なんだか変な衝動に掻き立てられたので蘭ちゃんの新作を書いていきます。
現実とは非情なものだ。
理想としていたものに、いともたやすく、呆気なく裏切られる。
これまで一緒だった、大切な宝物から切り離される。━━━そんなことが、当たり前のように起こる。
人間に翼がない理由に、人間が空に高く飛びすぎないように、神様が翼を取ったという話がある。
それと同じだ。
人というのは理想に向かって走りながらも、スタミナ、障害物といった神様からの残酷な仕打ちが、人を転ばせる。
その仕打ちに、耐えられるか、切り返せるか━━━それとも、悲しんで、その場で泣き崩れたままか━━━。
中学二年生━━━春。
今の私の心は、どちらかといえば後者だ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
思うに、中学生というのは人生のピークなのではないだろうか。
義務教育というルールに守られ、高校生ほど大人でもなく、小学生ほど子供ではない。中間地点。
個人的には、1番やりたい放題できるシーズンなのでは、と思う。
しかし、そう思いながらも、俺は中学生になってからは楽しい、と思った瞬間は一度もなかった。
別に、終始仏頂面で不機嫌な態度を取っている訳ではない。笑うときは笑い、遊ぶときは遊ぶ。
しかし、心の底から「ああ、楽しいなー」そう思う瞬間がないのである。簡単にいえば、心地の良い楽しみというのか。それがないのだ。
━━━中学二年生。春。クラス替えの時期だ。
廊下の壁に大きな紙が張り出されている。クラス表だ。
同じ制服を着た生徒たちが群がって、自分のクラスを確認し、友達のクラスを確認する。
━━━ああ、騒がしい。
そう心の中で愚痴りながら、少し背伸びをして紙を見る。
縦に長く並んだ中から自分の名前━━━
クラスは2-A。Aって響き、なんだか良いな。優秀な感じがする。
見れば、少し話す程度━━━所謂“友達の友達”も何人かいる。
中学二年生も、なんとか安定した生活を送れそうだ。
そう思っていると、横から声が聞こえた。
「やった、つぐと同じだ!」
「お〜、幼馴染パワー発動ってやつ〜?」
「すごいすごい!」
少し背の高い赤髪のショートヘアの、ボーイッシュな少女。気怠そうな雰囲気が喋り方からして出ている白髪の……まあ美少女。そして桃色の、いかにもスクールカーストの最上位にいそうな、はっきりとした美少女。
クラスが同じかどうかで一喜一憂かー。青春しているなぁ。
などと年齢に見合わない、老婆心めいたことを思いながらも、俺は新しい2-Aへと向かった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
俺が中学二年生になってから早くも2週間が経とうとしていた。
白衣を着たスタイル抜群の美人先生━━━俺たちの担任だ。ちなみに俺は去年もこの人が担任だった。そのせいもあってか、結構目をつけられていて怖い。
そんな先生が、黒板に板書する。
「席替えしようか」
朝のHRでの突然の宣告。クラス中が驚愕の声をあげる。
無理もない。なんせまだ進級してから2週間だ。席替えをするにはいくらなんでも早すぎる。
「もう生徒の名前は覚えたし。お前たち男子も、いつまでもそんな同性と肩合わせてたくないだろう?青春しろよ。そして私の酒の肴となれ」
おそらく、このクラスの人間の8割は“酒の肴”という言葉の意味はあまり理解していないだろう。
しかし、完全に個人的な事情での席替えだ。生徒の名前を全部覚えてる辺りは優秀な先生なのだろうけど。
「というわけで、委員長。あと宜しく」
「えっ、はい」
戸惑い気味に答える委員長。野球部の、長身の坊主頭だ。
突然のフリながらも、奴はすぐにこなしてみせた。
方法はくじ引きとなった。まあそれが妥当だろう。スクールカーストが目に見えてわかる席順など見てて吐き気がする。
出席番号順に、教卓に置かれた即興で作られたボックスから紙を一枚ずつ取り出す。紙に書かれている番号と黒板に板書された席順の番号を照らし合わせる。
俺の席は、廊下側から一列目。後ろから二番目と言う何とも中途半端な席となった。
まあ、寄っかかれる分まだマシか……。
などと思ってクラスメートたちの会話を眺めていると、隣から何かを置く音が。俺の左隣。そこに短い黒髪の少女が席に座る。
「……」
「……なに?」
「……いや、なんでも」
彼女の姿を見て真っ先に思ったのは、美少女だ。他の女生徒とは一線を画していると言ってもいいほどの整った顔立ち。凛々しさと厳しさが合わさったような雰囲気を醸し出している。
しかし、その顔を見ていた俺のことを、まるで威嚇するかのように素っ気なく突き放す。
なあお母さん。席替えで、美少女と隣になったよ。
━━━けれど、俺たちのファーストコンタクトはあまり良くなかったかもしれない。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
俺の隣の少女の名前は美竹蘭と言うらしい。
この街じゃ有名な代々続いている家系の一人娘らしい。らしい、というのは俺があまりこの街のことをよくわかっていないからだ。
なるほど、いいところのお嬢様なら、あんな雰囲気を出せるのも納得だ。
「しっかし、お前も大変だよな」
俺に声をかける男子生徒。
さも友人のように接しられているが、俺はこいつの名前を知らないし、多分向こうも俺のことをよく知らないだろう。
「美竹の隣とはね……」
「どういう意味だ?」
美竹の隣で大変?
おいおい、日本語話してくれよ。意味がわからないぞ。
「あいつ、キツすぎるんだよね。周りと全く話さないし」
「……」
ならお前から話に行けよ。
などとは言わない。こんな所で俺のイメージを崩してたまるかよ。
「顔は良いんだけどなー。いかんせんあいつは笑わないからな」
何を知ったようなことを言っているのか。お前、美竹と話したことないだろうに。見ていて悲しいぞ。哀れだぞ。
「ま、頑張れよ」
ははは、と肩をポンと叩かれる。まるでさも友人のよう。しかし俺はこいつの名前を知らない。
なんで知りもしない奴にそんは触れ合えるの?アメリカ人かお前は。
「そうか、まあ頑張るよ」
返答はするが、それでも、やはり思うことはある。
「━━━ところで、おまえ誰?」
その場の空気が一瞬だけ凍てついた。
中学校は共学設定です。リサ姉が先輩の学校に入学したい人生だった…。