落ている。
「はあぁ...!」
「すげぇじゃねぇか!」
春雨や雷、摩耶も目を輝かせている。
二階の司令室には、入るとすぐに靴を脱ぐスペースがあり部屋は畳張りになっていた。
買ってきたテーブルやソファー、机が置かれていたが、箪笥やカーテンなど買っていない物も置かれている。
「あらあら、今日も宴会ね〜」
「いや、昨日で酒は全部飲んでしまったからな...」
「えー!」
「えーじゃない。あれほど浴びるように飲んだというのにまだ足りないのか...」
はぁ...とため息をつくと、誰からともなく笑いが起こる。
「さて、宴会云々よりもまずは荷物を運び込むぞ?」
「「「はーい...」」」
∽
第七鎮守府の外に、一つの影。
「あの第七鎮守府が改装したか...
あのオンボロにもうんざりしてきたところだ。
あんな奴にはもったいない。この俺が有効活用してやろう...
ククク...」
∽
翌日
結局昨日は荷物運びや部屋割りで遅くなり、宴会を開く体力もなくそのまま寝ることになった。
まずは遠征で資材や練度を少しずつ上げなければ...などと考えに耽っていると、
ジリリリリン
電話が鳴る。
見れば第六鎮守府からのようだ。
「もしもし、こちら第七鎮守府の鞍馬です。
どういったご用件で?」
「やあやあ、軍学校をトップで出た鞍馬くんか。わざわざご苦労だねぇ。」
...この声、第六鎮守府の浦部だ。
たしか親の跡を継いで提督になった私の同期だ。
「...嫌味を言いに来ただけか?」
少し語気を強める。
上司でないなら敬語は要らない。
それが開口一番挑発から始める奴なら尚更。
「おお、こわいこわい。君の鎮守府に演習を申し込もうと思っただけだよ。」
「ほう?」
演習と言えば、他鎮守府の艦隊との模擬弾による艦隊戦を通して、艦娘を訓練するというものだ。
ちょうど第七鎮守府の艦娘たちに実戦を経験してほしいと考えていたのだが、まさに渡りに船。
「いいだろう。喜んで受けて立とうではないか。」
「いいじゃないかその姿勢!
────そこでだ、今回の演習で賭けをしようじゃないか。」
「...どういう事だ?」
確かに、演習で軽く賞金や資材を出すなどして士気を上げるのは知っているが、賭けをするのは初めて聞く。
「もし、私が勝ったら私の鎮守府に異動してくれ。
...あぁもちろん、艦娘を引き連れてだ。
私の鎮守府は歴史があっていい建物だぞ?」
「...ふざけるな。
そんなこと元帥が許すはずが無い。」
着任する鎮守府を交換するということは、守る海域やデスクワークの書類などが入れ替わるということであり、浦部が親の代から使っている鎮守府と新たに改装した鎮守府を変えることにもなる。
それは即ち、元帥から頂戴した改装費...数百万という金を浦部につぎ込んだことになってしまう。
「あのジジイからの許可なら取っている。」
「...そうか。」
何を考えているのだあの元帥は。
「まさか引くなんて言わないよなぁ?一応俺も着任したばかりだから艦娘の扱いには慣れてねぇよ。」
見え透けた挑発。
鎮守府を継いでいるということは相手の艦隊の練度はかなり上ということを表す。
確かに浦部の指揮能力は低いかもしれないが、力の差が圧倒的過ぎる。
ここで乗っては全てを取られて終わる────
────いや、待てよ?
∽
「...わかった。その話に乗ろうじゃないか。」
────かかった!
「...!!
そう来なくっちゃなぁ?
戦う勇気も運動神経と一緒に置いてきたのかと思ったぜ。
三日後の日曜日でいいな?」
「あぁ、その日なら大丈夫だ。」
声がうわずらないように落ち着けながら、さらに挑発を続けていく。
社交性の欠片もない奴が、俺が親の鎮守府を継いでるなんて知らないだろう。
鞍馬の鎮守府の艦娘はあのジジイの鎮守府に全て異動したはずだ。
奴も俺も着任したばかり。
鞍馬はおそらく六人の基本的な艦隊を駆逐・軽巡で組むのがやっとだろう。
そんな雑魚共と親の育てていた、練度の高い艦娘共。
結果は日の目を見るより明らか。
蹂躙するだけで新品の鎮守府が貰えるというわけだ。
いくら賢くても“バカ”では意味がない。
「────ところで、」
その“バカ”が何かを言ってくる。
「ん?」
「私が勝った場合、お前はどうする?」
「俺は絶対に勝つ自信があるからな。
何ならお前の望みを一つ聞いてやろうじゃないか。
...とはいえあんま無理なこと頼むんじゃねぇぞ?」
────この時、浦部は絶対に勝てるという自信に酔いしれて調子に乗ってしまった。
「もちろん、その辺りは弁えているさ。」
「それじゃあ三日後、楽しみにしてるぜぇ?」
悠々と新築鎮守府で暮らす自分を想像しながら、俺は電話を切った。
∽
「────元帥殿。どうしてあのような賭けを許可したのですか?」
「まあまあ、鞍馬くん。
君もそろそろ初陣を経験するべきだろう?
それに、頭の回る君のことだ。
どうせ馬鹿みたいな対価を出してあの若造から全て巻き上げるつもりなんだろう?」
「...さすがは元帥殿。私の思惑は筒抜けでしたか。」
「鞍馬くん、お主も悪よのう。」
「このような演習を許可してくださった元帥殿に、そのままお返しします。」
「はっはっは、これは一本もらってしまったな!
まぁ、頑張ってくれ。
...期待しているぞ?」
「はっ、それでは失礼致します。」
やはり元帥が切るのを待ってから、ガチャりと受話器を置く。
はあ、とため息一つ。
鞍馬翔、負けられない戦いまであと三日。
後書き・龍田さん
「ここまで読んでくれた読者の皆さん、ありがと〜。
今回のあとがき担当は私、龍田だよ。
...かなり間が空いちゃったから前回のお話忘れちゃった読者さん、ごめんなさい。あとでコンブさんを茹でておくから、許してほしいな。
さて、次回サブタイトル予想・『翔の作戦』。
あの人の作戦ね...上手くいくといいんだけど。」