Heaven's Feel After 『ある昼の出来事』   作:キラ

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以前他サイトで掲載していたものを手直しして投稿してみました。少し雁夜おじさんを美化しているところがあります。


昼休み

――桜ちゃん

 

 声を、思い出した。いつだったか、ずっと昔にわたしにかけられた、とても弱々しく、危うく、それでいて優しい声を。

 

――じゃあ、遠坂さんちの葵さんと凛ちゃんを連れて、おじさんと桜ちゃんと、四人でどこか遠くへ行こう

 

 その声の主は、そんなことを言っていた気がする。……思い出せるのはいくつか交わされた言葉だけで、その人の顔も名前も、わたしの記憶から欠落してしまっている。

 

――あの人たちと、また、会えるの?

 

 ……だけど、なんとなくわかることがある。

 

――ああ、きっと会える。それはおじさんが約束してあげる。

 

 ……あの人はきっと、わたしを――――

 

 

 

 

 

 

「じゃ、次の授業までにちゃーんと宿題やっておくんだぞー?」

 

 四時限目の英語の授業が終わり、昼飯の時間になる。がやがやと騒ぎ出す教室を出ようといつものように席を立つと、隣の席の男が妙にニヤニヤしながら声をかけてきた。

 

「衛宮殿、また愛妻弁当を食べにいくのでござるか? 毎度のことながら拙者うらやましい限り」

 

「ば、ばか、何言ってんだ。まだ結婚してないんだから愛妻弁当じゃないだろっ」

 

「……ほう、『まだ』と申されたか衛宮殿。ということは間桐殿を実質生涯を共にする伴侶だと認め――」

 

「あー! 早く行かないと桜に怒られちゃうなあ! そういうわけでさらばだ後藤くん(弟)」

 

 ……照れと焦りでとんでもない墓穴を掘ってしまった。これ以上の追撃を避けるため、強引に会話を打ち切り廊下へ出る。――すたすたすたと早足で歩くうちに、心のほうも静まってきた。『後藤くん、昨日はまた時代劇を見たんだな。あらゆるところで兄に似てるなあ』というところにまで思考が及ぶようになっているから、もう大丈夫なはずだ。

 

「……と、そうこうしているうちに屋上は目の前か」

 

 高校三年になってから、昼食はほとんど毎日屋上で食べている。その行動を隠そうとしているわけでもないため、俺と、俺と同じく屋上通いを続けるある人物が一緒に弁当を食べる仲だということは学校を通してほぼ周知の事実であるらしい……後藤くん(弟)や弓道部新主将の美綴実典の言を信じるなら、の話であるが。

 

「……まあ、別にあらぬ噂を流されてるわけでもないからいいんだけどな」

 

 そう独りでつぶやきながら、屋上へと続く扉を開ける。

 

 

「あ、先輩! お待ちしてました!」

 

「ああ。お待たせ、桜」

 

 ――そこに、俺が望み続けた最高の笑顔が待っていた。

 

 

 

 

 

 

 今から1年と3カ月ほど前に起きた聖杯戦争によって、俺と彼女――間桐桜の運命は大きく変わった。

 『この世全ての悪(アンリ・マユ)』。聖杯の一部を祖父である間桐臓硯によって体内に埋められていた桜は、徐々にその災厄と同調していった。そんな彼女を救うために、俺はたくさんのものを犠牲にした。

 

 ――ずっと追い続けてきた、衛宮切嗣と衛宮士郎の理想を裏切った。100人以上の罪もない一般人を見殺しにした。未熟なマスターだった俺を信じ、ともに戦ってくれた剣たる少女をこの手で殺めた。俺を憎みながらも、最後は俺と兄妹でよかったと言ってくれた銀髪の女の子よりも、自分の命を優先した。

 

 切り捨てて。

 切り捨てて。

 切り捨てて。

 

 ……そうして、俺たちは今ここにいる。『奪ったのなら、きちんと責任を果たす』。その思いを一生抱き続けて、俺と桜は生きていくのだろう。決して、今ある幸福を取りこぼさないように。

 

「……先輩? さっきからお箸が止まってますけど、ひょっとしておいしくありませんでしたか?」

 

「いや、ちょっと考え事をしてただけ。桜の料理はいつもと変わらず絶品だ」

 

「ふふ、そうですか。ありがとうございます」

 

 今は楽しい昼食のひと時なんだ、真面目な話はこの辺にしておこう。それよりも、今日は桜に言っておきたいことがある。

 

「桜」

 

「はい?」

 

「……そろそろその『先輩』って呼び方、変えてみないか?」

 

「え? どうしてですか?」

 

「どうしてもなにも、俺はもうお前の先輩でもなんでもないからだ」

 

 ぴしり、と。

 さも当然のように言った俺の言葉に、桜ははじめ石のようにかたまり(俺の発言が理解できなかったようだ)、その後むぅーとうなりはじめ(俺の言葉の意味を必死に考えているようだ)、はっ!? と雷に打たれたかのようなリアクションを取り(俺の意図することに思い当たったらしい)、やれやれようやくわかってくれたかと俺がほっと胸をなでおろしていると。

 

「せ、先輩の浮気者~~!!」

 

 なんでさ。

 

「待て桜、一体いつから君は藤ねえのような奇天烈な勘違いをするように――」

 

 最後まで言う前に胸倉を掴まれ、力任せにぶんぶん振り回される。これで俺の発言権は奪われたも同然だ。今しゃべったら絶対に舌をかむ。

 

「確かにわたしは至らぬ点も多い後輩ですけど、それでも先輩にふさわしい彼女になろうと頑張っている真っ最中なのに! 『俺は桜みたいな胸がでかいだけの奴なんて後輩だと思いたくないねハハハハハ』だなんてあんまりです!!」

 

 はてさてこの子はいったいどうしてしまったのだろうこれでは本当に藤ねえ二号のようだそんなことより頭が振り回されすぎて脳みそがシェイクされて気持ち悪いから早く止めてくれないかなあ……!

 

「わたし知ってるんですからね! 最近左隣の席の相坂さんと仲がいいってコト! ペアになって課題に取り組んだり、同じ生徒会役員として仕事に励んだり、授業中うっかり相坂さんが落としてしまった消しゴムを拾ってあげようとしたら偶然手が触れ合ってしまってお互い気恥ずかしい思いをしたり!」

 

「待て。3つ目の出来事を同じクラスでもないお前がなぜ知っている」

 

 さすがにこれ以上のあらぬ誤解は容認できないので、舌を傷つける覚悟をもって反論する。

 

「……愛の力ゆえです」

 

 ……明るくなってくれたことはこの上なくうれしいのだが、それにしてもそのベクトルを少し間違えてしまったんじゃなかろーか、桜は。

 

「……まあいいや。とにかく誤解だ桜。俺が言いたかったことはだな、『同じ学年になったのに先輩って呼ぶのはおかしいだろ』ってことだ」

 

「………あ」

 

 呆けたように俺から手を放す桜。今度こそわかってくれたらしい。

 

 ――聖杯戦争で負った傷により1年間休学せざるをえなくなった俺は、一成や遠坂たちと一緒に卒業することができず、今こうして1年遅れの3年生を謳歌している。そのため、ひとつ年下の桜と同級生、という立場になってしまったのだ。それにもかかわらず『先輩』と呼ばれるのが、なんとなく変に感じられたというか。とにかくそういうわけなのである。……ついでに言えば、そろそろ一歩進んだ呼び方をしてほしいという思いも大いにある。

 

「ご、ごごごめんなさい! わたしとんでもない勘違いを……」

 

「……いや、もういいよ。たまにはそういうこともある」

 

 過ぎたことは過ぎたことだ。それよりもこれからどんな呼び方になるのかのほうが気になる。

 

「うーん………」

 

 桜、考え中。弁当を食べながら黙って見守る。……むう、桜のやつ、和食でも全盛期の俺の味に近づいてきたな。俺も早く料理の勘を取り戻せるよう頑張らねば。

 

「ええっとですね……やっぱり『先輩』にしませんか?」

 

 で、悩んだ末の結論は『振り出しに戻る』だったようだ。

 

「だから、それはおかしいって」

 

「でも、先輩は先輩ですし……そうだ、先輩は人生の先輩じゃないですか。これで問題ありません」

 

 どうです、となぜか胸を張る桜。くっ、まさかそんな考え方があったとは。

 

「……いや、やっぱり別の呼び方にしないか。なんとなく落ち着かないから」

 

 だんだんこちらの言い分が苦しくなってきたのはわかっているが、ここで引き下がると向こう2年は『先輩』という呼称が固定されてしまう気がする。

 

「? 先輩、なんかヘンです。どうしてそんなに嫌がるんですか」

 

「いや、それはだな」

 

「ひょっとして、何か言ってほしい呼ばれ方があるんでしょうか」

 

「うっ………」

 

 核心を突かれた。こういう鋭いところは姉譲り、というわけでもないか。俺の言動が不審すぎただけだろう。

 かくなるうえは正直に白状するしかないが……さて、いざ自分から言うとなると妙な恥じらいがある。

 

「先輩? 何かあるのならはっきり言ってください。先輩の頼みごとならなんでも聞きますから」

 

 にこり、と微笑む桜。……彼女にここまで言われたら、もう腹をくくって答えるしかない。はっきり言わないと桜も気にかかるだろうし。

 すー、はー、と深呼吸――よし、イケる。

 

「その……そろそろ名前で呼んでくれないかなって」

 

「名前って……下の名前で、ってことですか?」

 

「そういうこと」

 

「なんだ、下の名前ですか。下の名前、下の名前………下の名前ですかっ!?」

 

 みるみるうちに桜の顔が真っ赤になる。だがそれはおそらくこちらも同じだろう。藤ねえにも遠坂にもライダーにも『士郎』と呼ばれているのだが、それでも桜は別格だ。昨晩『士郎さん』と呼びかけられるのを想像したところ布団の中で悶絶する羽目になった。我ながら気持ち悪いことこの上ない。

 

「あー、いやなら別にかまわないんだぞ? 俺も無理に強要するつもりはないし」

 

「い、いやじゃありませんっ。 むしろ大歓迎なんですけど、その、今までずっと『先輩』って呼んできて、それ以外の呼び方なんて考えもしなかったというか、まだ心の準備ができていないというか……」

 

 カアァ、と頬を染めたまま、桜は指をもじもじしながら話す。……とても可愛いです、はい。

 しかし、このうろたえようを見ると、『士郎さん』の実現は不可能なようだ。まあ、桜の『先輩』という言い方には俺に対する特別な感情をちゃんと感じられるし、別に今のままでもいいだろう。

 

「ごめん、急に驚かすようなこと言って。今さら呼び方変えろっていうのもおかしな話だ。この話はなかったことに――」

 

「だ、だめです! めったにない先輩からのお願いなんです。彼女として、彼氏さんのささやかな希望を踏みにじるわけにはいきません!」

 

「いやでも桜が恥ずかしそうだし」

 

「大丈夫です! 彼氏さんを名前で呼ぶのは当然のことなんですから」

 

 むーっと『わたしはやります!』という表情を見せる桜。こうなったら遠坂(あかいあくま)と同じく自分の意見を下げることはほぼないと言っていい。いわゆる頑固モードに突入しているのだ。

 

「というわけで、呼びます」

 

「お、おう。桜がそう言うんなら」

 

「………」

 

「………」

 

 ――30秒経過。

 

「……あの、桜さん?」

 

「あ、あと少し待ってください」

 

「うん」

 

 ――1分経過。

 

「帰っていいか?」

 

「待ってください! 今、今準備できましたから!」

 

 さすがにしびれを切らしてきたところで、今度こそ桜の心の準備が整ったらしい。よし、じゃあこっちも気合を入れて聞こう。

 

「………し、士郎、さん?」

 

 ――ああ、やっぱり素晴らしい。桜に名前で呼んでもらえることがこんなにうれしいものだとは思わなかった。なんだか本物の夫婦みたいな感触だ。

 

「士郎さん」

 

「おう」

 

「士郎さん」

 

「はい」

 

「士郎…さん」

 

「……桜。俺を呼ぶたびにどんどん顔が赤くなってるんだが大丈夫なのか」

 

 それも、人の顔ってこんなに赤くなるもんなんだな、とのんきなことを考えてしまうほどに。

 

「う、うう……実は恥ずかしくてたまりません」

 

「無理するな。それで気絶でもされたら大変だ」

 

 彼女に名前を呼ばせてたら気を失っちゃいました、なんて保健室の先生に言った日には俺と桜=バカップルの方程式が一瞬でできあがってしまう。

 

「……でも、せっかくの先輩の頼みごとなのに」

 

「がちがちに固まって名前呼ばれるより、いつもの自然体の桜を見てたほうがずっといいさ」

 

 できるだけやんわりと説得したところ、桜もようやく引き下がってくれて、とりあえずこの件は保留ということになった。

 

「せめて二人きりの時には名前で呼べるように努力します」

 

とのことだ。一応期待して待っておこう。

 

 

 

 

 

 

 気を取り直して、二人で桜が作った弁当を頬張り、無事完食。腹もふくれてきたし、5時間目は毎度のことながら睡魔との戦いになりそうだ。

 

「それにしても、桜最近藤ねえに似てきたよな」

 

「えっ、藤村先生にですか?」

 

 先ほどの壮大な勘違いとその後の首振り回しもそうだが、ここ1年で桜と藤ねえの行動パターンに共通部分が増えてきた気がする。絶対ないとは思うが、将来目の前の美少女が冬木の虎二世を襲名するのだけは勘弁願いたい。

 

「……そうですね。わたしが不安定だった時期に、藤村先生には本当に助けてもらいましたから、自然と影響を受けたのかもしれません」

 

「……言われてみれば、そういうことなのかもしれないな」

 

 去年の2月。俺はイリヤや遠坂の助けがあってなんとか生き伸びることができたのだが、身体は思うとおりに動かず、長期間のリハビリを強いられることとなった。それに加えて、たくさんの人々の命を奪ってしまった罪の意識に、当時の桜は苦しみ続けていた。

 そんな時期に俺や遠坂以上に彼女の助けになってくれたのが、俺や桜の姉貴分・藤村大河だった。もちろん魔術関係のことは話せなかったが、それでも藤ねえは年上の人間として桜を優しく包み込んでくれていた。……もちろん優しくするだけではなく、『桜が俺や他大勢の人に取り返しのつかないことをしてしまった』ということを聞いたときは桜に思いっきり平手打ちをくらわせていた。そのうえで、桜が罪と向き合えるように支えてくれたのである。

 

「……考えてみれば、俺たち藤ねえには助けられてばっかりだよな」

 

 家を空けがちだった切嗣の代わりに一緒に遊んでくれて。親父が亡くなった後はさらに頻繁にうちに出入りするようになって俺の心を支えてくれた。

 桜に関してもそうだ。家の家事手伝いを始めたころの暗かった桜をここまで明るくしてくれたのは紛れもなく藤ねえである。俺ひとりではこうはいかなかったはずだ。

 

「感謝してもしきれませんね」

 

「……ああ、そうだな。藤ねえがいてくれたから、今の俺たちがあるんだと思う」

 

 藤ねえをはじめ、いろんな人たちに支えられてここまで来れた。そのことへの感謝を忘れないよう、この胸にしっかり刻んでおこう。

 

 

 

 

 

 

 先輩と藤村先生についての話をしていた時、不意にわたしの脳裏にある人物の影がよぎった。

 それはずっと昔の話。わたしが間桐の家に引き取られてからそれほど年月のたっていない頃。毎日毎日ムシグラに入れられる日々に耐えるため、外の出来事に対して心を閉ざしていた、そんなころ。

 

――ああ、きっと会える。それはおじさんが約束してあげる。

 

「……先輩」

 

「ん、なんだ?」

 

「……藤村先生と同じように、わたしを助けようとしてくれた人のこと、思い出しました」

 

「?」

 

 話の意図がつかめていない先輩に対して、わたしはかまわず言葉を続ける。たった今思い出したその記憶を口にすることで、もう二度と忘れてしまわないようにと。

 

 10年以上前に言葉を交わした男の人がいたこと。その人はきっと、わたしを間桐の家から助け出そうとしてくれたのだろうということ。……そして、その人はそれから間もなくして、蟲の海に沈んでいったこと。

 

「……あの人も、ムシグラで調教を受けていました。それもきっと普通では無理なペースで、強引に。……今だからわかりますけど、たぶんあの人は聖杯戦争に参加していたんじゃないかって思うんです」

 

「……それって、もしかして聖杯を手に入れてあの臓硯に渡すことで、これ以上桜が利用されるのを止めるためだったってことか」

 

「はっきりとはわからないです。……でも、あの人がわたしを救おうとしていたのはたぶん間違いないと思います」

 

「……そうか」

 

 先輩は無表情のまま、わたしの次の言葉を待っている。しっかり話を聞いてくれているようだ。だからわたしは、偽らない本心を彼に伝える。

 

「……だめな人間ですね、わたし。わたしのために戦ってくれた人のことを、今の今まで忘れてしまっていたなんて」

 

 11年間、一度も思い出しもしなかったことに嫌悪を覚える。わたしは自分本位で、支えてくれていた周りの人のことも満足に考えられないのか、と。

 

「……ああ」

 

 先輩は、わたしの言葉にただうなずくだけ。『そんなことないぞ』なんて絶対に言わない。それは当然のことで、『わたしがわたしの罪に向き合って、それで折れそうになったときに初めて助け船を出す』というのが今の先輩のスタンスだからだ。わたしもそれは正しいことだと思うし、安易な励ましをかけずに見守ってくれる先輩は、本当に『間桐桜のためだけの正義の味方』になってくれているのだと感じている。

 

「もう忘れません。今まで支えてくれた人も、これから先わたしを支えてくれる人のことも」

 

「ああ、そうだな」

 

 そう答えた先輩の顔には、かすかに笑みが浮かんでいる。

 

「……と、もうすぐ昼休みが終わっちゃいますね」

 

 時計を見ると、5時間目開始まであと10分になっていた。話も一通り終わったし、そろそろ片付けをしようとお弁当箱に手を伸ばし――

 

「ひゃっ」

 

 ――突然、体が横に引っ張られた。続いて感じるのは、暖かな人の身体の感触。……先輩が、私の体を抱き寄せていた。

 そういえば……あの人にも、こうやって抱きしめられたことがあったような気がする。

 

「せ、せんぱい……?」

 

「守るから」

 

 おそるおそる先輩の顔を見ようとしたわたしに、先輩は宣言するように言葉を紡ぐ。

 

「その人の思いの分まで、俺が桜を守るから」

 

「………!」

 

 ……不意打ちにもほどがある。さあ教室に帰ろうと準備していたときに、そんな真顔で、そんな真面目なことを言われたら――胸が高鳴って、何も言えなくなってしまう。

「俺もその人に感謝してるよ。桜を助けようとしてくれてありがとうって」

 

「……はい」

 

 先輩が笑う。わたしもつられて笑い返す。

 そして……どちらからともなく、唇を重ねあった。

 

 

 ――人生に後悔がないかと言われれば、それは大嘘。道を振り返れば悔やまれることばかりで、きっとこれからも程度の差こそあれ間違いを起こすことはあるだろう。 

 それでも、それらの後悔を背負って生きていく。時にはどうしても、自分なんかがこんな明るい世界で生きていていいのかと思ってしまうこともあるけれど、そんなときには先輩や姉さん、藤村先生たちが一生懸命支えてくれる。

 ……だから。手にした幸せを、絶対に離さないようにして、歩き続ける。

 

――わたしはもう大丈夫です。……遅くなったけど、あなたに思いを伝えます。

 ありがとう、カリヤおじさん。わたしはこれから、士郎さんと一緒に頑張っていきます――

 

 




ご存じのとおり、おじさんは葵さんを廃人にして早死にさせてしまい、親子の再会の可能性を奪ってしまった張本人なのですが、それは桜や士郎にはあずかり知らぬことです。妄想の中の葵さんを愛していただけとはいえ、雁夜が桜を救おうとしたのは事実なので、こういう話もありなんじゃないかと思いました。

HFルートはFateの中で一番好きなルートです。同時に桜が一番好きなヒロインです。なので早くOVAでもいいので桜ルートを映像化してくれないかなーと常日頃思っています。

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