ロクでなし魔術講師と異能者と超能力者   作:TouA(とーあ)

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遅れてしまい申し訳ない。
書き上げたのに自動保存されてなくて一度全部消えたんだ。それを確認したらやる気が著しく低下してこの日まで伸びてしまいました。


すみません!ではお楽しみください!





おっふ

 

 

 朝。僕には心地の良い目覚めなど存在しない。

 なぜなら『学校行きたくねぇ』『働きたくねぇよぉ』『またあのクソ上司と顔合わすのか・・・』『いいなぁ学院生は』というマイナスな心の呟きが僕の目覚ましだからである。

 

 

「おはよう楠雄!」

 

「おはよーくーちゃん!」

 

 

 僕の両親である“斉木 國春”と“斉木 久留美”だ。

 父さんはいい加減でだらしない。情けない上に図々しい。威厳など全く無い。以前勤め先の父さんの姿を千里眼で見た時、上司の靴を舐めていたのは嫌でも記憶に焼き付いている。

 母さんは穏やかでとにかく優しい。普段からとても温厚で僕が力に取り憑かれてダークサイドに墜ちなかったのも、この人の存在が大きいと言える。

 二人に共通している事は頭の中がお花畑である事とお互いがお互いに好き合っているという事だ─────だが。

 

 

「ママッこれ何!?なんで僕のご飯はワサビなの!?食えないよ!」

 

「ふーん・・・あっそ。くーちゃんはしっかり食べるのよ〜♡」

 

 

 最近は喧嘩してばかり。喧嘩の理由は本当に些細な事ばかりだ。殆どはあのダメ男が原因なのだが、それでもしょうもない理由でかなりハードな喧嘩をする。

 

 

「くーちゃんおかわり要る?あ、あなたの分もあるわよ」

 

「わさびをおかわりしろってか!なんで僕だけこんな仕打ち!?もしかして昨日のことを怒ってるの!?昨日のことはちゃんと違うって説明したじゃないか!」

 

 

 あぁ思い出した。

 確か昨日、父さんが女性物の香水を付けて帰って来たのだ。それを父さんは『新商品の女物の香水、男はどのように感じるのか』という道端のアンケート調査で付けられたのだと弁明していた。

 僕は父さんの発言が正しいという事実を知っている。嘘ではない事も分かっている。超能力でどうにかしてやるのも簡単だ。

 然し、だ。大人は甘やかすとロクなことにならない。僕のクラスの非常勤講師がいい例である。目の前で涙目でいる大人もそうなのだが兎にも角にもこの件については自分で解決するべき事だ。冷たい事を言っている様に聞こえるかもしれないが、意味の無い喧嘩を止めるのは面倒臭いし何より力の無駄遣いだ。

 

 

「もう知らん!ママなんて嫌いだァァァァァ!」

 

「こっちこそパパなんて大ッキライよ!」

 

(嘘だよ!ママ大好き!なんで僕は素直になれないんだぁぁぁぁ!)

 

(私だってパパを信じたいの!いえ信じてるの!だからこそ女物の香水なんてワサビの匂いで消したいの!パパのことが大好きだから!)

 

 

 目には目を、臭いものには臭いものを、某法典を拗らせるとここまでになる。

 心の声で分かると思うがどう考えてもこの喧嘩は茶番である。故に僕は手を貸さないのだ。

 喧嘩するほど仲が良い、この言葉の体現者たる二人を他所に僕は登校の準備を始めた。

 

 

 

 

 × × × × × × × × × × × × × × × × ×

 

 

 

 

 さて皆さんの学院生活は何から始まるだろうか?

 制服を着た時だろうか?友と交わす“おはよう”という元気な挨拶だろうか?授業が始まる前の予鈴だろうか?

 僕の在籍しているクラス“魔術学士二年次生二組”、通称“二年二組”はある言葉で始まりある言葉で終わる。

 

 

「みんなおはよー!」

 

「ルミアちゃんおはよー!・・・おっふ」

 

「ルミアさんおはよう!・・・おっふ」

 

「おっふ・・・ルミアさんおはよう!」

 

「「「「「「「「おっふ」」」」」」」」

 

 

 このクラスは『おっふ』で始まり『おっふ』で終わるのである。

 おっふ、とは固く言うと感嘆詞の事である。美少女を前にした時に思わずあまりの美しさに驚きの声が漏れてしまった時に使われる。使うという表現は正しくないか。自然と漏れ出る感嘆の声であるから。付け加えると『おふる』『おふらない』など動詞としても使える。

 この場合の美少女とはルミア=ティンジェルの事である。クラスの大半の男子はおふる前まで気分が沈んでいるがティンジェルと挨拶を交わした瞬間、または視界に入った瞬間におふり、気合いが入るのである。

 ちなみに女性陣は『おっふ』とは口に出して言わないものの心の中で呟いている。つまり授業が始まる前は男性陣の『おっふ』と女性陣の心の中で呟く『おっふ』によって、僕の頭の中は『おっふ』に埋め尽くされるのである。

 例外として僕とグレン先生はおふらない。理由は至極単純でティンジェルをそういう対象として見てないからである。

 

 

「おはよーお前ら。授業始めっぞ〜」

 

 

 間延びした声で教室へ入って来たグレン先生はここ数日で劇的な変化を起こしていた。

 変化を起こす前、つまり赴任してからの十一日間はロクでなしそのものであったのだが今となっては大人気講師である。誇張表現なのではなく本当に大人気講師なのだ。

 システィーナ=フィーベルに頬を叩かれた次の日から人が変わった様に授業を始めた。フィーベルに謝罪し、中二病のの如く書き連ねられた教科書を投げ捨て、呪文と術式に関する魔術則・・・文法の理解と公式の算出方法に焦点を当てた授業をし始めたのだ。それは魔術に関して初心者である僕達にもわかり易い様に噛み砕かれており、きちんと理解させる質の高い授業だった。

 今となっては噂が噂を呼び、他クラスからもグレン先生の授業を一目見ようと参加する者が出て来た。座れない者は立ち聞きするまであるからどれだけ先生の授業の質が高いかが伺えるだろう。僕も非常に惹かれている。

 

 然し、だ。これとそれとでは話は別だ。

 

 立ち聞きする生徒、また若く熱心な講師がグレン先生の授業を聞きに来るという事はその分テレパシーで拾う声が多くなるのは言うまでもない。

 グレン先生の言葉一つ一つに耳を傾け、書き出された美しい文字と図形をノートに書き取り、偶然視界に入ったティンジェルの姿を見て1おっふ。板書を写しつつ先生のちょっとした言葉をノートに書き取りまたまた偶然ティンジェルが視界に入って2おっふ。3おっふ、4おっふ・・・・・・・・・・いい加減にしろ!

 朝から晩までおっふおっふおっふ・・・さすがの僕も堪忍の尾が切れそうだ。だからといって超能力を公衆の面前で使える訳ではない。それにこの学院には僕と同じく()()()()を持った者がいる。微細な変化でも気付かれる可能性があり、疑われる危険性がある以上無闇には使えない。

 

 

 これでも超能力者が羨ましいと言う者は居ないだろう。

 僕の気持ちを少しだけでも慮ってくれたら嬉しい限りである。

 

 

 

 

 

 × × × × × × × × × × × × × × × × ×

 

 

 

 

 

 放課後。僕は厄介な人物に捕まった。

 

 セリカ=アルフォネア。

 

 アルザーノ帝国学院教授。見た目は二十歳ほどの美女だが、真の『永遠者(エモータリスト)』と呼ばれる不老不死の体質の持ち主だ。二百年前の戦争で人類の切り札として活躍した『六英雄』の一人であり、外宇宙から召喚された邪神の眷属を殺害した伝説を持つ《灰燼の魔女》である。そしてその功績と共に人外と評される第七階梯(セプテンデ)に至った大陸最高峰の魔術師。

 

 

「そんなに嫌な顔すんなよ〜〜さすがの私も傷付くぞ?」

 

 

 上記に記した事柄を見れば僕がどれだけ警戒し、教授を厄介者扱いしているのかが分かると思う。教授は僕と同じレベルの力を持っている。まぁ力のベクトルは異なっているのだが。あぁ言うまでもないと思うが僕が学院内で超能力を使うことを躊躇っているのはこの教授の存在があるからだ。

 そしてもう一つ、この教授に対して僕は苦手意識を持っている・・・ん?何で苦手意識を持ってるかって?

 

 

「それで・・・グレンはどうだ?上手くやってるか?」

 

 

 そう、どこかで見た様な既視感を覚える行動ばかりするからだ。

 今も義理の息子である(※本人はそう思っている)グレン先生の授業の様子や態度を生徒に聞いている。本人に直接聞かず回りくどいことをよくするのだ。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『上手くやってますよ』

 

「そ、そうか・・・・ふっふーん!そうだろそうだろう!グレンは昔から(以下略)」

 

 

 こうやって慕う相手のことを誉めればどんどん饒舌になって聞きたくもない余計な事を喋るところもそっくりである。だから僕は苦手なのだ。

 

 

「セリカーこの書類は・・・・・ん?サイキじゃねぇか」

 

「おーグレン!今、サイキにお前の昔の可愛いかった頃の話をしていたところでな・・・」

 

「何してくれちゃってんの!?生徒に威厳が保てなくなる様なこと言うなよ!!」

 

「保てるほど威厳あったっけ?」

 

「喧しいわ!ねぇよ!」

 

 

 ないのかよ。

 僕の前で口喧嘩をする二人・・・いや教授の一方的なからかいを受け、グレン先生は顔を赤らめながら反論する。ヒートアップする二人の会話に対して僕の心は凄まじい速度でクールダウンする・・・なぜなら。

 

 

(セリカの奴生徒の前で辱めやがって・・・別に嫌いじゃないし慣れたけどせめて家でやってくれよ!!)

 

(威厳など無くてもお前を慕う者は沢山いるさ・・・・・・それにしても可愛いなぁ抱きついていいかなぁ)

 

 

 朝に見た途轍もない茶番を夕方にも見せられたら誰でも辟易とするだろう!?

 テレパシーで強制的に以心伝心にしてやろうか?お互いの心を筒抜けにしてやって、赤らんだその顔を何千枚とプリントに念写して学院中に貼り付けてやろうか?

 

 

 だが僕にそんな事は出来ない。出来るが実行に移せない。

 平穏無事な学院生活を送るには出来るだけ超能力を使わずにやり過ごすしかない。

 

 

 

 だがまぁ・・・少しくらいならバチは当たらないだろう。僕は先生に少しだけ暗示を掛けて学院を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 アルザーノ帝国学院にある噂が流れた。

 つい最近務め始めた人気講師が大陸屈指の魔術使いの事を公衆の面前で『ママ』と声高らかに呼んだという黒歴史一直線の噂が流れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





楠雄も学生なんです。
少しくらいのストレス発散を許してあげてください。あ、ちなみに一度呼べば解除される様に暗示を掛けていました。


謝辞。
『ファイターリュウ』さん、最高評価有難うございます!

『言いたいこと言えないこの世の中』さん、『Sohya4869』さん、『仮屋和奏』さん、高評価有難うございます!!


ではまた次回にお会いしましょう!
感想と評価、お待ちしてます!

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